2021年5月15日土曜日

0270 摩天楼のサファリ(扶桑社ミステリー)

書 名 「摩天楼のサファリ」 
原 題 「Jungle of Steel and Stone」1988年 
著 者 ジョージ・C・チェスブロ 
翻訳者 雨沢  泰 
出 版 扶桑社 2006年12月 
初 読 2021年5月15日 
文 庫 345ページ 
ISBN-10 4594052959 
ISBN-13 978-4594052959
 なんとなく本棚から呼ばれて、着手。2018年に「EQMM90年代ベスト・ミステリー 夜汽車はバビロンへ」 を読んだときに、気に入って、入手してあったチェスブロ。2年半ほどねかして、程良く熟成気味である。
 日本ではあまり紹介されていない作家なので、Amazonでも古本がごく安い値付けで、有り難いやら勿体ないやら。
 主人公は、元CIA工作員で陸軍特殊部隊だった、という異色の画家で、コードネームは大天使(アーク・エンジェル)って、何の符丁かな? もう一人の大天使(ガブリエル)も気になるが、あちらの新刊はあと1年後。

 さて、こちらの大天使殿は、東南アジアで戦い抜いた歴戦の兵士。CIA上官の奸計により掩護していたラオスの部族を見殺しにされて反発した結果、逃亡兵として上官から全ての経歴を剥奪され、不名誉除隊となる。この上官は現CIA作戦本部長となっており、ヴェイルに対する殺害指令は現在も取り消されていないものの、ヴェイルの利用価値のため、執行猶予となっている。現在ヴェイルは意識不明・植物状態の恋人をラングレーの医療施設に預けており、いわば彼女の命と自分の身柄と自由を交換した形。
 この男、先天的な脳の障害から他人の夢を渡り歩く特殊能力(超常能力)がある、というのが、この本の設定の特異なところ。
 鮮明に記憶した自分の夢をモチーフに描いた絵が認められて、マンハッタンで新鋭画家として生活している。・・・・これは、グレイマンとガブリエルの源流か? なにはともあれ、ヴェイルがクールだけど情熱を秘めた優しい正義漢なのだ。こう言ってはなんだが、コートランド・ジェントリーみたいにずっこけてない。(まあ、ヤツはそこが可愛いいんだけどな。)滅法良い男である。

 さて、ストーリーであるが。
 アフリカ、カラハリ砂漠で生きるブッシュマンの一部族、ク・ング族の部族の神像(木造彫刻)が部族の野営地から盗み出され、ブラックマーケットを通じてニューヨークの美術品オークションに出品された。
 落札したのが、ヴェイルのパトロンでもあるロシア人画廊主。この画廊に展示されていた木像を、ニューヨークまでやって来たク・ング族の若者が警備員を殺して奪い、逃走する。
それを、ヴェイルが目撃して、否応なく若者の捜索に乗り出すことになり。

 なにしろ、登場からいきなり格好よいのだ。こりゃあ、ヴェイルに惚れるねえ。1988年の作品なので、これが2006年にもなって日本で翻訳出版されたのは奇跡にも近い出来事である。 作品世界のテイストはホラーファンタジーとアクション&アドベンチャーのミックス、やや非現実より。コミカライズするなら篠原烏童さんでお願いしたい。『純白の血』とか、『ファサード』のイメージがぴったりだ。ヴェイルの設定を造り込み過ぎてるのが非現実に寄る原因だけど、それはいい。だって格好良いから。

 問題はレイナで、こういう一昔前のハードボイルドにありがちな、扱いにくい子猫的な女は好みではない。過去のトラウマ告白した次の瞬間に男をベットに誘うこのありえなさ! ここぞってときに作戦行動の邪魔をして、行動計画に無自覚にダメージを与えるヤツ。それが女だから許容されるっていうのが、ねえ。まあ、時代的には無理からぬのだろうか?
 なにはともあれ、ヴェイルが格好良い。それに尽きる。


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