2021年5月29日土曜日

0273 レンブラントをとり返せ -ロンドン警視庁美術骨董捜査班- (新潮文庫) 

書 名 「レンブラントをとり返せ -ロンドン警視庁美術骨董捜査班- 」 
原 題 「NOTHING VENTURED」2019年
著 者 ジェフリー・アーチャー 
翻訳者 戸田 裕之 
出 版 新潮社 2020年11月 
初 読 2021年5月31日 
文 庫 544ページ 
ISBN-10 4102161503 
ISBN-13 978-4102161500
 軽めのミステリだからさっくり読み終わる、と思いきや、結構濃厚な展開でしかも大好物満載、じっくりしつこくねちこく読むことになってしまった(笑)。バロック絵画の大家レンブラント(カラヴァッジョと同時代)の盗難と偽造絵画、贋作画廊、古書偽造・・・・・手がかりを追いかけて、スコットランドヤードの新米刑事が走る、いや歩く(笑)。
 名門パブリックスクールを卒業し、父と同じオックスフォードに進むことも出来たにもかかわらず、ロンドン大学キングズカレッジで美術史を専攻。親の反対を押し切り、小さい頃からの夢を完遂するため、首都警察(Metropolitan Police Service)入り。スコットランドヤード(ロンドン警視庁)で刑事を目指す人も育ちも良い好青年、ウィリアム・ウォーウィックの駆け出し一冊め。なんと私、初ジェフリー・アーチャーである。
 
 ジェフリー・アーチャー御大80歳にしての新シリーズということで、果たして、どこまでウィリアムの人生を追うことが出来るだろうか。警視総監に辿り着くか?がんばれウィリアム(そして御大)。ちなみにこの点について、御大は前書きでこのように仰ってる。

「このシリーズを通じて、皆さんにはウィリアムの未来、すなわち、彼が平巡査から警視総監へと昇り詰める過程を共に歩んでもらうことになるはずです。(中略) 警視総監になるかどうかは、ウィリアム・ウォーウィックの意志力と能力にかかっていますが、同時に長生きできるかどうかにもかかっているのです————ウィリアムでも読者のみなさんでもなく、ほかならぬこの私が。」
 著者及び作品との悲しい別れが来ませんよう、とりあえず物語が無事「完」が迎えられるよう祈るのみ。

 さて、ウィリアムは新人警察官として2年間の地域警邏を務め、昇任試験に合格。晴れて自分の人生の目標に向かって船出するはずだったのが、そのスタートに手向けられたのは、彼を育ててくれた先輩警官の殉職という辛く悲しい別れ。
 ちなみに、ウィリアムが見上げたニュースコットランドヤードの三角形の標識はこちら。→デボラ・クロンビー キンケイド警視シリーズ 現場大好きなキンケイドは、警視より上に出世したくないように見受けられるが、ウィリアム君はきっと、サクサクと昇進していくのだろうな。この話、大好きなキンケイド警視シリーズと、ちょくちょく英国美術界の界隈で騒ぎを起こしている某国スパイの中間点という感じで、ところどころでニンマリとさせられる。レストラン初デートではフラスカーティ(イタリアの白ワイン)を頼んだり。(「室温のフラスカーティ以上にまずいものがあるだろうか?」byドナーティ『教皇のスパイ』)
 


 で、さてこれが、作中のレンブラント『アムステルダムの織物商組合の見本調査官たち』である。残念ながら画像だとRvRのサインは確認できないな。本物はオランダの国立美術館にちゃんと所蔵されているようだ。よかった。
レンブラント 〈アムステルダムの織物商組合の見本調査官たち〉
アムステルダム国立美術館所蔵 1662年制作

 このロンドンの美術館から7年前に盗まれた名画と、その犯人と目される知能犯(とその弁護士)との駆け引き(最後は法廷戦)を主軸に、アポロ11号が持ち帰った「月の砂」の小瓶や、チャーチルのサイン入り初版本の偽造犯、17世紀の沈没船とともに海に沈んでいたお宝銀貨の模造やら、大中小様々なエピソードが絡んで進む。
レンブラント 〈風車〉
ワシントン ナショナル・ギャラリー所蔵。
空の表現が素晴らしい。いつか本物を間近で観てみたい。
 その属性からすれば、美術骨董班に骨を埋めてしまってもおかしくないようなウィリアムを次のステップ(麻薬取締班)に推し進める「仕掛け」も、さすが巨匠、なかなかの手練れ。次作がすでに待ち遠しい。
 ウィリアムが素直に育ちが良すぎるところが、若干鼻につかないでもないが(ただのひがみ)、周囲が自然と応援して、押し上げて、昇進していくのを応援してやりたくなるような彼の人柄の良さがまた、イギリス的ではある。

 ついでに、「勅選弁護士」という耳慣れない語がでてきたので、軽くイギリス(イングランド)の弁護士制度をお勉強。

 イギリスの法律専門職は法廷弁護士(英:barrister)と事務弁護士(英: Solicitor)とに分かれている。



レンブラント〈赤い帽子をかぶったサスキア〉
レンブラント妻の肖像。
1999年に東京でレンブラント展があった際に
本物を鑑賞することができた。
◆法廷弁護士・・・・法廷での弁論、証拠調べ等についての職務を独占する弁護士。
◇勅選弁護士(Queen's Counsel/King's Counsel)・・・・イングランドおよびウェールズに固有の制度で、特に複雑な事件の弁論のみを行う弁護士をいう。 従来は経験年数10年以上の法廷弁護士の中から大法官の助言に基づき国王がこれを任命していた。しかし、現在は司法制度改革により、選考委員会(Selection Panel)が申請に基づき法廷弁護士と上級事務弁護士の中から選考を行い、大法官の助言を経て国王が任命することとなっている。(いずれにせよ、国王が任命するので、「勅選」)

◆事務弁護士・・・・イギリスをはじめとする一部の英米法(コモン・ロー)諸国で、法廷での弁論以外の法律事務を取り扱う法律専門職である。(よくわからないけど、日本の司法書士のような位置付けなのだろうか?)

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