2025年1月30日木曜日

0536 太陽の石 (創元推理文庫)

書 名 「滅びの鐘 」
著 者 
乾石智子         
出 版 東京創元社 文庫版2015年8月
文 庫 300ページ
初 読 2025年1月29日
ISBN-10 4488525040
ISBN-13 978-4488525040
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/125728693

 イザーカトきょうだいの兄弟喧嘩、といわれる、それはそれは激しく、超弩級災害級の魔導戦。火山が二つ出来、湖が出来、山が崩れ、地割れが起き。その激しさにもまして、仲の良い9人兄弟がだんだんに崩れていくのが切ない。
 そして、その根っこには、彼らの祖であるライサンダーがその血筋に封じた、例の昏い奴が存在する。

 前作の『魔導師の月』で、イザーカト兄弟の祖先であるライサンダーの物語が語られた。この物語は、そこから時代を下ること数百年。
 実は『魔導師の月』で散々な(?)活躍をしたライサンダーの物語の余韻に浸り、その子孫達がまたぞろ黒い奴に酷い目に遭わされるのを早々に見たくなかったため、先に『滅びの鐘』を読んでしまったのだ。そして、気を取り直してこの本に取りかかる。

登場人物一覧*ネタバレあり注意
デイス   主人公。十六歳の少年 
ネアリイ  デイスの姉。門前に捨てられていた赤子のデイスを拾った。
ビュリアン デイスの幼なじみ。喧嘩友達。悪友。親友
ザナザ   イスリルの魔道師。300年前のイスリル大戦の際、敵方でイザーカト兄弟と戦った。
【イザーカト兄弟】
ゲイル   長男。大地と火の魔道師。若干ぼんくら風味だが、真面目で公正で面倒見がよい。
テシア   長女。大地と火の魔道師。
ナハティ  次女。大地と火の魔道師。魔力は兄弟の仲でも抜きん出ているが、兄弟の仲でつ
         ねに疎外感を味わっており、僻みと恨みが黒い奴と親和した。
カサンドラ 三女。水の魔道師。リンターと年子で特に仲がよかった。リンターはカサンドラ
         を崇拝していたが、それがナハティの恨みを招いた。ナハティに惨殺され
         た。
リンター  次男。大地と火の魔道師 300年前、ナハティと最後の死闘を繰り広げ、その
         結果火山の下で長らく休眠することになった。
ミルディ  四女。水と土と風の魔道師 イスリル大戦での9人兄弟の唯一の戦死者。ザナザ
         の火球に打たれて死ぬ。兄弟崩壊のきっかけとなる。
ヤエリ   五女。雷と稲妻の魔道師  美しいものが大好きで、潔癖症。かなり軽薄。ナハ
         ティ側について、漁夫の利を得る。
イリア   三男。風と水と嵐の魔道師  300年前の兄弟喧嘩の後、潜伏していた。
デイサンダー 末っ子。植物と生命の魔道師  300年前の兄弟喧嘩の際、ナハティに消
         滅させられそうだったが、赤ん坊返りにとどまり、どうにかして300年
         後にネアリイに拾われる。

 魔導合戦を書きたい、いっていた著者氏は心ゆくまで、どっかんずっどんと派手に周囲を所構わず破壊しながら、魔法の応酬を楽しんでいらっしゃるよう。

 とにかく、9人兄弟の真ん中で次男のリンターが本当に「お兄ちゃん」って感じで、大好きだ。魂に回復しがたい傷を負い、暗い暗黒を纏った目の目元を少し綻ばしてデイサンダーを見守るお兄ちゃんの描写は、あまりにも切ない。

 あと、文庫101ページに登場するのは、エズキウムの魔導師、アンジストだよね。

 黒蝶湖の水先案内人の亡霊が誰だかいまいち判らなかったのだけど、どこか読み飛ばしただろうか。あれは、リンター(の欠片?)なのかな? それとも頬に深い傷跡があるというから、カサンドラだったもの? でもそれならなぜ男性? 
 
 なにはともあれ、とても面白かったが、きょうだいが一人づつ減っていってしまうのは、悲しかった。ヤエリの底抜けにおバカな感じは悪くないかも(笑)だが、あんなメンタリティで教団を率いていけるのかについては、甚だ疑問だ。ナハティがデイサンダーに兎の刺繍のマントを作って、デイサンダーが気にいらず、解いて刺繍をし直すシーンに胸を突かれた。ナハティ。あんな時代もあったのに。いや、あんな時代があってこそ、なのか。

2025年1月26日日曜日

0535 滅びの鐘 (創元推理文庫)

書 名 「滅びの鐘 」
著 者 
乾石智子         
出 版 東京創元社 文庫版2019年8月
文 庫 592ページ
初 読 2025年1月25日
ISBN-10 4488525091
ISBN-13 978-4488525095
読書メーター
 https://bookmeter.com/reviews/125623494

 文庫本とKindle版とAudible併用で一気に読了。
 Audibleと文庫本で一部表現に細かい違いがあったのは、Audibleの原稿が単行本なのかな?
 Audibleの朗読(ナレーター)は、浅井晴美氏。地の文の朗読は落ち着いた声で、男性のセリフも概ね聞きやすい。だが子供と女性の台詞部分については、突如“アニメ声”になってしまって、非常に聞きづらく、物語にも合わず、鬱陶しことこの上ない。もっと普通に、朗読調で読んでくれて構わないのに。とは、Audibleを聴いていて良く思うことではある。この分野は、声優の勉強している人たちで担われているのかな。会話劇ではないので、淡々と読んでほしいのだけど。
 それはともかく、Audible、Kindle併用で、寸暇も惜しまず読み進めた。
 
 とにかく、急き立てられるように、それこそ何かに追われるようにして一気に読了。これが、乾氏智子氏の小説の魔力である。
 『夜の写本師』のオーリエラントの世界とは別の、魔力の色濃い、古代から中世にかけてくらいの時代感。呪文を唱えて魔方陣作って、っていう最近ありがちなファンタジーではないのは、オーリエラント世界と同様。生命の不思議が魔法の形を取っているような、生き物の生と死と、人とは切っても切り離せない嫉妬や悪意や憎悪も暗黒の力として色濃く存在する、太古の魔力が圧倒的な力を見せる世界である。

 そのような世界の中で、曲がりなりにも一国の中で平穏に暮らしている先住民族カーランド人と征服民族アアランド人が、ある出来事をきっかけに一気に憎悪を膨らまし、民族殲滅の虐殺行為に突き進んでいく様を、タゼーレンの家族とともに体験する。
 「難民」というものを私はきちんと理解していなかったかもしれない、と思った。これまでなんとなく、戦乱を避けるために、自ら住んでいた土地を離れる人々、と思っていた。確かにそういう人達もいるだろうし、それだって命がけのことだろうが、この本の中の出来事のように、住み慣れた土地と生活を追われる人達もいるのだろう。


 さて、物語のあらすじだが、
 カーランディアの首都にある守護の〈鐘〉を、魔導師デリンが破壊する。二つの民族の友和と守護をもたらしていた鐘、その実は『滅びの鐘』であった鐘の、438個の破片は世界に飛び散り、その破片を身のうちに取り込んだ人々や生き物の変容をもたらす。

 デリンが鐘を破壊する原因となった、カーランド人大虐殺を行ったボーレン王の世継ぎの第一王子イリアンは鐘の破片のせいで歩けなくなり、第二王子のロベランは、頭に入り込んだ破片のために、怒りと暴力に歯止めが利かなくなる。ロベランの鐘を破壊したデリンに対する怒りは、やがてカーランド人全体に向けられることとなり、もともとはカーランド人を差別し虐殺した父王に対しては反発と憎しみを抱いていたはずのロベラン当人が、父王以上のカーランド人迫害と虐殺に手を染めることになっていく。

 物語の半ば過ぎまでは、ひたすらカーランド人の受難と逃避行が語られる。しかし、その流浪の中でも若者たちは、生気や喜びに溢れ、大人達は日々の暮らしを努力と工夫ですこしでも良いものにしようと力を合わせ、雄大な自然の恵みを存分に受け取りながらのカーランド人の生活は、迫り来る迫害と戦乱に怯えながらも、まだ希望がある。

 〈鐘〉が封じていた存在、かつて稀代の〈歌い手〉であったにも関わらず、妬みから妻子を殺され、自身は喉を潰されて暗黒に身を落としたタイダーの怨念は、彼を封印していた鐘の破壊により世に解き放たれる。さらに層をなす憎しみと怨念、一人一人の愛憎が連鎖し、より大きな災悪を招くどうしようもなさを見せつけられる。

 主人公タゼーレンは、「恨むな」という父の教えのとおりに生きようとするが、彼自身も鐘の破片を胸の中に抱き、暴力や憎しみや怒りに飲まれまいと苦悩する。やがてロベランの進軍により家族を失い、捕らえられたタゼーレンはロベラン本人に残酷な拷問を加えられ、ついにタイダーの憎悪の化身でもある闇の獣カイドロスと一体化してしまう。
 
 大地を戦乱が席巻し、多くの人々が死んだ後。予言の歌に沿って、主人公タゼーレンは暗黒を乗り越え、世の理想から人々の汚泥のような感情まですべてを織りなす竪琴を復活させ、その音で世の中を収まるべきところに収めていく。物語は、冬の終わりに春の日差しが訪れるように、人々が静かな希望を携えて、少し先の未来を思い描くがごとく、穏やかな謳いの余韻のように消えていく。決して物語がぷっつりと終わるのではなく、人々が生きつづけるこの世界にひとときの間、時間軸が交わり、また離れていったような、不思議な残響が胸に残る。

 大魔道師デリンの、直情径行な憎めない性格が良い。イリアンの冷静さも光る。本来なら好漢であったはずのロベランの無残。伝書バトのような役目を果たす雪ツバメの「老いらくの恋」は微笑ましい。主人公のタゼーレンは、予言の歌の通りに流されただけと言えなくもないような気もするし、脇役たちに比べて魅力的、とは言えないような気もするけど、その壮絶な経験ののちに、人としての姿を取り戻し、のちには多くの人びとの力となり、後進を育て、愛する妻を娶り、自分が父母から受けた愛情を、自分の子供達や周囲の人々に伝えていくのだろう。
 起承転結を読む物語ではない。世界の在り方を読むようなファンタジーなのだ。後書きにもあるように、著者が長い年月、書こうとしては断念し、温めてきた壮大な物語。それがこうして世に出され、読むことができる読者は、とても幸せだと思う。

2025年1月21日火曜日

0534 魔道師の月 (創元推理文庫)

書 名 「魔道師の月」
著 者 乾石 智子    
出 版 東京創元社 2014年11月
文 庫 462ページ
初 読 2025年1月21日
ISBN-10 4488525032
ISBN-13 978-4488525033
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/125546842

 コンスル帝国歴857年 晩秋、という書き出しから始まるこの書。コンスル帝国皇帝の甥で皇位継承者であるガウザス(軍人)お気に入りのお抱え魔道師レイサンダーと、まさに『夜の写本師』話中でシルヴァインを失った直後の失意と絶望に苛まれるキアルスの二人の魔導師の邂逅の物語は、どこまでも緻密に織られるタペストリーの一幅のよう。

 太古の闇、始原の悪意とも言うべき〈暗樹〉。見かけは円筒型の黒い木片のように見えるが、木でも木炭でも石でもない、太古から存在する禍々しいもの。地上に現れては動物から人へ、人の手から人の手を渡り、より強い欲を持つもののところに擦り寄り、人の欲望を増長させ、混乱と破綻と災悪をもたらすもの。それが時の権力者の元に現れたときに居合わせてしまったのが、大地の魔導師レイサンダー。
 シルヴァインを殺された衝撃と悲嘆から立ち直る時間もなく、彷徨い歩いていた書物の魔導師キアルス。
 キアルスは、大切に肌身離さず持ち歩いていた『タージの歌謡集』を、失意に飲まれて焚き木にくべてしまう。正気に返ってから深く後悔し、せめて、その断片だけでも復元を試みるが、タージの歌謡集とそれを叙述した人物が図柄に織り込まれた古いタペストリーの魔法に飲み込まれ、タージ、正確にはタジンの歌謡集の由来と歌謡集が編まれた過程を追体験することになる。実はタジンの歌謡集は、当時も世に現れた太古の悪意〈暗樹〉を封じるために集められた、魔術の込められた歌謡集だった。

 タジンの歌謡集の記述者で星読み(予見者)だったテイバドールの人生を自分に取り込んだキアルスは現世に戻り、〈暗樹〉から逃れて姿を隠していたレイサンダーと出会うことで、二人で暗樹と戦うことに。

 まさに、その世界そのものに遊ぶハイ・ファンタジーの名にふさわしい、壮大な魔力に満ちた世界が一気に叙述され、読み手も主人公と一緒に翻弄される。
 キアルスが体験した、テイバドールの人生は、それだけで一冊の大河ファンタジーになりうる密度だったし、レイサンダーの幻視は燦然と、脈絡なく広く深く、次から次へと展開する。
 そのイメージはとても人間に体験しうるものではないと思えるのだが、それでもぐいぐいと読まされてしまい、訳もわからないままに、この魔力に満ちた世界を引き回される。
 エピソードの一つ一つは、どれも闇夜のようで暗く重いのだが、物語全体が明るさに満ちているのは、キアルスの深刻になりきれないどちらかというと軽めな性格と、レイサンダーの「闇を持たない」明朗さのおかげか。知性と思索のキアルスと直感のレイサンダーという対比も光る。
 二人の友となるコンスル帝国軍の副隊長(のちに隊長)のムラカンの存在も素晴らしい。ラストの成り行きは、このようになるしかない、とは思っても心が痛む。

 テイバドールの妻となるイスランとその妹のリルルは、脳内で『乙嫁語り』に登場する双子の乙嫁(名前忘れた!)で完全再生された。話中でもすこしキアルスが調べているが、この過去の物語ののち、テイバドールが夢見た王国は、愛する妻、イスランの名前を冠した「イスリル」という国となり、やがて、魔導師の大国・イスリル帝国として、コンスル帝国に拮抗していく。そのあたりの物語は、『イスランの白琥珀』までおあずけとなるよう。
 主人公に感情移入できる作品も素晴らしいと思うが、乾氏智子氏の作品は、主人公に、ではなく、世界そのものに読者を引き込む力を持っている。感想らしい感想というのは難しいのだが、私にとって、乾氏智子氏その人が、書物の魔導師のようだ。

2025年1月19日日曜日

0533 夜の写本師 (創元推理文庫)

書 名 「夜の写本師」
著 者 乾石 智子    
出 版 東京創元社 2014年4月
文 庫 350ページ
初 読 2025年1月16日
ISBN-10 4488525024
ISBN-13 978-4488525026
カバーイラスト 羽住 都
カバーデザイン 内海 由
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/125457904

 この繊細で美しい、物語の世界観を映し出す装画を見よ!
 このシリーズは、とにかく羽住都氏の表紙絵が素晴らしいです。表紙も含め、芸術品のような書籍です。
 
 いきなり表紙の賛美から入ってしまったけど、極めて純度の高いファンタジー作品。子供の頃、『ゲド戦記』で初めて本格ファンタジーに触れ、こそがファンタジーだ!と思い詰めて育った人間(私)の読書欲求にクリーンヒット。

 金銀や光に溢れるキラキラした物語では断じてない。世界と人間の暗黒面を魔術がさらに押し広げる、闇と暗黒の物語。千年にわたる喪失と恨みと呪い。
〈あらすじ※ネタバレ〉
 千年前の始め、月と海と闇の魔力を宿した魔女シルヴァインに、魔道士のアムサイストは偽りの愛を語り、婚姻すると見せかけ月の力を奪い惨殺する。シルヴァインは死の間際、アムサイストを呪詛する。アムサイストはその呪いゆえにシルヴァインの復讐が成就されるまで不死の者となり、シルヴァイン自身もまた、自らの呪いにより、アムサイストから奪われたものを取り返すまでアムサイスト転生を繰り返す運命となる。
 そうして、シルヴァインの死から下ること500年、今度はイルーシアとして転生し、アムサイスト=エムジストと再び相まみえるが、この時にはシルヴァインとしての記憶を取り戻すのが遅く、エムジストに今度は闇の力を奪われて、再び殺される・・・というより、生きたままエムジストの都エズキウムの城壁に埋められ、その怨嗟をエムジストに利用される。
 2回目の転生では、早い時期にシルヴァインとしての記憶を取り戻し、力を蓄えてアムサイスト=エムジスト=アンジストとの対決に望むが、やはりアンジストの力が勝り、海の力も奪われてみたび殺される。
 そして3回目の転生(今生)では、三つの魔力すべてを持たない代わりに3人の魔女の生まれ変わりの証しを持って、今度は男として生まれる。彼、カリュドウは、助力者であり前世ではシルヴァインの兄であったガエルクと、その親友であったケルシュの助力を得て、『夜の写本師』=魔道士ではない魔術使い手として力を得、アンジストとの対決に挑む。


 カリュドウは過去生の記憶を取り戻す以前二、自身の人生でも、アンジストに育ての親の魔女と、妹のように育った少女を目の前で殺害され、カリュドウはアンジストに復讐を誓う。カリュドウの成長譚と、入れ子のような前世の物語と、カリュドウによる復讐と、もはやアンジストの支配を厭うようになった彼の街エズキウムの蜂起が重層的に重なる。

 アンジストが何故、あれほどまでに貪欲だったのか、それなのにその版図を広げる事無く、エズキウムの街の支配にこだわったのか、その理由があかされ、最初にアンジスト=エズキウムから奪われた宝石がカリュドウの手により還されることで、千年に渡る復讐譚が終わる。アンジストがただの悪役ではなく、母たる女性に裏切られ、傷付けられ、喪失した幼い少年の魂であったことは、善悪二分論を好まない日本人的な物語だと感じた。だがしかし、もしこれが仏教的な因果応報的な話であるならば、アンジスト(の魂)はどれほどの因縁を背負うことになったのだろう? もちろんそういう話ではないということは承知の上ではあるが、カリュドウが育てることになる少女の行く末もとても気になる。

 話の内容とはあまり関係ないところだが、なにより素晴らしいと思ったのは、作品世界に作者の人格的な色を感じさせず、文字を通じて物語に引き込まれたこと。まさに本の魔術のように。
 ここしばらく読んでいた本は、著者の個性や意志や感情のフィルターを感じさせる作品が多かったので、日本の現代人たる「著者」の存在を感じさせることなく物語世界に誘う、著者の透徹した表現がとても良かった。純粋にファンタジー世界に没頭することができた。

2025年1月14日火曜日

0532 少女の鏡  千蔵呪物目録1 (創元推理文庫)

書 名 「少女の鏡  千蔵呪物目録1」
著 者 佐藤 さくら
出 版 東京創元社 2020年4月
文 庫 352ページ
初 読 2025年1月14日
ISBN-10 4488537065
ISBN-13 978-4488537067
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/125405393

 「真理の織り手」シリーズの佐藤さくらさんの、次の作品。舞台は現代日本だけど、大正・昭和初期も絡めつつ、骨董品(呪物)を探し続ける不思議な少年とその兄(犬)が主人公。舞台が日本なだけに、さらりと流れる空気感は、しっくりする。呪物・・・というと『雨柳堂夢話』というよりは『百鬼夜行抄』のほうが雰囲気的に近いかな。
 主人公の朱鷺や、その兄の冬二がどうしてそれぞれに「呪い」を背負うことになったのか。朱鷺の家である千倉(ちのくら)家の先祖代々になってきた役目、その家におきた悲惨な出来事、などはさらり、と描かれているのに、登場人物の内心の呪詛のような悩みや苦しみや拘りはそれはそれは重く苦しく繰り返し描かれて・・・・・

 ファンタジー括りの物語ではあるけれど、感覚的にはかなりホラーに近いかも。

 登場する少女、美弥の悩みや挫折は、読んでいて思い当たる人が多いのではと思う。それが自分に対する呪いに変化するほどの重いものかどうかは置くとして、思い通りにならない、なりたい自分になれない、理想や夢に届かない現実に涙することは、多くの人が経験しているだろう。まったくそういう経験や思いとは無縁の一握りの人もいるだろうとは思うけど。

 ただ、「努力できる」ことには、それ自体に価値があり、「努力できる」ことはそれだけである意味勝ち組ではないかとも、読んでいて思うのだ。

 本当にダメな人間は努力すること自体が出来ない。それは、怠惰とか脆弱とかではなくて、自分を信じることができないからだ。冬二が美弥に言ったように、美弥は「それでもお前はお前を見限っていない」からこそ、努力し藻掻くことができる。今時使い古された言葉でいうならば「自己肯定感」があるからこそ、歯を食いしばっても努力ができるのだ。
 自己肯定感の低い人間は、そもそも、自分のやることに確信が持てないので、踏ん張ることも継続することも難しい。そして、「何者にもなれない」自分に虚無感を感じるのだ。

 そんな意味で、(頑張る力のある)美弥に共感半分、疑念半分。美弥の悩みそのものが、学歴という狭い枠組みに由来するものでしかないところも、共感しきれない部分ではあるが、ただ、多感な高校生ならばかくもあろうか、と遠い記憶を引き寄せつつ、考えたりもする。
 冬二の呪いも、朱鷺の来し方行く末も、きっと続く2冊でもうすこし明らかになるのだろう。
 この不器用な兄弟の重荷が、この後、すこしでも軽くなりますように。

 なお、陰陽師なんかを呼んでいると「呪い」(のろい)ではなく「呪」(しゅ)と言ったほうがしっくりくるな、などとも思った。

2025年1月12日日曜日

番外 〈真理の織り手〉シリーズ 後書きと解説



 こうやって表紙を並べてみると、一巻目と四巻目の対比がいい。
 虚空を睨むゼクスを横目で見守るレオン・1巻。 我が道をいっちゃうレオンを横目で睨むゼクス・4巻。師弟の絆の進化を感じないか?(笑)。 

 このシリーズはとても気に入った。・・・というより、とても気になる作品だった。
 その大きな特徴といったら、なんといっても主人公が「普通の人」であること。魔道士であるという点でそもそも普通の人じゃないんだが(2巻の主役のカレンスは魔道士でもない普通の人だ)、強靱な精神力を持ち合わせた「特別なヒーロー」ではない。物語の中で進化してスーパーヒーローになるわけでもない。どちらかといえば精神的にヒヨヒヨしている(笑)。凡俗というか、あるいは落ちこぼれというか。とにかく普通の人なのだ。だから、普通のことで悩むし、傷つくし、くじけたり、いじけたりもするし、大失敗したりもする。そのウジウジ具合が、なんというか、読んでいると身につまされちゃって、痛がゆい(笑)。だって身に覚えがあるなのだ。むしろ脇役のほうが、ヒーローっぽい(笑)。たとえばダーニャとか、アニエスなどはとってもヒーローの素質がある。(どちらも女性だ!)

 それでも、物語の中で人並みよりすこしだけ大きく成長して、自分の道を見いだしていく。それはもちろん困難な道であったりもするのだけど。

 そして、取り扱っているテーマはとても重い。
 差別、偏見、迫害、戦争、民衆や市民が払う代償や、戦争の残した傷。戦争が終わったからといって平和になるわけではなく、後に残った家族や仲間や生活基盤を根こそぎ奪われた悲しみや、それが転じた恨みや憎しみをいったいどうしたらよいのか・・・・。
 たとえばロヒンギャやクルド人差別、パレスチナやウクライナで起こっていること。憎しみと苦しみの拡大再生産。この作品はファンタジーの体裁を取りつつも、極めて今日的な内容である。処女作でよくぞ書いた!!と著者を賞賛したいし、この作品をきちんと評価して世に出してくれた東京創元社にも拍手を送る。

 そんなこんなで、私は普段はあまり後書きを気にしないのだが、この作品については、以下に各巻の後書きや解説をまとめておこうと思う。

『魔導の系譜』  解説 三村美衣氏
 第一回創元ファンタジイ新人賞の優秀賞受賞作。解説の三村美衣氏は選考委員のお一人で書評家。氏の解説によれば、(以下引用)『・・・目に見えないものを幻出させるには、豊かな表現力が要求される。選考委員の乾石智子さんは、「文章そのものはとても上手でした。構成もしっかりしていて。ただ、色がない、風がない、それから匂いがない。ファンタジイには空気感が必要だと思う」と語り、井辻朱美さんも「感覚的な描写がないので、身体というものが感じられない文章なんです。ファンタジイというのは架空なので、読者は作者が描く世界しか見ることができない。だから、その世界の空気感を文章が伝えてくれないと、読者は台割りを追っていくような読み方しかできなくなってしまう」と、表現者でもあるお二方から文体に厳しい注文がつけられた。』とのこと。 しかし、出版された本作はそこをきちんとクリアしてきている。おそらくは相当丁寧に改稿されているのではないかと思う。『正直いって改稿は難しいのではないかと心配していたが、まったくの杞憂でした。と三村氏も書いている。
 著者の佐藤さくら氏は、本好きの図書館司書であることも解説で明かされている。物語の舞台を私が「ナーロッパ的」と最初に感じたのも、そもそも『本やゲームや映像などのメディアにファンタジイが溢れる豊かな時代に育った書き手だ。』ということで納得。私にとってのファンタジー世界が、エンデやトールキンやル=グウィンであり、『真の名』が欠かせないものであるように、その次の(次くらい?の)世代のファンタジー世界は、多分にRPGなどの世界観をも共有しているのだな。 また『異世界に幻想やエキゾチシズムを求めるだけではなく、絶望的なディストピア社会や、変革のダイナミズムに翻弄される人々に目が向く物語作家』であると。それが私が心惹かれた点だった。

『魔導の福音』 解説 大森望氏
 導脈を持つ者(魔術を使える者)は、ラバルタでは構造化された差別の底辺に配置され、民衆の不満のはけ口とされる一方で、軍事的に使い捨てられる対象ではあるが、存在することは許されていた。一方のエルミーヌでは、そもそも社会から隠され、排除されており、存在すら許されていない。薬で体の自由を奪われて収容所に隔離されるか、見つかり次第殺されるかの二択。
 『その取扱いは、中世ヨーロッパの魔女狩りや、十七世紀後半から始まる精神障害者の〝大監禁時代〟、あるいは江戸時代の座敷牢や〝狐憑き〟の歴史を否応なく連想させる設定で、こういう社会的な問題にまっすぐ切り込む勇気も本シリーズの特徴だろう。』 『それらは、現代世界が抱えるさまざまな問題(性的少数者に対する差別、精神障害者に対する差別など)にもまっすぐつながる。』

『魔導の矜持』『魔導の黎明』  著者あとがき
 3冊目で、初めて著者自身の言葉に触れることができた。
 東京創元社が新しく設けた新人賞に、応募の決心をするまでにはかなり時間がかかったとのこと。著者を励ましてくれた友人さんや先生に感謝。
 また、もともとはラバルタという国の歴史を書きたかったというよりは『駄目な大人と成長していく少年の関係を、いや、むしろ駄目な大人が書きたかったのです。』とのこと。
 佐藤さくら氏にとっては、レオンやガンドは「ダメな大人」の代表なんです。それでも頑張ってもがいて生きて行く姿を書いた、とのこと。いや、全然ダメじゃないと思うよ。レオンもガンドも! 彼らが『ダメ」なら、私だって立つ瀬がないよ! どんなに頑張っても体の資質が足りなかったレオンや、もともと超優秀だったのに、過酷な現場で折れてしまったガンドは、著者の言うように、現代社会でもあるある、というかいるいる、であるよ。レオンが頑張っているから、わたしも頑張れる。そんな読者が沢山いるはず。私はレオンが大好きだ!
 文末の、様々な方への感謝の辞が、佐藤さくら氏の人柄をしめしていて、ほんのりと暖かい気持ちにさせられる。

 私からも、著者にお礼が言いたい。ステキな物語を世に出してくれて、ありがとう。この本の分だけ、世界がすこし、豊かになったと思います。

0531 魔導の黎明 (創元推理文庫)

書 名 「魔導の黎明」
著 者 佐藤 さくら   
出 版 東京創元社 2018年6月
文 庫 400ページ
初 読 2025年1月12日
ISBN-10 4488537057
ISBN-13 978-4488537050
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/125359050

 1作目から3作目は、ラバルタ、エルミーヌそれぞれの情勢が変化するとともに、個人の内面も深化していく、それぞれの思索の過程も描かれていた。そして、この4巻ではそれらが全て一つとなって、新たな展開を迎える。
 レオンは40代、ゼクスも30代となり、ずいぶん落ち着いて、エルミーヌで自分の道を見いだしている・・・・と思いきや、レオンはやっぱりぐらぐらしている。これが、著者のいう「ダメな大人」か。(笑)
 しかし、生活力がないのは相変わらずだが、周りはやきもきしていても、レオン本人はマイペースで、それほど気にしていない・・・様に見えるのに、やっぱりちょっとズレたところで、自分のダメさを気にしてたりする。そんなレオンは、この巻でもあまり具体的な成果は上げない感じなのに、しっかりと大きな事態を動かしている。あいかわらず不思議で、魅力的な人物だ。ついでに、またもゼクスは師匠の行方を追いかけている。

 ラバルタは、先王(アスターの父王)が死に、長兄であったオルフィリアが王となったものの病に倒れ、アスターの次兄のカイリエが実権を持っているが、カイリエはアスター憎し、魔道士憎しで戦に先走り、先も周囲も見えていない。
 長引く内戦と魔道士迫害で、ラバルタの切り札でもあった『鉄の砦』は弱体化している。
 長らく激しい弾圧に晒されていた魔道士は、魔道士の解放と抵抗を説くいわゆる反政府武装勢力的な新機軸『暁の光』に終結しつつある。
 そのような情勢の中で、『暁の光』に所属するレオンの弟弟子のグレイは、レオンの亡き師であるセレスが研究していた禁術を最終兵器(?)として利用しようとする。
 レオンはそれを阻止するために、あえてグレイと同行して姿を消し、その行方をゼクスが追い・・・・
 一方のラバルタ側にも、その危険性に気付きそれを止めようとする勢力がいて。

 レオン、ゼクス、アシェッド、ガトー、イーディス、ローゼルなどの動きや事態がエアレッドとマーハ砦に集約されていく流れは、一つ一つは偶然の要素が強くて、それぞれ画結び突いていく様はちょっと出来すぎな感はあるのだが、この筆者にはあまりそれを感じさせない筆力がある。むしろ、歴史はそのような偶然の集大成なのかも、と思わせられてしまう。

 ある世界の、ある歴史の一部をこうして読むことができたが、本を閉じた後もそこには確かに生きている人々がいて、生活を紡いでいると思えるような。こういう読書体験はなかなかできるものではない。ただ、「面白かった」というよりはもうすこし、上質ななにかに触れた様な気のする読書だった。この物語を書き上げた佐藤さくら氏に拍手を送りたい。

2025年1月8日水曜日

0530 魔導の矜持 (創元推理文庫)

書 名 「魔導の矜持」
著 者 佐藤 さくら   
出 版 東京創元社 2017年11月
文 庫 448ページ
初 読 2025年1月8日
ISBN-10 4488537049
ISBN-13  978-4488537043
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/125275667

 エルミーヌのイドラで「魔物棲み」がらみの騒動が起き、カレンスが、カンネ女王の命を受けて、イドラで「魔物棲み」の保護と学校の設立を担うようになった前話から5年後。レオンとゼクスもイドラの学校で「魔物棲み」の指導にあたり、早くも自立した若い魔導士二人が首都に設立された魔導士学校に派遣され、「魔物棲み」として薬漬けにされて自由を奪われていた者の恢復と指導に苦心していた首都でも、イドラでの実践を取り入れて魔導士教育がようやく進みつつある。

 ラバルタ北部地域とカデンツァ自治区では再び緊張が高まり、内戦が再発しそうな情勢で、エルミーヌのフラセット卿が調停役として派遣されることに。フラセットはカレンスと友人のアニエスを同行させる。カデンツァ自治区を初めて訪問したカレンスはゼクから託された手紙をアスターとダーシャに手渡し、ゼクスの生存を知った二人は涙して喜んだ。

 ラバルタ国内では、内戦以降、民衆の魔導士に対する憎悪が強まり、各地で魔導士の迫害・虐殺、私塾の閉鎖や魔導士ギルドへの弾圧が起きている。拠り所や師を失った魔導士の中には野盗化して村を襲う者も出てきており、それがさらに魔導士への迫害の原因となっていた。

 もともとは魔導士の境遇を改善するために立ち上がったはずだったアスターは、自分の行動がラバルタ国内のさらなる分断を招き、国内情勢を不安定にし、魔導士の境遇を一層悪化させたことに責任を感じ、深く苦悩している。

 そんな中、ラバルタ南部の町で魔導士の野盗がある村を襲撃したことに端を発し、近隣の町の私塾が怒り狂った町民に焼き打たれ、師や魔道士見習いの弟子たちが惨殺された。辛くも脱出した16歳と12歳、9歳2人の4人の子供は、魔導士狩りの騎士団に追われ、突然の逃亡生活を強いられることになった。

 デュナン、アース、パスカル、ルーティの4人を偶然の運びで助けることになった落ちぶれた元騎士のガンドと騎士見習いになれなかった貴族の庶子のノエの6人が、ラバルタ国内情勢を見聞するために密かにラバルタ国内を旅していたアスター、ダーシャと偶然出会ったことから、子供たちをエルミーヌのゼクスたちの元に逃がすことになる。

 第1回創元ファンタジイ新人賞で受賞した第一巻で、民族差別と、階級差別の様相を呈する魔導士蔑視に対する抵抗から始まった物語は、第二話では、特定の形質を持つ者(魔脈を持つもの・魔導士)や、精神病者などの社会的弱者の生存権の問題が提示され、この第三話では、さらに個人の内面の尊厳の問題に焦点があてられる。

 最初は、魔導士対それ以外の人間というごく単純化された対立の図式が提示されていたが、その中にも、一人ひとりの心の中の差別意識や、良心の問題や、自尊心の問題ははじめから物語に内包されていたと思う。

 しかし三巻目となると、魔導士対それ以外(魔導士狩りの騎士や大衆)という図式の中に、魔導士(の子供)を助ける騎士対魔導士狩りの騎士に協力する魔導士、という図式が加わる錯綜した状況になり、ことは、人間対人間の問題であることに否応なく気付かされる。

 一人ひとりの人間が持つ尊厳や自尊心、臆病、羞恥、保身、それぞれの個人ががどうやって自分の内面にあるそれらと折り合いをつけ、どのように他者に対するのか。命を懸けた選択を迫られたときに、保身に汲々とするのではなく、自分の誇りをかけ、他人の尊厳を守る行動をとることができるのか。それによって何を失い、何を得るのか。

 著者は、もともとは、一話で完結していた、とあとがきで言っているが、この物語は巻を重ねるごとに深化した。そして、これらは決して「物語」の中の話だけでにあるのではなく、現実の課題として、読者の心に問いを投げてくる。

 例えば差別を受ける側と差別する側がいて、いま、差別する側が差別を受ける側を集団で殺そうとしている。それを目の当たりにしたときに、殺される側に立つ(自分も殺される)ことができるのか。そういう究極的な選択の場に自分が立つことを、読者は読んでいて、想起せざるを得ない。
 話の中では、ガンドもノエも、武器を持ち戦う訓練を受けているので、殺される側に立つ、ということは、自分がその側に立って戦い、形勢を逆転させること、自分が生き残るために相手を殺すこと、と考えるが、現実世界では、両者の勢力が拮抗していない限りは、むしろ差別される側に立つことで「自分も一方的に殺される」という選択肢になる可能性が高い。それでも自分は、自分の良心にかけて、正しい選択をしうるのか。
 または、ノエやガンドや、アースやデュナンと同様に、自分達が生き残るために相手を殺す、という選択にもなりうる。弱者の側に立つ、という選択と、自分が誰かを殺す、という選択を同時に迫られたらどう行動するのか?

 殺されるか、殺される前に殺すか、という命題に対する一つの回答は、デュナンがとった「殺さない」という選択だろう。しかし、その選択をとるためには、自分がアドバンテージをとらないといけない。相手を凌駕し、その上で、生かす。という選択が取れるようになるためにはまず、自分を磨かないとならない。そのための努力は一番前向きなように思えるが、厳しい道であることには変わりなく、自分にできるか、といわれれば多分、イヤ絶対に無理。

 差別(いじめの問題も同様に言われるが)には、中間点は存在しない。傍観することは「殺す側」に立つことなのだ、と改めて考える。それでも自分は、自分の自尊心のために、殺さないこと、弱者の側に立つことを選択できるだろうか。これはまさにこの本のタイトルにある矜持の問題だと感じた。


 著者はあとがきで、ダメな大人が書きたかった、と言っている。その代表格がレオンなのだが、実際レオンは「ダメな大人」ではないと思うのだ。一作目ではまだレオンも20代で若く、悩みながらなんとか生きていこうとしている。だが実際レオンの「ダメさ」は、戦闘能力を持たない、という一点につきる(まあ、生活力がなくてだらしないってのは、「ダメ」な要素ではあるが)。 それは、この巻でも書かれているように、ラバルタの魔道が闘いに特化しており、それ以外の魔道の活用の道を封じてきたからこその結果であって、レオンが研究者として、指導者としては一流であることは、実は一作目から示されているではないか。
 問題は、レオンが「一流か、三流以下なのか」ではなく、レオンが自分のことをどう思っているか、「ダメなやつ」だと思っていることなのではないか。
 一読者で、レオンのファンである私としては、本当は全然「ダメではない」レオンが、卓越した魔道の研究者・指導者として、このファンタジイ世界の中の魔道の中興の祖として、この物語世界の歴史に名を残していてほしいと切望している。

2025年1月1日水曜日

謹賀新年2025



明けましておめでとうございます。
 2025年の正月の膳です。
宅配のお節(三段重)と柿安ダイニングの肉系お節
遠方からムスメが帰ってきているので、つい奮発したらこうなりました。

 本当は、お節を手作りしたいんですが、たぶん、全部作ると3日掛かりくらいになるんですよ。まず大鍋に一番だしをとり、二番だしはお雑煮用にして、お煮染めは単品ずつ味を変えて煮ますし、黒豆煮て、栗きんとんの栗は秋に甘露煮を作っておき、二色卵も自前で裏ごしして蒸す。・・・・前に作ったのは、多分20年位前です。結構本格的だと自負していたのですが、それ以降、なにかと忙しくて、もう少し年末に時間の余裕を持てるようになったら、もう一度チャレンジしたいと毎年想い続けて早・・・20年・・・(^^ゞ

 里芋の白煮と山形風のゴボウのお雑煮は大晦日に作りました。

 私は両親とも関東なので、家の雑煮は関東風(鰹だし、醤油味、具材はかしわ、小松菜、なるとのみ、四角い焼き餅)なのですが、山形出身の友人に教わった山形風の牛蒡のお雑煮があまりに美味いので、以来これも毎年作り続けてはや20年・・・。もはや我が家の味といっても良いでしょう。

 これから、実家の母宅に、一人用のお節の折り詰めを届けに行きます。
 新年だから、と、あれこれしてあげたい、とつい頑張りそうになりますが、認知症の母は、こちらの頑張りに見合う反応はしてくれないので、あまり力と気持ちを入れすぎないように気を付けています。こちらがやった分の反応をつい、期待してしまいますし、それが期待外れだと、イライラしがちですからね。それよりは、平常心でいつもと変わらず、と心がけたほうが良い。母のためにも良い。今年はどんな年になることやら。

ちな、昨年の年始の読メつぶはこちら→ https://bookmeter.com/mutters/262668000

2024年12月の読書メーター

 2024年は、コミックまで入れるとそこそこの冊数を読みましたが、中身的には薄めだったような気がします。あと、いい年してこっぱずかしいので読了登録はしていないけど、かなりBLを読みましたね。これはなかなかイケるじゃないか、と思ったのだけ、レビュー入れました。pixivとなろうとアルファポリス、コミックシーモア、めちゃコミの利用頻度もかなり高かったです。それらとコミックを除くと実質読んだ狭義の「本」は80冊くらいだろうか。もう少し少ないかも。隠蔽捜査シリーズ全巻とかねてから読みたかった公安Jシリーズを踏破しました。三木笙子さん再読と、創元ファンタジーで締め。あとは、画集収集に目覚めたのが自分の中ではトピックスか。年越しは佐藤さくらさんのファンタジーを供にします。

12月の読書メーター
読んだ本の数:15
読んだページ数:3807
ナイス数:714

JUNYA WATANABE写真作品集 夜光水景JUNYA WATANABE写真作品集 夜光水景感想
あまりにも美しい。まるで絵のような、雨に濡れた東京の夜景。暗い裏町。佇む人の後ろ姿。ほのかに雪が光る夜。中には知った街もあるし、アニメ映画の攻殻機動隊のワンシーンのようなネオンの街もある。どれもが夢幻のように美しい。
読了日:12月25日 著者:Junya Watanabe



纏う透き色の 羽住都画集纏う透き色の 羽住都画集感想
乾石智子氏のオーリエラントシリーズの装画を担当されている羽住都氏の画集。本の装画が多いようで、巻末にのっているこの装画を纏う本を片っ端から読みたくなりました。
読了日:12月12日 著者:羽住 都



魔導の福音 (創元推理文庫)魔導の福音 (創元推理文庫)感想
重苦しい話なのに何故か読みやすい。しかし主人公カレンスの優柔不断さにイライラする。それが現実の自分や周りいかにもいそうなキャラクターだから。そういう意味でものすごく現実味があるのよ、佐藤さくらさんの作品は。前作のレオンやゼクスも登場。誘拐されるって、レオンはすでに「お姫様ポジション」なんじゃないか?狩に行って家にもどったらレオンが攫われていたゼクスが憐れ(笑)、またも師匠を探す弟子。ラバルタ、シェール、エルミーヌ3国それぞれの魔導事情を背景に、二人はエルミーヌで魔道士の生存権獲得のために働くことになる。
読了日:12月29日 著者:佐藤 さくら


魔導の系譜 (創元推理文庫)魔導の系譜 (創元推理文庫)感想
第一回創元ファンタジイ新人賞。最初の印象は少年漫画だった。師弟、チート能力、訓練、友情、戦闘、挫折、友情、師弟、旅立ち。だが中盤から様相が変わってくる。むき出しの差別と暴力の描写は残酷で、内戦が始まった中盤以降の主人公苦悩に息がつまる。民族差別と魔道士に対する社会構造的な差別と、憎しみ合いや恨みからどうやって逃れられるのか。どうしたら人として正しく生きる事が出来るのか。主人公も師もそれぞれに悩み、それぞれに道を見出す。大きな解決はもたらされないが、師弟の道が寄り添った事に安堵と未来を感じるラストが良い。
読了日:12月24日 著者:佐藤 さくら

竜の医師団2 (創元推理文庫)竜の医師団2 (創元推理文庫)感想
2巻目は、さらに現代的な医療テーマが登場。安楽死、人間でいうところのナノマシンによる血管内治療、再生医療などなど。現役医師である著者の片割れさんによる医療者の視点がリアルで切実。キャラ立ってるし、友情ものだし、料理シーンも美味そうだし。躍動感に溢れてるし、文体は明るく軽快。登場する老竜ディドウスの性格がとてもステキだ。竜が〈主役〉なのでもちろんファンタジーなのだが、主動力は屍蝋化した竜から取り出した「炭」を燃料とする蒸気機関、医療技術は現代並み、という不思議な世界感。すごく面白い。
読了日:12月21日 著者:庵野 ゆき

竜の医師団1 (創元推理文庫)竜の医師団1 (創元推理文庫)感想
竜とスチームパンクと現代医療の奇跡の融合! 絵柄はハウルの動く城的な感じで脳内再生。そして竜がデカい。体長4キロ、翼開長8キロ。尻尾を引きずれば地溝ができ、のたうてば国が滅びる。そんな竜の治療を司る医師団は国境も国権も超えて竜を、ひいては世界を護ってる。テンポの良い会話と展開が小気味良い。著者はアンノさん(現役医者)とユキさん(フォトグラファー)のユニットであるとか。二人で添削しあって仕上げているそうで、作品としての完成度も高い。風雲急を告げる展開で2巻へ。
読了日:12月19日 著者:庵野 ゆき

ダ・ヴィンチの翼 (創元推理文庫)ダ・ヴィンチの翼 (創元推理文庫)感想
前作『ヴェネツィアの陰の末裔』の直後くらいのフィレンツェが主たる舞台。類い希なる共感能力を持った少年コルネーリオが、当時フィレンツェの軍事9人委員会の一人だったミケランジェロの密偵とともに、レオナルド・ダ・ヴィンチが隠した新兵器の図面を探す、という冒険劇。前作よりはこなれていて読みやすい。欠点は残っているものの、だいぶ改善している。面白かった。とは言え、フィレンツェ共和国の敗北という史実を踏まえたニッチな舞台設定で、あまり派手な展開が望めなかったのはちょっと残念。ダ・ヴィンチの図面の隠し場所については、フィレンツェ共和国の政庁舎(ヴェッキオ宮殿)の大会議室「500人大広間」に描かれていた『アンギアーリの戦い』の壁画が、二重壁の下に発見された(かも)というニュースに着想を得たのかな、と思った。
読了日:12月15日 著者:上田 朔也


ヴェネツィアの陰の末裔 (創元推理文庫 Fう 1-1)ヴェネツィアの陰の末裔 (創元推理文庫 Fう 1-1)感想
第5回創元ファンタジイ新人賞佳作。中世ヴェネツィアを舞台に、詳細な歴史的背景に魔術師を掛け合わせた歴史ファンタジー大作の趣。緻密に構成されているのは疑わないが、全体的に言葉の選び方が雑なのがとても残念な気持ちにさせられる。この本そのものが「ウェルギリウスの呪文書」のようで、何かが起こりそうなエネルギーを感じるのに表現が良くないせいで没入できず心を動かされない。読書の喜びや高揚感を感じられないので、いきおい分析的に読む事になり、さらに文章の粗が気になってしまう、という悪循環に陥った。
読了日:12月11日 著者:上田 朔也

システム・クラッシュ: マーダーボット・ダイアリー (創元SF文庫)システム・クラッシュ: マーダーボット・ダイアリー (創元SF文庫)感想
「ああ、やっと帰れた。たいへんだった」本当に大変だったよ(笑)。「壊れてしまって」運用不安な弊機が、ネットワークから隔絶された環境下で自分の人間達だけでなく全部の人間達を護るために奮闘。いつも通りぼやきつつ。最近実生活(というより自分の職業生活でも)「くそったれ」が口癖になりつつある、マズい。ARTに向かってそんな悪態をつきつつ、一心に頑張る弊機は今作も殺伐としてかわいかった。解放された警備ユニットが今後どうなるのかも気になるところ。本当は前作を読み直したほうが良かったな、と思ったけど、それはそのうちに。
読了日:12月04日 著者:マーサ・ウェルズ

飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ: 若き医師が死の直前まで綴った愛の手記 (祥伝社黄金文庫 い 9-1)飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ: 若き医師が死の直前まで綴った愛の手記 (祥伝社黄金文庫 い 9-1)感想
初読は40年以上前。この間癌治療は随分進歩しただろうけど、闘病の苦しみや、死んでいくことの悲しさ、口惜しさが減じることはなく、この手記を残した井村医師の言葉の1つひとつが、胸に迫る。2人の子供と親しい人に宛てて残された手記は、死後程なく出版され、NHKドキュメンタリー、映画、テレビドラマにもなっているのでご存じの方も多いだろう。しかしやはり、井村医師の言葉そのものに触れてほしいと思う。
読了日:12月28日 著者:井村 和清

軍人婿さんと大根嫁さん 4 (芳文社コミックス/FUZコミックス)軍人婿さんと大根嫁さん 4 (芳文社コミックス/FUZコミックス)感想
突然の結婚から始まった2人の切ない恋心。ハガキの下書きに使った新聞の記事がこれから泥沼になる戦局を告げていて、花ちゃんも大切な夫が直面する戦争がすぐそこにある事に気づく.切ない、悲しい、愛しい。きっとこれから花ちゃんは町に出てきて誉さんと暮らし始めるだろう。そしたらきっと、空襲の心配もしないといけなくなる。この時代の恋は、どの作品を読んでもかなしくて尊い。
読了日:12月27日 著者:コマkoma

軍人婿さんと大根嫁さん 3 (芳文社コミックス/FUZコミックス)軍人婿さんと大根嫁さん 3 (芳文社コミックス/FUZコミックス)感想
婿さんに乞われて駐屯地(都会)のお祭りに花ちゃんが出かけてみれば、婿さんは馬上の美丈夫であった。しばしの逢瀬、訳知り顔の旅館の番頭さん(笑)。そして婿さんはしばしの休暇で妻の待つ雪のお里に。だが、なんということでしょう。妻はスピード狂であったのだった。*(笑) 厳しくも心ある上官としての婿さんと、つい童心に返りがちな里でのもてなし。とても良いです。オススメです。もうすぐ4巻発売です。
読了日:12月16日 著者:コマkoma

軍人婿さんと大根嫁さん 2 (芳文社コミックス/FUZコミックス)軍人婿さんと大根嫁さん 2 (芳文社コミックス/FUZコミックス)感想
やさしい婿さんは、厳しい軍人さんだった。死地を潜り抜けて、しかも、報われなかった。・・・花ちゃんに出会うまでは。婿さんのこれまでの人生の厳しさと、これから来るであろう時代の惨さの狭間にある、やさしくて素朴な田舎の生活と、人々のやさしさ。胸がきゅん、ってなります。すごくオススメです。
読了日:12月16日 著者:コマkoma

軍人婿さんと大根嫁さん 1 (芳文社コミックス/FUZコミックス)軍人婿さんと大根嫁さん 1 (芳文社コミックス/FUZコミックス)感想
四コマ漫画のコマ割りなのに、お話は深くて心に染みる。親同士、家同士の縁組みで、手紙一つを頼りに田舎の町にきた将校さん。しかも日付を間違えて。花嫁の花ちゃんは青天の霹靂。しかも御年まだ17才だ。手も顔も泥で真っ黒にして大根抜いてたのに、数時間後には花嫁衣装を着せられ、あれよあれよというまに床入りなんて! でもお婿さんは優しかった。「とりあえず今日は休みましょうか」 時は昭和の始めころ?日中戦争? お婿さんは中国の戦地帰り。戦功もちだが、出世欲はなし。ほのかに育つ恋心。すごく良い。オススメです。
読了日:12月16日 著者:コマkoma

スモークブルーの雨のち晴れ 6 (フルールコミックス)スモークブルーの雨のち晴れ 6 (フルールコミックス)感想
かもめさん・・・・若干デッサンくるってきてないか?と思わんでもないが、なかなか熱々な二人。MR時代の馴れ初めも。なんと久慈の方から好きだったのか。朔さんが久慈をおおらかに受け止めていて、ちょっとびっくりだった。自分が大人になりきった頃には、親が歳を取る。「文字の向こうに人がいて命や暮らしがある」。同じようなことを以前、思っていたことを思い出した。〈我々はどうしても仕事を数字や統計にせざるを得ないが、その「1」は数字の1ではなく、一つの命であったり、一人の人生であったりすることを忘れてはならない。〉
読了日:12月18日 著者:波真田かもめ