著 者 乾石智子
出 版 東京創元社 文庫版2015年8月
文 庫 300ページ
初 読 2025年1月29日
ISBN-10 4488525040
ISBN-13 978-4488525040
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そして、その根っこには、彼らの祖であるライサンダーがその血筋に封じた、例の昏い奴が存在する。
前作の『魔導師の月』で、イザーカト兄弟の祖先であるライサンダーの物語が語られた。この物語は、そこから時代を下ること数百年。
実は『魔導師の月』で散々な(?)活躍をしたライサンダーの物語の余韻に浸り、その子孫達がまたぞろ黒い奴に酷い目に遭わされるのを早々に見たくなかったため、先に『滅びの鐘』を読んでしまったのだ。そして、気を取り直してこの本に取りかかる。
登場人物一覧*ネタバレあり注意
デイス 主人公。十六歳の少年
ネアリイ デイスの姉。門前に捨てられていた赤子のデイスを拾った。
ビュリアン デイスの幼なじみ。喧嘩友達。悪友。親友
ザナザ イスリルの魔道師。300年前のイスリル大戦の際、敵方でイザーカト兄弟と戦った。
【イザーカト兄弟】
ゲイル 長男。大地と火の魔道師。若干ぼんくら風味だが、真面目で公正で面倒見がよい。
テシア 長女。大地と火の魔道師。
ナハティ 次女。大地と火の魔道師。魔力は兄弟の仲でも抜きん出ているが、兄弟の仲でつ
ねに疎外感を味わっており、僻みと恨みが黒い奴と親和した。
カサンドラ 三女。水の魔道師。リンターと年子で特に仲がよかった。リンターはカサンドラ
を崇拝していたが、それがナハティの恨みを招いた。ナハティに惨殺され
た。
リンター 次男。大地と火の魔道師 300年前、ナハティと最後の死闘を繰り広げ、その
結果火山の下で長らく休眠することになった。
ミルディ 四女。水と土と風の魔道師 イスリル大戦での9人兄弟の唯一の戦死者。ザナザ
の火球に打たれて死ぬ。兄弟崩壊のきっかけとなる。
ヤエリ 五女。雷と稲妻の魔道師 美しいものが大好きで、潔癖症。かなり軽薄。ナハ
ティ側について、漁夫の利を得る。
イリア 三男。風と水と嵐の魔道師 300年前の兄弟喧嘩の後、潜伏していた。
デイサンダー 末っ子。植物と生命の魔道師 300年前の兄弟喧嘩の際、ナハティに消
滅させられそうだったが、赤ん坊返りにとどまり、どうにかして300年
後にネアリイに拾われる。
魔導合戦を書きたい、いっていた著者氏は心ゆくまで、どっかんずっどんと派手に周囲を所構わず破壊しながら、魔法の応酬を楽しんでいらっしゃるよう。
とにかく、9人兄弟の真ん中で次男のリンターが本当に「お兄ちゃん」って感じで、大好きだ。魂に回復しがたい傷を負い、暗い暗黒を纏った目の目元を少し綻ばしてデイサンダーを見守るお兄ちゃんの描写は、あまりにも切ない。
あと、文庫101ページに登場するのは、エズキウムの魔導師、アンジストだよね。
黒蝶湖の水先案内人の亡霊が誰だかいまいち判らなかったのだけど、どこか読み飛ばしただろうか。あれは、リンター(の欠片?)なのかな? それとも頬に深い傷跡があるというから、カサンドラだったもの? でもそれならなぜ男性?
なにはともあれ、とても面白かったが、きょうだいが一人づつ減っていってしまうのは、悲しかった。ヤエリの底抜けにおバカな感じは悪くないかも(笑)だが、あんなメンタリティで教団を率いていけるのかについては、甚だ疑問だ。ナハティがデイサンダーに兎の刺繍のマントを作って、デイサンダーが気にいらず、解いて刺繍をし直すシーンに胸を突かれた。ナハティ。あんな時代もあったのに。いや、あんな時代があってこそ、なのか。