2024年12月17日火曜日

0524 ダ・ヴィンチの翼 (創元推理文庫)

書 名 「ダ・ヴィンチの翼 」
著 者 上田 朔也       
出 版 東京創元社 2023年9月
文 庫 384ページ
初 読 2024年12月15日
ISBN-10 4488554075
ISBN-13 978-4488554071

「それは、権力者の論理にすぎぬ。戦争は、常に名もなき者たちや弱き者たちを犠牲にする。そうした権力者の論理を受け入れることは、弱き者たちを踏みつけにすることにほかならぬ」

 上田朔也氏『ヴェネツィアの陰の末裔』に続く第二作目。これは面白かった。主人公を13才のコルネーリオに定めるまでに、最初はベネデット、次はヴィオレッタと主人公を変えて2回書き直したそう。その甲斐あってか、前作にくらべて文章が滑らかで読みやすい。結果、物語にも入りやすかった。「無造作に流した金髪」という形容が登場したときにはちょっと苦笑したけど。「魁偉な容貌」という形容がヴァチカンの暗殺者が登場するたびに枕詞のように出てくるのも若干気になったけど。前作のベネデットの形容である前述の「無造作に流した金髪」とおなじく、こういう書き方がこの人の癖なんだろうなあ。私はやめた方が良いとおもうけど。まあ、仕方ない。

 さて、今回は暗号の謎解きと追跡と闘いの物語。
 しかも、レオナルド・ダ・ヴィンチが残した未知の兵器の設計図を、ミケランジェロの密偵が、ヴァチカンと神聖ローマ帝国の暗殺者と追いつ追われつで探す、という、出血大サービス的なあらすじ。これはワクワクするしかない。読みながら、机脇に、レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿の画集とか、フィレンツェ、ヴェネツィア、ヴァチカン関連の図録なんかが積み上がっていく(笑)。
 とはいえ、時は1530年頃?(本の最後で1529年だと記載があった。) 
 史実では、フィレンツェ共和国は1532年に神聖ローマ帝国に敗北してメディチ家が返り咲き、フィレンツェ公国となる。負け戦必至のニッチにニッチを極めた時期に、どうやってダ・ヴィンチの新兵器を絡めるのか。結論から言えば、まあ落とし所はこのへんだよね、という予定調和に満ち満ちた感じになってしまったのも、致し方ないか。
 そういう意味では、物語の主眼は、コルネーリオの成長や、アルフォンソの恢復、そして全編を通して語られるのは、戦争の犠牲となる名も無き民衆や力なき者の嘆きに、数の理論ではない、どのような態度を対置するのか。
 兵器の開発、戦争の準備、陰謀術数、そういった芸術とは異なる論理が働く場所で、稀代の芸術家であるレオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロが何を思い行動したのか。そんなことが著者の思いとともにたっぷりと語られる。
 ある意味欲張りな作品ではある。その分、ファンタジーとか冒険活劇という面はやや薄味であった。
 これも、前作と同様の著者の癖だと思うが、あからさまに違和感のあることをとうとうと書き、すぐ後で、実は・・・・とその行動の意味を明かす、という描き方をする。だが、そもそも違和感アリアリなので、ちょっとわざとらしくて、若干うざったい(笑)
 また、この本でも、三人称での視点の移動があり、これももっと意識して書いてくれたらば、と思う。基本三人称神視点で書かれているのに、突然三人称人物視点に視点が動く。あれ?と思って、どこからその人物視点だったんだ、と数ページ戻って確認する、ということがすくなくとも数カ所あった。

 前作でも登場したヴェネツィアの魔術師、ヴィオレッタとその護衛剣士のフェルディナンドがメインキャラとして登場。なお、名前は出てこないものの、ベネデットとその護衛剣士のリザベッタも数回登場。コルネーリオの能力の表現が共感覚っぽいな、と思っていたら、巻末の参考文献に共感覚に関する本が数冊入っていた。
 その類い希なる共感能力を持ったコルネーリオが母の火刑を目撃していたならば、その能力ゆえに精神的ダメージははかり知れず、こんなに健全には育ち得なかったのではなかろうか、と思うのは私が底意地が悪いのかなあ。


2024年12月12日木曜日

0523 ヴェネツィアの陰の末裔 (創元推理文庫)

書 名 「ヴェネツィアの陰の末裔」
著 者 
上田 朔也 
出 版 東京創元社 2022年4月
文 庫 444ページ
初 読 2024年12月11日
ISBN-10 4488554067
ISBN-13 978-4488554064
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/124722918

 第5回創元ファンタジイ新人賞佳作。この回は受賞作はなく、この作品が最高位。なお、この賞は2020年の第5回をもって現在は休止中。著者は上田朔也さん。巻末の参考文献の量たるや、さすがの英才と思わされる。
 創元推理文庫は文庫本の中でも今だに活字が小さく、この厚さはけっこう読み応えがある。膨大な歴史知識に虚実を混ぜ合わせて、とても興味深い世界観を構築している。熱量もあって、面白かった。・・・・と、書きたいところだが、「面白くなったはずなのに!」という思いが強い。
 
 作品冒頭は、力が入りすぎているのか、形容詞が過剰で装飾過美でかえってイメージが散らかる。たとえば「自分の人生は夢の上に築かれた砂の城だ。」という一文。夢の城と砂の城のイメージがちゃんぽんだ。ここでの「砂の城」は砂上の楼閣か、それとも波打ち際に作られた砂の城だろうか? 「夢」という非現実のはかなさと、「砂の城」という物質的なはかなさは異質なもので、一緒くたにするとイメージが頭の中でハレーションを起こす。
 また、「日焼けした精悍な容貌」という形容が「見開かれた鳶色の瞳に生気はなく」すでに死んでいる人物に用いられている点。「精悍な」という言葉はその人物の精神力や気力や気迫を伴う様を表すものなので、生気がない死体の形容に用いる表現じゃないと思うのだ。「かつては精悍であったろうその容貌が」今は「生気なく」というような表現であったならばよかったのに。
 同じ形容や表現を繰り返し、無造作に配置するところなど、もっと推敲されたらずっと良くなるだろうに、と残念なところが散見される。また、三人称の文体だが、視点の乱れもやや気になる。きっと書いている当人にはあまり違和感がないのだろうな。とにかく言葉の扱いが雑に思われるのだ。本当に勿体ない。

 ストーリーに関しては、話の流れの中で、証拠や事実を掴んで、それを主人公が解釈して(断定して)、次の行動につなげる、って展開で肝心の「解釈・理解・断定」の部分にええ、それでいいの?と納得いかない場面がけっこうある。それ、その解釈でいいのか?と引っかかってしまうので、スムーズに読み進められない。そこは力技で、読者をねじ伏せるだけの勢いがあれば、ファンタジーやSFなら何とかなったりするものだけど、そこまでの勢いはまだない。
 広場の隅にいる魔術師のかすかな魔術の気配すら感じとれるって設定なのに、強力な魔術師が中にいる屋敷に忍びこむのに魔術を使うのか? とか。「慎重なやつね」「痕跡はなし。徹底している」って広い屋敷の捜索を始めてたった一部屋目に敵の痕跡がないからって、そのセリフはおかしくないか?とか。
 「万事窮す」「完膚なきまでの敗北」 その原因となる行動が浅慮なので、重厚な言葉が上滑りしている。
 こんな場面にこんな表現あったよね、というような表現がほんとうに無造作に用いられるところも雑に感じられる。文章力がないのではない。実力不足な書き手ではないだろう、と思えるからこそ、いっそう残念だ。

 登場人物の造詣は悪くないとおもうのだ。主人公、セラフィーニ、ド・ベルトラン、黒衣の女魔術師ナクシディル、脇を固める仲間やオジさんたちもそれぞれに個性と魅力がある。ちょっと漫画っぽい感じはするが。だがしかし、表現の選択がチープだ。「こういうシーン」でいつか誰かが書いたような描写が安直に選択される。それが、実際には情景や場面にそぐわない。読んでいていちいち細かく引っかかってしまうので、最後まで物語に没入できない。

 たとえば、主人公ベネデットの形容で「無造作に流した金髪が」という表現が5,6箇所くらい出てくる。他にも色々と表現のしようがあるだろうに。

 そっと女神が吐息を吹きかけるように、繊細な刃で、薄い皮膚の先の動脈や腱や関節に触れるだけでいい」
 「それが、新しい呪文だと?」ようやく途切れた饒舌の合間に、ベネデットが訊く。
 「ええ、〝女神の吐息〟です」
 新技にせっかく素敵な名前を付けているのに、同じ言葉を直前のセリフの中で使ってしまってるために、「ええ、女神の吐息です」と言った瞬間に湧き起こる二番煎じ感。

「陶酔感に包まれる」という表現を、魔法を発動する度に乱用。

「完璧だ」という言葉を登場人物がしばしば使う。しかもぜんぜん完璧ではないシーンだと思うのだ。

「俺を殺せ」とか、「卑怯者が」とか、「堂々と戦いなさい」とか、中二病に侵されているような恥ずかしいセリフがクライマックスにちりばめられていて、ああ・・・・
 ずっと握りしめていた、金属と石の指輪は、手の中で人肌に温まるので、ひんやりしていることはないはずだ。
 3階の窓を破って地上に落ちたろうそくの火は、落下の勢いで消えるのではないかと思う。こういう細かいところの違和感が読んでいると積み重なってくる。

 ところで、母が祖先から受け継いだ指輪を鍵として、地下室の秘密扉は造られたのだろうか?
 物語の核となるウェルギリウスの呪文書の秘匿については、どうにも破綻しているように思う。
 ナクシディルが対の指輪を持っていることを、セラフィーニが知らなかったとしても、その地下室に敵が侵入し、テオバルドとベネデットの母が殺され、ベネデットが傷付けられたことは判っているだろうに、その場所を魔術書の保管場所として使い続けるものだろうか?
 呪文書はいつ、女の手に渡ったのか? 精巧な写本を造るだけの時間があったのか?
 なぜ、その地下室のある大事な屋敷が女とベルトランのアジトとして利用されたのか? 大事な秘密のある屋敷なら、密かにセラフィーニが所有権を確保しておくものではないのか?なんで、宿敵色事師が利用しているのだろう?
 そもそも、魔術を使う母がそばにいながら、やすやすとベネデットが傷付けられてしまった流れも違和感がある。
 ベネデッドが怪我を負い、記憶を失う事件があったのが11才のとき、そして2年後の13才の時には魔力を発現して、学院に戻ってた。セラフィーニが政治の裏も表も掌握して実力者にのし上がるには、少々時間が足りなくないだろうか?

 設定や世界観は面白いし、著者の力量も感じられるので、いろいろと勿体ないと感じてしまうのだ。だから、辛口の批判は研鑽を大いに期待しているから、ということにしておきたい。きっと「佳作」だったっていうのもそういうことだろうと思っている。なにしろこれが処女作なのだ。大型新人であるのは間違いのないところ。次作の『ダ・ヴィンチの翼』に大いに期待する。

2024年12月5日木曜日

0522 システム・クラッシュ マーダーボット・ダイアリー (創元SF文庫)

書 名 「システム・クラッシュ /マーダーボット・ダイアリー」
原 題 「System Collapse 」2023年
著 者 マーサ・ウェルズ
翻訳者 中原 尚哉
出 版 東京創元社 2024年10月
文 庫 320ページ
初 読 2024年12月4日
ISBN-10 4488780059
ISBN-13 978-4488780050
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/124607051

 弊機は相変わらずぼやきに満ちていてほっこりさせてくれるが、この世界観って結構殺伐としてるよな。誰が、このような殺人を当たり前のように行う企業が文字通り支配している世界に住みたいだろうか? 確か映画のロボコップも企業都市国家みたいな世界観だったよな。SFに有りがちな設定ではあるが、なんだよ「企業許可殺人」って! そんなのあっちゃダメだろ! と世界観にツッコミまくる。そんな非常識な世界観だからこそ「構成機体」なる弊機だってが登場できるわけなんだが。
 要はサイボーグと同じなんだろうけど、ミソなのは個体の意識が人間の脳組織ではなく、プログラム側にあるところ。しかし、人間の脳を持つがゆえに、感情もある。しかしあくまでも意識は機械よりだし、自在にネットワークで情報を操作することもできる。だがしかし、一番したいことは、ドラマの視聴。これが、どうにも愛しい。
 
 そんな拗らせ弊機の今作は、『ネットワーク・エフェクト』の続きから。
 異星文明の汚染に犯された過去2回の惑星開拓事業。それに巻き込まれた人々を、新たな開拓(=企業奴隷化)から護ることができるのか。
 弊機としては、自分が護るべき人々のほうが大事、盟友ARTも、ARTが愛する乗組員の人々も大事。・・・・やっぱり、自分は貧乏くじを引くのが務めと心得、最前線で厄介事に最初にちょっかいを出すのは自分、という信念は揺るがない。

 ラストで、「ああ、やっと帰れた。たいへんだった」というラッティのセリフに心底共感できる。今回も大変だった。あとは、もう、ドラマに耽溺するだけ。ご苦労さま。 

2024年12月1日日曜日

2024年11月の読書メーター

 10月の後半に、残り2ヶ月で読了したい本を並べ立てたんだが・・・・
 だいたい、自分の思った通りに行動出来る自分なら、今の自分にはなってないよな!と開き直ってはっはっはー!!!と呵々大笑したいところだ。(10月の記事はこっそり削除した。)
 ミュシャ展に行って高尚な気分に浸ったのも束の間、ついうっかりBLの沼に溺れてしまった。
 BLに限らずなんだけど、私はこれまで、ちょっと、ラノベを舐めていたね。
 本屋が減ってるとか、出版業界の斜陽とか、オールドメディアが廃れつつあるだけなんだな。書きたい人も読みたい人も相変わらず沢山いて、野の花は百花繚乱じゃないか。
 そんな気づきを得た、今日この頃。でもそろそろ、私を待っている積読本の方に戻らなければ。なにしろ、浮気してばかりで、今読んでるマーダーボットが進まないったら。。。。
 今日から師走です。

11月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:2538
ナイス数:496

フラジャイル(29) (アフタヌーンKC)フラジャイル(29) (アフタヌーンKC)感想
超絶有能検査技師森井君が、米国に渡る円の後を継いで慶楼大学のラボへの移籍を決意。自分が去った後の病理検査室を支えるべく、後任の育成に着手!・・・・するも、沈没(笑)「死にてえ・・・」が笑えないが、笑える(笑)だけど、下手くそな言葉じゃなくて、これまでの努力の足跡をきちんと見て、残したものを受け取ってくれるものはいる。教授と岸先生師弟も胸アツです。このシリーズ、終わりそうで終わらない。どこまで行くんだろうね。(期待)
読了日:11月29日 著者:恵 三朗
乙嫁語り 15 (青騎士コミックス)乙嫁語り 15 (青騎士コミックス)感想
乙嫁も15巻。ヘンリーが乙嫁タラスを伴って英国に帰郷。しかし『原住民』とタラスを侮蔑するヘンリーの母。もっとタラスを気遣ってやれよ!ヘンリ〜〜!と思うが、タラスさんは自然体。おっとり者同士、ヘンリーを好ましく想っているよう。あの人が幸せになりますように。
読了日:11月22日 著者:森 薫

ウィリアム・モリス - クラシカルで美しいパターンとデザイン-ウィリアム・モリス - クラシカルで美しいパターンとデザイン-感想
ウィリアム・モリスのパターン集。表紙の銀箔がものすごく美しいです。定番の柳のモチーフがやはり好き。
読了日:11月20日 著者:海野 弘


戦闘妖精雪風 デザイナーズノート戦闘妖精雪風 デザイナーズノート感想
うっとり。。。。
読了日:11月20日 著者:GA Graphic



獅子帝の宦官長II 遥かなる故郷13(分冊版) 獅子帝の宦官長シリーズ (エクレア文庫プチ)獅子帝の宦官長II 遥かなる故郷13(分冊版) 獅子帝の宦官長シリーズ (エクレア文庫プチ)感想
で、続きはKindle分冊版で。とりあえず最終巻のみ登録しておく。一冊にまとまったらそれも入手すると思う。皇帝ラシッドの妻(皇后)となっていた主人公イルハリムが攫われて、隣国の政変に巻き込まれる。陵辱されまくりの強姦されまくりで、ツラい描写は流し読みになったが、とにかく汚されても汚されても嫋やかで強く清いイルハリムの愛が報われるまで。まあ、皇帝が良い漢だよ。この二人、言葉が足りなくてイルハリムの思い込み(誤解)でだいぶ損しているが、まあ、そういうキャラクターだしな。
読了日:11月18日 著者:ごいち

獅子帝の宦官長 寵愛の嵐に攫われて (エクレア文庫)獅子帝の宦官長 寵愛の嵐に攫われて (エクレア文庫)感想
Kindleアンリミだったので興味本位で読んでしまったんだが・・・。いやこれがなかなか大したもの。実は再読。こーいうのにBL(ボーイズラブ)ってほんとどうなの?明らかにボーイズじゃないんだけど?ってそういうところに未だに引っかかっているワタシ(^^ゞ  宦官ってところですでに背徳感満載だが、これがもう、淫靡というかエロ濃いというか。まさに官能小説。SEX描写はちょっと読み疲れて途中斜め読み。しかしこの作者ごいちさん。物語の才がある。活動しているアルファポリスで他の作品も読んで来たが、大河ドラマ級だった。
読了日:11月17日 著者:ごいち

煙と蜜 第六集 (ハルタコミックス)煙と蜜 第六集 (ハルタコミックス)感想
姫子さん、13才。少し髪が伸びたし背も伸びてる? 鉄軍曹をほっておかない文治サマも偉い。「だってここには危険なんてないでしょう?」の真意は「文治さまがお近くにいるから安全なの」だと思ったんだが、鉄は「あなたの事も信じてますよ!」だと誤解したな。姫子さん、罪作り〜♪ さて、2年後に結婚する二人。だがその前にシベリア出兵があるんだったよね。心配。。。
読了日:11月16日 著者:長蔵 ヒロコ

ミュシャスラヴ作品集ミュシャスラヴ作品集感想
ミュシャが生涯をかけた大作『スラブ叙事詩』。門外漢には、詳細な解説でスラブ民族の歴史や、ミュシャが何を表現しようとしたのか、何を訴えようとしたのかの丁寧な解説がありがたい。全20枚の大作と、それに連なるスラブ、チェコをモチーフとした作品。祭壇画やステンドグラス。ミュシャのポスター絵画しか見たことのない方(つい先日までの私。(^^ゞ)にぜひ、観てほしい。2026年にプラハにスラブ叙事詩を高級展示する美術館が完成するらしい。いつか実物を見ることができたら!
読了日:11月10日 著者:千足 伸行

あなたの糧になりたい (ディアプラス文庫)あなたの糧になりたい (ディアプラス文庫)感想
仁茂田もにさんは良い小説を書く作家さんの一人。才能を感じる。この作品はつい最近までアルファポリスで公開されていたので、そちらで一度読了している。オメガバースBLとしてはちょっと異色。アルファが売れない画家で、オメガのヒモ(言葉が悪いね。スマン)ってところがすごい新鮮だ。喪失の絶望すら絵の糧になることを願う主人公の律の我の強さも異色。絵を通してしかコミュニケート出来ていなかった人間関係が不得手の二人が、お互いを失った長い時間を経て、やっとお互いに向き合い、そして二人は幸せになった。良かった。
読了日:11月10日 著者:仁茂田 もに

ミュシャ装飾デザイン集 増補改訂版ミュシャ装飾デザイン集 増補改訂版感想
ミュシャは何冊かのデザイン教本も作成しており、それらも収録されている。デフォルメされた植物モチーフのボーダーやフレームも、繊細かつ正確なデッサンから生み出されているのだ、と納得。ああ、絵を描きたいけど、もう頭でっかちになっちゃって、思うさま描けないだろうな、と思った今日。
読了日:11月04日 著者:千足伸行

ミュシャ作品集 増補改訂版ミュシャ作品集 増補改訂版感想
とにかく美しい。フランスで才能を発揮し、祖国チェコの独立を支持し、チェコスロヴァキア独立後は、祖国で制作活動に従事したミュシャ。壮大なスラブ叙事詩も収録されている。数々の希望、戦争、犠牲が描かれている。その後の東欧の歴史を、ミュシャはどう思うだろうか。
読了日:11月04日 著者:千足伸行

赤レンガの御庭番 (講談社タイガ ミD 1)赤レンガの御庭番 (講談社タイガ ミD 1)感想
舞台は明治後期。開港以来発展を続ける港横濱。江戸時代から続く御庭番の家系の義母に育てられた明彦は、アメリカで本場の探偵術を身に付けて帰国。義理の叔父がいる横濱で探偵事務所を始める。異国情緒ある横濱の風情が懐かしい。しかし繁栄あるところには陰もある。人心の裏に跋扈する犯罪組織と、陰のある美しい女もとい青年。主人公の明彦の性格が良い。決して明るいだけではないのだが、どこか突き抜けている。軽妙洒脱ながら情に深いが、流されない。複雑な生い立ちのミツとの会話も良い。これまでの作品とはやや味わいが違って良かった。
読了日:11月01日 著者:三木 笙子

読書メーター

0521 獅子帝の宦官長 寵愛の嵐に攫われて (エクレア文庫)

書 名 「獅子帝の宦官長 寵愛の嵐に攫われて」
著 者 ごいち         
出 版 MUGENUP(エクレア文庫)2022年12月
文 庫 290ページ
初 読 2024年11月
ISBN-10 4434310445
ISBN-13 978-4434310447
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/124539378


 KindleアンリミでAmazonの画面に上がってきたのを興味本位で読んでしまったんだが・・・。いやこれがなかなか大したものだった。いちいち、引っかかってもしょうがないのだが、こーいうのにBL(ボーイズラブ)ってほんとどうなの?と今だに思ってる(苦笑) 明らかにボーイズじゃない。だって皇帝三十路だし、宦官長もアラサーよ? だからってM/Mって訳でもないし。(文化的に違うよな。)なんなの、なにせよニッチなジャンル。だが本質はエロだ。官能小説?それが一番しっくりくるか。
 そもそも宦官ってところですでに背徳感満載なわけだが、これがもう、淫靡というかエロが濃い。どろりと濃い。SEX描写はちょっと読み疲れて途中斜め読みになる。主人公イルハリム、流されているだけ、と言えなくもないが、じゃあ流されない生き方なんて可能なのか?という時代や文化設定だし。流されるままの彼がしかし、嫋やかで清純で、一生懸命なのが麗しい。勢いで、連載されていた『獅子帝の宦官長Ⅱ』もKindle分冊版で読了。折しも最終刊。これはもう、大河ドラマだ。どことなく、韓流宮廷大河の趣を感じる。

 作者のごいちさんの他の作品も気になって探してみるが、商業化されているのは、この2作品のみのよう。活動しているアルファポリスで他の作品も読み漁ってきたが、どれも非常に面白い。いや、才能がある人っているもんだなあ、としばし堪能した。個人的には、『王宮に咲くは神の花』も大河ドラマ級のスケールで読み応えがあったが、『愛しの妻は黒の魔王!?』が主人公や脇のキャラ立てが好みでとても面白かった。平安王朝物の『九重の姫♂は出世を所望する』も雅でよろしかった。ごいちさん、作品ごとに雰囲気を書き分ける文才が見事です。


    

2024年11月10日日曜日

0520 あなたの糧になりたい (ディアプラス文庫)

書 名 「あなたの糧になりたい」
著 者 仁茂田 もに      
出 版 新書館 2024年11月
文 庫 240ページ
初 読 2024年11月10日
ISBN-10 4403526136
ISBN-13 978-4403526138
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/124161855

 比較的最近になってBLを読み出してから、作品を求めてpixivなども読み漁り、オメガバースとかDOM/SUBなんて世界観が生まれていることも知った。最初はこういう「枠組み」に違和感を感じたんだけど、慣れるに従って、考えて見れば、架空の生き物であるドラゴンがいるファンタジー世界なんかも、大勢の創作者や読者で世界観を共有して、素晴らしいファンタジー作品からどうでもいい駄作や、はたまた二次創作まで展開されているわけだから、BLというジャンルでそのような架空の世界観を共有することだってアリだろう、と考えるに至った。
 最初は、♂と♂がSEXするためのただの装置じゃないか、と眇で眺めていたのだが、いったんそういう世界観が構築されると、そこにジェンダーが生まれ、それ故の悩みや葛藤や悲劇も生まれ、つまりは物語が生まれるのだ。物語あるところに、良い小説もまたあるんだな。

 仁茂田もにさんは、そういった良い小説を生み出す作家さんだ、と私が思うおひとりである。たまたまAmazonで偶然作品を知り、もにさんの作品を求めてアルファポリスにも読みに行った。どれもすごく良い。BLってところは共通項だが、それ以外ではキャラクターや時代や設定もさまざまで、それぞれに面白く、読ませて、読んでいるこちらの気持ちも動く。
 で、この作品『あなたの糧になりたい』は、つい最近までアルファポリスで公開されていたので、そちらで一度読了している。
 このお話は、オメガバースBLとしてはちょっと異色だと思った。
 尽くすオメガに溺愛アルファって書けばありがちに聞こえるいが、アルファが売れない画家で、オメガのヒモ(言葉が悪いね。スマン)ってところがすごく新鮮だ。
 喪失の絶望すら絵の糧になることを願う主人公の律の我の強さも異色っちゃあ異色。運命の番を歯牙にもかけないところも面白い。
 絵を通してしかコミュニケート出来ていなかった人間関係が不得手の二人が、お互いを失った長い時間を経て、やっと愛を知り、お互いに向き合うことを学んだ。・・・そして二人は幸せになりました。リアルなような童話のような、普通の恋愛小説と何がちがうっていったら、そりゃ、SEX描写ががっつり入っていることだけど、それはなんか、私にとってはそれほど大きな事じゃないような気がするんだよね。気持ちがリアルかどうか、そこがポイントなんだと思う。何はともあれ、仁茂田もにさんは良いです。他の作品もぜひ、商業化して出版してほしいな。



2024年11月4日月曜日

0518〜19 アルフォンス・ミュシャ展(府中市美術館)で収穫



 文化の日だから、というわけではなく、魂の洗濯の必要性に迫られたので、府中市美術館で開催中の「アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」展にいって来ました。 
 先日『かわいい江戸絵画』という図録を購入したときに、思ったのですよ。府中市美術館、優れているな、と。きっと、すごく良い、キュレーターさんがいるのだと思う。
 今回のミュシャ展にも、すごく熱量があって、なおかつすっきりと読みやすい、素晴らしい解説が表示されていました。分量的にも丁度良いかな。これ以上のボリュームだと、疲れて集中できなくなりそう。
 知らなかったミュシャの人生についてや、表現のアレコレについてもすこし知識を増やして帰ってきました。
 ミュッシャ後年の大作、スラブ叙事詩はどこに? と思って調べてみたら、2026年にプラハに『スラブ叙事詩』を恒久展示するための施設が建設されるそうです。美術館、というよりも複合施設っぽいデザインのようですが、いつかぜひ見に行けたら、と思います。
 
 かねてから入手したいと思っていた画集2冊も購入。

0518 ミュシャ作品集 増補改訂
書 名 「ミュシャ作品集 増補改訂版」
出 版 東京美術  2022年4月
大型本  21.1 x 1.5 x 29.7 cm 224ページ
初 読 2024年11月4日
ISBN-10  4808712350
ISBN-13  978-4808712358
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/123267240


 とにかく美しいの一言に尽きる。フランスで才能を発揮し、祖国チェコの独立を支持し、チェコスロヴァキア独立後は、祖国で制作活動に従事したミュシャ。展覧会では観ること叶わなかった壮大なスラブ叙事詩も収録されている。






0519 ミュシャ装飾デザイン集 増補改訂版
書 名 「ミュシャ装飾デザイン集 増補改訂版」
出 版 東京美術  2021年12月
大型本  21.1 x 1.5 x 29.7 cm 191ページ
初 読 2024年11月4日
ISBN-10  4808712342
ISBN-13  978-4808712341
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/124052008

 ミュシャは何冊かのデザイン教本も作成しており、それらも収録されている。デフォルメされた植物モチーフのボーダーやフレームも、繊細かつ正確なデッサンから生み出されているのだ、と納得。


0517 赤レンガの御庭番(エージェント)

書 名 「赤レンガの御庭番」
著 者 三木 笙子         
出 版 講談社 2019年2月
文 庫 256ページ
初 読 2024年11月2日
ISBN-10 4065147050
ISBN-13 978-4065147054
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/123992103

 9月からこっち、ずっと読んできた三木笙子さんの本は実は既読本だったのだけど、これは初読。とても面白かったです。
 舞台は帝都探偵絵巻と同じころかな?と思える明治後期。
 徳川吉宗の代から続く御庭番の家系出身の義母がいる家に引き取られて育った入江明彦は、アメリカに留学し、勉強はそっちのけで本場の探偵術を身に付けて帰国。血のつながりはないとはいえ子供の頃から可愛がってくれた叔父が税関長を務める横濱で探偵事務所を開く。
 開港以来発展を続ける港湾都市横濱の異国情緒ある風情と、港湾労働者は威勢良く、町に暮らす人々にはすこし首都から離れたのんびりとした港町の気風が漂う空気感が何やら懐かしい。しかし、繁栄あるところには陰もある。港町の裏に跋扈する犯罪組織と、陰のある美しい女もとい青年。そして明彦に従卒のごとくかしづく文弥少年、逗留先のホテルオーナーでお喋りで世話好きな夫人。
 主人公の明彦の性格がとても良い。その育ちからして決して明るいだけではないのだが、どこか突き抜けているところが、これまでに読んだ三木さんの本の主人公達とはひと味違う。軽妙洒脱ながら情に深いが、流されない。明彦と文弥、これまた陰を背負わずにはいられない生い立ちのミツの会話もテンポが良くて楽しい。私が横浜びいきだというのもあるかもしれないが、これまでの作品とはちょっと味わいが違って、楽しく読書した。

第一話 不老不死の霊薬 
 横浜に不老不死の薬を売る者がいる。無論本物であるわけがない。犯罪の気配がするが、その「不老不死薬」の顧客がやんごとなき御婦人方であるらしく、警察沙汰にしたくない。そこで叔父から明彦に仕事が回ってくる。西洋美顔術と横浜で顔と名前の知られた西洋人医師、そして謎の「美女」ミツもからむ。鏡のエピソードなんかはちょっと生煮え感があるような気もしたが、なかなか展開が読めなくておもしろかった。

第二話 皇太子の切手 
 「ブルー・モーリシャス」と言われるコレクター垂涎の稀少切手が貼られた手紙を所持していた外国人夫妻の家が火事になり、「ぶるー・モーリシャス」もろとも失われる。失意の夫妻だが、実は保険金詐欺?
 その裏に見え隠れする、犯罪指南役の結社「灯台」。明かされるミツの出生。切手にまつわる犯罪はわりあい、筋が読みやすかった。ミツとの距離もすこし縮まったかな。

第三話 港の青年 
 「港の青年」と銘打った演劇が横濱の女性達のハートと捉える。今で言う「推し」というか。そこに、演劇のモデルとなった男を捜して横濱にやってきた男の妹が登場。港町は彼女の兄を探す手伝いをしようと、騒然となる。だがしかし、実は演劇の台本は、完全なる創作だった。陰に見え隠れするのは「灯台」の存在。派手な「兄捜し」の真の目的はなにか?

第四話 My Heart Will Go On
 今や「灯台」潰しの尖兵であることが明白になっている明彦の周りが物騒になってくる。文弥は階段から転落して大怪我。ミツも税関長である叔父も、身動きがとれなくなる。ついに「灯台」の首領との一騎打ちを覚悟した明彦であるが、その首領は意外なところにいた・・・・。ここで終わってしまうのは勿体ないキャラ立て、舞台立てだが、こういうところ、三木さんて惜しげがないというか、思い切りがいいというか。

 ここから、キャラクターの関係性を深めていって欲しい、とつい思ってしまうが、そこを余韻にして話が終わるのは、三木笙子さんらしくもある。なんにせよ、私はこのお話、とても好きだった。

2024年11月2日土曜日

2024年10月の読書メーター

 ここに読了登録した本の他に、仁茂田もにさんのKindle本数冊と、アルファポリスで公開されているBL小説を読み漁りました。
 仁茂田もにさん、好きだわ。それぞれの作品毎にキャラが立っていて、ストーリーテラーの才がある。文章が上手い。ネット小説なので、誤字脱字はご愛敬かな。書籍化されるあかつきにはきちんと校正するといいんじゃないかな。これからも追いかけよう。


10月の読書メーター
読んだ本の数:26
読んだページ数:4533
ナイス数:999

水の都 黄金の国水の都 黄金の国感想
舞台は明治期のヴェネツィア。異国情緒溢れる街に住む日本人とその友の、どこか不思議な雰囲気もあるバディもの。三木笙子さんのお話はどれもブロマンスってほど濃くはない。しかし真情に溢れてる。ヴェネツィアという街の成り立ち、ヴェネツィア出身の冒険家マルコポーロが残した伝説。そういったものを絡めながら、真面目に真っ直ぐに、人のために生きてヴェネツィアで死んだ青年清人と、その友人の誠次郎、イタリア人青年ルカの友情をベースに、物語が進む。事件そのものよりも、それに絡む人の心の物語だ。そして著者の思いも零れる。
読了日:10月28日 著者:三木 笙子

金木犀二十四区金木犀二十四区感想
金木犀二十四区、隕石、天狗、山伏そして『靡』(なびき)。不思議ですこし不穏な世界観の中で紡がれるのは、人の優しさや切なさや、静かでたおやかな強さ。金木犀の香りが漂い始めた朝に読み始め、散る前に読み終えることが出来た。読む人によって好みは分かれるかもしれないが、三木笙子さんらしくて、私は好きな一冊。
読了日:10月19日 著者:三木 笙子


怪盗ロータス綺譚怪盗ロータス綺譚感想
手玉に取られる者の側の視点がなかなかに面白い。一番良かったのは、「埋める者 暴く者」。状況をコントロールしているつもりがいつの間にかコントロールされ、のっぴきならない状況に追い込まれるのは、『注文の多い料理店』を読んでいるみたいな面白さだった。そのほかの話もそれぞれに面白い。なにより、省吾が元気で過ごしているのが良い。彼のことは心配してたんだよ。若干の不安や鬱屈はありそうだけど、私の想像以上に蓮とともに、うまくやっているようで安心した。
読了日:10月13日 著者:三木 笙子

Ω令息は、αの旦那様の溺愛をまだ知らない2 (アンダルシュノベルズ)
Ω令息は、αの旦那様の溺愛をまだ知らない2 (アンダルシュノベルズ)感想
2巻は、アロイスとリリエルの恋模様も絡めつつクライマックスになだれ込んでいく。上巻はユーリス視点だったが、下巻はギルベルト視点で、上巻でユーリス視点で語られた過去の出来事が再演される。この手の創作小説で人物視点をコロコロ変える手法は、安直だなーと思っていたが、ここまで丁寧に描き込むとそれも面白いと思えるんだな、発見した。そうだよね、他人の思惑なんて実際判らないし、人間関係って誤解だらけだよね。となんだか納得感がある。一つも結婚話が来ないのは自分に魅力がないからと思い込んでいたユーリスが絶対に一番の被害者。
読了日:10月25日 著者:仁茂田もに

とびはち作品集 にこげのつどいとびはち作品集 にこげのつどい感想
そしてこれが現代の「カワイイ」だ!ってのは冗談としても、「かわいい江戸絵画」につながるものがあるよな、と思いながら頁をめくる。も、『足軽雀』が最っ高にかわいい。昔、自分も絵を描いていた頃があったので、いまだにこういう素敵な絵を見ると、いいな〜。私も描きたいな〜。とほんの少し思う。今更ではあるが、人生の中でどういう選択枝を選んできたらこういう道に到達できたんだろうかなあ、と、ほんのちょっとうらやましい。まあ、今は鑑賞専門よ!そのうちもう少し時間ができたら、絵の具箱を開けようぞ。
読了日:10月26日 著者:とびはち

かわいい江戸絵画かわいい江戸絵画感想
こんな表紙の本がビニールカバーの中に入ってたら、中が見たくなるじゃないか!世界に誇る日本のKAWAIIの源流は江戸にあり?もともと気恥ずかしい、面はゆいといった意味だった「かわゆし」が現代にも通じる「かわいい」の意になったのは江戸時代頃からとのこと。本の中身は、真面目な日本画と文化史。府中市美術館の特別展で人気を博し売り切れた図録が書籍化されたとのこと。波津彬子さんの「雨柳堂夢噺」に登場する子犬はデフォルメされすぎだよな、と思っていたが、円山応挙が本家なのね!
読了日:10月26日 著者:

配色事典―大正・昭和の色彩ノート (青幻舎ビジュアル文庫シリーズ)配色事典―大正・昭和の色彩ノート (青幻舎ビジュアル文庫シリーズ)感想
昭和8〜9年に刊行された『配色總鑑』が新装・改訂版として復刻されたもの。手軽な文庫本サイズなのに、色彩の組み合わせや色見本がぎっしり。色の和名が美しい。大正・昭和の色彩となっているけど、もちろん現代に通用する。明暗、補色の組み合わせ。大きな面で組み合わせる(例えばセーターとスカート)のも、小物合わせの参考にも。4色配色は、着物、帯、半襟、帯締め、帯揚げの組み合わせにも、大いに参考になる。なにより楽しい!
読了日:10月26日 著者:和田 三造

エドワード・ホッパー作品集エドワード・ホッパー作品集感想
翻訳ミステリー読みなら外せないエドワード・ホッパー。ボッシュの家に、そして殺し屋ケラーさんの家に、飾ってあるのが『夜更かしの人々』ナイトホークス。やっぱり良い。女連れの男に移入するか、少し離れた所に座る独りの男に人生を重ねて観るのか。ケラーさんなら後者、ボッシュはどっちだろう。
読了日:10月18日 著者:江崎聡子

ヴィルヘルム・ハマスホイ 静寂の詩人 (ToBi selection)ヴィルヘルム・ハマスホイ 静寂の詩人 (ToBi selection)感想
ワイエスの画集をAmazonで探していたら、ハマスホイも一緒に紹介されました。確かに白と明暗が基調の作風は似ているかも。しかし、空気感は全然違う。静寂の詩人、とはなるほど、と思うが、しかし、厳しくはない。ほのかな温かみのある室内の空気感。ワイエスよりもむしろ、ハマスホイの方が人間的な温かみを感じる気がするのは、たぶん、ハマスホイの人や物事を見る視線が穏やかで優しいからだろう。ワイエスがそうでないとは言わないけど、ワイエスには独特の厳しさがあるので。
読了日:10月10日 著者:萬屋 健司

アンドリュー・ワイエス作品集アンドリュー・ワイエス作品集感想
前から気になっていたワイエス。モノトーンの風景画の人だと勝手に思っていたが、作品集には自画像を含め人物画が多かった。
読了日:10月08日 著者:高橋 秀治



入江明日香作品集 風のゆくえ 生命の真影入江明日香作品集 風のゆくえ 生命の真影感想
入江明日香さんの一冊目の作品集。先に見た新しいほうの作品集「雷鳴と花」よりもややシンプルな作品が多い。子供をモチーフにした作品多数。すごく全体的にファンタスティックなのにリアル。なのに何故か猫がまんまるで可愛い。いろいろなものを内包して混沌としながら清楚で美しい。
読了日:10月06日 著者:入江 明日香

神業の風景画 ホキ美術館コレクション神業の風景画 ホキ美術館コレクション感想
千葉県にある写実絵画専門のホキ美術館の収蔵品の作品集。写実絵画って本当に写真のように精密・精巧だが、あまりにも写真そのものだと、あえて絵で描く必要があるんだろうか・なんて考えてしまう。なので、私は全体的に「絵」の気配が少し残っている(筆のタッチとか、写真ではあり得ない水流の線とか)が有る方が、安心して鑑賞できるし、観ていて心が落ち着くと思った。
読了日:10月06日 著者:芸術新聞社

吉田博 全木版画集 増補新版 YOSHIDA Hiroshi The Complete Woodblock Prints吉田博 全木版画集 増補新版 YOSHIDA Hiroshi The Complete Woodblock Prints感想
川瀬巴水と同時代の新版画。世界を旅して描かれた雄大な風景にため息がでる。聞けばダイアナ妃もこの作品を愛していたとか。そのうち、現物の展示を見たい。
読了日:10月03日 著者:吉田 博



入江明日香作品集 雷鳴と花入江明日香作品集 雷鳴と花感想
あまりにも美しく、あまりにも婉容、あまりにも繊細。ああ、こんな絵を自分で描くことができたなら。 黒の表紙カバーに手汗が付いてしまったら、と緊張する。今日の仕事のご褒美に。
読了日:10月03日 著者:入江明日香






火の神さまの掃除人ですが、いつの間にか花嫁として溺愛されています(2) (やわらかスピリッツ女子部)火の神さまの掃除人ですが、いつの間にか花嫁として溺愛されています(2) (やわらかスピリッツ女子部)感想
本がなにやら睦みあって、本の子が大量に産出されるってのが(笑) なんとなくバタバタと飛んでいる本の群れに、かつてのMacの伝説のスクリーンセーバー「フライングトースター」を思い出す(笑)
読了日:10月23日 著者:


火の神さまの掃除人ですが、いつの間にか花嫁として溺愛されています(1) (やわらかスピリッツ女子部)火の神さまの掃除人ですが、いつの間にか花嫁として溺愛されています(1) (やわらかスピリッツ女子部)感想
巫(かんなぎ)、継母&連れ子の継子イジメ、捨てられて異界に売り飛ばされて、神だか物の怪だかに食われるつもりが、火の神様にお輿入れ。だがしかし、その火の神様にはなにやら呪いが掛けられていて。和洋折衷、ラノベにありがちなギミックは全部ぶっこんであるし、とっちらかりそうなストーリーを画力で力業でまとめてる♪ 絵が綺麗でテンポもよく、よくある継子イジメネタもそれほど陰惨にはならず、なにしろ火の神のキャラが良い。新宿ブックファーストのPR映像を見て、Amazonを確認したら一巻目は期間限定無料だったので、
読了日:10月23日 著者:

花よりも花の如く 23 (花とゆめコミックス)花よりも花の如く 23 (花とゆめコミックス)感想
(作者も同じこと言っているが)年1回の刊行ペースで、23巻です。息子が成人するのと同じくらいの年月を掛けて、じりじりとケントも成長してきたのか、していないのか!前巻で葉月との破局やら、隆生先生の逝去やら、おおきな動きがありましたが、ついにここまで。やっと道成寺のお舞台の幕が開く。お面の初出だって、一体いつだったか? だが、あのお面を使えるまでにケントもなったってことで。どのような舞台を見せてくれるのでしょうか。楽屋に隆生先生が交じっているのがご愛敬。
読了日:10月15日 著者:成田 美名子

花よりも花の如く 22 (花とゆめコミックス)花よりも花の如く 22 (花とゆめコミックス)感想
いい加減、話が間延びしていたのと、ケントの優柔不断にウンザリしていたので、この巻読むのを飛ばしていた。23巻と会わせて入手したら、隆生先生が!理想的な人生の終いではあるけれど、そりゃ、ケントはショックを受けて当然。話は前後するが、葉月との破局もそりゃ当然。だけど、ずっとはっきりしなかったのは葉月も同じだったんじゃ?と思わないでもない。なにしろ、年1冊の刊行なので、この2人がいつから恋仲だったのかも、ハテ。記憶が・・・・・?
読了日:10月15日 著者:成田 美名子

ヴィンランド・サガ(28) (アフタヌーンKC)ヴィンランド・サガ(28) (アフタヌーンKC)感想
新大陸の先住民の間にいきなり出現した黒死病(ペスト)おそらく、トルフィンの船から集落に入りこんだネズミが持ち込んだのだろう。歴史上の史実とはいえ、辛い現実だ。戦闘に明け暮れた少年の時代を経て、償いを決意したトルフィンの航路の到着地点で、この現実に直面するのは辛い。また、トルフィンが絶対に望まなかったとはいえ、鉄の武器が大陸の先住民にもたらされ、持ち込んだ当人は因果方法の目に遭う。これからどうなるのか、そしてトルフィンはどうするのか。
読了日:10月13日 著者:幸村 誠

ヴィンランド・サガ(27) (アフタヌーンKC)ヴィンランド・サガ(27) (アフタヌーンKC)感想
ネズミって伏線だったのか!フィンランドを出港するときからちょろちょろしていた彼ら。新大陸と旧大陸の出会いでもたらされたものは、新しい食物と伝染病。これらはコロンブス以降の話だと思っていたけど、当然人と物が交われば起こる話。友好したい者と、自分の身を守りたいもの。トルフィンの選ぶ手段はつねに「最初の手段」出港する前にもっと参加者を厳選したほうがよかったのかも・・・・
読了日:10月13日 著者:幸村 誠

ヴィンランド・サガ(26) (アフタヌーンKC)ヴィンランド・サガ(26) (アフタヌーンKC)感想
現地先住民との交流は続くが、先見の力を持つシャーマンは不吉な予感を手放せない。秘術を使って観た未来は、自然破壊、戦争、伝染病、先住民の衰退・・・・一方トルフィン達は初めての麦の収穫を迎え、ヒルドの設計した脱穀機が、仲間達の度肝を抜く。そして、村で初めて収穫した小麦で焼いたパンを手にして感無量なトルフィンに、ついにヒルドは赦しを与えた。
読了日:10月06日 著者:幸村 誠

ヴィンランド・サガ(25) (アフタヌーンKC)ヴィンランド・サガ(25) (アフタヌーンKC)感想
アレコレあって、ギョロもヴィンランド行きに追加。あれこれあって、ついに彼の地(現カナダ沿岸)に到達。ヒルダさん頭良いったって、天動説にひとり辿り付いているとはね。先住民との争いを避けて広い手つかずの土地を求めてさらにカナダ沿岸を南下。どうやらサン・ピエール・ミクロン島と本土の間を抜けて、日本人にもおなじみのかの島に到達。そして、先住民(ネイティブ・アメリカン)との出会いが。
読了日:10月06日 著者:幸村 誠

ヴィンランド・サガ(24) (アフタヌーンKC)ヴィンランド・サガ(24) (アフタヌーンKC)感想
故郷で、ヴィンランドへの移住の準備にかかるトルフィン。新しい土地に決して鉄の武器を持ち込むまいと考えるトルフィンと、武器を手放すことができない男達。そして鉄剣はひそかに持ち込まれる。あの戦争が大好きな大男にそっくりな奴隷、しかも「男の娘」だ。いろいろとブチ込んでくるなあ(笑)。そして、民会で移住団への参加を呼びかけ、だんだん準備が整ってくる。そしてあのシグやんがえらくカラっとした良い漢になって子連れで帰還。
読了日:10月06日 著者:幸村 誠

囀る鳥は羽ばたかない 9 (H&C Comics)囀る鳥は羽ばたかない 9 (H&C Comics)感想
気持ちが沿わないまま、ひたすら矢代の体をむさぼる百目鬼。お前はいったい、どうなりたいんだ〜〜〜!矢代は矢代でどうにも投げやりな感じだし。目も悪くなってるし、もう、いいかげんいろいろなものを投げてしまっていそうで、幸せな終わり方が想像できない。これからどうなっていくことやら。目が離せません。
読了日:10月06日 著者:ヨネダコウ


読書メーター

2024年10月31日木曜日

0516 水の都 黄金の国

書 名 「水の都 黄金の国 」
著 者 三木 笙子        
出 版 講談社 2016年7月
単行本 229ページ
初 読 2016年8月
再 読 2024年10月28日
ISBN-10 4062201518
ISBN-13 978-4062201513
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/123818050

舞台は明治期のヴェネツィア。どこか不思議な雰囲気が漂う異国舞台のバディもの。三木笙子さんのお話はどれもブロマンスってほど濃くはない。どこかほんのりしているけど、しかし、真情に溢れてる。
 東北の小藩の、下級武士の家の生まれの誠次郎は、跡取りでもないため、自分の身は自分で立てないとならない立場。時は明治で、学問をして何とか自分の身の立て方を考えようとまずは東京に出る。今身に付けるは語学、と自らの才覚と対人スキルで独学でイタリア語をものにし、ついでにイタリアでの語学教師の職に就く。その仕事は誠次郎より早く世に出て、官費でフランスとイタリアに留学し、ヴェネツィアで病を得て早逝した親友の清人の仕事を引き継ぐものだった。
 誠次郎の親友清人は、ヴェネツィアの人々に信頼され、強い印象を残していた。なかでも、誠次郎の下宿先の青年ルカは「キヨ」に心酔し、亡くなった清人をずっと偲んでいる。
 そんなルカと誠次郎の友情を横軸に、誠次郎のもとに持ち込まれる事件を縦軸に、そして今はなき清人の存在が通奏低音のように響くストーリー。

 なにしろ、誠次郎の性格が良い。もの凄く出来るってわけではないがちゃんと冴えていて、それなりに苦労もしてきて、おごらず、昂ぶらず、周囲の人のことをきちんと考える。地に足のついた誠実さ。ルカは、日本人が想像するイタリア人ぽくなくて(笑)、暗めで寡黙、ちょっと辛辣。今は亡き「キヨ先生」に心酔していて、亡くなった清人の記憶がだんだん遠くなっていくことを悼んでいる。一つ一つの事件は、そんなに大事件ではないが独りで抱えるには重たくて、それを受け止め、受け流していくには、やはり友が必要なのだ。

第1話 黄金の国
 偽金作りの悪党が、金貨の精巧な金型を手に入れて、金貨を作らせるために腕の良い鍛冶屋に目を付けた。しかし、そこで思わぬ事態が起こる。
第2話 水の都の怪人
 ヴェネツィアの町に、金貨をばらまく怪人が出現。街の人々はだんだん、熱狂が高まって行く。ルカと誠次郎が下宿する酒場(バーガロ)の主が大切にする絵に隠された謎。
 ヴェネツィアは何もない潟の上に人間が創った街である。そのためには沢山の杭を海に打ち込み、その上に建物を建てる必要があった。それが清人の心を捉えた。と誠次郎が言う。
「俺はそこに、人間の意志を感じるんだよ。海の上に美しい街を作りあげようとする人の意志を」
 私は、そこに、三木笙子さんの意志を感じる。何もないところに、美しい物語を創ろうとしている人の意志が伝わってくるように思うのだ。
第3話 錬金術師の夢
 小説家が創ろうとしたもの。それは物語ではなく・・・・・
第4話 新地動説
 夫婦でヴェネツィアを訪れていたアメリカ人夫婦。その夫がかき消すように失踪してしまった。・・・・ところからの、誠次郎の推理。
エピローグ
 もし夢が叶わなくても。在りし日の清人。夢が叶わなくとも不幸ではない。その夢はヴェネツィアの一部になるのだから。