出 版 東京創元社 2015年4月
単行本 256ページ
初 読 2024年9月26日
ISBN-10 4488017894
ISBN-13 978-4488017897
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/123326691
《文庫》
出 版 東京創元社 2017年9月
文 庫 284ページ
ISBN-10 4488421148
ISBN-13 978-4488421144
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/123369200
よかったのか?これで本当によかったのか!?
これから先、安西は親友であるはずの蓮のそばで、心穏やかに過ごすことができるのだろうか? なんだか不安だ。
一中(現・日比谷高校)から一高(現・東京大学教養学部)、東大法科大学と理想的なエリートの道を歩み、父と同じ検事になった安西ではあるが、その道は本人が心から望んだものであったかどうか。むしろ、母の呪縛によって敷かれたレールであったろうけど、安西は心情を語っていないので、本人がどのように自分の人生を受け止めていたのかは、判らないのだ。 ただ、検事の道を歩むことで、子供の頃には見ることのできなかった父の姿と相対することはできたのではないか。
そんな安西が検事の道を捨て蓮に従うことは、安西に何をもたらし、何を奪ったのか。
蓮は、策略によって、安西の心と人生を掠めとってしまった。連が安西と共に生きたいと願うこと自体は、悪いことじゃない。しかし、安西が自分と共に来るように仕向けるため、安西の心を操作したことは、やっぱりやってはいけないことだ、と私は蓮に言いたいよ。
しかし、この2人の行く末や関係については、あと一冊この後日譚の『怪盗ロータス奇譚』が残っているので、それを読んでから考えることにしよう。
さて、でもとりあえず、この作も連作形式なので、第一話から。
第一話 伴走者
安西省吾と、蓮の出会い。省吾が尋常小学校から尋常中学校に進学したところなので、13歳〜14歳というところか。省吾は麹町の自宅から、京橋区築地三丁目の第一中学校に歩いて通学している。ちなみに、都立日比谷高校沿革によれば、明治20年6月14日京橋区築地3丁目15番地に新校舎落成、移転とある。場所は調べきれなかったけど、築地本願寺や海軍兵学校があったあたりか。たぶん省吾が中学に通っていたのは明治20年代末くらい。なお、明治32年には中学校令が全面改正され、尋常中学校の名称が「中学校」に改称されている。
一方の蓮は、深川の米問屋で奉公しているという。頭の良さや育ちの良さを感じさせるが、尋常小学校を出た歳で奉公に出されたからには、生家が没落するなど、なにかあったのだろう。しかし蓮は自分の境遇にことさら不満もいわず、生気の塊が飛び跳ねるがごとく働き、その才気によってその歳で、すでに米問屋の主人にも一目おかれるようになっていた。省吾の通学と蓮の商売の道行きが交差する、日比谷のお堀端の柳の下の休息所で2人は出会った。母と2人の生活に鬱屈しがちだった省吾は、眩しいばかりの生気溢れる蓮と出会って、話をすることで、気鬱になりがちな単調な生活から救われていた。
一方の蓮は、深川の米問屋で奉公しているという。頭の良さや育ちの良さを感じさせるが、尋常小学校を出た歳で奉公に出されたからには、生家が没落するなど、なにかあったのだろう。しかし蓮は自分の境遇にことさら不満もいわず、生気の塊が飛び跳ねるがごとく働き、その才気によってその歳で、すでに米問屋の主人にも一目おかれるようになっていた。省吾の通学と蓮の商売の道行きが交差する、日比谷のお堀端の柳の下の休息所で2人は出会った。母と2人の生活に鬱屈しがちだった省吾は、眩しいばかりの生気溢れる蓮と出会って、話をすることで、気鬱になりがちな単調な生活から救われていた。
なお、この話で登場する「氷水屋」は氷を細かく砕いて砂糖水や蜜をかけた食べ物を売る行商で、当時はもう庶民に一般的になっていた。現代人が名前から想像する「こおり水」ではない。むしろかき氷に近いか。氷の商売は「世界記憶コンクール」の第二話にも出てくるが、氷にまつわる商いの変化も、明治らしい話だと思う。
しかし、この話の主題は、氷ではなく、米。米相場の話だ。
米相場の仕組みは、蓮の説明を読んで考えてもちょっと頭がこんがららってしまうが、米相場(米の先物取引)は、すでに江戸時代の享保15年(1730年)には幕府の公認を受けており、近代的な商品先物取引が制度として始まっている。日本は、黒船が来航して開国し、突然資本主義経済が流れ込んで社会が大変革したわけではなく、江戸時代から、着々と資本主義経済の母体となる商取引を成熟させてきていたからこそ、明治維新が成立しえたのだ。・・・・と、いうことなんかは、まあ、この話に出てくるものではなくて、まだ中学生くらいの年頃の蓮が、情報操作によって人心を動かし、当時米の買い占めによって急騰していた米相場に冷や水をぶっかけて、多くの人を助けた、という話。蓮の才気と、それを眩しく思い、彼の友人であることを幸せに思う省吾の、少年時代の話であった。
米相場の仕組みは、蓮の説明を読んで考えてもちょっと頭がこんがららってしまうが、米相場(米の先物取引)は、すでに江戸時代の享保15年(1730年)には幕府の公認を受けており、近代的な商品先物取引が制度として始まっている。日本は、黒船が来航して開国し、突然資本主義経済が流れ込んで社会が大変革したわけではなく、江戸時代から、着々と資本主義経済の母体となる商取引を成熟させてきていたからこそ、明治維新が成立しえたのだ。・・・・と、いうことなんかは、まあ、この話に出てくるものではなくて、まだ中学生くらいの年頃の蓮が、情報操作によって人心を動かし、当時米の買い占めによって急騰していた米相場に冷や水をぶっかけて、多くの人を助けた、という話。蓮の才気と、それを眩しく思い、彼の友人であることを幸せに思う省吾の、少年時代の話であった。
第二話 反魂蝶
少しさがって、第一話の数年後。
第一中学校在学中の省吾と、何をしているのかはちょっと判らない蓮が、奇術師の一翔斉天馬のもとを訪れる。天馬から蓮への相談事は、英国の銀行家、下院議員で著名な蝶のコレクターでもある準男爵の来日の受け入れ準備に端を発した騒動。人を騙し、山村の集落に混乱を持ち込んでまで日本の幻の蝶を追い求めた人物を探し出して、だまし取った金を返させたいというもの。
連と省吾の推理、そして蓮の奇術により、犯人を自白に追い込む。
蓮は、自分が特異な人間であり、それゆえに、孤独であることをすでに知っている。そして、省吾であれば、蓮と共に「走れる」であろうことを確信している。一方の省吾は、いずれ、能力の上でか、気持ちの上でかはわからないが、自分が連と一緒に走れなくなることを、すでに予感しているのだ。
さらに時が下がって、現代(というか、「帝都探偵絵巻」の時点)。
高広と礼、安西とロータス(省吾と蓮)、そして、明治初期の来日英国人で、浅草の凌雲閣を設計した人物とその友人の小説家。
それぞれの友情の物語が交差する。
怪盗ロータスが凌雲閣に侵入し、絵を盗もうとしたが失敗した————という記事を、雑誌記者の佐野がすっぱ抜く。
しかし、あのロータスが狙うような絵なのか? そもそもあのロータスがそんな失敗をするのか?と信じられない思いの高広。そして礼。しかも、誰にも言っていないが、高広はそれに先立ち、凌雲閣でロータスと会っていた。
一方の安西も高広を訪れ、自分がロータス逮捕の指揮を執ることを打ち明ける。
高広は佐野と協力して取材というなの捜査に当たることとなり、ロータスが再犯予告した日時に、凌雲閣に安西、高広、佐野が相対し、そこに礼が正面突破で乗り込んで来たところで、ロータスが動く。というところで、冒頭の感想に戻る。