2024年2月23日金曜日

0460 自覚―隠蔽捜査5.5―(新潮文庫)

書 名 「自覚―隠蔽捜査5.5―」
著 者 今野 敏    
出 版 新潮社 単行本初版2014年10月
        文庫本初版2017年4月
文 庫 321ページ
初 読 2024年2月22日
ISBN-10 4101321612
ISBN-13 978-4101321615
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/119125522

漏洩
 失敗すると、まず叱責されることを連想し、それを避けるためにできるだけ穏便に上司に報告したくなる。そのために情報収集をして、整理してから良い要素を揃えて報告したいし、材料を集めるまでは報告したくない。そんなしがない中間管理職の葛藤が手に取るようにわかる。だがしかし、悪い情報ほど早く上げろ、というのが危機管理の基本。そのこころは早く対策を取るためであって、責任追及のためではない。そのことが上から下まで浸透していなければならないし、下の者が上を信頼できていないと悪い情報は上にはなかなか上がっていかない。 そんなお話。

訓練
 女性若手キャリアの畠山美奈子はスカイマーシャル(旅客機に単身で乗り込み、ハイジャック犯に備える武装警官)の訓練を受けることに。銃器の知識も扱いも、ましてや武術では到底選抜された男性機動隊員達には敵わない。くじけそうになる畠山は思わず竜崎にTEL。竜崎の意外なアドバイスが畠山を助ける。

人事
 人事異動があり、新しく第二方面本部長になった弓削は、野間崎管理官から見ると思いついたら即行動する強引さと、これと決めたらてこでも動かない頑固な側面がありそう。その新本部長に管内の問題を問われて、思わず「大崎署」と答えてしまう野間崎。さらにその理由を聞かれて、竜崎署長の幾多の問題行動を説明するうちに、なんだか問題を指摘しているのだか褒めているのだかわからなくなってくる。そして新任本部長と第二方面の問題児(?)変人竜崎がご対面〜〜〜! 性格も経歴もまったくちがうものの、有能な指揮官としてはあい通ずるものがありそう。今後の事件が楽しみ。個性強めの二人に挟まれる常識人野間崎管理官の苦労やいかに?(笑)

自覚
 管内で発生した強盗殺人事件。犯人は現場から逃走中。独自の推理で犯人を追った戸高は犯人を発見し、そして発砲。犯人を取り押さえたことを成果と捉える竜崎と、発泡を問題視する副所長。マスコミの目、上層部への忖度、気配りできる細やかさが仇になった副所長の迷いを祓う竜崎節が鮮やか。電話をかけてきた刑事部長に「説明なら俺がいくらでもしてやる」で終了。

実地
 新人が職場実習に配置される秋。交番で空き巣の常習犯に職質をしながら逃してしまうという事案が発生。激怒する刑事課長と受けて立つ地域課長! 売り言葉に買い言葉で罵り合いが勃発、そこに本庁刑事課と第二方面の野真崎まで参戦し、ついに決戦の場は所長室へ(笑)。
 なんとしても部下を庇いたい地域課長。なんとなれば職質したのは実習中の新人警官の卵だったから。責任追及にイキリ立つ管理職たちの話を聞いて竜崎は一言。「君たちは何をやってるんだ?」
 竜崎のブレない姿勢が物事を明確に、シンプルにし、そして事態を解決に結びつける。地域課長と刑事課長の和解の一コマが微笑ましい。

検挙
 この話は唯一もやもやする。戸高の行動は理解はできる。だが一般市民を巻き込む手段はいただけない。これは明らかに公務員の職権濫用で、抵抗できない一般市民に実害を与えている。
 たった一晩警察に泊められただけで人生が壊れる人もいるかもしれない。公務員は自分が行使している権力を自覚しなければならない。どんなに末端の下っ端っであったとしてもだ。竜崎は、戸高に説教くらいはしてもらいたかったね。この行動を無言で肯定するのは誤りだと竜崎に断固指摘したい。

送検
 いかにも伊丹がやりそうな勇み足。それを無言でフォローする竜崎。親友と言われれば否定する竜崎だが、やっぱりいいコンビだ。

総論・・・大森署の面々の目・事件を通した竜崎の姿勢。ブレない合理性は突き詰めると人情にも通じる。きっと竜崎のハンコもブレずに朱色も赤々ときっちり押印欄に収まってるんだろうな(笑)

 それにしても、モチーフの一つ一つがいちいち身に染みる。我が身を振り返って、視点を変えてみると、自分の通常業務だって毎日こんなに面白いことなのかもしれない。仕事ってのは毎日がスリリングだ。だが、悲しいかな。才能はないし守秘義務はあるので、そういった事をネタに小説は書けない。

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