2024年9月29日日曜日

0508 怪盗の伴走者

書 名 「怪盗の伴走者」 著 者 三木 笙子        
出 版 東京創元社  2015年4月
単行本 256ページ
初 読 2024年9月26日
ISBN-10 4488017894
ISBN-13 978-4488017897
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/123326691
《文庫》
出 版 東京創元社 2017年9月
文 庫  284ページ
ISBN-10 4488421148
ISBN-13 978-4488421144
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/123369200

 よかったのか?これで本当によかったのか!?
 これから先、安西は親友であるはずの蓮のそばで、心穏やかに過ごすことができるのだろうか? なんだか不安だ。

 一中(現・日比谷高校)から一高(現・東京大学教養学部)、東大法科大学と理想的なエリートの道を歩み、父と同じ検事になった安西ではあるが、その道は本人が心から望んだものであったかどうか。むしろ、母の呪縛によって敷かれたレールであったろうけど、安西は心情を語っていないので、本人がどのように自分の人生を受け止めていたのかは、判らないのだ。 ただ、検事の道を歩むことで、子供の頃には見ることのできなかった父の姿と相対することはできたのではないか。
 そんな安西が検事の道を捨て蓮に従うことは、安西に何をもたらし、何を奪ったのか。

 蓮は、策略によって、安西の心と人生を掠めとってしまった。連が安西と共に生きたいと願うこと自体は、悪いことじゃない。しかし、安西が自分と共に来るように仕向けるため、安西の心を操作したことは、やっぱりやってはいけないことだ、と私は蓮に言いたいよ。
しかし、この2人の行く末や関係については、あと一冊この後日譚の『怪盗ロータス奇譚』が残っているので、それを読んでから考えることにしよう。
 さて、でもとりあえず、この作も連作形式なので、第一話から。

第一話 伴走者 
 安西省吾と、蓮の出会い。省吾が尋常小学校から尋常中学校に進学したところなので、13歳〜14歳というところか。省吾は麹町の自宅から、京橋区築地三丁目の第一中学校に歩いて通学している。ちなみに、都立日比谷高校沿革によれば、明治20年6月14日京橋区築地3丁目15番地に新校舎落成、移転とある。場所は調べきれなかったけど、築地本願寺や海軍兵学校があったあたりか。たぶん省吾が中学に通っていたのは明治20年代末くらい。なお、明治32年には中学校令が全面改正され、尋常中学校の名称が「中学校」に改称されている。
 一方の蓮は、深川の米問屋で奉公しているという。頭の良さや育ちの良さを感じさせるが、尋常小学校を出た歳で奉公に出されたからには、生家が没落するなど、なにかあったのだろう。しかし蓮は自分の境遇にことさら不満もいわず、生気の塊が飛び跳ねるがごとく働き、その才気によってその歳で、すでに米問屋の主人にも一目おかれるようになっていた。省吾の通学と蓮の商売の道行きが交差する、日比谷のお堀端の柳の下の休息所で2人は出会った。母と2人の生活に鬱屈しがちだった省吾は、眩しいばかりの生気溢れる蓮と出会って、話をすることで、気鬱になりがちな単調な生活から救われていた。

 なお、この話で登場する「氷水屋」は氷を細かく砕いて砂糖水や蜜をかけた食べ物を売る行商で、当時はもう庶民に一般的になっていた。現代人が名前から想像する「こおり水」ではない。むしろかき氷に近いか。氷の商売は「世界記憶コンクール」の第二話にも出てくるが、氷にまつわる商いの変化も、明治らしい話だと思う。

 しかし、この話の主題は、氷ではなく、米。米相場の話だ。
 米相場の仕組みは、蓮の説明を読んで考えてもちょっと頭がこんがららってしまうが、米相場(米の先物取引)は、すでに江戸時代の享保15年(1730年)には幕府の公認を受けており、近代的な商品先物取引が制度として始まっている。日本は、黒船が来航して開国し、突然資本主義経済が流れ込んで社会が大変革したわけではなく、江戸時代から、着々と資本主義経済の母体となる商取引を成熟させてきていたからこそ、明治維新が成立しえたのだ。・・・・と、いうことなんかは、まあ、この話に出てくるものではなくて、まだ中学生くらいの年頃の蓮が、情報操作によって人心を動かし、当時米の買い占めによって急騰していた米相場に冷や水をぶっかけて、多くの人を助けた、という話。蓮の才気と、それを眩しく思い、彼の友人であることを幸せに思う省吾の、少年時代の話であった。

第二話 反魂蝶 
 少しさがって、第一話の数年後。
 第一中学校在学中の省吾と、何をしているのかはちょっと判らない蓮が、奇術師の一翔斉天馬のもとを訪れる。天馬から蓮への相談事は、英国の銀行家、下院議員で著名な蝶のコレクターでもある準男爵の来日の受け入れ準備に端を発した騒動。人を騙し、山村の集落に混乱を持ち込んでまで日本の幻の蝶を追い求めた人物を探し出して、だまし取った金を返させたいというもの。
 連と省吾の推理、そして蓮の奇術により、犯人を自白に追い込む。

 蓮は、自分が特異な人間であり、それゆえに、孤独であることをすでに知っている。そして、省吾であれば、蓮と共に「走れる」であろうことを確信している。一方の省吾は、いずれ、能力の上でか、気持ちの上でかはわからないが、自分が連と一緒に走れなくなることを、すでに予感しているのだ。

別名「浅草十二階」基本設計者は英国人技師のウィリアム・
K・バートン。内部には日本初の電動式エレベーターが設置
され、また電話の宣伝のため各界に電話設備も設けられた。
第三話 怪盗の伴走者
 さらに時が下がって、現代(というか、「帝都探偵絵巻」の時点)。
 高広と礼、安西とロータス(省吾と蓮)、そして、明治初期の来日英国人で、浅草の凌雲閣を設計した人物とその友人の小説家。
 それぞれの友情の物語が交差する。
 怪盗ロータスが凌雲閣に侵入し、絵を盗もうとしたが失敗した————という記事を、雑誌記者の佐野がすっぱ抜く。
 しかし、あのロータスが狙うような絵なのか? そもそもあのロータスがそんな失敗をするのか?と信じられない思いの高広。そして礼。しかも、誰にも言っていないが、高広はそれに先立ち、凌雲閣でロータスと会っていた。
 一方の安西も高広を訪れ、自分がロータス逮捕の指揮を執ることを打ち明ける。
 高広は佐野と協力して取材というなの捜査に当たることとなり、ロータスが再犯予告した日時に、凌雲閣に安西、高広、佐野が相対し、そこに礼が正面突破で乗り込んで来たところで、ロータスが動く。というところで、冒頭の感想に戻る。
 




2024年9月23日月曜日

0507 人形遣いの影盗み

書 名 「人形遣いの影盗み」
著 者 三木 笙子       
出 版 東京創元社 2011年2月
単行本 246ページ
初 読 2011年2月
ISBN-10 4488017665
ISBN-13 978-4488017668
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/123233952
《文庫》
出 版 東京創元社 2013年9月
文 庫  316ページ
ISBN-10 448842113X
ISBN-13 978-4488421137


 明治40年代を映しとった短編連作「帝都探偵絵巻」の3冊目。このシリーズの初読は10年以上前(新刊だった頃)なのだけど、そのときよりも、再読した今のほうが感動が大きい。ミステリータッチではあるが、謎解きよりも、人々の優しさや、良かれと思った気持ちがすれちがったとき心に堪える淋しさ・哀しさや、それを埋めよう、癒やそうとする人間模様に、切なさを感じる。なにより、人は誠実に、真摯に生きるべきなのだというメッセージがある。著者の三木笙子さんの生真面目な心ぶりを感じる。一篇一篇が美しくて、それぞれに味わいがある。

第一話 びいどろ池の月
 邸内に水を引き込んで作った池の周りに部屋や渡り廊下を配し、水郷の雰囲気にガラスをふんだんにあしらった茶屋は、想像するだにどこか異国情緒が漂う、妖しい異世界のようだ。束の間、世知辛い世の中を離れて茶屋に遊ぶ男たちともてなす芸妓、池に沈んで密かな光を映すびいだま。三味線の弦を撥がはじく硬質な音や、芸妓の唄声、興の乗った客の声が映画の背景のごとく聞こえてくる。
 事件は芸妓の花竜の目を通して、初め散漫として捉えどころがないが、礼と高広が種明かしをするに及んで、スッキリとまとまった姿を見せる。ラストの親子の会話のきりりとした心情が良い余韻を残し、父のセリフの切なくほろ苦い後味が良かった。

第二話 恐怖の下宿屋
 帝都一の下宿屋は、泥棒などの犯罪者にとっては恐怖の下宿屋でもあった、と。いながらにして犯罪者に自主させる高広の下宿の大家、桃介さんの話。茄子づくしの食事がとにかく美味そうだ。礼は果たして本当に高広に会いにいったのか?? 腹が減ってただけのような気がするぞ?

第三話 永遠の休暇
 松平家のお家騒動、というか兄弟愛。ちょっと風呂敷が広すぎて、頭が付いていかなかったけど、実際ご長男はどこにいるのだろう。それにしても描く絵に自分一人しかいない絵。しかもそんな絵ばかりとは。本棚の中はロビンソン・クルーソーだけ。この人の孤独を思う。実際のところ島流しであるし、なにも謎ではなく、ただ、隠したかっただけ。と、同時に礼の恩師である洋画家、嵯峨画伯の選択。礼の絵が日本画でも油彩画でもなく、アールヌーヴォーのデザイン画であることを知る。たとえば、一條成美(いちじょう せいび)のようなイメージだろうか。

第四話 妙なる調べ奏でよ
 礼が詐欺師に騙されている? 高広の過保護パワーが炸裂するこの話。礼は騙された訳ではなく、騙されたかった。美しい話、心躍る夢にひととき身を委ねたかったのだ。礼の気持ちが切ない。この話は大好きだ。いっそのこと、ホームズの翻訳版権を至楽社でとってしまえよ。高広が翻訳して、礼が挿絵を描いて、帝都マガジンで連載してしまえよ!!と思ったのは私だけではないはず。 実際には、シャーロック・ホームズは明治30年代にはぼちぼちと翻訳され、日本でも紹介されていたようだが、登場人物が日本人に置き換えられていたり、日本人にも読みやすいように翻案されていたりしたらしい。もし帝都マガジンで連載していたら、きっとドル箱になったのに。残念だ。

第五話 人形遣いの影盗み
 ジャワの影絵芝居、ワヤンクリが題材。ロータスが登場。
 ジャワの影絵人形師は黒魔術の使い手でもあり、影に宿った人の魂を抜き取って、その人を呪い殺してしまう。そんな思い込みに捕らわれた御婦人が、高広の義母に相談し、相談を受けた妻の名誉を重んじた高広の義父が、高広に解明を依頼する。なぜか、礼とセットにして。
 突然高広の下宿に酒瓶片手に訪れて、妻の女心が判らん、と愚痴をいう高広父が、相変わらずかわいい。事件の仕掛けそのものは、かなり大がかりでそれをする意味があるのかな?とかもうちょっと合理的で確実な手があるのでは、などとつい思ってしまうが、そこに突っ込むのは無粋。これはロータスの舞台なので、派手になるのは致し方ないのだと理解する。

第六話 美術祭異聞 ※この話は文庫本とKindle版のみの収録
 ふたたび、森恵くんと友人の唐沢君が登場。美術学校で久しぶりに開催される美術祭の係になったという2人が、至楽社の高広と礼のところに、学校当てに届いた脅迫状についての相談を持ち込む。友情とライバル意識と芸術を愛する心。だしにされた恋心がちょっと可哀想だが、それが次の愛に代わってくれたら、と願わないでもない。

2024年9月19日木曜日

0506 世界記憶コンクール

書 名 「世界記憶コンクール」
著 者 三木 笙子     
出 版 東京創元社 2009年12月
文 庫 240ページ
初 読 2009年12月
ISBN-10 4488017584
ISBN-13 978-4488017583
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/123170646
《文庫》
出 版 東京創元社 2012年5月
文 庫  300ページ
ISBN-10 4488421121
ISBN-13 978-4488421120

 心優しい貧乏人の雑誌記者の里見高広(実は出自は良い)と、美人画を得意とする超売れっ子で当人も絶世の美男である絵師の有村礼(性格はワガママ)のコンビが織りなす時は明治の探偵絵巻。なかなか性格のよろしい高広の養父(里見基博司法大臣)もちょくちょく登場する準レギュラーでこれまた良い感じだ。ミステリー調ではあるが、主題は人の優しさと人の世の切なさ。キャラやストーリーもさることながら、描き出される当時の時代感がとても良い。様々な職業や市井の生活のありようなんかが、とても雰囲気よく描かれている。三木笙子さんは丁寧に考証されているのだろうと思う。

第1話  世界記憶コンクール
 高広行きつけの質屋「兎屋」の息子はたぐいまれなる記憶力の持ち主だった。その息子のもとに父である質屋の店主が不思議なチラシを持ってくる。曰く記憶力の持ち主求む・・・・
 突飛な条件で人を集め、その裏で何が行われようとしているのか。高広のもとに持ち込まれた相談に、「さあ謎を解け!」と目をきらきら輝かせる礼。話を聞いていくと、その礼にも想起されるものがあった。『赤髪連盟』。礼が熱愛するシャーロック・ホームズの中の一話である。

第2話 氷のような女
 高広の養父である、里見基博の若かりし頃の物語。妻のよし乃の出会いの物語。当時の氷売買の様子なんかが詳しい。あの時代に北海道から天然氷を輸送していたのを知って驚き。調べて見ると、そもそもは明治の初めは外国人居留地で氷の需要があり、米国から輸入していたという(通称「ボストン氷」)から更に驚く。このあたりは、この話に触発されて調べたらニチレイさんのHPのコラムに詳しかったのでご参照あれ。→https://www.nichirei.co.jp/koras/ice_history/001.html 
 で、ストーリーの方は、なんとも生臭い、というか、悪人が悪人らしくてイヤだわ〜。基博が志高く政治家を目指しているのがとても気持ち良い一方で、ダメな奴はやはり、どこにでも、いつの世にもいるのだな。ラストで「誤解なんだ」とむくれる司法大臣の里見基博が、歳月を重ねてもラブラブなのが微笑ましい。
 そして、もう一つ、史実として大いに驚きだったのが、基博が司法大臣となった話中の30年後、つまり明治40年代には、すでに機械製氷が主流となっていたとの記述。時代の流れの速さと技術革新のスピードを知り、改めて驚嘆した。その当たりの流れもニチレイさんのHPのコラムが詳しい→
 あらためて、明治という時代のすごさを感じる。

第3話 黄金の日々
 『人魚は空に還る』の中の一話『点灯人』の森恵(もりさとし)君主役の話。苦労人の恵も晴れて上野の美術学校の予科生になり、学友たちと切磋琢磨の日々を送っている。学生時代のキラキラとした輝きそのもののような日々はまさに《黄金の日々》。恵を応援する大人たち、礼と高広も恵の学生生活が嬉しそう。青春って麗しい。
  
第4話 生人形の涙
 生人形(いきにんぎょう)って、非常にリアルですごい。あれ、木彫りで作ってるんだろうか。それとも乾漆? 粘土? それとも紙と糊? 電気機械商の南金六町の先代で、からくり人形製作にハマっていたというのは、多分東芝の創業者のことだよね。
 ラストの話の放り投げっぷり、というか余韻のある終わり方は、とても三木笙子さんらしい。この話が、高広と礼の出会いであるよう。
広重 名所江戸百景 竹河岸
 
第5話 月と竹の物語 ※文庫本とKindle版に収録
 銀座の尾張一丁目の小間物屋・・・・といっても、珊瑚細工や金工品などの高級装飾品を扱う「なよ竹」が、店頭広告のために礼のかぐや姫の絵姿を描いてもらった。礼が高広に語るには、いつになく制作に力が入ったらしい。といっても、礼が心血を注いだのはかぐや姫ではなく、その背景の竹であるとのこと。隅田川の河岸にある竹問屋の「武豊」に通い詰め、何度も習作を重ねたようだ。
 店頭のショーウィンドに飾られたかぐや姫の絵の足元には、物語によせた竹の切り株。その中にはなんと金塊が飾られた。
 その礼の絵の前に居座りぼーっと絵に魅入る男が一人。
 やがて、事件が起こる。
 例によって、さあホームズ、解決するのだ!とばかりに迫られる高広(笑)・・・・何しろ、礼の絵もさることながら、本物の金塊を飾ったのかと、それが驚きだ!
 銀座探訪の素敵なHPを見つけたのでご紹介。「銀座公式Webサイト」のコラムです。オススメです。

2024年9月17日火曜日

0505 五歳で、竜の王弟殿下の花嫁になりました 4

書 名 「五歳で、竜の王弟殿下の花嫁になりました  4」
著 者 須王 あや       
出 版 TOブックス  2024年9月
単行本 336ページ
初 読 2024年9月6日
ISBN-10 4867943029
ISBN-13 978-4867943021
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/122918421

 なんと、アップするのを忘れていたので、遅ればせながら記事を上げる。
 異世界転生・年の差・魔法・ラブラブほのぼのファンタジーの4巻目です。愛しく可愛いレティシア5歳と、それはそれは神々しいまでにお美しい王弟殿下17歳の年の差カップル。とはいえレティシアの中の人は27歳元OLだったりするため、さほどの精神年齢の差はない模様。この作品も私の心の絆創膏。

 王太后陛下の勘気を被ったのを口実に、フェリスの領土であるシュヴァリエに引きこもり、年に1回の薔薇祭を楽しむ二人だったが、ちょっとフェリスが王都の様子が気になったりしたため、こっそりお忍びで戻るフェリスにレティシアも同行。そうしたら、なんと、フェリスの目を掠めるように、レティシアが誘拐されてしまい。
 危機一髪ではありますが、とにかくフェリスが圧倒的力量なんでさっさと事態は収束。リリア神の拗れたやきもちが事態を悪化させてる。今後、この調子で登場人物ならぬ神様が増えていくのだろうか。人界も神界もなんだかこれからゴタゴタしそうな予感。

 これからどういう風に展開するんでしょうね? ふんわりラブラブで結婚式まで行くのか、大事件が起こって竜王陛下も顕現してスペクタクルー!って感じになるのも楽しそうですが。続きが楽しみです。(個人的には、フェリス様に竜体になってみてほしい。)

2024年9月16日月曜日

0504 人魚は空に還る

書 名 「人魚は空に還る」
著 者 三木 笙子    
出 版 東京創元社 2008年8月
単行本 231ページ
初 読 2009年12月
ISBN-10 448801738X
ISBN-13 978-4488017385
《文庫》
出 版 東京創元社 2011年10月
文庫 ‏ : ‎ 298ページ
ISBN-10 4488421113
ISBN-13 978-4488421113

初読は2009年なので15年ほど前。彼女の「世界記憶コンクール」が出版された時にたぶん、同時に読んでいる。実は「世界記憶コンクール」の方を先に読んだ記憶があり、そっちの方が先に刊行されていたと記憶違いをしていたが、この「人魚は空に還る」が三木笙子さんのデビュー作である。
 三木さんは、明治時代の風物やとくに職業や産業の様子を詳しく書かれるので、この本を読んでいると、時代設定が明治のいつ頃なのか、明治はどういう時代だったのか、当時どれほど早く、東京という街が発展したのか、などなどいろいろと知りたくなってくる。そんなわけで、明治時代の年表やら、とくに活版印刷や西洋出版の発展がどのくらい早かったのか、やらをいろいろと調べながらの読書になった。(それらは別のノートにまとめる予定。)なにしろ、先日『小公子』を読んだ際に、かの小説が明治13年(1880年)には日本で翻訳され、雑誌に連載されていたと知って、驚愕したことろだったので。
 なお、この本の5章「何故、何故」で登場する絵双紙のように、この国では江戸時代からすでにカラー刷りの読み物の文化があり、明治の頃の雑誌も、当初から表紙はカラー印刷が多かったようだ。だからこそ、礼の絵の需要もあると言うもの。
 登場人物は、絶世の美男で、美人画を得意とする超絶売れっ子絵師である有村礼と、その友人であり(ほとんど下僕(笑)状態の)雑誌記者、里見高広、という二人の良い男。短編連作である。
 作品の中の既述から、時代が明治40年代初めであることが判る。

京都工芸繊維大学が2019年に開催した展覧会の
チラシ。草の根のアール・ヌーヴォー 明治期
文芸雑誌と図案教育』
 有村礼はコナン・ドイルのシャーロック・ホームズに耽溺しているが、自分では英語を読めないため、高広に逐次翻訳して読み聞かせてもらっている。その代わり、高広の勤める雑誌に格安で表紙絵や挿絵を描いてやっている。高名な絵師である有村礼が、弱小出版社に格安で絵を描いてくれている、という一見割にあわない取引に初めは引け目をかんじていた高広だったが、やがて、礼から友人と見做されていると知り、だんだん二人の関係も馴染んでくる。
 しかし、礼のほうでは、巷間で事件が発生すると、高広にホームズ役になって事件を解決することを要求し、自分はワトソンを気取る、というのが高広にとっては困りもので・・・・ホームズパスティーシュとも言えるかな。
 
第1話 点灯人
 高広の勤める雑誌社(至楽社。といっても、人員は社長兼編集長の田所と記者の高広のみ。)に、尋ね人の広告掲載を求めて小学校4年生の少女が訪れる。行方が知れないのは彼女の兄、府立第三中学(旧制中学なので、現在だと高校生)16歳。ちなみに旧制府立第三中学は、現都立両国高校。
 ※当時の学制は、尋常小学校6年→中学校5年→高等学校3年(大学予科・現在の大学一般教養課程に相当)→大学という流れ。
 彼女の兄である森恵(さとし)は、素晴らしい彫刻の才能を持っていて、最近広告図案の公募で一等賞をとり、大金の賞金を手にしたばかりだった。高広は、編集長で有る田所の安請け合いで、人捜しをすることになる。

第2話 真珠生成
 金魚売りから買い求めた金魚鉢の鉢底石の中から、大粒の真珠が見つかった。それは先頃、老舗の真珠店である銀座の美紀本店から盗難した、三粒の真珠のうちの一粒だった。美紀が残る二粒の真珠の行方に懸賞金をかけたことから、世間は俄に真珠探しに沸き立つ。そして、なぜ、どうやって真珠が盗まれたのか、たまたま、真珠の盗難に高広の父が居合わせたこともあり、高広と礼は真珠の行方を追う。
 「真珠」の持つ美とはなんなのか。美の価値とはなんなのか。未熟な人間である自分は、いつか、そういう美しい価値を身に纏うことが叶うのか・・・・
 謎解きよりも、そのような希求が、胸にくるものがある。

第3話 人魚は空に還る
 浅草の見世物小屋にかかった芝居が世間の評判を攫う。なんとしたら、生きている人魚を展示する芝居だったからだ。やがて、人魚の不老不死伝説にちなんで、「人魚水」なる化粧水が飛ぶようにうれるようになり、あろうことか八百比丘尼伝説を信じ込み、人魚を食わんとするものまで現れて・・・・
 人魚は空に還りたい、と望み、アンデルセンの童話のように、海の泡ならぬ空の泡になる。

第4話 怪盗ロータス
 芸術品を好んで盗み、その現場に小さな睡蓮の木彫りを残すことから巷で『睡蓮小僧』と名付けられた盗賊はその命名がいたくお気に召さず『怪盗ロテュスと呼びたまへ』と新聞社に手紙を寄越した。フランス語のロテュスはさすがに呼びにくいので、英語読みにして『怪盗ロータス』と呼ばれるようになった一風変わった盗賊は、まるでアルセーヌ・ルパンのよう・・・。
 怪盗ロータスと検事の安西、初出。

第5話 何故、何故 (文庫・電子書籍のみ掲載)
 文庫化されたときに追録された小品。ボーナストラックみたいなもの? 高広は礼とともに、礼の大叔父である絵師、歌川秀芳の住まいを訪ねる。元は武家の長屋だったという叔父の新しい住まいは大川端にあり、その居間からは川面が見渡せるはずだったが・・・・・
 大叔父宅の川向こうの質屋で起こった盗賊騒ぎの顛末を、ついうっかり高広が推理する。

《追記》
 この人の小説を読んでいると、心を削るようにして文章を紡いでるのではないか、と心配になることがある。書いているご本人が、強く強く、物語を書く、ということに希求するものがあるのだと、その言葉や行間から感じるからだ。 
 一言に小説といっても、非常に職業的に、技術的に書いていると思える作家さんもいるし、心の奥底から魂を紡ぐようにして書いていると思える作家さんもいる。そういう作家さんの文章は、誠実で美しく、泣きたいほど優しかったりする。この繊細な作家さんは魂を削りすぎて、体調を崩してしまわないかと心配になる。どうか、元気でこれからも作品を生み出してほしいと願っている。

2024年9月15日日曜日

0503 青い鷹 〜私を創った本2〜

書 名 「青い鷹」
原 題 「The Blue Hawk」1976年
著 者 ピーター・ディキンソン    
翻訳者 小野 章    
出 版 偕成社  1982年12月
単行本 353ページ
初 読 1980年代のどこか
ISBN-10 4037262207
ISBN-13 978-4037262204
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/61065539


 中学校の図書館にあった本。
 古代エジプトの王と神官と神の化身である鷹の物語として記憶に残っていたが、実際は、古代エジプトに着想した、架空の神権国家で王政改革を試みる若い王と、鷹の神に捧げられた鷹(王の命の憑代?)を逃がしたことによって、王(若い王の父・先王)の復活を阻んだ神官見習いの少年の友情の物語。実はあまり詳細を覚えていないので、そのうち再読したら、記録を更新したい。
 中学にいるうちに、何回か再読し、ずっと心に残っていて、いつか読み直したいと思っていた。
 インターネットで古書の検索が容易にできるようになって、やっと入手することが叶った。
実は書籍にしては相当な大金をはたいた。それだけの価値はある一冊。

0502 べにはこべ 〜私を創った本1〜

書 名 「べにはこべ」
原 題 「The Scarlet Pimpernel」1905年
著 者 バロネス・オルツイ    
翻訳者 村岡 花子

※以下の書誌情報は文庫本のもの   
出 版 河出書房新社 2014年9月
文 庫 442ページ
ISBN-10  4309464017
ISBN-13 978-4309464015
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/60233713  




※以下は初読時の単行本の情報
書 名「若い人たちのための世界名作への招待3 べにはこべ」
出版社 ‏ 三笠書房  1967年9月
初 読 1970年代某日

 読んだのは多分小3〜4の頃。
 当時『ベルサイユのばら』に傾倒していた私に、父がそっと差し出した一冊。子供なりにフランス革命辺りの読み物とか、フランス関連の本をあさってたのだが、父がモノには両面がある、といって、フランス革命を裏から観る(おちょくる)この本を貸してくれた。その時点で、カバーは無く、左の書影の状態だった。
 多視点で物事を見ることの大事さを教えてもった。以来の愛読書。色々な方の翻訳が出ているが、上の河出書房新社の文庫は、村岡花子氏の訳で、同じ本です。パーシー、マルグリット、アンドリュー、ショーブランといった人名表記がバーシイ、マーガリート、アンドリュウ、ショウブランだったりと古くさく、セリフ回しも今風の翻訳ではないが、やはり、村岡花子氏の翻訳は味わい深い。

《あらすじ》
 時は1792年。英国。対岸のフランスではフランス革命の真っ最中。フランスはロベスピエールの独裁状態で、ただ貴族であったり王党派であったりするだけで、革命裁判にかけられギロチン送りにされ、フランス各地で血の雨が降っていた。
 そんな中、ある英国人の義賊が見事な変装と鮮やかな手口でフランス貴族を救出し、英国へ亡命させていた。彼らが残していった小さな小花の紋章から、彼らは「紅はこべ」と呼ばれるようになっていた。
 元フランス人女優であったマルグリットは、最初こそ革命を支持していたが、その成り行きが血生臭くなるにつれ革命が疎ましくなり、女優を引退してイギリス貴族と結婚し、イギリス社交界の花形となっていた。彼女の夫であるパーシー・ブレイクニー卿は、愚鈍ではあるがイギリス社交界のファッションを牽引する洒落者の大富豪で、イギリス王太子の親友でもあるという貴族であり、フランス人であったマルグリットと大恋愛の末結婚したのだ。
 しかし、結婚初夜、マルグリットはかつて、とあるフランス貴族を告発しギロチン台に送ったことを夫となったパーシー卿に告白したことにより夫に嫌悪されるようになり、冷え切った失意の結婚生活を送っていた。
 
 イギリス社交界の華の表の姿とは裏腹に空虚な結婚生活を送っていたマルグリットに、在英フランス大使であるショーブランが近づく。ショーブランは「紅はこべ」を追っており、マルグリットの最愛の兄であるアルマン・サンジュストの命と引き換えに「紅はこべ」の正体を突き止め、ショーブランに密告するよう脅迫した。
 
 マルグリットはやむなく、紅はこべ団のメンバーであると目されたアンドリュー卿のメモを盗み見て、首領との接触の場所をショーブランに密告した。しかし、マルグリットは紅はこべの首領を危機に陥れたこと、それと兄アルマン・サンジュストが危機に瀕していることに苦悩して、自分の苦境をパーシーに打ち明ける。
 パーシーはアルマンの救出をマルグリットに約束し、翌日、突然屋敷を出立した。後に残ったマルグリットは、ふとした好奇心から夫の書斎に忍び込み、自分の夫が、かの紅はこべであることを確信したのだった。

 以下、フランスに密航した紅はこべことバーシー卿を救うため、マルグリットはアンドリュー卿を従えてフランスに渡り・・・・という冒険活劇が繰り広げられます。

なお、NHKBSで放映した英BBSのドラマシリーズ(1999年作成)も最高です。リチャード・E・グラントのパーシー・ブレイクニーが最高。
また、同じく英国で1982年に制作されたドラマシリーズも素晴らしい出来だそうです。むしろ、英国ではそちらのドラマのほうが有名とか。見てみたいです。

 

今日はこれから悪口を書く

 東芝のエアコン。大清快(だいせいかい)である。
 これから私はこの製品をこき下ろすレビューを書くつもりなので、そういうのがイヤな人はぜひ、読まないでほしい。

 2年前の夏に、おそらくは熱中症の影響もあり、突然認知症になった母。様子がおかしいとの知らせで久しぶりに様子を見に行くと、母は30℃を超える室温の中、部屋の窓とカーテンを閉め切った状態で生活しており、炊飯釜の中のご飯は腐っていた。(ちなみにエアコンは設置されていたが、使用されていなかった。)
 それからばたばたと、介護保険の利用を開始したり、見守りの体制を整えたのはこれまでに既述のとおり。そして、その次の夏の到来に備え、昨年の6月に、母の家のエアコンを一新した。

 購入の条件は、自分では室温管理できない母の熱中症死防止のため、エアコンをスマホでリモートコントロールできること。いわゆる「スマート家電」である。

 各社の上位機種であれば、だいたい似たような機能はあるだろうと思い、あまり商品レビューなどは確認せず、ヨドバシカメラで現品とカタログを見比べて購入した。結果的には失敗だった。もっときちんと下調べするべきだった。

 正直、日立、東芝、ダイキン、三菱・・・・エアコンであれば、このあたりから選べばそう性能に違いはないだろう、と思っていた。
 そして結果的に購入したのが、東芝の〈大清快〉の最上位機種である。
 なぜ、東芝になったかと言えば、たまたま売り場にいたのが東芝の販売促進員だったからだ。
 Wi-Fi対応、タイマー運転は必須。販売員の説明を聞いて良いと思ったのは、無風感ルーバーなる機能があることと、オートクリーン機能があることだった。
 だがしかし。これが大ハズレだった。
 (ちなみに比較の対象は自分の家に設置している日立の〈白くま〉。こちらには何ら不満はない。)
 では以下に、この東芝製品を買って失敗だった、と思う理由を列挙する。

① 弱風でも風が強く、動作音がうるさい_| ̄|○
 一番弱風の運転にしても、かなり吹き出しが強い。最弱でも、12畳程度の部屋のエアコンとは反対側の壁に掛けてあるカレンダーのページがひらひらする程度に風が強い。そして動作音(風の吹き出し音)がうるさい。母は高齢者の例にもれず、エアコンの冷風が嫌いだ。できるだけ静かに、あるかなきかに部屋を冷やしたかったのに、それが出来ない。

② 無風感ルーバーは使えない_| ̄|○
 期待していた無風感ルーバーが、思いっきり期待外れだった。
 静かで無風な運転になるものだと期待していたのだが、そうではない。結構な風量を、穴あきのルーバーにぶつけるため、それなりの強風が室内に吐き出される。おまけに、このモードのときには風量調節ができない。結果、うるさく、風が強い。期待外れもいいところだった。

③ 除湿運転の時に風量調節ができない_| ̄|○
 文字通り。除湿運転にすると、風量は自動になってしまい、つまり、風が強くて使えない。

④ 温度のコントロールが悪い_| ̄|○
 まず、本体が表示する室内温度が、実際の室温とは全然違う。多分、温度センターはエアコン本体に付いているだろうから、エアコン本体の位置の室温を表示しているのだろう。当然エアコンは天井近くに設置されているから、温度はエアコンを稼働していないときには高く、エアコンが冷えれば低くなる。
 その結果、エアコンで温度を設定しても、その室温にはならない。
 たとえば、28.5℃設定で冷房運転しても、室温は26℃〜28℃以上を上下する。(自分の家の日立の白くまは、たとえば27℃で温度設定すると、だいたい室温はその温度で一定する。賢い子だ。)
 結局、遠隔で室温を管理するために、Switchbotの温湿度計を2台設置して、室温監視することになった。Switchbotにエアコンのリモコンをリンクさせて、エアコンのコントロールまで自動化することも可能だが、そこまではしていない。そこまで機械に任せきりにすると、万が一Wi-Fiがダウンしてリモートコントロールが利かなくなったときに気付くのが遅くなり、致命的な事態になりかねないことを案ずるからだ。

⑤ 表示ランプが邪魔_| ̄|○
 エアコン本体の表示ランプがうるさい。
 これは、東芝に限らず、全社のエアコンにあるだろうし、エアコンに限らず大抵の家電に付いているだろうとは思うのだが。
表示ランプの上に黒と白の
ビニールテープを重ね貼りしてます。
 認知症の母は、電気が通電していると、「火事になるのが怖い」と思ってなんとしても電源を切ろうとする。また、頭の中が昭和に戻っているので、とにかく電気がもったいない、と節電行動に走る。度々、母がエアコンのコンセントを抜こうとしてコンセント周りの破壊行為に及ぶのは、エアコンの通電表示が気になってしまうからだ。(現在は、通電、Wi-Fi動作、予約のランプは常に点灯していて、これに加えて運転中は運転ランプが点く。) これは仕方がないとしても、せめてランプOFFの機能は付けて欲しかった。
 ランプを強弱切り替える機能はあったが、弱にしても明るさに大差なく、ほぼ意味をなさなかった。仕方ないので、もう、物理的にランプに目隠しした。せめて、表示が消せるようにしてくれ。

⑥ 自動クリーニング運転が不快_| ̄|○
 冷房運転を止めると、自動クリーニング運転が始まる。この際に、かなりの湿気とともに、室内に排熱する。つまり、冷房で部屋が冷えたからクーラーを止めよう、と思うと、クーラーに室内を暖められてしまう。熱交換器内のカビを防止する機能であり、各メーカーに同様の機能があるとはいえ、自分の家の日立エアコンで、排熱が気になったことはない。東芝エアコンのこの機能は、相当に不快だ。

 結論として、もう二度と、東芝のエアコンは買わない。
 なんというか、繊細さがないんだよ。きっと細かいことには気が回らない大雑把でおおらかな男(多分に偏見が入っていることは自覚している。)が開発したんだろう、と思っているよ。(私の中では、ラグビー選手みたいにデカくて、筋肉量と発熱量が多くて、強めな送風をものともせず、冷えすぎな室内を快適に感じるおおらかな大男のイメージ。)

 なーにが大正解だ。大失敗だよ_| ̄|○

 ちなみに、以上の不満は冷房運転の時である。
 昨冬、ワンシーズン暖房も使用したが、大きな不満はなかったことを申し添える。早く冬来い!

2024年9月13日金曜日

0501 転生竜騎士は初恋を捧ぐ【イラスト付】 (ブルームーンノベルズ) Kindle版【全1-6セット】

書 名 「転生竜騎士は初恋を捧ぐ」
著 者 仁茂田もに    
出 版 ジュリアンパブリッシング 2024年8月
文 庫 287ページ
初 読 2024年9月8日
ASIN ‏ : ‎ B0DC68BMR3
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/123030194   

 単話版が一話550円なので、1〜6話(完結)で1300円はかなりお得感があります。(^^ゞ
 舞台は架空のヨーロッパ近世〜近代。石炭の利用と蒸気機関が世の中を変え始めた頃合い。
 竜がいて、竜騎士団があって、竜の飛行戦隊が組まれているあたりは、『テメレア戦記』のような設定。舞台は架空のドイツっぽい感じ。国土的にはフランスとドイツを合体した感じだろうか。領土の南は南国の気候。北は峻険で寒冷な山地。大陸統一戦争に乗り出した国で転生した竜騎士と竜の調教を担当する『竜師』の主人公。どうやら竜も転生組のよう。フツーにBLです。なんなら竜も脇役だけど、主人公の恋人(?)の騎竜である4枚羽の黒竜がとても格好良い。竜にひかれて読んだといっても過言ではない。 

0500 帝都一の下宿屋

書 名 「帝都一の下宿屋」
著 者 三木 笙子       
出 版 東京創元社 2018年8月
単行本 241ページ
初 読 2024年9月12日
ISBN-10 448802792X
ISBN-13 978-4488027926
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/123046596
 2018年8月に出版された本である。
 三木笙子さんの本は、だいたい新刊が出ればすぐ買うので、なんと6年も寝かせてしまったことになる。申し訳ないことだ。

 短編連作であるが、明治の東京の下宿屋を舞台に、穏やかな人間模様が描かれる。ブロマンス、というほどの熱量はないが、とても優しい。ミステリではあるが、凶悪だったり、阿漕に過ぎる人間は出てこず、大概人も死なない。
 私にとっては、この本も心の包帯系である。

紙に文字を書いただけの、何の役にも立たない作り話が、この心を温めてくれる。

 「それを読んだとき、心の中に灯りがともるような」小説こそ、まさに三木笙子さんが目指すものなのだろうと思う。

川瀬巴水《東京十二題》より
大根河岸 大正9年作
 下宿屋静修館に起居する居候の面々の中には、かの里見高広もいる。
 こちらは、「世界記憶コンクール」から始まる帝都探偵絵巻の主人公。こちらの物語もオススメだ。

 私はミステリはさほど得意ではないので、謎解きはさっぱりなのだが、三木さんの本は、ミステリの体裁ながら、さほど謎解きには力を置いていない(と、思う)。謎を解こうとする登場人物の描き方が、控えめで、それでいて芯があって誠実だ。
 明治の街や職業をよく考証しているのも素晴らしいと思う。この時代の町の様子や風物や空気感、人の体温や気持ちをことさら優しく感じる物語である。
 ちなみに、装画はyocoさんた。これまた素敵な絵を描く御方で。帯も白く美しく、「本好き」の心をくすぐる一冊だ。

永遠の市 
 明治時代のお仕事小説の感がある。広告代理店と、老舗の醤油問屋。偽物が出ないようにと最新の注意を払って作られた醤油のラベルが貼られて、なんと粗悪品が出回っていると。
 下宿屋静修館の住人である小説家の仙道湧水は、どういうからくりで、だれが偽物を捌いているのか推理する。
川瀬巴水《東京二十景》より
大根河岸 昭和5年作

障子張り替えの名手 
 ある鉱物の精錬法で画期的な手法を考案し、特許申請間際だった書類が金庫から無くなった。おそらく内部の犯行。いったいだれが盗んだのか。

怪しの家 
 静修館の下宿人5人と大家の桃介、それに以前の下宿人の蒔絵師があつまって、有る家にまつわる謎解きをする。高広も登場。そして実は、真相を知っている。さすがの記者の役得。

妖怪白湯気
 これも、とってもお仕事小説っぽい。明治の風呂屋事情と、風呂屋にまつわる仕事。どこにでも商機はあるものだ。よくもそんなニッチな仕事が、と変なところで関心する。

 いずれも、三木さん、よく調べてるなあ、と関心しながら読んだ。

2024年9月9日月曜日

0498〜99 シャープさんとタニタくん@+RT  (クロフネコミックス)  

書 名 「シャープさんとタニタくん@ (クロフネコミックス)」
著 者 仁茂田 あい    
出 版 リブレ出版 2016年3月
単行本 146ページ
初 読 2024年9月8日
ISBN-10 4799728989
ISBN-13 978-4799728987
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/122978701

書 名 「シャープさんとタニタくんRT」(クロフネコミックス) 
著 者 仁茂田あい    
出 版 リブレ 2017年2月
単行本 172ページ
初 読 2024年9月8日
ISBN-10 4799732390
ISBN-13 978-4799732397
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/122979237

 旧Twitter時代からの名物公式「シャープさん」。私もフォローしていたが、タニタくんとつるんでこんな面白そうなことしていたなんて。リアタイで見たかったな〜。(^o^)  今だってフォローしているが、青い鳥がなんだか黒くなってから、利用頻度が少なくなって、いきおい「シャープさん」とも疎遠になってしまっていたよ。
 そんなではあるが、シャープさんとお友達のタニタくん、キングジム姐さんやらあれこれ、とても楽しそうである。まさにSNSの醍醐味。
 虚構新聞の記事→「゜」がいなくなった「シャーフさん」→「゜」を拉致したらしい「タニタ゜くん」の流れなんか、すごく面白かったです。

日々雑感  オーブントースターを買った。

 オーブントースターを買いました。「いつか買おう」と思っていて気付いたら10年経ってた(笑)。 「いつかっていつだよ!」と自分にツッコミを入れて、いきおいでポチ。

 比較サイトでサクサクに焼きたいならこれ、とお勧めされていたのを何も考えずに買ったら、小型の電子レンジくらいのサイズでびっくりした。

 たしかにこれなら小さめのピザ焼ける。

 パンを温めたかったんですワ。クルミパンとか、クロワッサンとか。あとチーズトーストを焼きたかったの。
 こいつを置く場所を作るために、キッチンカウンターの上から少し本を移動した。なんでキッチンカウンターで本なんだよ!と思われるかもしれんが、料理本を並べていたのだ。
 玉突きでいつか読んで切り抜きでもしようかと思っていた雑誌を少々処分することにする。
 雑誌は『クロワッサン』が中心。 健康料理系の特集のと、片付け系・インテリア系のと、節約・貯蓄系。
 料理は結局自己流だし、片付けは自分の片付けたいようにしかかたづけない。雑誌に特集された、「片付け前→片付け後」のお部屋だって、一ヶ月もすれば元通りになると確信できる。節約については、私の場合は、本買うの止めるしかない。

 いずれの分野も雑誌のオススメの通りになんて、ハナから無理。

 断捨離はお前からだ〜〜〜〜!!と心の中で叫んだとも。

2024年9月1日日曜日

2024年8月の読書メーター

 何とか8月に、ダグラス・リーマンの残り数冊を読み切ろうとして、惨敗。まあ、ラストを飾る予定にしているのは「キールの白い大砲」なので、クリスマスまでに読了できればいいか、とあきらめた。
 実家に週2回通うことになって、実家の本棚の前に立つことも多くなり。これだけ頻繁に来るんだから、こっちに本を置いても良いか、と思い、児童文学を中心に数箱、クロネコさんに運んでいただく。おかげて自宅の本棚に若干の余裕が生まれ、ついまた本を買う・・・・という罠に落ちる。
 あまりに読書が捗らないので、ついコミックで水増しの悪手に出る。以前から気になっていたヴィンランド・サガを読み始める。私の脳内の世界史空白地帯を埋める11世紀イギリス。デンマークのヴァイキングのイングランド侵攻。現在は1〜4巻。クヌートを引き連れて転戦中。これからデーン族カヌート王のイングランド支配のあたり。
 膝と足首が痛くなり、どう考えても体重のせいです。密やかに今年数回目のダイエットの決意をする。

8月の読書メーター
読んだ本の数:8
読んだページ数:1515
ナイス数:490

探花: 隠蔽捜査9感想
ありゃ。まだ表紙が表示されない。文庫本が出たので入手。表紙は横須賀ヴェルニー公園から見上げた護衛艦いずも、ですね。ところで自然のバラは遺伝的に青色は出せないと思っていましたが、現在は遺伝子操作で青色系のバラが生み出されているんですね。「わかりました。・・・あとは私にまかせてください」「すべて承知しております」「竜崎部長は人を大切になさる方ですから」・・・やっぱり阿久津の世話女房ぶりにニヤニヤが止まらない。
読了日:08月31日 著者:今野 敏

スモークブルーの雨のち晴れ 5 (フルールコミックス)スモークブルーの雨のち晴れ 5 (フルールコミックス)感想
もう、めいいっぱいBLですがな。大人の(の歳)の恋だけど、どことなく少年ぽいのは、夢を追っているからでしょうか。朔太郎さん、あまり頑張りすぎないように。明るい窓の光に惹かれたなんて、ほんとうに紙一重だったんじゃないですか。静ちゃんは、将来は自分の家を持ちたい、と。そこで一足飛びに「二人で暮らす」ではなく、いつでも来ていいからってところが、ちと寂しいような気もする。
読了日:08月31日 著者:波真田かもめ

猫は日記をつける (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 9-27)猫は日記をつける (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 9-27)感想
四半世紀ぶりのシャム猫ココシリーズ。この本は二匹のシャム猫の従僕たる主人公クィルの日記風猫語り。シリーズ読者にはほどほどに楽しく、そうでない人には全く無価値な一冊だ(笑)。私はといえば、20数年ぶりに記憶を掘り起こすために役立った。
読了日:08月30日 著者:リリアン・J. ブラウン

ヴィンランド・サガ(4) (アフタヌーンKC)ヴィンランド・サガ(4) (アフタヌーンKC)感想
アシェラッドの出自が明らかに。デーン語だとヤクザで荒っぽいがウェールズ語は高貴な言葉遣い。かつてはケルトの侵略者だったローマ人も、その後混血してローマン・ケルトとなり、さらにウェールズ地方の小国となっている・・・ヨーロッパ史も英国史も弱いが、なんとなく大まかに理解したつもり。これからクヌート王子がどう化けるのかちょっと楽しみ。まだ全然先が見えん。
読了日:08月29日 著者:幸村 誠

ヴィンランド・サガ(3) (アフタヌーンKC)ヴィンランド・サガ(3) (アフタヌーンKC)感想
人間の世界はゆるやかに確実に老いている。あと20年もしたら最後の審判。人間は1000年後も同じこと言ってるんだけどね。500年前の歴史を語るアシェラッドが思いのほか博識。敵でありながら恩師、的なこういうキャラってどの作品に出て来ても魅力的。父の敵と恨みながら、トルフィンはアシェラッドに育てられたようなもん。デンマーク・ヴァイキングのイングランド侵攻1008年。巻末のユルヴァの話で、トルフィンが村からいなくなり、トールズが殺されてから5年経ってると知る。戦場で子供が5年、闘いながら生き延びるとは。
読了日:08月26日 著者:幸村 誠

小公子 (角川文庫)小公子 (角川文庫)感想
小公子読み比べ中。この本は羽田詩津子さん訳。シャム猫ココシリーズでおなじみの翻訳家さん。以前に読んだ川端康成の訳よりは格段に読みやすい。比べてみると、川端は結構好き勝手に訳してるな、と思う。こちらの方が格段に丁寧。やっぱり女性の翻訳の方が優しい。まあ、セドリックが良く出来た子なのだが、セドリックを通じて伯爵を操作する(?)エロル夫人にややモヤる。セドリックが良い子過ぎるのもなんなのだが、孤児だったエロル夫人が善良で気品ありすぎなのもちょっとどうなの、と思わないでもない。でもまあ、1886年発売当初から
読了日:08月26日 著者:バーネット

ヴィンランド・サガ(2) (アフタヌーンKC)ヴィンランド・サガ(2) (アフタヌーンKC)感想
トルフィンの幼少時代と父である戦士トールズの話。戦を避けて隠棲していたトールズの元に、かつての戦団の仲間が迎えに来る。掟を破ったトールズは万死に値するが、トールズを殺せる戦士はいない。だからフローキはアシェラッドを使ったのだろうか。父の船に密航?したトルフィンの目前で、父トールズは殺される。トルフィンは幼いながらベルセルクのように、父の復習を誓う。ヴァイキングの話だが、なんとなく日本的だな、と感じる。武士っぽいというか。トールズの最後は弁慶。そうしてトルフィンはアシェラッドに付き従っていくようになるのか。
読了日:08月26日 著者:幸村 誠

ヴィンランド・サガ(1) (アフタヌーンKC)ヴィンランド・サガ(1) (アフタヌーンKC)感想
以前見たネット掲示板で北欧の人から「考証が正確」と絶賛されていたので、いつか読んで見ようと思っていたコミック。『プラテネス』の幸村誠さんの作品だと知った。すでに28巻くらいまで出ている。ヴィンランドとは、ヴァイキングの伝説の土地。(北アメリカのニューファンドランドではないか、といわれているそう。)時代は11世紀初頭。主人公のヴァイキングの若者トルフィンの故郷はアイスランド。最初の戦場はフランク(フランス古名)、ロアール川上流の湖。ここから、ヨーロッパ、北欧、大西洋を巡る冒険が始まるのか。
読了日:08月12日 著者:幸村 誠

読書メーター

0496 猫は日記をつける (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 9-27)

書 名 「猫は日記をつける」」
原 題 「THE PRIVATE LIFE OF WHO…」2003年
著 者 リリアン・J. ブラウン    
翻訳者 羽田 詩津子     
出 版 早川書房 2005年7月
文 庫 173ページ
初 読 2024年08月31日
ISBN-10 4150772274
ISBN-13 978-4150772277
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/122787981

 よくよく考えるに、最後にシリーズ作を読んだのは、ムスコが生まれる前?ってことは・・・・四半世紀ぶりのシャム猫ココシリーズ。
 この本は本編ではなく、二匹のシャム猫のしもべたる主人公クィルの日記風猫語り。シリーズ読者にはほどほどに楽しく、そうでない人には全く無価値な一冊だ(笑)。私はといえば、20数年ぶりに記憶を掘り起こすために役立った。

 たとえば、ココの本名がカウ・コウ=クンであることや、ヤムヤムの元の名前がフレイヤであったこと。クィルがリンゴ納屋を改造して、木に染みこんだリンゴの良い薫りのする居心地のよい大型ログハウスに住んでいることとか、登場人物のアレコレ。
 本編では雄猫ココが活躍しがちでヤムヤムはどっちかっていうと手のかかるお嬢さん的な扱いだったヤムヤムが、実はココよりもクィルに溺愛されていそうなことが、新しい発見か。

 すると、善良な獣医が状況を理解しないうちに、ココは突然、猫エネルギーのミサイルと化した。わたしは叫んだ。「ココ!」そして彼のしなっている尻尾をつかんだ! しかし、彼はするりと身をかわし、8フィートの戸棚の上に飛び乗り、そこから追跡者を傲然と見下ろして、シャム猫の罵りの言葉をさんざんに浴びせた。怒ったシャム猫に罵られたことがない人間には、どれほどの毒舌ぶりか想像もつかないだろう!
 
 私もこのシリーズを読むまでは、シャム猫がそれほど大声で啼く猫だとは知らなかった。
 現在の我が家の猫、カルヴァさんは、運動能力こそシャムと互角を張る気がするが、鳴き声は「鈴を転がすよう」と世間一般では言われているので。・・・・とてもそうは思えないのだけどね。

 あと、この本を読むと猫飼いは「我が家の猫の名付けの由来」を語りたくなるものらしい。

 ウチの前代の猫はシードル。現在はカルヴァドス。果実酒由来の洋酒シリーズである。もし、次に猫様をお迎えすることになったら、シェリーになるだろう。初代猫を「麦」にしなかったことがやや悔やまれる。
 




引用