著 者 今野 敏
出 版 新潮社 単行本初版2005年9月
文庫本初版2008年1月
文 庫 409ページ
初 読 2024年2月16日
ISBN-10 4101321531
ISBN-13 978-4101321530
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/118990747
隠蔽捜査シリーズ1冊目。2冊目の方を先に読んでるからいいが、この出だし! 最初の50ページくらいでコイツだめだろ、とこの本を去って行く人もいるんじゃないか?っていうくらい、竜崎の思想がダメ(笑)。というよりダメな風に意図的に描かれているよね。だから、後半、竜崎が動いて、彼の思っていることがきちんと表明されてくると、竜崎にどんどん引き込まれていくのだけど、この作りはあざといだろ?と、ちょっと思った。
なにしろ竜崎は東大至上主義で、高慢なエリート官僚で、この国は官僚が動かしていると思って憚らず、家の事は妻の仕事、自分の役目は国家の治安を守ること、と信じて譲らない。ついでにいうと、竜崎が守っているのは「国民」ではなく「国家」だ。
おまけに、下敷きとなっているのが1988〜89年に起こった、女子高生コンクリート詰め殺人事件。作中の事件は、当時少年だったその犯行グループのメンバーが殺害される、というショッキングな内容だ。
しかし読んでいるうちに、東大至上主義なのは竜崎なりの理由があるし、竜崎にとっては、東大は目標ではなく手段に過ぎない、ということも判ってくる。息子にそれを強要したのも、息子になりたいものがまだ判っていないようなので、とりあえず目先の進路として最高なものを目指しとけ、というに過ぎなかったし、エリート至上主義にもそれに相応するだけの矜持があった。なによりもその剛直で強烈な変人ぶりにもかかわらず、ナイーブなところがあるのも、読者のハートを掴んでくる。
だからといって、竜崎みたいな考え方は危ういよなあ。とも思う。竜崎なりの絶妙なバランス感覚があってこそだが、一歩間違えば二・二六の青年将校みたいになりかねん。強烈な信念なんていうのは、実は危うくて危険な代物だと思う。
だがまあ、我らが竜崎はそうはならない、というところを信じて、彼の変人唐変木ぶりを、他の読者諸氏同様に、楽しんで読むしかない、いや実際一種の同業者としては、非常に身につまされるものもあるのだ。
2巻と同様、メインは犯罪捜査ではなく、官僚組織論と危機管理/ダメージコントロールなので、選んだモチーフは昭和を象徴するような少年犯罪だったが、強いメッセージ性は帯びていないのも良かった。
それにしても、恋愛は犬猫でもできる。動物的な感情だ。人間は理性があるからこそ人間なんだ、って、それ3巻の竜崎に読ませてあげたいね(笑)
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