2024年2月26日月曜日

0465 署長シンドローム(単行本)

書 名 「署長シンドローム」
著 者 今野 敏    
出 版 講談社 単行本初版2023年3月
単行本 336ページ
初 読 2024年2月26日
ISBN-10 406529780X
ISBN-13 978-4065297803
 迷ったすえ、Audibleで読了。朗読の国分和人さんの声はとても好みです。いろいろなキャラを声で演じ分けているわけですが、あの大森署の問題児(?)戸高が、実に格好良く聞こえるのです。声質と声のとおりとテンポが、もう、二枚目にしか聞こえない(笑)。なんかキャラがちがーう(笑)。でも、これはこれで良かったです。

 で、さて。
 竜崎が去ったあとの大森署に着任した女性署長。藍本小百合警視正。バリバリのキャリアです。キャリアである以上、間違いなく頭がいいはずなのです。だがポイントはそこではない。彼女は驚くべき美貌の持ち主で、目が合った男どもがことごとくフラフラになるのだ。
 あの嫌みったらしい第二方面本部長の弓削も、野間崎管理官も、広報部長も、組対部長も、ただ、彼女に会いたいがために、なんだかんだと用事を作って大森署に日参する。そう、『署長シンドローム』とは、藍本署長を直視してしまった男が必ずや罹患する、表情筋の脱力と緊張感の喪失と、思考力の低下と多幸感をもたらす症候群なのだ。

 そして、藍本署長は天然なのか、養殖なのか?これが謎だ。

 まさに短編「空席」で私が “もはや死語だろ!” と言った「おんな言葉」を使いこなし、並み居る男どもを骨抜きにし、ぐだぐだになったところで捜査を的確なポジションにもって行く。そして、なぜかみんなが幸せな気分になる。これがアリなら、正論突破で四方八方を敵に回しながら組織をぶん回していた竜崎はなんなんだ!? と、男社会のただ中を正中に構えた抜き身の言説で切り開いている竜崎がいささか気の毒な気分になるのだ。(笑)

 そして、起きた事件がまた、デカい。羽田沖の海上で、外国人組織同士が武器と麻薬の大きな取引をしようとしている、という情報がCIAから寄せられ、警視庁が対策を取る。例によって横やりをいれてきたマトリも藍本に巻き込まれて協力体制となり、首尾良く密輸現場を摘発できたと思いきや、犯人の1人が特大の兵器を持って逃走していた。その兵器が冷戦の置き土産の小型核爆弾だというから、捜査関係者の間に震撼が走るのだが。

 「それって誰かが幸せになるのかしら?」というパワーワードで男どもを煙に巻き、物事を収めていく藍本署長の、そうとは見えない力業。だからって、あれでいいのか?と思わんでもない。
 しかも、あの竜崎を尊敬してやまない貝沼に「心地よい指揮」と言わしめる。藍本イズムに包まれた大森署は謎のお花畑になりつつありますが、きっとみんなが幸せならそれで良いのでしょう。

 ちょこっと出演した竜崎神奈川県警刑事部長は、相変わらずでした。警視庁を通さずに神奈川県警に連絡をいれた貝沼を、「よくやった」と誉める。誉められた貝沼がじんわりとうれしさに浸るのが、読んでいるこちらも嬉しい。『隠蔽捜査シリーズ』では今ひとつ腹の読めない、何を考えているか判らない貝沼副署長の、内心の声がダダ漏れなのも面白い。捜査本部で根性のワルい本庁課長と性格のワルいマトリの舌戦が始まるのを、ワクワクして待っているところは、なかなかお茶目な人でした。

 あの竜崎が、お国のためにってあんなにストイックに背負っていた「責任」をかるがると引き受ける藍本は、天然なのか、養殖なのか? 変人唐変木の竜崎は、果たして『署長シンドローム』に免役があるのか? ぜひこの二人を会わせてみたいもの。次なるスピンオフを期待します。


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