こうやって表紙を並べてみると、一巻目と四巻目の対比がいい。
虚空を睨むゼクスを横目で見守るレオン・1巻。 我が道をいっちゃうレオンを横目で睨むゼクス・4巻。師弟の絆の進化を感じないか?(笑)。
このシリーズはとても気に入った。・・・というより、とても気になる作品だった。
その大きな特徴といったら、なんといっても主人公が普通の人であること。魔道士であるという点でそもそも普通の人じゃないんだが(2巻の主役のカレンスは魔道士でもない普通の人だ)、強靱な精神力を持ち合わせた「特別な」ヒーローではない。物語の中で、進化してスーパーヒーローになるわけでもない。どちらかといえば精神的にヒヨヒヨしている。凡俗というか、あるいは落ちこぼれというか。だから、普通のことで悩むし、傷つくし、くじけたり、いじけたりもするし、大失敗したりもする。そのウジウジ具合が、なんというか、身につまされちゃって、読んでいて痛がゆい(笑)。だって身に覚えがある。。。むしろ脇役のほうが、ヒーローっぽい(笑)。たとえばダーニャとか、アニエスなどはとってもヒーローの素質がある。(どちらも女性だ!)
それでも、物語の中で人並みよりすこしだけ大きく成長して、自分の道を見いだしていく。それはもちろん困難な道であったりもするのだけど。
そして、取り扱っているテーマはとても重い。
差別、偏見、迫害、戦争、そして民衆や市民が払う代償や、戦争の残した傷。戦争が終わったからといって平和になるわけではなく、後に残った家族や仲間や生活基盤を根こそぎ奪われた悲しみや、それが転じた恨みや憎しみをどうしたらよいのか・・・・。
たとえばロヒンギャやクルド人差別、パレスチナやウクライナで起こっていること。憎しみと苦しみの拡大再生産。この作品はファンタジーの体裁を取りつつも、極めて今日的な内容である。処女作でよくぞ書いた!!と著者を賞賛したいし、この作品をきちんと評価して世に出してくれた東京創元社にも拍手を送る。
そんなこんなで、私は普段はあまり後書きを気にしないのだが、この作品については、以下に各巻の後書きや解説をまとめておこうと思う。
『魔導の系譜』 解説 三村美衣氏
第一回創元ファンタジイ新人賞の優秀賞受賞作。解説の三村美衣氏は選考委員のお一人で書評家。氏の解説によれば、(以下引用)『・・・目に見えないものを幻出させるには、豊かな表現力が要求される。選考委員の乾石智子さんは、「文章そのものはとても上手でした。構成もしっかりしていて。ただ、色がない、風がない、それから匂いがない。ファンタジイには空気感が必要だと思う」と語り、井辻朱美さんも「感覚的な描写がないので、身体というものが感じられない文章なんです。ファンタジイというのは架空なので、読者は作者が描く世界しか見ることができない。だから、その世界の空気感を文章が伝えてくれないと、読者は台割りを追っていくような読み方しかできなくなってしまう」と、表現者でもあるお二方から文体に厳しい注文がつけられた。』とのこと。 しかし、出版された本作はそこをきちんとクリアしてきている。おそらくは相当丁寧に改稿されているのではないかと思う。『正直いって改稿は難しいのではないかと心配していたが、まったくの杞憂でした。』と三村氏も書いている。
著者の佐藤さくら氏は、本好きの図書館司書であることも解説で明かされている。物語の舞台を私が「ナーロッパ的」と最初に感じたのも、そもそも『本やゲームや映像などのメディアにファンタジイが溢れる豊かな時代に育った書き手だ。』ということで納得。私にとってのファンタジー世界が、エンデやトールキンやル=グウィンであり、『真の名』が欠かせないものであるように、その次の(次くらい?の)世代のファンタジー世界は、多分にRPGなどの世界観をも共有しているのだな。 また『異世界に幻想やエキゾチシズムを求めるだけではなく、絶望的なディストピア社会や、変革のダイナミズムに翻弄される人々に目が向く物語作家』であると。それが私が心惹かれた点だった。
『魔導の福音』 解説 大森望氏
導脈を持つ者(魔術を使える者)は、ラバルタでは構造化された差別の底辺に配置され、民衆の不満のはけ口とされる一方で、軍事的に使い捨てられる対象ではあるが、存在することは許されていた。一方のエルミーヌでは、そもそも社会から隠され、排除されており、存在すら許されていない。薬で体の自由を奪われて収容所に隔離されるか、見つかり次第殺されるかの二択。
『その取扱いは、中世ヨーロッパの魔女狩りや、十七世紀後半から始まる精神障害者の〝大監禁時代〟、あるいは江戸時代の座敷牢や〝狐憑き〟の歴史を否応なく連想させる設定で、こういう社会的な問題にまっすぐ切り込む勇気も本シリーズの特徴だろう。』 『それらは、現代世界が抱えるさまざまな問題(性的少数者に対する差別、精神障害者に対する差別など)にもまっすぐつながる。』
『魔導の矜持』『魔導の黎明』 著者あとがき
3冊目で、初めて著者自身の言葉に触れることができた。
東京創元社が新しく設けた新人賞に、応募の決心をするまでにはかなり時間がかかったとのこと。著者を励ましてくれた友人さんや先生に感謝。
また、もともとはラバルタという国の歴史を書きたかったというよりは『駄目な大人と成長していく少年の関係を、いや、むしろ駄目な大人が書きたかったのです。』とのこと。
佐藤さくら氏にとっては、レオンやガンドは「ダメな大人」の代表なんですと。それでも頑張ってもがいて生きて行く姿を書いた、と。いや、全然ダメじゃないと思うよ。レオンもガンドも頑張ってる。どんなに頑張っても体の資質が足りなかったレオンや、もともと超優秀だったのに、過酷な現場で折れてしまったガンドは、著者の言うように、現代社会でもあるある、というかいるいる、ではないか。レオンが頑張っているから、わたしも頑張れる。そんな読者が沢山いるはず。私はレオンが大好きだ!
文末の、様々な方への感謝の辞が、佐藤さくら氏の人柄をしめしていて、ほんのりと暖かい気持ちにさせられる。
私からも、著者にお礼が言いたい。ステキな物語を世に出してくれて、ありがとう。この本の分だけ、世界がすこし、豊かになったと思います。
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