2022年10月30日日曜日

0401 私が愛したサムライの娘 (時代小説文庫)

書 名 「私が愛したサムライの娘」
著 者 鳴神 響一        
出 版 角川春樹事務所 2016年1月
文 庫 295ページ
初 読 2022年10月29日
ISBN-10 4758439761
ISBN-13 978-4758439763
読書メーター    
 SISシリーズの3作目で、小説家デビューを目指す人達が描かれていたので、作家のデビュー作というものに興味を引かれた。柴田よしき氏の『RIKO』もデビュー作にして、あの強烈さ。この鳴神氏の作のデビュー作もなかなかに凄い。新人賞の選考を突き抜けてデビューするにはこんなに書けないとダメなのか。なんとも凄い世界だ。
 小説愛好者として多くの人がそうであるように、私も中学生の頃から、何度か小説を書こうとしたことがあるけれど、プロの作家になれるとは思えなかった。何かが、何よりも気概が違う。小説家に限らず、プロを志し、真剣に努力する人は凄いな、と純粋に尊敬する。
 
 で、さて、鳴神響一氏のデビュー作である。
 これが、なかなかすごい。

 舞台は、江戸、名古屋、そして長崎出島。鎖国の時代、江戸幕府の将軍吉宗と対立した尾張藩主徳川宗春とその配下の甲賀武士。対日貿易を独占していたオランダと、大国スペインの海外領土と極東貿易を巡る野心。そこに、よるべを持たないスペインとオランダの(新教と旧教の)混血の士官ラファエルと、その血筋と師・左内ゆえに、忍びとしての過酷な境遇を甘受する忍びの雪野の恋。映画「マスター・アンド・コマンダー」ばりの(っていうか、ホーンブロアとか、ボライソーとか、ジャック・オーブリーの)海洋冒険小説のエッセンスまでちょこっと混ぜ込んで、時代小説ながら、当時の出島の風物や海外情勢なども紐解きつつ、の、スケールの大きな舞台を設定。日本人が(っていうか私が、か?)苦手にしてる、日本史と世界史の教科書の狭間を忍びの矜持と純愛で描くのだ。
 なにしろ日本人なら誰でも知ってそうな8代将軍吉宗(暴れん坊将軍&大岡越前)の治世に焦点を当て、しかも尾張宗春をその時代にいた先進的な視点を持った名君として描いたのも、その宗春の闘いが「負け戦さ」なのも渋いことこの上ない。これでデビュー作!凄いじゃないか。スケールの大きさの割には、そしてその濃密な筆致な割には淡白な印象もあるのは登場人物の造形の掘り下げがわりとあっさりめだから、そして負けた側の引き際が潔すぎるからかな。とはいえ、宗春の人柄の描き方がとても好ましいし、左内は文句なく格好良くて慕わしい。雪野の必死さもよかった。

2022年10月22日土曜日

0400 SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎II 聖域 (ハルキ文庫 な 13-8)

書 名 「SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎Ⅱ  聖域」
著 者 鳴神 響一
出 版 角川春樹事務所 2021年11月
単 庫 400ページ
初 読 2022年10月18日
ISBN-10 4758444455
ISBN-13 978-4758444453
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/109727555

 すっかり地元の子ども達にも信頼される“おまわりさん”になった、ハルトラマンこと武田晴虎。もとSIS(捜一特殊捜査係)の強面をやわらかくすべく、日々奮闘中です。

 今作は、丹沢湖周辺の集落に現れる「落ち武者の亡霊」。無事に解決にこぎ着けたはずなのに、今度は白い着物姿の幽霊が目撃される騒ぎに。SNSに投稿された体験談で、騒ぎを嫌らって旅館の宿泊のキャンセルがでるわ、オカルト好きの野次馬は集まるわ、晴虎の地元の信頼は揺らぐわ、で、晴虎もじっとしてはいられない。
 そうこうするうちに今度は水死体が発見されるし、白骨死体はでてくるし。
 静かな山の温泉で、これまで大した騒ぎも無かったのに、この駐在さんが赴任したとたんに立て続く騒ぎでは、かえって晴虎が「縁起の悪い男」と悪評が立ってしまうのではないか、と心配でならない(笑)
 幽霊さわぎから始まって、北条の埋蔵金、脱税絡み、映画のロケ・・・・と惜しげも無くいろいろなネタが絡み、晴虎のニューナンブも活躍。この駐在さん、よく銃を抜く。きっと事後報告書を書くのが大変だろうなあ。前作でおなじみの血圧の宇佐美管理官、江馬さんも登場するのは、本も後半に差し掛かってから。ここからは一気に巻きに入ってラストまで一気読みです。犯人逮捕の後も、犯人に、取り調べで嘘をつくな。供述が食い違うと不利になる、と懇切丁寧にアドバイスする晴虎が好きだ。
 著者の鳴神響一氏は、法学部出身で神奈川県の学校事務経験ありとのこと、公務員のお仕事と法律を良くご存じなんだろうな、と読んでいて思う。全編にわたる、多少は事情を知っている人間も裏切らないマニアックな描写が堪らん。前月は超勤ゼロだったから、超勤はつけずに休日振り替えで、とか、すこし前まで服務管理なんかもしていたわが身に染みわたるぜ。きっと地域課には超勤予算がほとんど振られていないんだろうなあ。Ⅲには年末調整の話なんかが出てきたけど、あのセリフはやったことがないと絶対出てこないと思う。学校事務で給与担当やったことあるんだろうな、と拝察する。職員数が多い職場だと大変ですよね。給与振り込みでなく、現金支給だった時代には、もっと大変だったはず。
 鳴神響一氏には「神は細部に宿る」という格言を捧げたいと思います。
 
 追伸 横浜ベイシェラトンのオールデイビュッフェ「コンパス」のスペインフェアに行きたい! → https://yokohama-bay-sheraton.jp/restaurants/compass/

2022年10月19日水曜日

ブログの改修など


オーバーグルーミングで腹がハゲてる
凶暴猫のアビシニアン・人の背中に
飛びかかるのが好き


 統計情報を確認したところ、思いのほかiPhoneで閲覧されている方が多いようなので、これまで、モバイル端末用の表示設定をしていなかったのだが、一念発起?して、改修に取りかかる。
 しかし、設定の仕方をググりつつ、やってみたらば、いまひとつ、キレイに画面に納まっていない。配置が落ち着くまで、ちょっと手間をかけないといけないみたいだ。

0399 SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎III 創生 (ハルキ文庫 な 13-9)

書 名 「SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎III 創生」
著 者 鳴神 響一
出 版 角川春樹事務所 2022年5月
文 庫 212ページ
初 読 2022年10月18日
ISBN-10 4758444862
ISBN-13 978-4758444866
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/109666310  

元横浜市民、というか実は旭区民だったりして、以下のセリフにびっくりする(笑)

 「おまえどこに住んでるんだっけ?」
 「旭区の二俣川です」
 「ああ、運転試験場のあるところか」


 超ローカル(笑)。だけど、たしかに神奈川県運転免許試験場があるところだから、県民はかなりの確率で地名くらいは聴いたことがあるのかも。
 私は、細かい道の一本一本覚えてる。子どものころ、11年くらい生活したからね。
 思わず同じ職場の鶴ヶ峰出身者に「みてみて〜このページ!」とやってしまいました。あまりにもローカルだ!すっげーテンション上がったぁ!(ちなみに鶴ヶ峰は二俣川の隣町。)
 先日のNHK大河ドラマ「鎌倉殿・・・」にも二俣川が出てきたらしくて、同僚は大喜びしてましたが。
 作品冒頭には、横浜山手の港の見える丘公園にある、「昭和2年に建てられた英国式洋館をそのまま使ったレトロカフェ」が出てくる。作品中の店の名前は「くすの木てい」
 モデルはこちらですね。
「えの木てい」HP → https://www.enokitei.co.jp/about/


 厳ついおっさん2人がぱくついた、乙女なアフタヌーンティー(推定)のご案内はこちら。HPから勝手にキャプチャしてきちゃったけど、怒られないよね?


 神奈川県警捜査一課特命係長である諏訪警部が、アフタヌーンティーの後にオーダーすると宣言していたチェリーサンドなる菓子はこちら。
 今度横浜に行ったときには、絶対に買ってくる。


 個人的には山手十番館が好き♪ (数えるくらいしか行ったことないけど。)こちらの写真も、HPからキャプチャして拝借してきました。 

山手十番館 公式HPはこちら → https://yokohama-yamate-jyubankan.zetton.co.jp/


先日、横須賀・横浜に遊びに行ったときに撮ってきた山手十番館の写真を・・・と思ったのだけど、馬車道十番館のいちごショートケーキの写真しかなかった。(^^ゞ
 ぜひ、横浜に遊びに行ったときには、訪れてほしい。生クリームが絶品です。(このイチゴショートの生クリームよりも美味しいクリームには今のところ出会っていない、と断言できる。)あと、個人的にはこの十番館のサバランも絶対オススメです。

 しかし、武田と諏訪という無骨なおっさん2人とのミスマッチをとことん狙うなら、やっぱり「えの木てい」の圧勝ですね。お店がリカちゃんハウスかシルバニア・ファミリーみたいで可愛いすぎる♪

 いやそれにしても、ローカルネタでここまで燃える(萌える?)小説に出会えるとは思っていなかったです。
 ストーリー放置で多いに楽しんでしまいました。

*     *     *

 で、今度横浜に行ったら絶対に買ってくる。
 と書いたのは昨夜のことだったのですが、そういえば私、今日横浜に行くんだったわ。と気付いたのは、自宅から横浜の実家に向かう電車の中で。
 副都心線からみなとみらい線直通の電車にのって、あれ、終点そういや元町・中華街だよ。コレ乗ってけば、えの木てい、行けるじゃん?

 そんなわけで、実家からの帰りに元町まで寄ってきました。完全に自宅とは逆方向なんだけど、ちょうど、ラッシュアワーに差し掛かる時間だし、始発まで戻って、座っていくのはある意味合理的・・・・・
 残念ながら、「えの木てい本店」の営業時間は夕方17:00までのため、あの可愛いお店には行けませんでしたが、元町にある「えの木ていスウィーツスタンド」の方に行ってきました。スコーンは、アフタヌーンティーのスタンドの上段に乗っていたのと同じものですね♥️
 謹んで、神奈川県警捜査一課特命係長・諏訪勝行警部に成り代わりまして、食させていただきました。ウマ—♪でございました。

 ウワサのチェリーサンドは、今夜のお夜食に。
 (追伸:チェリーサンドのチョコレート味が、非常に美味でした!)
*     *     *
 さて。
 ここまで本筋そっちのけで、諏訪警部の誘うまま(?)スウィーツ談義にうつつを抜かしてましたが、さすがにこのままではイカン。

 今作、お話のほうもとてもテンポが良く、面白かったです。小説家教室のくだりは、さすがの本職でリアル感マシマシ。冬山、そして台風の山のくだりも、臨場感たっぷり。個人的に職業観の上でぐっとくるところもあって、ただ、そこに突っ込んでくとちょっとアレなんで省略。江馬さんがコロンボ刑事のマネをするあたりは、芸が細かい。
 そして、ラストの引きがね。もう、次巻が楽しみでしょうがないです。

 「オリジナリティあふれる年末調整ってないよね。」もおもわず失笑。
 たしかに、ない。うん。でもある方に長年の控除もれを発見して、すごい額の税金を還付した時はちょっとスリリングだったよ。

2022年10月16日日曜日

0398 SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎 (ハルキ文庫 な 13-7)

書 名 「SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎」
著 者 鳴神 響一       
出 版 角川春樹事務所 2021年5月
文 庫 288ページ
初 読 2022年10月16日
ISBN-10 4758444080
ISBN-13 978-4758444088
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/109628827  
 
 元神奈川県警のSIS(Special Investigation Squad)———捜査一課特殊捜査第一係の班長であった武田晴虎は、4月の人事異動で希望通り、丹沢湖岸にある駐在所勤務の辞令を受けた。
 すこし前、武田が指揮をとった人質立てこもり事件で部下が重傷を負い、指揮官としてその責任は問われなかったものの、部下を指揮して危険に晒すことに自分はこれ以上耐えられないと感じたからだった。
 第二の警察官人生を、地域の住民の安全な生活のために捧げようと、なんのてらいもなく、単身住み込みの駐在所での勤務に臨んだのだったが。

 赴任して3ヶ月。
 大事件など起こるはずもない、平和な山奥の温泉で、突然誘拐事件が発生する。

 地元警察地域課の駐在員(おまわりさん)ながら、持てる経験と知識で人質救助の役に立ちたいと思う武田だが、捜査陣から見れば、しがない駐在員でしかない。前線本部が立ち上がり、指揮には管理官(警視)が派遣されてきた。そこに、かつて自分が指揮をとったSISの小隊も実働部隊として派遣されてくる。晴虎にできるのは、本部設営の手伝いにお茶出しくらいだが、捜査を進め、かわいい元部下たちの役に立つため、地元の状況を把握するものとして、煙たがられても必要な意見具申は行う。しかし元部下たちは自分を慕ってくれてはいるが、自分はどうみても捜査に協力を求められていない。
 まあ、そんな感じで、結局、命令無視して1人で活躍しちゃう、っていうアレだけど。元部下がみんなついて来ちゃうのもお約束なんだけどさ。そういう予定調和っぽいのも、安心して楽しめるので悪くない。

 犯人の動機が怨恨で、元自衛官で、習志野の空挺の、だから特殊部隊で・・・・って始まったときには、『ゴルゴタ』を最近読んだせいもあるが、(またこれかよ・・・)と内心思ったのは事実だが、まあ、それもそれで良い。米国ならどの部隊もよりどりみどりだけど、日本でこの役どころは習志野の空挺しかないもんね。ただ、犯人が動機を語りだしたあたりから漂う小芝居感・・・っつか、学芸会っぽい感じになってきた。

 そうはいっても、武田のキャラはなかなかよい。第一線を退いた男の感慨や、それでも現役で頑張りたい気概が、わりあいドライに描かれていて、ちょっと枯れかけてきてはいるものの、まだまだ活きのいい中年男が良い塩梅なのだ。かなり好みだし、(元)部下たちとの掛け合いも気持ちよい。一巻目は人物紹介と心得て、二巻目に期待しよう。


 最初の事件が横浜市瀬谷区で発生とか、丹沢湖・美保ダムとか、林道抜けると津久井郡とか、元・横浜市民にはとても懐かしさ溢れる舞台設定もよろしかったです。
 (そういえば、小学校の社会科見学で美保ダムと丹沢湖に行ったわ。うん。)
 ああ〜〜〜。なんだか丹沢に住みたくなった。おもわず丹沢移住情報サイトにアクセスしてしまった。温泉行きたいな♪

2022年10月14日金曜日

0397 どこまでも食いついて (創元推理文庫)

書 名 「どこまでも食いついて」
原 題 「Gator Bait」2014年
著 者 ジャナ・デリオン 
翻訳者 島村 浩子
出 版 東京創元社 2022年10月
文 庫 352ページ
初 読 2022年10月15日
ISBN-10 448819608X
ISBN-13 978-4488196080
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/109585940

 前作「ハートに火をつけないで」の表紙サイコーと思ってたんだですが、今作の表紙も良いですね。スワンプチーム3最高!
 今回もシンフル時間を楽しむ。本一冊で二日間くらい?しかも、前回ラストの翌朝からスタートだ。そう考えると、フォーチュンがシンフルに来てから1ヶ月が経過しているのがむしろ奇跡のよう。

 しかも今作は、ついに!やっと!ラブラブになったカーターの危機、ときた。

 恋するフォーチュンがなかなかの男前です。カーターのベッドサイドでしっぽりするシーンが度々差し込まれるせいか、ドタバタは全体的には大人しめ・・・・かな。
 バイユーに沈んだカーターの(保安官事務所の)ボートの隣に沈んでいた、もう一つのボート。カーターは一体デートの最中になにを見たのか、そして何に気付いたのか。
 脳震盪の後遺症で肝心かなめの記憶が思い出せず、それなのにカーターにさらなる危機が迫ってくる。愛する男に手をだされて、黙っているフォーチュンではない。・・・ないのだが。
 フォーチュンとアイダ・ベルだけならそこそこのハードボイルドも決まりそうなんだけど、そこをドタバタと引っかき回すガーティおばあちゃんの存在感!それでも今回はフォーチュンがけっこう決まってました。

 前作で登場したビッグとリトルのマフィア兄弟も再登場。なかなかよいキャラです。
 
 フォーチュンの身分偽装を守るためには、皆殺しにしてしまうのが一番都合が良いんだけど、それって武器商人の理論と同じで笑。関係者3人もどさくさに紛れて殺されてしまって、ちょっとライカー捜査官が気の毒な気分になりました。

 それにしても、どうしても気になるんだけど、フォーチュンのエクステンションって、カーターが頭頂部にキスするくらい接近しても、バレないものなの? 
 

2022年10月9日日曜日

0396 ア・ソング・フォー・ユー (講談社文庫)

書 名 「ア・ソング・フォー・ユー」 
著 者 柴田 よしき
出 版 講談社 2014年12月
   (単行本初版 2007年9月)
文 庫 560ページ
初 読 2022年10月7日
ISBN-10 4062767503
ISBN-13 978-4062767507

 園長探偵ハナちゃんシリーズ、第4弾。
 短編集かと思いきや、2からは短編連作っぽい作りになってる。
 赤ん坊はなぜ、そこに捨てられたのか。
 捨てたのは誰なのか。
 「子供はみんな幸せであるべきだ。子供たちを幸せにすることができないのなら、俺たち大人なんて、生きてる価値なんかない。」その通りだね。ハナちゃん。そして子ども時代が幸せなら、大抵の大人は大人になってからも幸せになれるはず。・・・なんて書いてから、練のことを思い出して「そうでもないか・・・」と思ってしまったよ。
 悲しい・・・・・

1. ブルーライトヨコハマ
 ハリウッドセレブとなった日本人女性からの、奇妙な依頼。呪いの藁人形の持ち主だった当時の少年の捜索。
 しかし依頼は依頼。一枚の古い写真から、当時高校生だった男子学生の学校を割り出し、卒業アルバムから本人を特定し、昔の住まいを訪ね、地道に情報を集める探偵ハナちゃん。今回は危険もなく、ぽっと胸が温かくなるラストも良い。

2.アカシアの雨
 アカシアの雨からは短編連作。ハナちゃんの保育園があるビルと、その隣のビルのわずか20センチくらいの隙間に捨てられた生後間もない赤ん坊。
 そして、城島のもの凄く美人な姪っ子から舞い込んだ意外性のある依頼・オカメインコの捜索。
 赤ん坊は無事保護されたが、ハナちゃんは赤ん坊を捨てたのが誰か、気になってしかたない。赤ん坊を捨てたのは子どもだったらしい。もし、その子が赤ん坊の母だったら?その子は、今どうしているのだろう?
 おまけにハナちゃんは美人のオカメインコの飼い主の言動にただならぬものを感じてしまう。オカメインコの居所は掴んだが、はたして、その美人の飼い主を救うことはできるのか?

3.プレイバックPART3
 新宿の靴磨きカンちゃんの災難。 赤ん坊を捨てた人物はいまだ判らず。ゲームセンターの女の子は誰? 
 カンちゃんのパートナーの巨体のミヤさんがとても素敵。まさかの偶然で、カンちゃんに怪我させた女の子と、子連れの売春婦と、捨て子の赤ん坊がつながって。 
  あまりにも理不尽な世の中に、ハナちゃんは涙する。

4.骨まで愛して
 ここに至って新たな依頼が2件も! 一件は恋人から、「お骨を探してほしい」との奇妙な依頼。もう一件はなんとカネゴンこと美形の女顔の広域指定暴力団の若頭から。渋谷で練に捕獲されて、連れて行かれたのは大久保の老舗の組事務所。そこにいた組長の正体にハナちゃんは驚愕。
 赤ちゃん—赤ちゃんを捨てた少年—赤ちゃんを産んだ女・・・・とただただ金にもならぬ人助けをしただけなのに、結局練に理不尽に絡まれて、やらされた仕事は、後腐れ無く使える鉄砲玉のスカウトとは。
 ハナちゃんの無念が忍ばれる。

5.エピローグ
 そして麻生登場。
 マックでマヨネーズ垂らしながらバーガー喰ってただけだけど。 
 なんとなくくたびれた中年男になっている龍太郎は、元々私のイメージ通りではあるのだが、直前に読んでいたRIKOシリーズでは足の長いハンサム男だったりするので、ちょっと自分の中のイメージにはブレが生じる。 
 ハナちゃんは捜査一課の元名刑事とは面識がないらしい。麻生の方はどうなのかな?かつて同僚を射殺して警察を去った、暴対の刑事の顔は知らないのだろうか。麻生が頑固な分、元刑事のハナちゃんが身代わりで練にもてあそばれて、割を食っているような気がしてならんのだけど。

   あと、練がハナちゃんより年上って、やっぱりハナちゃんの勘違いじゃあないのかな? 

2022年10月4日火曜日

0395 月神の浅き夢 (角川文庫)

書 名 「月神の浅き夢」
著 者 柴田 よしき         
出 版 角川書店 2000年5月
文 庫 645ページ
初 読 2022年10月4日
ISBN-10 4043428049
ISBN-13 978-4043428045
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/109413916

 いよいよ、『聖黒』を先に読んだことを後悔する。
 被害者 玉本栄、掛川エージェンシーってだけで、激しくネタバレ状態だ。まあ、そこはぐっと目をつぶって気付かないふりして読まなければ。って言ってるそばから、泉が、彼氏はコンピューターの天才なんだ、と。それって練以外にあり得ないじゃん? やっぱり脳内を一端初期化したい。まっさらな状態でリコシリーズから読み直したい。

 そうはいっても気を取り直して、あらすじのおさらいだ。リコは息子が3歳になり、やっと安藤警視と夫婦らしい生活を営んでいる。そしてついに、刑事を辞職して息子を育て、夫に守られる生活に入ってしまおうか、と心が傾いているよう。安藤とは、長野県松本のリコの両親・・・というよりはリコの父に、結婚の赦しをもらいに行こう、と夫婦で話あっているところ。 父にとっては、リコは職場で上司と不倫して、警視庁を追われた不名誉極まりない娘だったし、安藤は、既婚者でありながら部下の初心な娘に手をだして、おまけに未婚の母にまでした、憎い男だ。しかし、生まれてきた孫は可愛いし、安藤が身辺を整理して、リコと結婚の覚悟を決めたとあっては、和解する潮時だった。

 そんな矢先に、凄惨な連続殺人事件が発生する。犠牲者はすべて私服刑事。独身、美男子。
 手足と性器を切断されて、首を吊られた状態で発見された。犠牲者はすでに5人に及ぶ。
 特別捜査班が警視庁に設けられ、辰巳署のリコも、新宿署の坂上も、特捜班の助っ人に駆り出される。警視庁は、リコにとっては鬼門。今でも偏見に満ちた軽蔑の目で見る刑事たちが大勢いる。その中で、特捜班を指揮する高須は、ここで実力を見せつけろ、とリコに命じる。
 リコの捜査と、捜査の成果をこえる閃きで、事件は過去の警察の汚点であるある冤罪事件につながる。その事件の捜査には、リコの夫の安藤や、その部下だった高須も、そして麻生も関わっていて・・・。その事件の被害者の娘と、その娘につながるもう一人の娘の存在が連続殺人事件の焦点となっていくが・・・・・・

 つかみは上々。
 だがしかし。児童福祉に関する知識がちょっと寸足らずな印象を受ける。
 子供の保護を受け持つのは福祉事務所ではなく児童相談所だし、児童養護施設はたしかに児童福祉施設の一つではあるが、ここでいうならやっぱり「児童養護施設」だと思う。
 入所している子供の保護理由の多くが母親からの虐待で、もう一つ多いのが父親からの性的虐待である、とかもどうなの?
 むろん性虐ケースはそれなりにあるが、この二つが代表であるかのような書きっぷりはちょっと違うように思った。実際には身体的虐待や非行、養育困難の方が多くて、たぶん、性的虐待は件数的にはそれほど多くない。それは、実数が少ないからではなく、表面化しずらいため子どもの保護に到らないって理由もあるだろうと思う。作品の中で、子供の虐待について、登場人物にあんなに語らせず、曖昧にぼかしたままでも十分ストーリーは成立しただろうに、あえて詳しく語っちゃったせいで、かえってリアリティが薄れてしまったのが、残念に思えた。
 もし、新版とか改訂版とか出すチャンスがあったら、児童福祉制度に詳しい人にちょっと監修してもらえるといいんじゃないかな。

 捜査の謎解きは、せっかくきめ細やかに捜査を積み重ねているのに、肝心のところはリコのひらめきに頼り過ぎてるんじゃないかな。まあ、リコはそういう「捜査のカン」が優れた刑事ではあるんだけど、もっと理詰めでもいけそうなのに。泉の表情から、許されない命がけの恋をしているのだ!というくだりなんかは、思い込みが強すぎでないかい。

 話の流れからもっと、練の冤罪事件に切り込むのかと思いきや、そこはそれほどでもなかあた。練の事件への関わり方があまりにもさりげなく、しかもリコへの絡み方もモロ好みで、やっぱり練が主役じゃあないか、と。
 練が泉を住まわせるために調度を整えてやったマンションの描写にもなんだか胸がつまる。
 しかし、練がかなり淡々としているのに、麻生はひとり悶々として、あげくにリコに慰めてもらうって、どんだけ身勝手なんだ麻生!!
 それに、練は斎藤の出所を出迎えてやったのだ。練はやっぱり、麻生に出迎えてほしかったんだろうなあ、と斎藤が練に出迎えられて驚いたってくだりで思ったのですよ。
 今作では、練のいろんな顔を見ることが出来てその点でもとても満足。

 連の冤罪事件については、『海は灰色』を待つしかないようだ。いや、批判ばっかりしているように見えるかもしれんが、私はこの一連の作品群が大好きだ。あとは大切に取っておいてある、ハナちゃんシリーズが2冊のみ。続編の刊行を切望する。

 それにしてもラスト。練はリコにどのように語ったのだろう。


0394 聖母の深き淵 (角川文庫)

書 名 「聖母の深き淵」
著 者 柴田 よしき         
出 版 角川書店 1998年3月
文 庫 560ページ
初 読 2022年9月30日
ISBN-10 4043428022
ISBN-13 978-4043428021
読書メーター https://bookmeter.com/books/573930

 リコが主人公な話なのに、私にとっては山内である。
 それは、私が『聖なる黒夜』を先に読んでいたから。あとで落ち着いたて考えたら、この話、刊行順じゃないと駄目だったよね。この本先に読んでいたら、どれだけ、「な!なにがあったのよ〜〜〜〜〜!!!山内!麻生〜〜〜!!!」とジタバタすることができたことか。やっぱり本当はRIKOシリーズを先に読むのが正解。そのじたばたとドキドキを味わう為だけでも。
 『聖黒』を先に読んでしまった私には、ハナちゃんシリーズ読んでも、RIKOシリーズを読んでも、もはや、山内が主人公としか思えない。(笑)山内には、作品の中にも外にも、その魔性の魅力にとりこまれちまった人間が山ほどいるのだ(笑)。
 さて、その山内を愛している筆頭の麻生のセリフである。
 “彼女”はどんな人か、とリコに問われて麻生が惚気るわけだよ。

『そうだなぁ……天然の、柔らかいくせっ毛なんだ。日本人にしては茶色っぽいな。朝日がさしてその髪に当たると、瞬間だけど金色に見えることもある』
『うん。睫が長くて、泣き虫なもんだから、その睫の先に大きな涙の粒が載っかってることがたまにある。それが揺れると、ころんと落ちる。』

 『ちょっと怒ったりするとすぐに耳が朱くなる。』

『抱きしめてやると、山鳩みたいな声を出す』「山鳩?」と聞き返すリコに
『そう。ククゥ、ルルルルって聞いたこと、ない?あんな感じ。』
『あとは、そうだな、酒が強いな。酔い潰されたことが何度かあるよ。その人は酔うと少し下品になるんだ。扇情的になって、すぐに脱ぎたがる。あれは悪い癖だな……』

酔って下品になって、それからどうなるの?『天使になる』

 もはや、山内練は人間ではない。山鳩みたいに喉を鳴らせる人間がいるものか。練は天使なんだ。
 練を泣かせて、睫の上に乗っかる涙の粒を(おそらく超至近距離で、おそらくは腕の中の練を)観察してる麻生め! あんたさあ。麻生さんよ。その涙は、世田谷の取り調べ室ですか?それとも、韮崎が死んだ時ですかぁ?あんた、コロンと落っこちる涙に萌えてるばあいじゃないだろうがぁぁぁ!
 ああもう。麻生の腕の中で喉を鳴らす練ちゃん。天使になる練ちゃん。きいいいいいっ(逆上)
 世の中には麻生龍太郎ファンが数多いることは知っているが、私にとっちゃ、麻生は全小説世界を横断しても、ピカイチで腹が立つ野郎だよ。だが、いや、まて!

 本当は、ここでの読者の正しい態度は「なになに、それってどんな女なの?麻生さんが惚れた女はどこの誰なの〜〜?!」だ。まさかここで、相手が練だとは思うまい。そうなのだ。そして、麻生は背が高く、ハンサムで、有能な元刑事の私立探偵なのだ。私の脳内の麻生はどっちかってーと「刑事コロンボ」さんなんだけど、そうじゃない。どこから見ても二枚目なのが麻生の役どころ。
 ああ、いったん自分の頭の中を消去して、初めから読み直したい。

 さて、ここで登場する練は、韮崎という大物ヤクザが殺されたあと、春日組の次期組長を期待され、企業舎弟の社長から、異例の抜擢で春日組の若頭に就任した、極悪ヤクザだ。だが、リコに見せる隙や、なぜかリコに聴かせてしまう昔語りや、リコに反撃されて怖い目をみるとやけに素直になっちゃったりするところは、やっぱりどうしたって可愛い。

 いつ自分がぶっ壊れても構わないかのような向こう見ずで大胆な悪行で、日夜新宿界隈の裏表を泳ぐ練ではあるが、リコも無謀・向こう見ずではひけを取らない。そんなリコはどうも練に気に入られたらしく、思わぬ昔話も聞かされたりしてしまうのだ。
 練と田村の馴れ初めなんぞも、もう、私には、涙無しには読めませんでしたが。
 刑務所で初めて男に犯された夜、ボロい毛布を口に突っ込んで声を殺して震える練を、田村が一晩中抱きしめて、背中をなでていた。・・・・・そんな昔話を、タダできかせてもらってしまったリコ、この縁はもう、切っても切れないよ。

 リコ本人については、ちょっと形容しがたい。
 生まれてこのかた自分にすり込まれた社会的性差を全部とっぱらった、全き女(そんなものが存在するとして、だが)がどういうものなのか、どうにも考えてしまう。リコみたいに、皮膚が子宮の中まで全部つながって(いや、実際つながってはいるんだけど)感覚器になってしまってるみたいなキャラ、初めてだったしな。そんなに簡単に性暴力に晒されてしまっていいのか、リコの周りの男どもの気が知れないと思う一方で、なぜそれを「ごっくん」とできるのか、赦していないけど「ごっくん」と腹に収めた、というのがどういう精神状態なんだか、どういう納得の仕方なんだか・・・・・ちょっと、素直に自分の感覚に取り込めない。ものすごく、質感というか肉感があって、魅力的なキャラではあるんだけど、同僚のバンちゃんに「私のこと守ってね」って言っちゃう感覚もよくわからない。「男に守られたい」っていう気持ちと男に互したい、っていう気持ちはリコの中では対立しないのか? リコは矛盾や葛藤を抱えまくっているし、その混沌を混沌のままマグマのように自分の中に抱え持って、かつ、1人の人格として成立しているリコに言いようのない魅力を感じるんだけど、やっぱり納得仕切れないものもあるんだよね。

 いやあ、全然ストーリーの方は頭に入ってなくて恐縮なんだけど、読了後一日経ったら、すでにあれ、この話、何の事件だったっけ?ってくらい事件そのものの印象が薄い。それだけ、練もリコも強烈。ああ早く続編、『海は灰色』を読みたい。すでに角川の電子書店ではダウンロード出来なくなっているので、近いうちに、正式に出版されるものとおおいに期待している。

2022年10月1日土曜日

2022年9月の読書メーター

 残すところあと3か月。あっというまにあと3ヶ月。驚くしかない。
だけど、ついに今年は年間100冊という目標の壁を突破する見込みです。昨年12月末にアンドリュー・ヴァクスの訃報に触れ、アンドリュー・ヴァクス読書会を立ち上げていますが、開催期限の年末までに、のこりのヴァクスのハードカバー3冊を読むのだけは、外せない目標です。読書の秋の10月はグレイマン新刊、ワニ町新刊、『ウィリアム・ウォーウィックシリーズ』第三弾と、楽しみな新刊が多数。それに読みたいのにまだ読めてないシリーズも手元に多数。親の介護なんぞも始まって、どこまで時間が割けるかは不明なれど、移動時間を読書にあてて頑張りたいもの。

9月の読書メーター
読んだ本の数:13
読んだページ数:3801
ナイス数:1324

聖母の深き淵 (角川文庫)聖母の深き淵 (角川文庫)感想
RIKOシリーズなのに当のリコが狂言回しにしか思えん私はダメな奴です。ラストの陽に透けた一瞬の金髪に全部持ってかれちゃいました。リコに問われて答える練。「愛している」手酷い暴力を受けてもとりあえず倍返しして(?)自分の中に呑み込むリコの漢気はすごい。好きなキャラじゃないんだが、ちょっと惚れます。しかしこれ、『聖黒』先に読んでたから落ち着いて読んだけど、こちらを先に読んだらどれほど練と麻生に気がもめた事だったろう。そういう意味では、このシリーズも刊行順が正解なのだろうな。『聖黒』続編『海は灰色』を待望する。
読了日:09月28日 著者:柴田 よしき

フラジャイル(23) (アフタヌーンKC)フラジャイル(23) (アフタヌーンKC)感想
間瀬さん(悪魔)+アミノ製薬+火箱ちゃん。患者の利益を最優先に岸センセが動く。動く時には超速なのがすごい。治験の現場のあれこれに、半ワク界隈で治験ガ〜と騒いでいた人達の事も思い起こされたり。「治験による殺人」と岸センセに言わしめた間瀬とアミノは次巻どう動くのか。相変わらずよませますなあ。
読了日:09月27日 著者:恵 三朗

SKYLARK <矢代俊一シリーズ16>SKYLARK <矢代俊一シリーズ16>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画16。透の劣化がひどい。そろそろ別人?って感じになってきた。変化(その1)透が車の運転上手に変身。(その2)性格。どっちかってーと島津さんちのサボテンの鉢植くらい静かな草食系だった透が、如才なくて、口が回って、いやらしくて、仄暗くて、『朝日のあたる家』や『ムーン・リヴァー』でさえそうだった、汚れ切れない、どこかおっとりとして、世の中の流れに乗り切れていなくて、いつも困惑していて、やっとこさ生きている不器用な感じがなくなってしまった。もはやマリアさまの面影がない。これ別の人だろ。
読了日:09月20日 著者:栗本薫

サヴァイヴ (新潮文庫)サヴァイヴ (新潮文庫)感想
「サクリファイス」「エデン」に登場するロードレースの選手たちを主人公にした短編集。なかでも、若い石尾がとても魅力的。チカは相変わらず、風が吹き抜けるみたいに爽やかで、風にそよぐ柳のように柔軟。アシスト気質のチカもヨーロッパに先陣した日本人として、めいいっぱい頑張っている。そして、ベテラン選手として老成していく赤城が、地味に、格好がいい。人間として目指すなら、赤城だな。チカもいずれ、そんなふうになっていくだろう。それにしても、繊細な日本人には、闘牛は刺激強すぎ。
読了日:09月19日 著者:近藤 史恵

或る夜 -NightS-或る夜 -NightS-感想
マトリの間崎サンと唐島テンテン君のキケンな続編。ある一夜の睦言のおはなし。これから危険な潜入捜査に臨むらしい麻薬取締官の間崎さんは若干メロウな感じになっている。珍しくテンテンと甘く遊びたい気分らしい。単にヤロー二人がSEXするだけの短編なんだけど、間崎さんの表情がいいんだよなあ。
読了日:09月19日 著者:ヨネダ コウ

NightS (ビーボーイコミックスデラックス) (ビーボーイコミックスDX)NightS (ビーボーイコミックスデラックス) (ビーボーイコミックスDX)感想
読んだのはちょいと前なんですが、未登録だったので。麻取の間崎サンと運び屋天一クンの絡みが好き。「囀る鳥」と同じく、柴田よしきさんの世界観を横引きで読める。「・・・・マトリかよ!!!」「そう喜ぶなよ。照れるだろ」のやりとりが好きだ♪
読了日:09月19日 著者:ヨネダ コウ

RIKO ‐女神の永遠‐ (角川文庫)RIKO ‐女神の永遠‐ (角川文庫)感想
警察小説+ジェンダー。自分の中の女性性と外側から強要される「女」がリコの中で調和することなんてあり得ず、ギシギシと軋む音が聴こえてきそう。男の巣窟・警察の中で必死に仕事をしてきたはずなのに不倫や同僚からのレイプという陥穽に落ちて、警視庁から所轄に“都落ち”しても、新天地では仕事と部下に恵まれて充実していたのに。古巣の本庁との合同捜査が始まって、リコはまたもかき乱される。傷を乗り越えるためにかえって奔放になった緑子の性には結構ビックリだが、自分の中の女性性とどう折り合うのかは、女にとって大きな問題だ。
読了日:09月16日 著者:柴田 よしき

エデン (新潮文庫)エデン (新潮文庫)感想
ヨーロッパに渡って3年目のチカは、フランスのプロチームに移籍して初めてのツールに挑む。チームのエースはフィンランド人のミッコで寡黙な者同士だが息は合っている。今年頭角を表したフランス期待のエース、ニコラとその親友でアシストのドニとの交流も絡め、延べ三週間の過酷なレースが展開していく。読んでるこっちも一気にツール・ド・フランスに引き込まれる。とくにチカが本領を発揮する山岳レースと時速100㎞にもなるという下りがすごい。もうちょっとチカが活躍する姿も見たかったな、というのは漫画的展開を期待しすぎかな。
読了日:09月11日 著者:近藤 史恵

サクリファイス (新潮文庫)サクリファイス (新潮文庫)感想
自転車ロードレースの奥深さを垣間見る。正体がつかめなかったエース石尾の人物がチカの中ではっきりと像を結ぶにしたがい、感動が追いかけてくる。周囲の半端な推測が雑音となっていたが、チカの直感は正しかった。そして私は袴田や香乃や篠田という中途半端な人間たちにムカついた。でもそんな半端な人間にも居場所があるのがこの世の中なんだよね。小説の中も然り。命を懸けるだけの価値を見いだすのかはそれに懸ける人次第。そんな純度と硬度の高い人間だけが犠牲を捧げることができる。それにしても、そうまでして・・・と思うと切ない。
読了日:09月10日 著者:近藤 史恵

育休刑事 (角川文庫)育休刑事 (角川文庫)感想
最近の作家さんのペンネームって面白いなあ、と思いつつ確認もせず「にとり・にわとり」と読んでいた私。失礼いたしました。捜査一課といえばエリート刑事の代名詞、そんな若手刑事が育児休業を取得して。。。でも、せっかくの育休中なのにトラブル牽引機の姉が事件を引き寄せる(笑)。あと、秋月刑事(育休中)の妻(管理職)の正体が気になって、ぐんぐん読んでしまいました。事件にはさしたるひねりはなく、ミステリってほどではないのでお仕事小説かな。欄外の解説もいと面白く、軽い読書にオススメ。
読了日:09月08日 著者:似鳥 鶏

シーセッド・ヒーセッド (講談社文庫)シーセッド・ヒーセッド (講談社文庫)感想
園長探偵ハナちゃんシリーズ3作目は短編3作の連作。ハナちゃん曰くのアフターケアに、探偵のプライドが滲む。練のマンションの玄関前に捨てられた赤ん坊。部下の斎藤は「社長のお嬢さん」呼ばわりだが、おそらく練の子ではない。赤ん坊そのものと、母親探しを押しつけられるハナちゃんは無事事件を解決するものの、今度は練が親子鑑定をしたいと言い出して。説教垂れるハナちゃんに練が言う。「それは、つまり、俺は消えた方がいい、ってことか。この世に生まれて来た痕跡は何ひとつ残さず、綺麗さっぱりと消えた方がいい人間だ、そういうことか」
読了日:09月06日 著者:柴田 よしき

コハルノートへおかえり (角川文庫)コハルノートへおかえり (角川文庫)感想
この本も私の読書傾向からはかなり遠いのだけど、実は著者にささやかなご縁があって入手した本。でも、いつまでも放置プレイは本にも著者にも申し訳ないので、せっかく出来た時間でこのたび手に取った次第。元気者で粗忽ものの直情径行ムスメが、美青年やら美少女に囲まれて構われてオロオロする話。最近珈琲店やら古本屋やら古道具屋やらのほんわか日常系が流行ってるが、これはハーブティ屋さん。最後までキスすらしなかったよ。先は長そうだね。(笑)
読了日:09月02日 著者:石井 颯良

カソウスキの行方 (講談社文庫)カソウスキの行方 (講談社文庫)感想
なんで私、この本買ったんだっけ?と思わず首をかしげるくらい、自分のテイストではない(笑)しかも、Amazonに購入履歴が表示されるってことは、私はこの本を中身も確かめずにポチったようだ。なんだろ、若い(?)女性の心の機微っていうか、そこをあえてはずしてくるオモシロさなのかな、とは思うのだが、自分だと女の子の恋愛やら夢やら希望やらがよく分からない・・・というよりは、「どーでもいい。面倒くさい」がいちばん近い感想だったりして。そういう意味ではこの主人公たちと、案外自分は似通ってるような気もする。
読了日:09月01日 著者:津村 記久子

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