2022年7月31日日曜日

0375 WILLOW WEEP FOR ME <矢代俊一シリーズ15>

 
読書メーター:https://bookmeter.com/reviews/107970307   

Amazonより・・・「矢代俊一に妄執を募らせる渥美公三の死によって、俊一にもようやく平穏な日々が訪れた。高瀬とのライブに来た森田透のリクエストに応じて歌った曲が聴く者を驚愕させるほどの歌唱となり、金井恭平との激しい情事によってレッスンを休まざるを得なくなった俊一を見舞に来た父と俊一、そして英二も加わった自宅での演奏は、性的な絶頂を感じさせるほどの衝撃的な演奏となるなど、俊一の音楽はさらに飛躍を遂げようとしていたが……渥美公三の通夜、告別式への出席は新たな脅威を予感させるものだった。矢代俊一シリーズ第15巻。」

「まず、編集者としての私から見て明らかな矛盾や事実誤認については訂正をしました。」
とおっしゃられていたはずなんですが、私設編集長兼御夫君殿は。


 ずっと「隼」だったサブキャラが何故か「準」に、「花咲」サンが「花井」サンになってるよ、これまたいい加減なことで。御夫君は何をしておいでなのかなぁ。
 やっと渥美の執着から解放されたと思ったのに、ピアノデュオを続けている高瀬が微妙に束縛男っぽくなってきて鬱陶しい。その高瀬とのデュオライブを聴きに来た透のリクエストで、俊一が『朝日のあたる家』を絶唱し、聴衆がその壮絶な色気に当てられて欲情する副作用が発生、高瀬は「俺と寝る?」と言い出だす。ライブの後に、透と二人で飲んだ俊一は、透に、金井との関係性について、あることを指摘される。
 その金井との久しぶりの逢瀬で、俊一に別れを切り出した金井には、自分を捨てるなら「自殺する」と脅迫して金井を困惑させる。
 結果、自殺する代わりに金井にヤリ倒されて疲労困憊で昏倒し、父とのレッスンをすっぽかした俊一を父が見舞い、父と英二の3人で自宅で演奏したボレロでも近親相姦3Pしたかのように欲情。
 さらに、意識不明だった渥美が遂に息を引き取り、通夜の席では、俊一が渥美の死の原因と恨む親族の悪意に晒される。
 
 俊一は、「余技」では済まないほどに歌唱力がUPして、ついに歌オンリーのライブを企画することに。いよいよ俊一の歌に磨きがかかるが、それは同時にエロ開眼にも。なお、万里小路の父との関係については、ついに野々村がスクープしたらしく、週刊誌に「驚愕!矢代俊一の《まぶたの父》は世界の巨匠万里小路俊隆だった!」との記事が上がったとのこと。それにしても、週刊誌見出しがつまらなすぎるな。もっと素敵な文句を考えてくれればいいのに。

 ミューズの使徒でありたいと願いつつも行動がどんどん淫乱化するシリーズ15作目ですが、アクションパートが終わっちゃった後の脱力感漂う空気で例のグダグダが増量。おまけに新キャラ大地と銀河の渥美家子息たちが親父に輪をかけた非道キャラで陰惨さが激増、ついでに卑猥さも増大。比して、面白さは半減。はっきり言って上記のAmazonのリードの方が、作品本体よりも感動的すぎて何事かと。


2022年7月16日土曜日

0371-74 栗本薫《矢代俊一シリーズ 11〜14》の感想


《あらすじ》
 波乱万丈だったアルバム発売記念全国ツアーも何とか無事終了し、東京に戻って束の間の休息を得る俊一は、実の父で名ピアニストの万里小路俊隆を荻窪の自宅に訪問する。父子の絆を急速に深める俊一。一方で〈神の苑〉の追い込みは最終段階を迎える。さらに他方、写真家渥美は俊一のハメ撮り写真や陵辱ビデオの存在をちらつかせて俊一に服従を迫り、再三にわたり俊一をレイプ。俊一がスタジオに連れ込まれて襲われたとき、英二、金井、黒田がタッグを組んで救出に踏み込み、俊一を辛うじて救出し、画像・動画とネガを奪取した。金井の家族の長野移住に始まった騒動は終演に近づくも、もう、自分はジャズの世界にも、表社会にも戻れない、という現実を語る金井に対して、俊一は「自分とジャズを捨てるなら死んでやる」とメンヘラ女的反応で金井を翻弄。
 さて、やっと、渥美の魔の手から逃れたと周囲が安心する間もなく、ふたたび俊一が渥美に騙されてファックされる。心身ともに限界まで傷ついてしまった俊一を助けたのが森田透。透はPTSDでフラッシュバックの発作が再発した俊一を、男娼で磨いたSEXの業で癒やす。(←なんかこう書くと、ホント身もフタもない。)

11 亡き王女のためのパヴァーヌ <矢代俊一シリーズ11>
重傷を負いながらのステージをもやり遂げ波乱のツアーを終えた矢代俊一は、実の父との至福の時を迎える。(Amazonより)・・・・・アルバム発売記念の全国ツアーをなんとか成功させ、東京に戻った矢代俊一が、実の父であるピアニスト万里小路俊隆を初めて荻窪の自宅に訪れた一日。俊一が父と会うのはこれが3回目。2人で奏でた《亡き王女のためのパヴァーヌ》のピアノとフルートの一音一音が父子の空白の時を埋めてゆく。珍しくもまったくSEXがからまない、静かで豊かな音楽家父子の時間の描写です。俊一の存在が、母の不貞の証拠であったゆえに母に愛されなかった、とか、それ故に母に護られることなく、小さい頃から災難が多かった、とか俊一の設定がおっそろしくベタだけど、まあそれはおいといて、俊一の幼少時の心の傷を癒やす穏やかな時間の描写は悪くない。万里小路父と俊一息子が、似たもの親子なのが微笑ましくもある。話自体は間奏曲って雰囲気でよかった。

12 LOVE FOR SALE <矢代俊一シリーズ12>
神の苑頌霊教団とのトラブル、そして止まるところを知らぬ渥美の妄執もついに終局の時を迎えるのだった。(Amazonより)・・・・・基本的にはめっちゃ面白い。《神の苑》教団撲滅の最終仕上げの一方、潜伏した金井との束の間の逢瀬。狂人渥美の横恋慕に黒田のニヒルな活躍。野々村の暗躍(実際のところ、何やってるかよくわからんけど)。キャラの動きが多い分、薫サンの脳内ダダ漏れグダグダトークが最小限なのが、面白い証拠。万里小路父と俊一の交流や語らいはハートウォーミングで、束の間の幸せがとても微笑ましく、渥美(キモい)との暗闘と交互でバランスも悪くない。だがね、俊一の微妙な“キャラ崩れ”がいささか鼻につく。たった一人で世界に向こうを張ってきた、天才と努力の孤高の人だったはずの俊一が、突如として血統故に才能に恵まれた高貴な人になってしまった。それも鼻高々に。俊一が恥ずかしげな風情で、しかし自慢げに父のことを周囲に漏らす様が、とても40男には見えず、見栄っ張りでおしゃべりな中年女みたいだ。俊一がプライベートで父と逢瀬を重ねて、“誰も知らないけど、この偉大なピアニストが僕の父なんだ”、って心密かに想ってる分には一向に構わない。だけど、それを友人知人に言いたくてしょうがない、っていうのがとにかく気持ち悪い。ってか薫サンの姿が背後霊のように透けて見えるよな。コワいよぉ。一方、俊一への執着を一層強める写真家渥美がの勘違いっぷりが、まさにストーカー気質でこれもキモい。薫サン。変質者を書かせたら天下一品です。コワいよぉ。 
 金井が俊一の前から去ろうとしたのを、もし俺のこと・・・俺もジャズも——捨てたら、死んでやる。本当にやるからな・・・俺が辛いのが一番イヤだっていったでしょう。もし、俺からはなれようとしたら——一番辛い死に方で死んでやる・・・恭平の目の前で死んでやる……と脅迫する俊一君。あんた誰?いやあ、立派なビッチに成長されましたな。母に生存を脅かされ、父にも認められずに育った俊一のアダルト・チルドレンな一面が、(親代わりとして)一番心理的に依存している金井に対して表出したか。言い草が、とても四十の中年男とは・・・・(ちなみに、中年男とは、作内で俊一自身が頻繁に自称してる。) 
 なお、この《神の苑》暗闘編とでもいうべき一連の事件で暗躍した情報屋の野々村さんは、もちろんあの野々村さんだが、これは「マスコミ事務所」の野々村のウラの正業、って訳ね?一連の出来事は、時期的にいえば、島サンが亡くなる前から4ヶ月後くらいまでの期間に相当するようで、「この事件がなかったら、自分は島サンの死から立ち直れなかった」とのこと。島津のことなどまるで知らない俊一の前で突然島津の思い出話を始めて、俊一をぽかんとさせる野々村老であるが、この前ふりが次巻に繋がっていく、のかな。いやさすがに唐突だろう、とは思ったけど。 

13 SUMMERTIME <矢代俊一シリーズ13>
痛手を負いながらも渥美の暴行から救出された俊一へ、なんと渥美からの詫びの電話が……(Amazonより)・・・・・渥美から、会って謝罪したい、という電話に騙されて呼び出された俊一は、再度渥美から酷い暴行を受ける。(三度目だバカ。いや四度目か?) 「血をみないと達せない」という渥美は俊一にフィストを仕掛け、これまでなんとか保ってきた俊一の精神はついに崩壊一歩手前にきてしまう。正気を失ったまま、街をふらついていた俊一を、たまたま近くで飲んでいた風間と森田透が発見して、透のマンションに保護する。幼児に心理的に退行していた俊一は、大男の風間には怯えるが、透の痩せた優しい手や、穏やかな声音には安心できるらしく、透に看病されて、正気を取り戻したのは翌日の昼を過ぎてからだった。透の住まいは、今は亡き名プロデューサー島津正彦のマンション。俊一が自分の体の状態を卑下したり、透に下半身の傷の手当てを受けたことを恥じたりしないですむように、と、透は俊一に、自分もフィスト・ファックで死にかけた経験があることや、これまでの境遇を語る。互いに互いの境遇を知り、俊一は、自分と比するようなつらい過去を持ちながら、今は穏やかに微笑んでいる透に強い親近感と愛着を感じる。心身ともに傷ついていた俊一は透を求め、酷い性的暴行の記憶は、優しいセックスの経験で上書きしてしてしまったほうが良いと考える透は、穏やかに俊一の求めに応じた。透もまた、島津の死後、孤独な時間を持て余しており、他人との触れ合いを渇望していた。・・・・・って、本当はもっといろいろと俊一のことが書いてあるんだけど、私が透への関心のほうがバカ高いので、こういう感想になります。あしからず。

14 SOUL EYES <矢代俊一シリーズ14>  
ようやく金井との情事の時を迎えたが、俊一はそこで激烈なPTSDの発作を起こしてしまう。(Amazonより)・・・・・渥美の暴行から体は回復し、金井とセックスしようとした俊一は強烈なフラッシュバックの発作に襲われ、意識を失ってしまう。英二とならできるか試してみろ、と金井に言われた俊一は、英二とのセックスを試みるが、やはり発作に襲われ、意識を消失し、泣き喚き、呼吸ができなくなる事態となって、救急搬送されてしまう。主治医の催眠療法により、6歳の時の暴行事件のいきさつを明かにした俊一は、恋人二人以外との性交で、自分が発作に見舞われるのかどうか試すために、透の家を訪れる。
 俊一の目的を察した透は、俊一をセックスに誘う。・・・・・なんかねえ、透のSEX描写がとても美しい。そして、ちゃんとエロい(笑)ような気がする。なんだ、ちゃんとエロいエロシーンも書けるじゃないの、このひと。『朝日のあたる家』前半なんかでは、どちらかというとぼーーーーーっとしていた透ちゃんが、なんだかエロエロキャラに変身しているような気がしないでもないが、私は透ちゃんびいきなので、そう恐ろしいキャラ崩壊していない限りは不問に付しておく。透は、島津を失って3,4ヶ月、良の出所にもあと何ヶ月も待たなくてはならない、という時点設定だが、ここでも時空が乱れていることは、年譜で明かにしたとおり。島津が恋しくて寂しくて、できることなら後追い自殺したい、という気持ちと、良を待っていなければ、という気持ちを抱え、だた、時間が通り過ぎるのを待っている透の悲しさが際立つ。個人的には俊一はどうでもいい。あとひとつ、脳血栓と脳溢血は全く違う病態なので、混同するのは止めてほしい。

2022年7月15日金曜日

0366-70 栗本薫《矢代俊一シリーズ 6〜10》の感想



《あらすじ》
 早瀬による誘拐陵辱事件、俊一のHIV感染(誤診)に誘発されて、金井と俊一が激しい恋に落ち、嫉妬にかられた英二が再三、俊一に手酷い暴行(レイプ)を加え・・・と波瀾な俊一であったが、早瀬がらみの騒動は黒田の暗躍で一応の解決を見る。幕間劇とも言える6巻、7巻は、おもに俊一、英二、金井の三角関係が中心。8巻以降、淫教《神の苑》暗闘編(勝手に命名)スタート。裏社会の情報屋として野々村老人と風間が登場。はぐれ者のヤクザ黒田と金井、英二、風間、(友情出演で風間のセフレの黒須さんも登場)と武闘派が大活躍で、ここで東京サーガ、矢代俊一ブランチと、今西良・森田透ブランチがガッツリ絡む。時間軸的には、矢代が今西良に楽曲を提供した2000(平成12)年(ってことになってる。)を中心点に、今西・森田ブランチの時間軸を縦にびよーんと引き延ばすイメージ。だいたい、良と透が俊一より年下設定ってのがそもそも無理がある。(なにしろ二人はGS全盛期のトップスター設定だ。)『朝日のあたる家』では、携帯電話のけの字も出てこないし、薫サン、ほんとに何も考えずに登場人物を混ぜちゃったんだな、と嘆息する。これを気にしすぎると、ストーリーを楽しめなくなるので、とりあえず読んでる途中はこの情報は封印。

6 ROUND MIDNIGHT <矢代俊一シリーズ6>
二人の男への恋情と愛情に矢代俊一の気持ちは引き裂かれていくが、それは彼をさらに成長させる契機なのか?(Amazonより)・・・・・・今作は次の激動までのインターバル、波乱の幕間ってところ。俊一がとにかく英二は手放したくないし、金井のことは喉から手が出るくらい欲しい、ってもの凄い欲深な三角関係を形成し、そのテンションに耐えきれなかった英二が暴行に走り、体調を整えきれなかった俊一がライブの途中で貧血でぶっ倒れる。ついでにサド写真家渥美の手による写真集企画が始動し、渥美の魔の手が俊一に伸びつつあり。渥美につれていかれた会員制クラブのラウンジでピアノを弾き語るシーンあり、スタジオでのリハやライブのシーンもあり、音楽シーンがあると話が締まるし、ラストに早瀬の訃報があったりして、例によって薫の筆力(?)でもの凄く良いものを読まされたような気にさせられるが、冷静に考えるとこの内容、結構ヒドイんだよ。どろんどろんの愛憎関係をそのまま放置したまま、セッションで昇天しちゃってなんだかイイ感じにしちゃう、という、なんか『朝日のあたる家』のラストを思い出させる構成である。あと、ああだこうだの理屈っぽいところは相当に斜め読みしました。

7 THE MAN I LOVE <矢代俊一シリーズ7>
地方のイベントから戻り入院中の母を見舞った俊一は、自らの出生の秘密を告げられる(Amazonより)・・・・・・北海道のアマチュアジャズフェスティバルのスペシャルゲストに担ぎだされた俊一が会場に到着すると、そこには金井恭平バンドの姿が。飛ぶ鳥落とす勢いで、地方の小さいフェスなどには本来出るはずもない俊一が「息抜き」と称して派遣されたのは、実は、金井が北原に入れ知恵したから。3泊4日の英二抜きのハネムーンで、身も心も溶ける俊一である。金井の激しいSEXで、何かの変化が俊一におとづれる。その変化に驚愕したのはむしろ本人よりも金井の方だった。
 時を同じくして、東京では、俊一の母が青山の自宅の階段で躓いて足を骨折し入院。北海道から帰った俊一は英二を伴って母を病院に見舞う。俊一は母に、英二を「一生いっしょにいるつもりのパートナー」であると紹介し、英二を感涙させる。その母が骨折治療の手術の際の麻酔の事故で帰らぬ人になってしまう。母は、俊一が見舞いに来た際に、俊一が矢代の父の子ではなく、不倫の子であること、本当の父は著名なピアニストだったことを明かす。母はその人が3年前に亡くなっていると告げたが、母の葬儀に訪れた上品な老人の姿をみて、俊一はその人が自分の父であると直感する。

8 WHAT ARE YOU DOING THE REST OF YOUR LIFE <矢代俊一シリーズ8>
金井恭平は新興宗教団体との恐るべきトラブルに見舞われ、その毒牙は俊一にもまた迫る(Amazonより)・・・・・・金井が長野の実家に妻子を送った関係で、不在にする期間が長くなり、俊一は金井恭平グループのトラを積極的に努めている。金井が家族がらみである新興宗教団体のトラブルの渦中にあると聞いて、俊一は心配を募らせる。そんな中、今度はその宗教団体のメンバーと思われる不審な黒づくめの男たちが、金井恭平グループのライブに現れ、今度は俊一の身辺に不穏な空気が流れる。俊一に類が及んだ、と知った金井は、俊一に別れを切り出すが、俊一は承知せず、金井を強引に押し倒す。(ちょっとニュアンスが違うかも?) 

9 GENTLE RAIN <矢代俊一シリーズ9>
金井恭平は失踪、そして矢代俊一にもまた新興宗教団体頌霊教団の魔手が迫る!(Amazonより)・・・・金井が突然失踪し、俊一はショックで倒れ、放心する。そんな俊一が不憫で、英二は黙々と俊一の世話をする。金井を取り戻すためには、金井を追いつめた《神の苑》教団を排除することだ、と思い定めた俊一は、苦手とする写真家渥美に頼み〈情報屋〉の野々村に接触する。
 野々村の事務所の一室で初対面の野々村と風間、苦手な渥美と会することになった俊一は、対人恐怖のPTSD発作を起こして昏倒するものの、野々村の協力を取り付けることができた。『ブルースカイ』アルバム発売記念ツアーが始動する中、《神の苑》教団も、サディスト渥美も、俊一に対して本気の実力行使にでて、翻弄されるばかりの俊一。金井を護るために渥美を頼った行動を “弱み”とみられて、渥美が俊一に強引に迫り、ついに陵辱行為に発展。長野のコンサートでは、俊一の誘拐を目論んだ教団実行部隊と、蓼科の夜の山道でのカーチェイスと大立ち回りになるが、俊一を追跡してきた金井と黒田の行動により助けられ、いよいよ、物語も佳境に差し迫る。 
 俊一が一層病弱に、物語はいよいよスペクタクルに。札幌のツアーでは結城クラウディアに会い、英語で語りあう俊一の普段の口下手との対比がちょっと面白い。俊一の内省はグダグダしていて退屈なところが多いが、物語の展開がスピーディーなので、サクっと読める。俊一の危機には必ず助けに現れる黒田さんが、ニヒルなキャラなのにちょっと可愛いい。 長野から命からがら東京自宅に帰還した俊一たちを警護するために、風間がセフレの黒須さんを連れて登場。黒田と黒須は同じ田沼組系列の筋モンという設定で、ついうっかりよその猫の縄張りで出会っちゃったボス猫(♂)とはぐれ猫(♂)な状態なのがこれも面白い。
 なお、この話の終盤で登場する野々村が、非常に憔悴・気落ちしており、島さんが亡くなったことが明かされている。 

10 CARAVAN <矢代俊一シリーズ10>
新興宗教団体の危険にさらされながらのツアーのさなか、さらなる災厄が矢代俊一を見舞う!(Amazonより)・・・信仰宗教《神の苑》撲滅にむけた仕掛けと同時進行で進む、全国ツアー後半戦。風間も俊一の護衛としてツアースタッフに加わり、金井と黒田は俊一から離れ《神の苑》を潰す本隊として行動している。緊張の最中、西日本へのツアーを開始する俊一だが、そこに、写真家渥美が風間を騙して俊一のホテルの部屋に入りこみ、俊一を激しく陵辱する。俊一は心理的なショックと、怪我を抱えたまま、ジャズ・ミュージシャンの執念で、岡山のステージに臨む。
 俊一の気迫に支えられたステージ1回目は、これまでにないテンションで大成功を収めるが、夜の2回目のステージ、第一部はなんとか無事切り抜けるものの、俊一は40℃近い高熱を発して幕間で倒れてしまう。発熱をおして臨んだ後半第二部のラスト、ソロの途中で俊一は倒れかけるも仲間の好演に支えられ、なんとか曲を終えた瞬間に意識不明となり、そのまま救急で運ばれた。二日の入院と休養を経て、九州・沖縄に転戦、俊一はなんとかツアーをやり遂げる。俊一が倒れた幕間に、ピアノの晃一にミュージシャンとしての覚悟と気概を諭す場面、そしてその教えをうけて晃一が大成長を遂げるステージが見物。なんか、やっぱり、俊一がSEXのことではなく音楽のことを考えている時のほうが、物語としては締まる。

2022年7月14日木曜日

0361-65 栗本薫《矢代俊一シリーズ 1〜5》の感想

ところでこの表紙、シリーズ全部同じで、巻数もタイトルも良く見えず、
Kindleで一覧表示したときにも巻数表示は見切れてしまい、
読みたい巻を探すのが極めて面倒くさい。




栗本薫の私家出版同人誌【矢代俊一シリーズ・電子書籍版】1巻から5巻のまとめ。
ざっと要点をまとめてみよう
  1.  俺はミューズの女神に貞操を捧げてるんだ。だけどドラムに強姦されちゃった。 
  2.  俺にはミューズの女神がいるんだ!だけどエロスの神もいるらしいぞ。 
  3.  あれ、ミューズの神殿ってエロスの神も同居可能じゃね? 
  4.  なんだかエロスとミューズって一体だったみたい。 
  5.  もう、ミューズどこにいるかわかんないけど俺恋しちゃったし、赦してくれるよね? 
 これじゃああまりにも分からないので、もう少し丁寧に要約してみる。
 固定的な自分自身のバンドを渇望していた矢代俊一が、偶然ドラムの勝又英二とピアノの森晃一と出会う。俊一は英二に付きまとわれて強引に家に入り込まれ強姦されてしまうが、英二のドラムに惹かれた俊一は、その後も英二を拒絶できず、やがて自分が英二に惹かれていることを自覚する。英国から第一次矢代グループのベースのサミーが帰国し、ベース/サミー、ドラム/英二、ピアノ/晃一のメンバーで第四次(第三次)矢代グループ完成。かつての俊一のピアニスト結城滉の愛人だった早瀬が登場し、結城の死を逆恨みして俊一を拉致強姦。その早瀬がエイズに罹患していたため、強姦された俊一もHIVに感染してしまった。一方、俊一が英二に開発されちゃったんで、20年来俊一への恋心を抑えていた(!)金井は、俊一とHIVの運命を共にすべく、俊一にディープキスを仕掛けて恋人に名乗りをあげ、俊一も金井への恋情を自覚して二股体制となる(!)。ラストで、俊一のHIV陽性が誤診だったことが判明。早瀬はエイズで入院中の病院で死亡した。あとに残ったのは、俊一が早瀬のために作ったプライベートアルバムと、英二、金井の二股関係だけ。6巻以降に続く。


では、以下が感想となります。悪口雑言を含みますので、できればファンの方はご遠慮くださいね。

1 YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS 恋の味をご存じないのね <矢代俊一シリーズ1> 
天才サックス奏者が不惑を過ぎて初めて知る、狂おしい恋の味。(Amazonより)・・・いや、その通りなんだけど、これほど内容を裏切っているリードもないよね、と失笑。そりゃあ、俊ちゃん41歳で確かに不惑だけどさ。永遠の20代みたいな顔してる美青年ってことですからね。しかも、病弱。でどんな話かというと、だ。
 妻を惨殺され、台湾マフィアによる暴行で重傷を負った俊一は、長い治療と闘病の末、第一線に復帰してはいたが、体は完全回復はせず、メンタルではPTSDと対人恐怖を引きずっていた。
 そんな矢代が、先輩の金井から頼まれてトラ出演した荻窪の小さなジャズ喫茶『マイルストーン』で、ドラムの勝又英二と、ピアノの森晃市に出会う。
 ストーリーはコミック『コイシラズ』のまんまなので、気分は再読だが、小説の方が細かい部分は濃厚。そしてジャズについての語りも濃厚。わたしは結構好きだと思ったけど、ジャズ通の人に通用するのかどうかは、私にはわからないなあ。
 英二と晃市は恋人同士だったが、それぞれが矢代にモーションをかけてくる。なかでも英二は積極的で、強引に矢代のマンションに入り込み、矢代を強姦してしまう。身勝手極まりない英二に、なぜ俊一が惹かれてしまうのか、まあ、読んでる方には謎だよね。はじめから彼の音楽性に惹かれていた矢代は、英二を強硬に拒絶することができない。。。。って、「感じたら和姦」理論みたいで好かないし、なぜ英二を受け入れてしまうのか、ちと説得力に欠ける気がする。PTSDがずいぶん都合良く描かれているような気も若干する。俺が愛して直してやる!とかやめなはれ。
 金井がすでに俊一を「姫」扱いではあるが、全体的には、まだ俊一が男っぽい。本人も俺は男だって主張している。

2 SOFTLY, AS IN A MORNING SUNRISE 朝日のように爽やかに <矢代俊一シリーズ2>
舞台の稽古場で矢代俊一の前に現れた一人の俳優は、矢代俊一に思いがけぬ運命をもたらすのだった!(Amazonより)・・・このリードは、なんの面白みもないな。
 俊一が英二に犯され口説かれ、口説かれ犯されし、ついには絆される。そこに、かつての俊一のオンリーワンだった亡きピアニスト、結城滉への愛と恨みを引きずる新宿二丁目のネコ、早瀬充が現れ、非業の死を遂げた結城滉のため、俊一に復讐を仕掛ける。俊一を騙して拐かし、黒人の大男に強姦させたのだ。英二が異変に気付いて早瀬の家を突き止め、俊一を助けに飛び込んだときには後の祭りで、俊一はすでに犯されたあとで血まみれ。そんでも助け出された俊一は、痛めつけられた体を英二に看護してもらい、徐々に回復する。英二は俊一の家に移りすみ、意外にも、俊一を細やかに世話をする。ついでにサミーが英国から戻ってきて、第四次(第三次)矢代俊一グループが完成。英二との仲も公認となった。
 性愛を描いて、性愛以上のものを表現したかったんだろうな、というのは良く分かる。でも性愛の上位互換が、軒並み「マリア様」になっちゃうのね。(透ちゃんもそうだったよなあ。) 
 ついでに言うと、すべての発端となった結城滉のエピソードがなんだかバカっぽいのが玉に瑕。
 プロの一流のピアニストが自分の痛めた手の手当もろくにできず、好きな相手に告白もできず、すべてを拗らせた上に、自殺することもできずに、自殺同様な事故死を遂げるって、いうのが、なんかもう残念。ついでにいうと、第一次矢代俊一グループそのものが、そこはかとなく気持ち悪い。お父ちゃんなベースと、拗らせた長兄(ママって説も)と、双子の末弟たち?が依存しあいながらいちゃいちゃセッションしてる図が、想像するだけで、もう気持ち悪い。
 でもね。誤解を怖れずに書くと、この話、ノリも流れも、先日読んだ『嘘は罪』よりも完成度は高いと思う。好きなことを好きなように書いてるからなのか。結局、栗本薫はポルノ作家であって、それ以外では無かったのだとも思った。とても自然で、読みやすい作品になっている。へんな脳内ダダ漏れぐだぐだのエンドレス思考がないだけでもはるかにマシ。というか、それがないから、力みのない、かつ弾性のある作品に仕上がってる。 やおいが無問題な人であれば、読めます大丈夫。(それが大問題なのかもしれないが。)私としては、予想より遙かによかったので、結構困ってる(笑) (←どれだけ予想が低かったんだ、とツッコミ可!)
 あと、これは本当に何とかしてほしいと思ったのが、ロークやらロイクやら言っている黒人さんの扱いだよ。基本、頭の悪そうな巨根の精力絶倫 のバイブレーター代わりの扱いで、レイシズムに繋がりかねないイメージの貧困さに、読んでる方が困惑する。これは、読んでて(日本人として)恥ずかしい。無神経にもほどがある。
 更に思うのは、男女の性愛小説は男性向けも女性向けも、いくらでも出版されてるっていうのに、BL本だっていくらでもレーベルがある時代なのに、なぜ同人誌だったのか。
 読者層がニッチすぎるとか、まともに大手で出版して映画化までされた『キャバレー』を使い回してしまったこととか、思いつくけど、個人的には、内包される思想というか思索が拙く、大人を騙せるレベルではないこと、性愛とはいえ、未成熟かつ不健康なこと、そしてやっぱり、薫サンが批判を嫌ったんだろうなあ、と想像する。なにしろ、自分が「このように愛されたい」という自己投影なんだと、感じてしまうからねえ。

3 CRAZY FOR YOU <矢代俊一シリーズ3>
新メンバーを得て始動しようとする矢代俊一の許に殺人予告の脅迫状が届けられた!
(Amazonより)・・・第四次矢代俊一グループが活動を開始し、英二との生活も順調な 俊一のもとに、前話で俊一を拉致強姦した早瀬が、俊一凌辱ビデオと写真を添えて、殺害をほのめかす脅迫文を送り付けてきた。俊一は、矢代俊一グループのライブ活動を、不安と緊張の中で進める。
 前話の感想で『嘘は罪』よりは良いと書いたが、その感想も今作であっという間に色あせた。俊一と英二のセックスがルーティンになってきたためか、今作は特に感じたのが、この話がSEXファンタジーだってこと。リアリティが皆無。観念的すぎて、読んでると変な笑いがこみあげてくる。「性愛」が「性愛」になってないのよ。エロでもポルノでもない。強いて例えるなら童貞が書いた中二病小説。(読んだことないけど。) 濡れ場が濡れてない。まったくそそられない。エロくない。読んでる自分の方が不感症になった気がする。

 それにさ。
 いや、最近のBLをそんなに読んでいるわけではないけど、あの市場も購読層が広がるにつれて、男×男というマイノリティ故の厳しさや切なさはあっても、基本的に、他者と愛し合うっていう一点にかけてはすごく健やかだと思うのよ。栗本薫が書くものがBLではなく、いつまでも「やおい」なのって、どこか陰惨で不健全で、アングラなうしろめたさが張り付いているからだと思うのよね。昨今のBLみたいな健全さは皆無。
 
 前話の感想で性愛を書いて性愛以上のものを表現したいのだろう、とは書いたものの、その中身が中二病ファンタジーなうえに、性愛そのものが不健康な感じなところに、読む方の限界を感じた今話である。ストーリーの流れとしては、早瀬が脅迫。英二が怒る。俊一が「俺は男だ」と発奮。黒田さん登場。英二と俊一が自分から罠に突っ込んだが、黒田さんが拳銃ぶっ放して助ける。あ、早瀬はエイズでした!ということです。 

4 NEVER LET ME GO <矢代俊一シリーズ4>
無法な陵辱によってH・I・Vの罹患に怯える矢代俊一。その彼が、親友金井恭平への思慕を抱いてしまう。(Amazonより)・・・コイツはちょっとミスリード気味かな。しかしだ。 
 私は思ったね。「謝れ!HIVと闘っていた全ての人に向かって謝れ!」
 早瀬がエイズを発症していたことで、俊一もHIV感染の可能性があると気付いたのは金井だった。なぜそれまで誰も気づかない? そして検査結果が出るまではSEX禁止と言い渡されてるにもかかわらず、その夜になぜやる? 感染の可能性を英二に話した後もやっぱりSEXを抑制できない俊一。なんかHIVの扱いが軽々しく、ドン引きする。黒人の描き方もそうだけど、センシティブな事柄の扱いのずさんなことときたら、これが薫の人間性のそのままなんだろうと思えて残念なこと極まりない。
 
 そして、いままでは俊一がノーマルだと思っていたからそっち方面の欲望は抑えていたものの、俊一が英二に開発されちゃったんで性欲が抑えられなくなったという金井も、めちゃくちゃキモい。その金井に、おれもお前のHIVに付き合うぜ💗とディープなキスをされて、恋心が兆してしまう俊一が超絶キモーーーーーイ!!! 
 なんかね、俊一が悶えている訳ですよ。金井への秘めた恋心に。いったいお前に貞節をもとめていたミューズの女神とやらはどこにいったんだ?英二への思いは恋ではなく情だった、とかどの口が言ってんの?
 ラストはHIVキャリアであることをバンドの仕事仲間たちにカミングアウトして、結束を固め合う。そして、諸悪の元凶、病床で死を待つ早瀬に送るためのプライベート・アルバムを作るために感動的に演奏するのだった。ラストのエピソードなんかは、薫サンの力技でなんだか感動的な方向に持ってかれそうではあるけれど、今作は全編どこにも共感する隙のない、完璧なキモさだった。合掌。


5 BLUE SKIES <矢代俊一シリーズ5>
二つの想いに引き裂かれる矢代俊一に、ついに勝又英二は耐えきれなくなったが。(Amazonより)・・・例によって、薫マジックで、一瞬なんか良いもの読まされたような気配がただようが、引っかかるまいぞ。要は、俺、恭平に恋しちゃったけど、これは自分でそうしたかった訳じゃなくて不可抗力だし、英二も好きだし、バンドのドラムは絶対手放せないし。俺、これからもずっと二股かけっぱなしだけど、ツラいのは俺もいっしょだから、キミもガマンしてね。 というお話。いやあ、超絶身勝手なんだけど、音楽の天才だから、みんながしかたねえなあ、ってガマンしてくれるって言う話。まあ、そういう人間や関係がこの世に一つもないとは言いませんがな。だけど、薫サンよ、アンタのはただの勘違いではあるまいか。
 ちなみに、ラストで、俊一のHIV陽性は誤診でした〜〜〜!!というオチが付く。ああ本当に、世の中の頑張っているHIVキャリアの人に伏してお詫びしたい。こんなヤツが有名作家でごめんなさい。と。

2022年7月2日土曜日

0359-60 嘘は罪 上・下 角川文庫

書 名 「嘘は罪 上・下」
著 者 栗本 薫    
出 版 角川書店 2009年9月
文 庫 上:489ページ  下:421ページ
初 読 2022年7月2日
ISBN-10 上:4044124221 下:404412423X
ISBN-13 上:978-4044124229 下:978-4044124236
読書メーター 上:https://bookmeter.com/reviews/107400101
       下:https://bookmeter.com/reviews/107407740 

 「東京サーガ」森田透・今西良ブランチのサイドストーリーというか、スピンオフ。
 良に耽溺するあまり道を誤った“普通の人”たる風間先生の改悛と再生の書。私は風間先生は好きだな。
 良を失い、名誉も地位も地に落ちて、仕事もなく、周囲の好奇の視線を怖れて、どん底で自宅マンションに閉じこもる風間先生がドロドロと考え続けている。遂に金も食料も酒も尽きた。だが何よりも辛いのは煙草が無くなったことだった。風間は、自分を案じてくれている数少ない友人の野々村に金を無心しようと、やっと部屋を出て、新宿二丁目に足を運ぶ。
 偶然出会った、野生の獣のような忍という少年に、風間は信じがたいような音楽の才能を見いだす。今西良のようなスター性はないが、剥き出しの原石の天性。忍を苦境から救い出し、その才能を伸ばしてやりたい、と風間が思ったとき、風間自身も再生を始める。
 いい話っちゃあいい話だと思うのだけど、せっかくのストーリーラインが、薫サンの脳内から零れだした、薫サンのとも風間センセのとも判別できないグダグダ無限ループ状態のクソみたいな思考に沈んで、上巻前半でほぼ溺死状態。そうはいっても、風間センセが少々立ち直って、動きはじめてからは状況はやや改善するので、とにかく冒頭は読み飛ばしておけ。読まなくても、まったく大勢に影響はない。
 この話をたとえば、上下巻ではなく、半分の一冊にまとめられなくなったのが、薫サンの文才の限界を示してるのではないかねえ。途中で二回、透ちゃんが登場して、風間センセの話相手を務めるが、その形容が美しいのは良しとする。透はいつでも優しいね。
 絶対音感と、おそらくは音に関する共感覚を持ってうまれたのに、その悲惨な生まれ育ちのせいで、だれにもその才能を気付かれずに生きてきた忍という少年を偶然拾ってしまい、忍に歌の手ほどきをすることで、一度は諦めた音楽と生きる道を模索し始める風間は、もともと生真面目な性格だし、不器用さがかわいいところがあって、見捨てがたいキャラではあるのだよな。私は風間センセが嫌いではない。ってか、良も透も風間も島さんも野々村も好きだし、ついでに言えば、今作に登場する黒須もなかなか良いキャラだ。
 上巻は、基本のお膳立てと仕込み。ついでに、恐ろしいばかりのはずだった暴力団若頭の黒須が、風間と二丁目のお友達になってしまうまで。
 端正な顔立ち、黒髪を後ろにひっつめて黒いパンツに革のロングコート、に黒のグラサンという凄みのあるヤクザの黒須に、風間が、あんたの刺青を見てみたい。という。かすかな恥じらいを浮かべる黒須。きゃー(棒)。場所が二丁目なだけに、お互いがそういう相手を求めているということは了解済みとはいえ、なかなかに凄い口説き文句だわ。その刺青たるや、大輪の牡丹に蓮に菊に百合が咲き誇り、白い肌に散る絢爛な刺青の背中に解いた黒髪が流れおちるって、色っぽいにもほどがある。
 下巻に入り、急にハードボイルド路線か?と思いきや、そうでもない。どん底で、どれだけ批判され、世の中から受け入れられなくても、人は生きていかなければならない、という風間の境遇に、薫サンは自分を重ねているのだ、という話もあるし、嘘を歌えない忍に、自分の歌いたい唄しか歌えない忍に、薫サンは、自分の書きたいものを書きたい自分を重ねたのかな、とも読める。だがしかし、「それが世界一厳しい道」であることを、奇しくも風間が指摘したのは、薫サン自覚があってのことなのか?
 一生で一曲だけの本当の歌を歌って死んだ歌手もいる。どんなに自分の好きなもの「だけ」を世に送りたくても、歌い手はボイストレーニングは必要だし、音痴では話にならない。書き手は、世に認められる水準で、作品を書かなければだれも読みはしない。それが受け入れられないのは、不当に扱われているからではなく、単に研鑽が足りないからではないのか。「嘘は罪」、だけど嘘は吐いたもん勝ちになることだってある。これはひょっとしたら名作なのかもしれないが、でもそれを書いた薫サンがその生き方で、作品を裏切っているような気がする。

2022年7月1日金曜日

2022年6月の読書メーター

22冊のうち、小説12冊、コミック10冊。小説のうち、3冊は栗本薫電子全集なので、読んだページ数は水増し状態。栗本薫中間のまとめは記事にしたが、これから〈矢代俊一シリーズ〉(同人誌分)については、もう一本記事にするかどうか考え中。透が出てこないエロ本なんて、たいして興味がなかったりするんだが。矢代俊一の変節(?)をこの目で確認したい気もしている。すくなくとも、『黄昏のローレライ』までは、普通の男の子だよなあ。集団暴行→集団陵辱に意味変するのは、「同人誌だし、パラレルOKだよねっ」てことなのかしらねえ。


6月の読書メーター
読んだ本の数:22
読んだページ数:12977
ナイス数:1533

フラワー・フェスティバル 2フラワー・フェスティバル 2感想
1989年7月刊。リュスーーーー!お〜ま〜え〜!(笑)こういう天然さん、大好き。少なくとも漫画の中では。
読了日:06月28日 著者:萩尾 望都



フラワー・フェスティバル 1 (プチフラワーコミックス)フラワー・フェスティバル 1 (プチフラワーコミックス)感想
1989年4月刊。今見ても、記憶していた以上にしっかりバレエが描けてるなあ。さすが。でも、ストーリーは全然は覚えていなかったです。
読了日:06月28日 著者:萩尾 望都



栗本薫・中島梓傑作電子全集13 [ハード・ボイルド]栗本薫・中島梓傑作電子全集13 [ハード・ボイルド]感想
【毒を喰らわば皿まで】企画  収録の『黄昏のローレライ』を軽くなぞるために入手。うん、この辺りなら、まだ俊一がちゃんと男だね。それとラストの怪我もほどほどの線で収まっているね。
読了日:06月25日 著者:栗本薫,中島梓



SUMMERTIME <矢代俊一シリーズ13>SUMMERTIME <矢代俊一シリーズ13>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画 検証:『トゥオネラの白鳥』の展開には合理性があるのか!? 栗本薫の自キャラやおい同人誌。俊一が写真家渥美に強姦される(四度目)。ショックで正気を失って街を徘徊していた俊一を、たまたま飲んでた風間と透が保護。透の自宅に避難させて透が俊一を介抱する。俊一はショックで一時幼児に退行。俊一から事情を聞き出しながら、透の方も最愛の人に先立たれてしまった寂しさ・虚しさを吐露。なんとなく特別な関係に。ちなみに時点は島津の死後3〜4ヶ月後・・・・ってことになってるが、本人自作の年譜によれば島津の死後2年目くらいでないとおかしい。だがしかし、この時点で良が出所していないのもおかしい。これに限らず、栗本薫のダメなところは、こういう数年単位の矛盾を放置するところなんだよなあ。てか、このバカは自分で年譜を作成しておきながら、なぜそれに合わせて書けないんだ?!
読了日:06月25日 著者:栗本薫

SOUL EYES <矢代俊一シリーズ14>SOUL EYES <矢代俊一シリーズ14>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画  栗本薫の自キャラやおい同人誌。読む目的はただ一つ。『トゥオネラの白鳥』までの展開には合理性があるのか検証する。まあ、読メにレビューするほどの価値はないとおもうので、気が向いたらブログの方で・・・・・トピックスは、レイプで傷ついてPTSDが再発し、A-SEXが不能となった俊一が、透の自宅を訪れ、元高級男娼のテクを駆使したSEXカウンセリングを施してもらう。少なくとも、透のSEXシーンの描写は美しいと思う。これが結局、栗本薫の本領なんだろうなあ、と遠い目になる。
読了日:06月25日 著者:栗本薫

栗本薫・中島梓傑作電子全集28 [JUNE II]栗本薫・中島梓傑作電子全集28 [JUNE II]感想
収録の『トゥオネラの白鳥』(栗本薫サンの遺作、かな。)のレビューです。キャバレー以降の矢代俊一の変容(美形化+BLネコ化+幼児化)を追いかける気にどーしてもなれず、こっちの支線は放置でよいか、と考えていたのだが、なんと栗本薫最後の作品(未完)で森田透が矢代の愛人に収まっている、という衝撃の事実に接し、私のなかの東京サーガの世界観が空爆後の瓦礫の街のように崩壊を見た。いま私は、煙と砂埃がくすぶるかつて「東京」であった世界の中で、この嘆きをどこに向けるべきか、考えているところ。
読了日:06月24日 著者:栗本薫,中島梓

栗本薫・中島梓傑作電子全集28 [JUNE II]栗本薫・中島梓傑作電子全集28 [JUNE II]感想
『東京サーガ』の『嘘は罪』と未発表作品が掲載されている、ということで入手。収録内容『流星のサドル』『ムーン・リヴァー』『嘘は罪』『タンゴ・ロマンティック』『セルロイド・ヒーロー』シリーズ、エッセイ『話題の人いんたびゅう』(矢代俊一)、『特別座談会 そこが知りたい!あの人は今!』未発表作品『リラのワルツ』(野々村の純情)『トゥオネラの白鳥』(矢代俊一)その他。まあお買い得である。『流星』は読み友さんのレビューで読むのをためらう。既読の『ムーン・リヴァー』はKindleアンリミだったので損はなし。いちおう、最後の方まで目を通したところで、レビュー(?)ではなく、恨み節を綴っています。この本、というか栗本薫が最後に書いていたものを「読みたい」というスケベ心を発揮する前に、念の為こちらをご覧いただければ・・・・・と。→https://koko-yori-mybooks.blogspot.com/2022/06/035528june-kindle.html
読了日:06月22日 著者:栗本薫,中島梓

死はやさしく奪う (角川文庫 (6314))死はやさしく奪う (角川文庫 (6314))感想
やさしくも渋い男のハードボイルド・ミステリー。もっとジャズかと思ったけど、そうでもない。自分のバンドがあって、仲間がいて、音楽があって、聴いてくれる客がいる。それでも譲れなかったのは15年分の純愛?あいつは悪い女だった、と捨て置けなかったものか。カネさんを案ずる刑事の西村、カネさんをボスと慕う集団就職で田舎から出てきて都会の夜に暮らすトシ、縁ができた頭の弱い娘。人の情に触れながら、それでも癒やされない、赦せないものがある。ハードボイルドとしか形容のしようのない寂寥感が堪らんカンジのわりと良い小説だった。
読了日:06月19日 著者:栗本 薫

気まぐれなジャガー【単行本版】(4)【ペーパー付】【電子限定ペーパー付】 (arca comics)気まぐれなジャガー【単行本版】(4)【ペーパー付】【電子限定ペーパー付】 (arca comics)感想
宗純がついに戻ってくる。耳は完治したのか、それとも折り合いを付けたのかは分からないけど、PEGの再始動。伝説の再開は、あのライブハウスから。宗純を愛するメンバーからの贈り物は、宗純が決してないと諦めていたアラタとのギターセッション。プレイヤーを諦めたアラタも、宗純みたいな天才ではないにしても努力と実力のギタリストだったんだよね〜。なんとも幸せな終わり方で心が和むぜ。まあ、BLなんでBLだけど、それはそれとして、いいお話だ〜♪ ホント、本から音が出ればいいのに。
読了日:06月19日 著者:ウノハナ

気まぐれなジャガー【単行本版】(3)【ペーパー付】【電子限定ペーパー付】 (arca comics)気まぐれなジャガー【単行本版】(3)【ペーパー付】【電子限定ペーパー付】 (arca comics)感想
ついにバンド“PEG”結成。伝説を更新しつつ疾走して3年。宗純が突発性難聴を発症。バンドは休止状態に。
読了日:06月19日 著者:ウノハナ



気まぐれなジャガー【単行本版】(2)【ペーパー付】【電子限定描き下ろしマンガ2P付】 (arca comics)気まぐれなジャガー【単行本版】(2)【ペーパー付】【電子限定描き下ろしマンガ2P付】 (arca comics)感想
好きと仕事はかならずしも一緒にはならない。好きなことと一生、一緒にいるために、あえて選ばないこともある。世の中の、天才じゃなく、運にも恵まれなかった大半の人が通る道を、アラタも選択する。ずっと音楽と(宗純と)一緒にいるために、プレイヤーではなく、音楽ライターとして生きる道を選択するアラタ。その選択はまちがいではなく、後悔もないけれど、やっぱり苦い。
読了日:06月19日 著者:ウノハナ

気まぐれなジャガー【単行本版】(1)【ペーパー付】 (arca comics)気まぐれなジャガー【単行本版】(1)【ペーパー付】 (arca comics)感想
萩尾望都『完全犯罪』と、栗本薫『朝日のあたる家』からの流れでロックと天才がでてくる作品に心惹かれて、Kindleアンリミです。主人公の宗純は天才ギタリスト。ロック+BL純愛+成長。イヤなヤツが一人も出てこない。ちょっとほろ苦の風味もある、素敵なお話だった。私はロックはそんなに聴いてないから、読んでも音が想像できない。ああ、紙面から音が聞こえればいいのに。
読了日:06月19日 著者:ウノハナ

完全犯罪―フェアリー (PFコミックス)完全犯罪―フェアリー (PFコミックス)感想
甲斐よしひろとミュージカル、それにミステリー三兎を追って三匹仕留めた傑作ですね。1988年11月初版。書店で見かけていつか読もうと思っていたのに忘れていたのを、読み友さんのレビューで思い出す。BGMは甲斐バンドのGreatest Hits Live/ THE BATTLE OF NHK HALLB。


読了日:06月18日 著者:萩尾 望都
ローマへの道 (プチフラワーコミックス)ローマへの道 (プチフラワーコミックス)感想
初版1990年11月。たぶんその頃に入手して、読んでる。もう一度よみたくなって再入手しました。ちょっと辛い話だと記憶していたので、なんとなく敬遠していたけど、いい話だなぁと思う。


読了日:06月18日 著者:萩尾 望都
感謝知らずの男 (プチフラワーコミックス)感謝知らずの男 (プチフラワーコミックス)感想
1992年8月初版。レヴィは好きだ。レヴィのお兄さんの存在はすっかり忘れていたけど。




読了日:06月18日 著者:萩尾 望都
栗本薫・中島梓傑作電子全集7 [朝日のあたる家]栗本薫・中島梓傑作電子全集7 [朝日のあたる家]感想
紙本と同時進行でこちらも読む。どちらを何回よんだのかは、良く分からなくなってしまった。少なくとも終章は10回以上読んでるけど。やはりどうしても気になるのが、4巻で敷いたせっかく面白くなりそうな伏線(雪子&政界汚職)と月刊ファクトの記者がほったらかしの件をどうするのさ。あと、島津さんを友達呼ばわりするのは、さすがにどうかと思うよね。お前だけ、もう誰とも寝ない、って嘘つき〜!どこにでもタクシーででかけちゃう透が、なぜ新幹線で東京駅に乗り付けようと考えたのか。せめて、新横浜で降りて、車で警察へ行けばねえ。
読了日:06月17日 著者:栗本薫,中島梓

朝日のあたる家〈5〉 (角川ルビー文庫)朝日のあたる家〈5〉 (角川ルビー文庫)感想
良はかわいい。透も良も愛おしい。ダメなのはあんただ、栗本センセイ。アンタの頭の中からまろび出て、一人歩きを始めた人格達をきちんと表現してやらなかったのはアンタだ。『朝日』も『ムーンリヴァー』も良い作品だ。だけどこの5巻とムーンリヴァーを続けて読んだら、透ちゃんはただの言行不一致の口だけの行き当たりばったり野郎になってしまうではないか。あんまりだ。責任取ってほしいよ。こりゃあ往年のファンが怒る筈だ💢と納得の逸品。それでも終章の美しさと言ったら、私、10回は読んだからね💢どうしたらよいのコレ
読了日:06月15日 著者:栗本 薫

栗本薫・中島梓傑作電子全集2 [真夜中の天使]栗本薫・中島梓傑作電子全集2 [真夜中の天使]感想
『The END of the World』を読むためだけのために、Kindle購読。『翼あるもの』本編でも『朝日のあたる家』でも描かれることのなかった、巽が死んだ日の透と島津の間の出来事。相変わらず不思議な時空の乱れ。『翼あるもの』透25歳。ドラマ2クール26回(実質6ヶ月)。最終回撮影時(巽死亡時)、透27歳。なぜだ。島津のサドでゲスな振る舞いが酷い。あれで、貴族的だの高貴な魂だの言われてもなあ。唯々諾々と服従している透の心理もちょい謎。ここからどう立ち直ると、立派なジゴロになるのだろう。。。不思議。
読了日:06月11日 著者:栗本薫,中島梓

朝日のあたる家〈4〉 (角川ルビー文庫)朝日のあたる家〈4〉 (角川ルビー文庫)感想
ついに風間が良の首を絞め、怪我をした良は入院、透は記者会見に臨む。良と風間の痴情疑惑を払拭すべく透はごく冷静に対処するのだが、自身の性遍歴を記者にあげつらわれる。一方の良は、ついにプロダクションの連中に「透が好き」と公言し、透にはお人形状態を脱して自分の意志で生きたい、と訴える。もともとお姫様体質なので、こうと決めたら頑固極まりない良に押されるまま、透は良を病院から連れ出して、ついに駆け落ちと相成り候。会見はもう少し野々村を上手に使っていれば、と残念。もはや雪子どころではない。島さんどうするのよ。コレ。
読了日:06月09日 著者:栗本 薫

翼あるもの (下) (文春文庫 (290‐5))翼あるもの (下) (文春文庫 (290‐5))感想
朝日のあたる家(3)と(4)の間に再読です。朝日のあたる家、5巻一気読みはかなり、こたえる。といって、こちらだって、かなり来るモノがあるんだけどね。透がなんだかんだと島津に怯えながらも、けっこうきちんと、島津の本質を見抜いたりしているところが、聡いなあ、と思う。
読了日:06月08日 著者:栗本 薫

朝日のあたる家〈3〉 (角川ルビー文庫)朝日のあたる家〈3〉 (角川ルビー文庫)感想
風間が自傷で入院しなかなか退院できない間に、透は良のナイト役を引き受ける。良は透への思いを語り、透はそれに驚きつつ幸福を感じ、自分のこともまた良に語り。ついにやって来た相思相愛の時ですがな。しかし透ちゃんも破滅型なので、これが滅びの前のつかのまの幸せに思えて仕方ない。そして事実、風間は絶望と嫉妬と怒りに苦しみ、雪子は家出して透にまとわりつき、アリサは恨みを含み、良の体は弱り、正体不明の無言電話は来るようになるし、不安と緊張は高まり・・・そして透は思うのだ。自分には島津さんという後衛がいる。(!)イヤ待て?
読了日:06月04日 著者:栗本 薫

コイシラズ YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS (花丸コミックス・プレミアム)コイシラズ YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS (花丸コミックス・プレミアム)感想
読み友さんに釣られてAmazonアンリミ。人物の構図崩れが痛い。もっとデッサン勉強すればいいのに。しかしサックスの金属光沢感じさせる絵は良いな。やおいってかBLってか、まあ、男が男にヤられるだけっすね。それがメインで、細かい設定は、そのお膳立て以外ではない。なんか、俊一が良よりおバカっぽくてツラいっす。あのキャバレーの主人公がこうなっちゃうのかあ。と遠い目です。
読了日:06月03日 著者:定広美香

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