2021年3月12日金曜日

0261 赤の女 下  (ハーパーBOOKS)

書 名 「赤の女 下」 
原 題 「The Other Woman2018年
著 者 ダニエル・シルヴァ
翻訳者 山本 やよい 
出 版 ハーパーコリンズ・ ジャパン  2019年5月 
初 読 2021年2月5日 
文 庫  328ページ 
ISBN-10  4596541132 
ISBN-13  978-4596541130

 上巻で、はじ
めは楽勝かと思われた作戦が大失敗に終わった挙げ句、人殺しの汚名を着せられた〈オフィス〉長官ガブリエル。実はロシアに手玉に取られていたと分かり、巻き返しを図るため、MI6に喰い込んでいるロシアSVRの二重スパイのあぶり出しに掛かる。
 現代のMI6に影を落とすのは、MI6現長官グレアム・シーモアの父の時代の「ケンブリッジ・ファイブ」、世紀の二重スパイ、キム・フィルビーだった。
 フランスで人知らず育っていたフィルビーの婚外子を、ソ連に亡命していたフィルビーが密かにスパイに育てあげた、というあらすじはいささか荒唐無稽な感じを受けなくもないが、そこは、ガブリエルの緻密な捜索と作戦展開でぐいぐいと読者を惹きつけてストーリー展開の中に連れていかれる。

 その二重スパイをこれまで取り立ててきたのは他ならぬ現長官シーモアであり、ガブリエルの盟友でもあるシーモアは事の責任を問われて失脚しかねない。保身の為か及び腰になるシーモアのやり方に腹を立てつつも、友の立場を守るため、ひいてはそれが母国の為になると信じて敢えて煮え湯を飲むガブリエルである。
 今回はロシアの勝ちなのか。これまで文字通り満身創痍で戦いながら米英の諜報機関との関係を深めてきたガブリエルにとっては苦い結末である。

 なお、今回ガブリエルの射撃の腕前が珍しく披露されている。
 実はシリーズ中、ここに至るまで、ガブリエルが射撃の名手だということを信じきれていなかった。これまでに見た彼の射撃は、例の暗殺スタイル———ベレッタ9mmを構えた姿勢で標的に近寄りつつ全弾連射、というやつ———しかなかったが、今回初めてSVRの凄腕工作員相手に抜き撃ちで二人倒す、ということをやってのけた。ガブリエル、出来る子だったのね。

【覚え書き】後書き代わりの『著者ノート』が強烈である。
ダニエル・シルヴァはこの『著者ノート』に自己の信条を語るために、この長大なエンタメスパイ小説を書いて世に出しているのではないか、と思うほどだ。それほどまでに、ロシアに対する危機感が大きい。世界が平和ではないことを、はっきりと認識している人がここに居る、ということだ。日本の中にいるとなかなか実感できないことだが。

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