2021年3月27日土曜日

0263 過去からの密使  (ハーパーBOOKS)

書 名 「過去からの密使」 
原 題 「The New Gir」2019年 
著 者 ダニエル・シルヴァ 
翻訳者 山本 やよい 
出 版 ハーパーコリンズ・ ジャパン  2020年4月 
初 読 2021年3月28日 
文 庫  616ページ 
ISBN-10 4596541345 
ISBN-13 978-4596541345

 いやあ、面白かった!『教皇のスパイ』と読む順番が逆になったが、扱うテーマがまったく違ったので、とくに問題はなし。とはいえ、KMBがどうなったのか、知りたかったというのはあったが。
 最新作『教皇のスパイ』が『告解』の作風への回帰だとすれば、この『過去からの密使』は、まさに“アロン長官”の物語。相変わらずの全方位の活躍ぶりで、今回は、ロシア相手に全面勝利。現実のサウジ皇太子がアレでなければ、きっとこの作品のラストは違うものになっていたのだろうなあ。
 今作でも、ガブリエルの我が身を削るような奮闘ぶりで、あのラストは切なくもある。
 話中、ポロニウム210に類似した暗殺用放射性物質が登場するが、若干訳語?の使い方が気になった。被爆よりは被曝のほうが良いような気がするし、放射線被曝と、放射性物質汚染、放射線と放射能がごっちゃになっているような気がする?
 とはいえ、読むのに差し障りがあるほどではないし、私も専門家ではないので用語に詳しい訳ではないので、こちらの気のせいである可能性も大いにあり。
 ポロニウム210は、極めて線量が高く毒性が強いが、ほとんどアルファ線しか出さないため、透過性が著しく低いので紙一枚でも遮蔽できる。そのため、運搬者にはほぼ害を与えず、摂取した者を確実に害せる、ということは理解した。もっとも、ダニエル・シルヴァは、ポロニウム210に類似した放射性物質、としか書いていない。


ところで、“同僚の多くと違って、彼は裕福な家庭の生まれではない。ノッティング・ヒルやハムステッドのようなおしゃれな地区は、給料だけで暮らしている男にとっては金がかかりすぎる。”とはいかに?
 これは、あれか?我らが警視殿への当てつけだろうか???

あと、こんなシーンも。“ヘスターがカウチに寝そべり、白ワインの大きなグラスをそばに置いて、リーバス警部シリーズの新作を読んでいた。” こっちはリスペクト?

ダニエル・シルヴァ、面白い人だなあ。

前作・・・・だったか(?)では、ガブリエルが帰宅すると、キアラが「良心のある殺し屋」が出てくるアメリカのスパイ小説を読んでいるくだりもあった。キアラに「あなたにちょっと似てるかな」と言わせたその良心のある殺し屋のスパイは、もしかしてコートランド・ジェントリーか?全然キャラが違うような気もするが、巻き込まれ型なところと、間の悪いところに居合わせるのが得意技なところと、負傷が多いところは・・・・・・そっくり?

 今回は、中東の細かい国家間の軋轢にもさりげなく触れられていて、グレイマンシリーズで「アメリカとサウジは同盟国で仲良し」ぐらいの知識しか持っていない身には、いろいろと勉強になった。
 パレスチナ出身の女性記者から、辛辣なイスラエル批判を聞かされて、じっとこらえるガブリエルだが、それでもドイツ語で語気鋭く詰られるのがユダヤ人としては堪える、というのがすごくリアルだ。このハニファ、夫が殺されたのは自分のせいだし、娘を見殺しにされたKBMの方にも、復讐する権利がありそうな気がするのだが、そうでもないのだろうか。いずれにせよ、このハニファに対してもレベッカに対しても、ガブリエルは甘いよなあ、と思う。どうしても女性を守りたくなってしまうのが、ガブリエルの甘さであり、良さなんだろう。
 さて、これで既刊のガブリエルシリーズは踏破した。次は、7月に米国で新刊発売の予定。翻訳を読めるのは来春だろうか?
楽しみがあって幸せ。

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