原 題 「Mourn Not Your Dead」1996年
著 者 デボラ・クロンビー
翻訳者 西田佳子
出 版 講談社 1997年7月
初 読 2020年11月13日
前作の一夜から5日が経過している。しかし、ダンカンにとってもジェマにとっても心楽しい時間ではなかったようだ。ダンカンに逢いたくないジェマが休暇を取って雲隠れし、合間には警視正に辞職を願い出る電話が一本だけ。何回ダンカンが電話しても繋がらず、やきもきしているうちに、事件が起こる。スコットランドヤードの警視長、アリステア・ギルバートが自宅で撲殺された。ダンカンが捜査を命じられたため、なんとしてもジェマを引っ張り出さないと、一人で難しい捜査に出動するはめになってしまう。やっとダンカンの前に姿を現したジェマだったが、どうもダンカンの想像とは違った方角に突き進んでいた模様。仕事も大事、育児も大事でこの二つのバランスとるので精一杯なのに、直属の上司との恋愛は彼女の手に余る。そのような訳で、冒頭からジェマの葛藤がダダ漏れしていて、カリカリ、イライラ、読んでいるこっちが辛いのなんの。ダンカンは、とにかく良く頑張った、と誉めてあげたい。彼の胃に穴が開かなかったことが幸いである。
最初の頃はどっちかっていうと人好きのする垢抜けないソバカスのファニーフェイスだったはずのジェマが、今作では美女ポジションに収まってるのも可笑しい(笑)。女っ気なしのギルフォード署刑事部の刑事達がこぞってジェマにうっとりしてまとわりついているのを、ダンカンが憮然としながら、
「ひとつだけ,心からよかったと思うことはある。田舎町をうろつくのにニック・デヴェニーを同行させなかったことだ。昨夜デヴェニーがジェマに色目をつかっていたことを考えると、そうしておいて本当に良かった。」
なんて考えている。果たして、ジェマの為なのか、自分の為なのかすら本人にも多分判っていない。
そんな風にダンカンに気を遣わせているっていうのに、当のジェマはダンカンにすら見せたことのないボディーラインばっちり露出の黒のミニのワンピース姿を刑事達にご披露しちゃって、ダンカンをさらに憮然とさせる訳だが。私はワガママな女は嫌いだが、働く女としちゃあ、彼女の葛藤も判らないではない。
今作中の地名“ギルドフォード”綴りはGuildford、グーグルマップ上の“ギルフォード”、読んでいる最中も勝手に脳内で個人的に耳に馴染んでいるギルフォードで読み下していたので、ここでもギルフォードで通そう。あと、気になった訳がひとつだけ。ジェノヴァスの一人称が「わたし」なんだけど、少なくとも一カ所「ぼく」になっているところがあった。
さて、舞台となるホームベリ・セントメアリの場所だが、探すのにかなり苦労したけどこちらでした。地図上ではホルムベリー・セント・メアリー Holmbury Saint Mary ロンドンのベットタウンということになるのだろうか。田園風景が美しい田舎の村である。
さて、今回の事件。
スコットランドヤードの警視長アラステア・ギルバートの行動を調べているうちに、少しずつ奴がいかにイヤな男だったかが読者に明かされる。これは、調査で明らかになった、というより、ダンカンもジェマも村人達もそれぞれ経験上知っていたけど、聞き込み調査の俎上で読者にも明かされる、というパターン。あの男がこれまでにさんざん他人の人生をかき乱してきたおかげで、人間関係や感情が錯綜している。誰からも好かれていなかったギルバートは、何とダンカンの最初の結婚生活の破綻にも関わりがあったらしく、ダンカンまでが恨みを抱いていた、というからびっくり。そんな中で、ダンカンが遂に辿り着いた真実とは。
事件は無事に解決を迎え、頑固でかんしゃく持ちの赤毛さんは、なんとか自分で結論に辿り着く。そんな彼女をやっぱりダンカンは愛しく思うところが、愛は偉大である。
最後に一つ、タイトルの事なんだが、「愛人」はよもやジェマの事ではなく、クレアの事だよね?警視はギルバートの事だよね?と念押し。ジェマとダンカンの事なのならせめて『警視の恋人』にしてくれないと。
そうだ、追記。今回作中に初めて携帯電話が登場した。ポケベルと併用しているんだけど、そういうもんだったけ?
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