原 題 「DON'T EVER GET OLD」2012年
著 者 ダニエル・フリードマン
翻訳者 野口 百合子
出 版 創元推理文庫 2014年8月
文 庫 382ページ
ISBN-10 4488122051
ISBN-13 978-4488122058
初 読 2021年5月8日
ダニエル・シルヴァの流れで、ユダヤ人とナチの話を敢えて選んだ訳ではないのだが。結果的にそういうことになった。話の筋とはほとんどまったく関係ないが、今年の読書の流れ的に目にとまった一節————「たとえ筋金入りのリベラル主義者でも、ユダヤ人のほぼ全員が大なり小なりイスラエル国家に愛情を抱いている。イスラエルは、ホロコーストのような歴史的犯罪を招いた二流のマイノリティの地位から、ユダヤ民族が脱けだす決意を象徴している。また、大いにありうるとされている将来の迫害において、最後の避難所でもある。そして、われわれの破滅をたくらむ勢力に対する防御は、大国の政府からの庇護を乞うたり買ったりするのではなく、ユダヤ人の主権と軍隊をもっておおこなわれるべきだという、シオニストの新年を体現している。イスラエルは、焼かれるのにうんざりして自分でたいまつを持ちたかった曾祖父ハーシェルのような人たちの国だ。—————
主人公バルーク・シャッツは87歳ながら矍鑠とした、もとメンフィス警察刑事。ユダヤ人。戒律を守ることには熱心ではないが、ユダヤ人コミュニティの中で老後を送っている。かつては毒舌以上にその拳銃でならした名物刑事だったが、とうに引退した現在は、妻と二人で、肉体の衰えや痴呆症を、諦め受け入れつつも、怖れながら静かに暮らして・・・・・いたのに。
この期に及んで、突如わきおこる逃亡ナチ戦犯にからむ騒動。
ユダヤ人の彼は、かつて第二次大戦・ノルマンディー上陸に兵士として加わり、ヨーロッパでドイツの捕虜となったときに、彼がユダヤ人であったことから捕虜収容所で殺されかける。そのとき直接手を下したナチ将校は、終戦時死んでいたはずだった。しかしその男が身元を偽りドイツを脱出していたことが明らかになり。しかも、ナチスの金塊を携えて。
作中88歳を迎えるという年齢のバックにとっては、もう生きているとは思えない逃亡ナチス戦犯も、その男が隠匿していたかもしれない金塊も、それに目がくらんだ死んだ戦友の家族も、さらにおこぼれに預かろうとにわかに身辺にあらわれた破綻しかけた牧師も、その美しい妻も、残り少ない彼の時間を浪費しようという邪魔者以外のなにものでもない。ただただ迷惑、そして困惑。それでも、身に降りかかった火の粉ははらわないといけないし、なぜかナチのお宝に夢中になった孫息子にも目配りしないといけないし。
ナチスやユダヤ人問題に鋭く切り込もう、という意欲作ではなくて、欲に絡めとられて人生を破綻させられるちっせえ人々の中で、88歳のバック(バルーク)・シャッツの達観と、そして腹の底から(?)にじみでる気概が実に格好良い。それに、乾いた毒舌が絶妙である。このように年を取りたいか・・・・・といわれるとちょっと遠慮しときたいような気もするが、世の中にはこんなじーさんもいなくては!とも思う。
それにしても、孫のテキーラが、ちょっと普通にまぬけ過ぎてイヤ(笑)
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