2023年5月19日金曜日

0424 スティグマータ (新潮文庫)

書 名 「スティグマータ」
著 者 近藤 史恵        
出 版 新潮社 単行本 2016年6月/文庫 2019年1月  
文 庫 402ページ
初 読 2023年5月19日
ISBN-10 4101312656
ISBN-13 978-4101312651
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/113841586

 ヨーロッパで日本人の先陣を切って走っているチカもすでに5年。30歳になり、すでにベテランの域に達している。ツールで総合優勝を飾ったこともあるミッコのアシストとして知っている人も多い。日本での相棒である伊庭も今年からヨーロッパのチームに移籍し、ツール・ド・フランスでのステージ優勝を虎視眈々と狙う。チカは新しいオランジェフランセというチームに加わり、ニコラのアシストを務める。
 少々陰鬱なところもある思索に耽りがちなチカの語りに付き合って、うっかりするとこちらも鬱々としてきそうだ。これ、体調が悪いときに読んだら本当に鬱るかも。それでもなお、走り続けるレーサーであり、スポーツである。自転車レース鑑賞の経験が乏しい私はつい、何回も観た『茄子ースーツケースの渡り鳥』と比較してしまうのだが、まあほぼ、テーマは同じなのかな、と思う。
 人生に起こりえた様々な出来事や幸福や安楽を辛く厳しいロードレースに捧げ、そのことに苦しみながらも、なお、走ることを止められない因果な選手達の物語だ。
 そんなせいで、このストーリーの核心にいるチーム・ラゾワルのメネンコが私の脳内で『茄子』に登場するチーム・ゴルチンコのザンコーニの絵になってしまうのも仕方がない。幸いにして、チカがぺぺの絵になることはない。絶対にない。
 
 前作を読んだ時にも書いたが、チカの闘い方は、日本人的だ、と思う。参謀に重きをなす。大将を支え続けるナンバー2。大石内蔵助、弁慶、土方歳三、オーベ・・・(違うか?ここはキルヒアイスか?)、主君に殉ずることを美徳と捉えることのできる日本人は、アシスト向きかもしれない。そのチカは、冷静な観察眼と、培った経験と人脈でレースの行方を自分なりに見切り、ニコラを支える。チカの価値に気づけないなら監督失格だろう、チカが来年の契約を獲得できて良かった。ついでにニコラがまた、相変わらず可愛い。
 チカが、3週間続くツール・ド・フランスを全力で駆け抜けながら、私も一緒にツールに連れて行ってくれる。僥倖である。

 大変余談であるが、職場にいく道中の坂道で、同じ職場の方と「この坂道がね〜」という話になり、ついうっかり、「この坂道を超えれば後は平坦だから!」と口走った私であった。

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