2021年9月19日日曜日

0295ー96 暗殺者の献身 上・下 (ハヤカワ文庫)

書 名 「暗殺者の献身 上」「暗殺者の献身 下」 
原 題 「RELENTLESS」2021年
著 者 マーク グリーニー  
翻訳者 伏見 威蕃  
出 版 早川書房 2021年9月 
文 庫 上下巻各 448ページ 
初 読 2021年9月19日 
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/101314956   
ISBN-10 上巻:4150414858/下巻:4150414866 
ISBN-13 上巻:978-4150414856/下巻:978-4150414863 
 ターゲット(機密情報を持ち逃げして潜伏中の元CIAアナリスト)に接近するためにプエルトルコに潜入したザックが身バレして秘密警察に逮捕・連行される。
 隠密に動かせる手駒に窮したハンリーは、病気療養中のコート・ジェントリーを極秘の医療施設から引き出だした。コートは、ロスで負った左肩の刺傷が感染を引き起こしたせいで手術を受け、いまだ体内から一掃できない細菌を片付けるために抗生剤の点滴を続けており、まだ最低でもあと数週間の入院加療が必要な状況だった。

 すでに無双を極めているグレイマンことコートランド・ジェントリー、前回の私的作戦でも多勢に無勢だったがすでに読者は究極の安心感。これを打開(?)するためにグリーニーが選んだ手段は、なんとジェントリーの出力50%OFF+生命危機のリミット付き。いつもなら救援に現れる“お父ちゃん”ことロマンティックことザックは監獄の中。やるなあ、グリーニー。相変わらずサドっ気たっぷりである。

 そして、今回の風呂敷がまた、たっぷりとデカい。登場人物と舞台が錯綜するため、めったにやらないことだがメモを作成しながら読む。ついでに言うと、至極シリアルである。前作でおおいに楽しませてくれたオレオレの自分語りはナシで。

 そして、怒濤の下巻。
 今回のジェントリーの様子を表すのに最高の一文がこちら↓

 ジェントリーは負傷し、体の具合が悪く、温め直した死人のようだった。

 でももちろん、温め直した死体であってもグレイマンはグレイマンなのだ。

 そんなわけで、とにかく面白い!下巻はもう、ノンストップである。上巻でたっぷり広げた風呂敷を、畳むどころかばっさばっさと振り回す!
 普段はネタバレ満開なレビューばっかり書いてるけど、これは絶対にネタバレしない!とにかく面白かったと断言できる。シリーズ最高傑作であろう。なんか誤植あったような気もしたけど、気にしない!ハリウッド映画ばりばりで映像が目に浮かぶ。暗闇での銃撃戦も、大規模戦闘も殺戮も、爆弾攻撃も、短距離速射も遠距離狙撃も全部、ぜーんぶぶっ込まれてる。映画化してくれ。大画面で。大音響で!なによりザックがめったくそかっこいい。ジェントリーを完全に喰った。いやあ、お父ちゃん大好きだ!
 みんな早く読んでくれ!まだ手に取っていない人は、明日書店に駆け込むべきだ!

2021年9月18日土曜日

これは猫。



これは、猫とも言うべき生き物である。
ナメクジではない。
ナス?というお言葉もいただいたが、ナスではないし、瓜でもない。
だが、これはひょっとして皮袋に入った水なのでは、と思うことはある。

2021年9月14日火曜日

0294 コロナの時代のわれら(単行本) 

書 名 「コロナの時代のわれら」 
原 題 NEL CONTAGIO」2020年
著 者 パオロ・ジョルダーノ 
翻訳者 飯田 亮介 
出 版 早川書房 2020年4月 
単行本 128ページ 
初 読 2021年5月15日 
読書メーター    
ISBN-10 4152099453 
ISBN-13 978-4152099457

 以前、前任者からBCP(事業継続計画)の策定ができていない、と課題として引き継いだ。東日本大震災の教訓として、早急に定める必要があったが、多忙を極める職場で、代々問題意識だけを後任に渡してきていた。私も結局BCPの策定には手が出せなかったのだが、関連資料を集めながら、地震などの自然災害だけでなく、いずれ流行する可能性の高い高病原性新型インフルエンザの対策も必要であることを意識した。とにかく災害備蓄食料を見直して整備するところまではなんとかこぎつけた。というのが前々職場で5年位前の話。
 その頃、自分の自宅は、これも東日本大震災の教訓として、すでに災害対策の諸々の備蓄をしていたが、これに加えて最低一ヶ月は自宅に籠城できる食料備蓄(コメやミソ、保存のきく粉もの類や缶詰など)、飲料水、ポカリスエットの素、ビタミン剤、総合ミネラル剤などに加えて、一家4人×一日1枚×2ヶ月分のサージカルマスクも少しずつ買い足しながら備蓄に加えた。マスクは花粉症持ちが家にいるので、常時需要はあった。(トイレットペーパーはもともとネットで大箱買いしていたので、2ヶ月分位の備蓄がだいたいいつもあった。)
 中国で新型肺炎が流行している、とマスコミで話題になり始めたとき、これは始まるな、と予感がして、まだ店頭に溢れていた不織布マスクをさらに買い足した。翌週にはマスクが街から消えたが、トイレットペーパーまで無くなるのはちょっと予想外だった。家には買い置きが沢山あったが、質の高いマスクがいつ、再度店頭で手に入るようになるかわからない不安から、半年ほどは、不織布マスクを洗濯して再利用もしていた。(ちなみに我が家で備蓄していたのは3Mのサージカルマスクだった。これは未だにネットでも手に入らない。)
 そんな感じだったので、マスクが手にはいらなくて困っている友人に、数箱づつ分けたりする余裕があったのはよかった。

 この本が2020年4月に世にでてから、ちょうど1年と半年が経過したが、いまだこの本の中身は過去のものではない。ウイルスという新たな脅威に直面したとき、人々はどのように困惑し、拒否し、見当違いのものに縋り付き、時間を無駄にし、その結果死者を増やすのか。
 日本の国内でも、多くの人が淡々とワクチン接種を遂行し、うがい手洗いマスクを励行し、他人との接触を避け、自分も他人も害さないように注意深く辛抱強く日常を送っている一方で、いまだにワクチン懐疑派や、イベルメクチン信奉者、NOマスク活動家、コロナは陰謀派などの魑魅魍魎がうごめいている。もともとナチュラルでスピリチュアルなワクチン拒否派は一定数いたので、それが核になっているようにも、取り込まれているようにも見える。

 新型感染症の流行自体は予測可能なもので、問題はそれがどれだけ人間に悪さをするかということだろう。たとえば、2009年には豚由来のインフルエンザウイルスA(H1N1)pdm09世界的に流行したが、同年秋までには当初怖れていたほどの致死性はないことが判明し、季節性インフルエンザと同様の扱いとなった。今、最も怖れられている高病原性インフルエンザの致死率は20%程度と見込まれていて、もしこれが流行したら、犠牲者はいまの新型コロナの比ではない。ただし希望もある。昨冬、コロナ対策による三密防止を徹底していた日本では、インフルエンザの流行はほぼゼロだった。つまり、コロナ対策はインフルエンザにも通用するということだろう。私が当初から新型コロナにあまりパニクっていないのは、もともと強毒性新型インフルの出現を怖れていたからだ。
 昨日の統計で、日本のワクチン接種率はアメリカに並んだ。しかし当初80%の人が免疫を持てば社会免疫を獲得する、と言われてきたのに、伝播性の強いデルタ株の登場のおかげで、80%では流行を抑制できないらしい。接種率90%以上が望ましいが、それは難しいので85%を目指し、生活様式による予防と組みあわせる、というのが東京の方針のようだ。東京は第5波をついにやり過ごしたところだが、冬場に訪れるであろう第6波に向けて、さらにワクチン接種を進める必要がある。でも、急激な第5波の収束を目の当たりにして、もしかしたら来春には、コロナは『ただの風邪』の仲間入りができるのではないか?という期待も持ちつつある。変異株との戦いはまだまだ続くが、これが新しい、コロナと共存する時代につながっていく。それまでは、自分が感染しないように気をつけながら、新しい生活様式を受け入れて生きていくことを一人でも多くの人と共有したいと思う。

『このように感染症の流行は、集団のメンバーとしての自覚を持てと僕たちに促す。平時の僕らが不慣れなタイプの想像力を働かせろと命じ、自分と人々のあいだにはほどくにほどけぬ結びつきがあることを理解し、個人的な選択をする際にもみんなの存在を計算にいれろと命ずる。感染症の流行に際して、僕たちは単一の生物であり、ひとつの共同体に戻るのだ。』p.42


 

2021年9月12日日曜日

0293 ファニー 13歳の指揮官 (児童書)

書 名 「ファニー  13歳の指揮官」 
原 題 「LA VOYAGE DE FANNY」2016年 ※フランス語版
     ※ 初版は1986年スラエル 
著 者 ファニー・ベン=アミ
翻訳者 伏見 操 
出 版 岩波書店 2107年8月 
ソフトカバー 184ページ 
初 読 2021年9月12日   
ISBN-10 4001160102 
ISBN-13 978-4001160109 

 ナチスの迫害を逃れてドイツからフランスに逃げてきていた家族のささやかで平穏な生活が、ある日突然破られる。父がフランス秘密警察に連行されて行方が解らなくなり、母は子どもたちを非難させることに。
 5歳と9歳の妹のいるファニーは、母代わりとして幼い妹達の面倒をみながら、やがて同じく親元を離れて保護されている子どもたちのリーダーになる。そして、強い責任感と意志で、子ども達グループをまとめてスイスへの逃避行を敢行する。

 映画『少女ファニーと運命の旅』の原作本。
 実話です。
 ファニー・ベン=アミさんは、戦後しばらくしてからイスラエルに移住して、現在は娘さんやお孫さんに囲まれ、二人の妹さんも同じくイスラエルで健在、それぞれがホロコーストの記憶を次世代に繋ぐ活動をされている、とのこと。(2017年の映画公開時の情報です。ご存命ならたぶん91歳になられているはず。)
 ファニーさんは、子ども達だけで、フランスからスイスに逃げ、戦争終了までスイスで保護を受け、戦後はスイスで教育を受け続けることが認められずフランスに帰国、といってもそこでもフランスに帰化申請をしなければならなかったのですが。
 ご両親のうち、父は、ルブリン強制収容所で銃殺され、母は1944年にフランスでゲシュタポに捕らえられ、アウシュビッツに送られて殺されたことが、戦後通知されたそうです。彼女が待ち望んだ両親との再会は、ついにかなえられませんでした。

 児童書の体裁とはいえ、大人の読書にも十分耐える読み応えのある内容なので、多くの人に読んで欲しいと思います。

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 今、イスラエルとパレスチナの紛争、とくにガザ地区の惨状を見て、自分達だってあれほど残虐な目にあったのに、なぜパレスチナ人に対して同じように残虐な行為をするのか、という意見をよく目にしますが、事はそう単純ではないと思います。

 ♪人は悲しみが多いほど〜、人には優しくできるものだから〜♪と武田鉄矢が歌った『贈る言葉』は名曲ではありますが、それがきれい事に過ぎないと気付かざるをえないことは、誰もが経験していることでは?

 『人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。』と謳う日本国憲法を、私は崇高なもので、決して失ってはならないものであり、これこそが日本のあるべき姿だと理解していますが、ユダヤ民族は、ヨーロッパ全土で暮らしていた1100万人のユダヤ人のうち、600万人が極めて組織的に効率よく虐殺される、という空前絶後の体験を通して、自分の身の安全を他国や他民族に委ねることは絶対にできない、自分の身は自分でまもらなければならないもの、と骨身に染みているのでしょう。そして、自分の身を守るためには、やられたら確実にやり返すことこそ必要で、そしてこの現代の主権国家の時代において自分自身の身を守るために、国家の主権を維持しつづける、と堅く決意したのでしょう。イスラエル国家は国家の形をとったユダヤ民族の生存権そのものに見えます。
 これは、イスラエルが行っている数々の攻撃を正当化しようと主張するものではありません。ただ、今起きていることを単純化し、遠い地域からきれい事で非難したところで、なんの解決も見ないだろう、と感じます。
 日本人とユダヤ人を引き比べることが公正だとは思っていませんが、それぞれの国民が戦後取った道が正反対であることは、よくよく考えてみたいと近頃考えているテーマです。

2021年9月11日土曜日

0292 神さまの貨物(ポプラ社)

書 名 「神さまの貨物」 
原 題 「La plus précieuse des marchandises」2019年
著 者 ジャン=クロード グランベール 
翻訳者 河野 万里子  
出 版 ポプラ社 2020年10月 
文 庫 157ページ 
初 読 2021年5月15日 
読書メーター https://bookmeter.com/books/16673522   
ISBN-10 4591166635 
ISBN-13 978-4591166635
Amazonのレビュー(書籍紹介) 大きな暗い森に貧しい木こりの夫婦が住んでいた。きょうの食べ物にも困るような暮らしだったが、おかみさんは「子どもを授けてください」と祈り続ける。そんなある日、森を走りぬける貨物列車の小窓があき、雪のうえに赤ちゃんが投げられた――。明日の見えない世界で、託された命を守ろうとする大人たち。こんなとき、どうする? この子を守るには、どうする? それぞれが下す人生の決断は読む者の心を激しく揺さぶらずにおかない。モリエール賞作家が書いたこの物語は、人間への信頼を呼び覚ます「小さな本」として、フランスから世界へ広まり、温かな灯をともし続けている。
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 大人のための、子どものための、すべての人のための真実を描いた童話。
 ルーマニアから迫害を逃れてフランスに渡り、そこで、医学を修め結婚し、男の子と女の子の双子が生まれたユダヤ人の男。しかし、フランスもナチスの手に落ち、家族ともども強制収容所に入れられる。そして『貨物』となり、東へ。
 やさしい言葉で語られているのは凄惨な事実であるが、 これが「実際にあった話」として語られたならば、あるひとつのユダヤ人家族の、一人の男の、一人の女の子の悲劇として受け止められるだろう。しかし、「本当にはなかった話」として語られたとき、この話は普遍的になる。そんな風に感じた。
 反語で語られる最終章。あったのだろうか。いたのだろうか。そんな問いかけが心の中に不安を誘い、胸にざわめきを残す。もちろんあったのだ。動物とされ、貨物とされ、無学で粗野な森の深奥の木こりにまで “神を殺した呪われた奴ら” “たんまり金をもった泥棒” と蔑まれる、ヨーロッパのすみずみにまで染みわたっている偏見が。その偏見がもたらした民族抹殺という悲劇が。そして、その偏見は、いまでも根強くあるはずだ。
 ここに具体的に登場するのは、ドイツ人ではなく、ヒトラーユーゲントでもない。(ドイツ人は“くすんだ緑の軍服”で表現され、赤軍は“赤い星を付けた”と表現されてはいるが。)具体的な人物として登場するのはフランス人であり、ポーランド人であり、ロシア人であり、彼の地の普通の人々であることが、印象的だった。
 少女がピオネールに加わり、最も模範的な少年少女として、党の機関誌を飾った、というエピソードも受け止め方は様々だろうと思う。私は、どのような国であれ、どのような文化や思想の元であれ、子どもという存在は、愛や、承認や、最高の栄誉にも値するのだ、と思いたい。かの国でも、ユダヤ人は虐げられる存在だと聞いている。貧しい木こりのおかみが女手一つで育てあげたかつて貨物であった少女が(黄色い星ではなく)赤い星を胸につけ、誇りと喜びと健康一杯でプロパガンダの一端を担ったことの皮肉も思い合わせながら。

2021年9月10日金曜日

0291 狼たちの城 (海外文庫) 扶桑社ミステリー

書 名 「狼たちの城」 
原 題 「Unter Wolfen」2019年 
著 者 アレックス・ベール 
翻訳者 小津 薫  
出 版 扶桑社 2021年6月 
文 庫 480ページ 
初 読 2021年9月10日 
読書メーター https://bookmeter.com/books/17991951   
ISBN-10 4594088031 
ISBN-13 978-4594088033
 オーストリアの作家アレックス・ベールによる、ナチス・ドイツもの。ちなみにアレックス・ベールは本名ダニエラ・ラルヒャーという女性作家。さてこの本、面白いはずなのに、と思う反面、物語に入り込めずもどかしい。それは多分、いくらフィクションといえども荒唐無稽に過ぎる展開ゆえ。

 東部(ポーランド)への集団強制移住を宣告されたニュルンベルグのユダヤ人達。病弱な老親、未婚の長男で主人公のイザーク、離婚して幼い2人の子どもを抱える妹の6人家族は、数日後の移送への不安に苛まれている。一家の主として家族の面倒を見なければならないイザークには、今回の東方への移送には、表向き言われていることだけでなくなにかイヤな予感がしてならない。
 一方、ニュルンベルグでユダヤ人絶滅計画に携わっているゲシュタポのユダヤ人問題課長。その男が自宅としていた改築されたニュルンベルグ城内の居室で、愛人の有名女優が殺された。その捜査に、ベルリンから特命を受けてある捜査官が派遣される。
 ゲシュタポの醜聞を狙って事件を起こしたと見做されて検挙されたレジスタンス。この四つが絡み合ってストーリーが展開するのだが。
 とにかく、主人公のユダヤ人青年イザークの巻き込まれ方も、その後の行動も行き当たりばったりで、それがはらはらさせられると言えなくもないが、こういう“はらはら”はあまり面白くないんだよなあ、と。練りに練って計算され尽くして、それでもわずかな計画のブレから発生するスリル、からは格段に落ちる。行き当たりばったりの結果、幸運と敵に運命を委ねすぎだ。「彼らが気付かなければ」というのが多すぎる。
 食事の時に、自家製ハムの有名店でハムやソーセージの料理を選ばず、コーシャにちかい魚を選んでしまう。うっかりユダヤ教の食前の祈りが口から出る。親衛隊員なら必ずあるはずの血液型の入れ墨がないことを見られてしまう。囚人の名前を聞いて明かに童謡する。ゲシュタポ本部で、知り合いのユダヤ人の老女に名前を叫ばれてしまう(!)
 いやあ、これは無理だろ(笑)

 タイトルは、ゲシュタポ高官の住まいに改装されたニュルンベルグ城———事件の舞台と、ナチの根城たるゲシュタポ本部を掛けたのかな、と思うがせっかくの中世の古城ニュルンベルグ城の影が薄くて残念。こちらでの謎解きにもっと力点を置いたらもう少し地に足のついた面白さになったのではないかな。ミステリーと歴史サスペンスとユダヤ人問題、の三兎を追って全部逃げてった感じだ。

 オーストリアが、ナチス・ドイツに併合された現代史と自国のユダヤ人問題とどのように向き合っているのかに興味があるので、正直、ドイツよりオーストリアのユダヤ人問題をテーマに書いてくれればよかったのに、とも思った。

 フィクションはフィクションであるべき、とは思うものの、600万人が無造作に虐殺された現実は80年たった今でも痛切に重い。作者のスタンスは那辺にあるのか、とか気になってしまうのもストーリーに没入できない理由の一つ。比較してもしょうがないが、良くも悪くもダニエル・シルヴァくらい歴史問題と自分の政治的スタンスが明確だと、読者も読みやすいのだけど。

追伸・・・310ページ8行目に脱字一字あり。

2021年9月5日日曜日

0290 ベイジルの戦争 (海外文庫) 扶桑社ミステリー

書 名 「ベイジルの戦争」 
原 題 「Basil's War」2021年
著 者 スティーヴン・ハンター 
翻訳者 公手 成幸(くで しげゆき) 
出 版 扶桑社 2021年8月 
文 庫 304ページ 
初 読 2021年9月4日 
読書メーター https://bookmeter.com/books/18304756   
ISBN-10 4594088228 
ISBN-13 978-4594088224

 「巨匠ハンターが描く傑作エスピオナージュ」という帯の謳い文句に大いに心惹かれたのだが。
 スティーブン・ハンターの第二次大戦もの、しかもエスピオナージュということでかなり期待して臨んだ—————が、なんというか大味。 読み始めての印象は、『エニグマ奇襲指令』。イギリス、フランス、ドイツがドイツ占領下のフランス国内でドタバタやるとなると、こういうテイストになってしまうのだろうか?
 ナチ嫌いのアプヴェーアの大尉マハトと部下のアベルのやり取りはそれなりに楽しい。上司の大尉を“ディディ”と愛称でよぶアベルは結構な皮肉屋だが、のびのびとした育ちの良さを感じる。
 途中から出てくる単語「ミサゴ(OSPREY)」がなんなのか、よく解らないままに、話は進む。極秘の諜報網を指すのかか、もしくはスパイのコードネームか。物語全体としては、ベイジルが従事したとある稀覯本(というがその原稿の風変わりな複製)の写しの入手、という作戦自体がある意味読者に対する陽動のようなもので、最終的には件のオスプレイの正体に迫っていくわけだが、明確にだれがどうと示されたわけではなく、私の頭が悪いのか、全体がなんとなく曖昧模糊としているような、いないような。
 たとえば、私が大好きなハリイ・マクシムのように、主人公ベイジルの為人と楽しむ本というほどには主人公が魅力に溢れているわけでもなく、どちらかというと少年冒険小説の読後感。ただただあの時代への憧憬のようなものを感じる。ブリーフィングと実際の作戦行動のシーンを交互に差し挟むのも、ちょっと技巧に走りすぎ、かなあ。美人女優のラストの夫とのホテルのくだりが必要だったのか、よくわからん。私が粋というものを解していないからだろうか? 読者をたのしませてやろう!という作者の気持ちは良くわかった。ちなみに解説によれば、作者スティーブン・ハンターはベイジルを多いに楽しまれたようだ。
 まあ、たまにはハズレもあるさ、な一冊でした。
 それと、脱字を一箇所発見。119ページ7行目。


2021年9月2日木曜日

忘備メモ

翻訳の基本から実践まで

金原瑞人〔著〕
翻訳エクササイズ

四六判 並製 180頁/予価1,870円(本体1,700円+税10%)
ISBN 978-4-327-45302-2 C1082

2021年10月26日発売予定


2021年9月1日水曜日

2021年8月の読書メーター


 毎年、8月は第二次大戦やナチス、ホロコースト関係などを少しは読もうと思っているのだけど、今年はヴァクスからの流れから脱せず8月を終了。本当は扶桑社の新刊『ベイジルの戦争』を8月最後に読み終える予定だったのだが、数日前、突然ナンプレにハマったせいで読了ならず。(反省)
 アンドリュー・ヴァクスはハードカバーを合わせてあと4冊。8月はなんといっても『さよならシリアルキラー』シリーズを読めたのが自分的には大収穫でした。面白かった!
 読書の秋は今日から。9月はいきなり面白そうな新刊が目白押しで、目が白黒(笑)
 新刊を読みつつ、中断しているボッシュシリーズをそろそろ再開したい。

8月の読書メーター
読んだ本の数:8
読んだページ数:3274
ナイス数:1311

セーフハウス (ハヤカワ・ミステリ文庫)セーフハウス (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
今回はバークのところに、昔のムショ仲間が厄介事を持ち込んでくる。重罪で前科二犯の通称ハークは、ちょっと思慮の足りない男ではあるが、義理人情に厚いいい漢。調査に乗り出したバークにある女、クリスタル・ベスが接触してくる。クリスタル・ベスは、DV女性のための隠れ家「セーフハウス」を運営しており、この組織に庇護された女性と自分自身を守るために、ある男との対決を強いられており、その助っ人としてバークに白羽の矢を立てたのだ。そこにもう一つ、白人至上主義者(ネオナチ)の秘密結社への潜入捜査、という筋書きが絡んでくる。
読了日:08月27日 著者:アンドリュー ヴァクス
ブラック・ラグーン (12) (サンデーGXコミックス)ブラック・ラグーン (12) (サンデーGXコミックス)感想
あああ、張のアニキの丸顔が懐かしい!バラライカさんもご健勝でいらっしゃる。シスター達が出てこないのがやや寂しいが、今回は5人娘がロアナプラに殴り込みだ。自称ホワイトカラーなロックは相変わらず黒い。久しぶりなんで顔見せ興行っぽいところもあるが、なかなかにいいところで、待て次回!
読了日:08月23日 著者:広江 礼威
ゼロの誘い (ハヤカワ・ミステリ文庫)ゼロの誘い (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
ゼロは死。ゼロ地点は自殺するときに魂が落ちていく場所。狩りに子どもを巻き込んで殺してしまったバークの精神は、それ以来死に近いところにいる。そんなとき、身辺で起こる連続自殺に怖れを抱いた若者ランディがバークに助けを求める。バークは真相を探るためにコネティカットに向かうが、そこで出会ったファンシイとチャームは奇妙な関係の双子の姉妹だった。ランディやファンシイを助ける過程で、バークも次第に力強さを取り戻していく。人は他者のために無心に行動することによってでしか癒やされないし、救われない。そんな真理を感じる一冊。
読了日:08月15日 著者:アンドリュー ヴァクス
もう耳は貸さない (創元推理文庫)もう耳は貸さない (創元推理文庫)感想
秀逸。バックの老いはシビアで身につまされる。夫婦それぞれの老化と病への向き合いかた、過去に逮捕したシリアルキラーの身勝手な冤罪の訴えに乗ってバックを巻き込もうとする体制批判論者との対立。便乗する死刑廃止論。孫のテキーラはバックの盾になってジャーナリストと立ち合い、なかなかの切れ者ぶりを発揮。なんだこいつ、格好良い。つくづくと人間は身勝手で醜悪ではあるが、バックがマイノリティながら市警で筋を通して(かなり行き過ぎもあったが)きた人生の歩みが、これまで3作の中で一番染みた。バック母、強し!
読了日:08月12日 著者:ダニエル・フリードマン
ラスト・ウィンター・マーダー (創元推理文庫)ラスト・ウィンター・マーダー (創元推理文庫)感想
母を助けるという妄執に突き動かされるジャズ。カラスたちという発想の真実味はどうなん?と思わないではないが。明かになる残酷な現実。コレはど真ん中。この本をヴァクスと同じ文脈で読むのが正しい読み方なのかどうかは知らんが世界は不平等で理不尽、それが凝縮したジャズの17年の人生。コニーパパとの会話が全てだ。「きみに言いたいのはかわいそうにということだ。かわいそうにな。ジャスパー」。想像の上をいく残酷な展開に唖然とするが、それでも殺さ(せ)なかったジャズ。七転八倒のストーリーの下に通底する思いはさすがのYAだと
読了日:08月07日 著者:バリー・ライガ
殺人者たちの王 (創元推理文庫)殺人者たちの王 (創元推理文庫)感想
〈ものまね師〉事件とビリーの脱獄から2ヶ月後。ジャズは過去に区切りをつけるために母の葬儀を執り行う。そのささやかな過去への抵抗にもかかわらず、今度はニューヨークからシリアルキラーの魔手が。NY市警とFBIの合同捜査本部が連続殺人犯捜査への協力をジャズに乞う。しかしシリアルキラーの狙いもそこにあった。ニューヨークの殺人鬼〈ハット・ドッグ・キラー〉と〈ものまね師〉とビリーの関係、ジャズを巻き込もうとしているのは誰なのか。そして、ジャズは瀕死の状態で監禁され、コニー、ハウイーもそれぞれ危機一髪。どうするんだ〜!
読了日:08月07日 著者:バリー・ライガ
運のいい日 (創元推理文庫)運のいい日 (創元推理文庫)感想
3部作の後にくる青少年3人の前日譚。ハウイーもコニーもめっちゃいい子だ。ジャズにとってハウイーはお月様。姿は変えれど必ずそこにいて、自分を照らしてくれるもの。ハロウィンの日に童貞喪失を図るが、その結果や如何に。 ジャズに演劇の才があるのは、ある意味当然だが、白い仮面のパントマイムは正直言ってかなり怖い。 老境に差し掛かりつつある保安官の平和な町で起こった連続殺人。犯人はまさかの地元住人。拳銃を突きだした先には13歳の少年ジャスパー。この日、ジャズの狂った世界が正しい世界に向けて崩壊。「かわいそうな子だ」
読了日:08月04日 著者:バリー・ライガ
さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫)さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫)感想
めたくそに重い設定盛り盛りで、主人公が自殺しないのが信じられないレベル。124人を殺した殺人鬼を父に持ち、殺人者として洗脳されて育った主人公ジャズ、17才高校男児。自分の中のあらゆる感情や思考の動きが実は殺人衝動につながっているのではないかと疑わずにはいられない。父が逮捕されて以来小さな田舎町でできるだけ静かに暮らしてきたのに、突然起こる連続殺人。僕は犯人じゃない。だけど街の人は僕を疑うって決まっている。あと一滴でコップの縁から溢れそうな危機感なのに、なぜか10代の青春譚っぽい爽やかさを感じる不思議。
読了日:08月02日 著者:バリー・ライガ

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