良がスターだ、大スターだ、天才だ、特別だ、と風間の言葉だけがだらだらと語られるが、いっこうに今西良の人物像が見えてこない不思議。
第二部 殺意・・・・・今西良のGSグループ〈ザ・レックス〉のかつてのツイン・リードヴォーカルの片割れだった森田透の凋落と、苦悩と、愛と、献身と、解脱。ただただ、透ちゃんが苦しむの書だけど、あまりにも鮮烈なイメージに圧倒される。サドの島津正彦登場。
◆『続・翼あるもの The END of the World』
キャバレー以降ずんずんBLキャラに進化し、手当たり次第強姦され、輪姦され、PTSDになり、入退院を繰り返しつつ恋愛もし、周囲の人間の生き血を吸いながら(?)その美貌と芸術性を高めていると聞き及ぶ矢代俊一である。そして、栗本薫の絶筆である。
キャバレー以降の矢代俊一の変容(美形化+BLネコ化+幼児化)を追いかける気にどーしてもなれず、こっちの支線は放置でよいか、と考えていたのだが、なんと栗本薫最後の作品(同人誌)で森田透が矢代の愛人に収まっている、という衝撃の事実に接し、私のなかの東京サーガの世界観が空爆後の瓦礫の街のように崩壊を見た。だいたい、シリーズものを最後から遡って読む、という私の悪癖がいけないんだ、とは分かっているが、さすがにこの事態は受け入れ難かった。
『トゥオネラの白鳥』には、栗本が自分を投影した小説家である霧島安曇(きりしま・あずみ)(ガン末期で在宅療養をしている♂・ゲイの天才作家(っぷっ))が登場するのだが、これが噴飯ものの自己陶酔キャラである。まともな羞恥心を持っている私ごときには恥ずかしくて読んでいられない代物なので、そもそも読むのが非常につらい。
で、主人公の矢代ときたら、
①14歳も年下の元気でいちずな勝又ちゃんと同居して、勝又ちゃんに主婦役をやらせ、なんなら自分の実父(ピアニスト)の生活の面倒も見させ、
②キス一つで身も焦がすような激しい恋におちたらしい金井恭平と勝又と泥沼の三角関係を演じて、
③ようやっと金井と別れたあとも、いまだに金井への熱い思いに身を焦がしつつ、
④マネージャーに収まっている風間経由で知り合った透とも愛人関係となって、
⑤こちらは勝又には存在を隠したまま、定期的に透のマンション(つまり、島津の遺産で透のものになった外苑前の高級マンション)に通って逢瀬をかさねている、
というすごい状況になっている。
風間が、矢代のマネジメントをしている個人事務所(社長は北原さん)に入って矢代のマネージャーをしている、という状況もすごい(酷い)が、透が矢代と寝てるってどういうことさ。あまりにも暴力的な痴情沙汰に巻き込まれやすい俊ちゃんを案じて、風間が安全パイである透を矢代に愛人としてあてがった、のか?そうなのか?
そして透ときたら、出所してきた良に振られたってどういうこと?
なんでも良が、透をおいて、音楽修行のために一人でロンドンに行ってしまったらしい。
あれか、透が島津に心を残していることに、敏感な良が気づいて返す刀で切り捨てられたのか?
透は、島津に自殺されてしまった心の傷と、一番辛いときに良に去られてしまった恨み節を、俊一を愛することで紛らしつつ、けっこう享楽的にも見える生きかたをしてきている様子で、その場にいない良のことを「本物の天才じゃなかった」的な落とし方をしつつ、「本物の天才」である俊一のそばにいられる自分達(透と風間)は今が天国だ、みたいなことを、俊一を間にはさんで風間と語りあっているという、もはや地獄の沙汰としか思えない状況。これを読まされたこっちは悲しいやら苦しいやら。
そういう、透ちゃんの近況をちらちらと交えつつ、俊一を相手に霧島安曇(=中島梓)が、自己の小説や音楽の芸術論をたらたらと語る。語る。語り続ける。ミューズだ、妖精王だ、魔王だ、と。
いや、だからさ。そういうのは作家であるなら、作品で表現しなさいよ。と。自分の作品で表現しえないことを、評論家中島梓が登場して、もっともらしく解説する、って、これ、「栗本薫」「中島梓」だからこそ可能になった荒技だけど、ただの自己弁護だし、私を理解して、って肥大しまくった自意識を垂れ流してるだけだし。
こういう激しい承認欲求に裏打ちされた何かを〈天賦の才能〉と勘違いしたうえ、ひたすら肯定してくれる環境を得てしまった、かつては一つの才能ではあったものが、ひたすらイド(うわ、懐かしい!)のように自己増殖を続けて周囲を飲み込みつつ収拾がつかなくなった、というのが晩年の「栗本薫」という存在なんだろうな。
・・・・と、まあこの状況である。透と島津さんが好きだっただけに衝撃的すぎて、怒りを通りこして、空しさを感じるんだけど、ここに到る矢代純一ブランチの作品は、私は全然読んでいないわけで、ひょっとしてこの状況には、ここまでの作品の中で、なんらかの正当性がある、というか、きちんと道筋がたってこうなっているのだろうか、と、救いの蜘蛛の糸を求めてみる。
この状況に納得するために、手を付けまいと心していた、読み友さんがリタイア気味の「キャバレーを見届けろ」企画に遅ればせながら参加しなければならないのか?そうなのか?
でもね。どうしても実りがあるとは思えないんだよね。
ちなみに、この電子全集28の巻末に、「矢代俊一年譜」が収録されている。いちおう、栗本薫本人がまとめたものらしく、この時間軸を中心に、東京サーガの時系列を再構築したらどうなるんだろう、とちょっと考え中。
流星のサドル
ムーン・リヴァー
嘘は罪
タンゴ・ロマンティック
「セルロイド・ヒーロー』シリーズ
【エッセイ】
話題の人いんだびゅう
特別座談会 そこが知りたい! あの人は今!
【未発表作品】
リラのワルツ
【特別収録】
トゥオネラの白鳥
【対談】
スペシャル対談
【特別寄稿】
中島さんとの思い出(後編)
【回想録】
栗本薫との日々 二十八 今岡清
「栗本薫の育児日記」 二十八 山田良子
【付録1】「特別資料」七
「特別資料」二十八
矢代俊一年譜
【付録2】 単行本初版書影写真
【解題】 第二十八回解題
朝日のあたる家 Ⅰ〜Ⅴ
【エッセイ】
「朝日のあたる家」第5巻発売&シリーズ完結記念特別版!
欲望とセックスに関するある考察
柄にもなく恋愛の話 PART1
柄にもなく恋愛の話 PART2
ふざけるんじゃねーよ
【対談】
セクシーとは? 中島梓×北山晴一
【回想録】
栗本薫との日々 七 今岡清
「栗本薫の育児日記」 七 山田良子
【付録1】「特別資料」七
『朝日のあたる家』自筆原稿
『朝日のあたる家』創作ノート
【付録2】 単行本初版書影写真
【解題】 第七回解題 八巻大樹(薫の会)
1 透はパリにいる島津に国際電話をかける。島津は蓼科の別荘を使えという。
良は島津を警戒して機嫌が悪くなるが、透は自分と島津の関係をちゃんと(ここ大事!)説明する。
2 透と良は米原から列車を乗り継ぎ、蓼科に向かう。
3 透の身を案じたパリの島津は、助っ人・連絡要員兼2人を無事に東京へ返すための運転要員として、東京の部下と車を蓼科に送り込む。4 島津の部下の動きを読まれて、良と透の居場所がマナベに割れる。5 マナベプロが良の奪還をもくろんで田沼のチンピラを送りこむ。6 島津の別荘で良は拉致され、透は見せしめに良の目の前でボコられて半死半生の有様に。(ケガも、あの恐竜頭に殴られるくらいなら、やくざにやられたほうが恰好よいでしょ。)居合わせた島津の部下、サクとおチバもそれなりに負傷。7 そこに島津、野々村の手下と警察が駆けつける。良を無事奪還。透は救助されて病院へ。8 良は島津と野々村の手の者に保護されて東京に戻り、緊急記者会見→麻布署に出頭。9 マナベプロは、良に対する拉致監禁容疑、透その他に対する暴行致傷容疑と広域指定暴力団との黒い関係、及び『裏切りの街路』事件のもみ消し疑惑で追い込もう。ついでにアリサと恐竜彼氏は麻薬と脅迫で挙げて、マスコミには上手に工作して、良と透は被害者だと公表。マスコミ各誌一斉報道。10 『裏切りの街路』事件からこっちの良の苦難については、たっぷりと美化してムラさんが独占手記を出してやると良いよ。11 透は、一時意識不明状態だっだけど、透が寝ている間に、ニュースを聞いた雪子が病院を訪れる。
透の周囲を張っていた月刊ファクトの村岡は雪子への接触に成功。
村岡のすっぱ抜いた政界汚職が大疑獄事件に発展して、良のニュースはいい具合にかすむ。12 透が目をさましたらそんな感じに世の中は落ち着きつつあり。13 村岡が透を見舞ってスクープの礼に、「あんたのこと、独占で記事にしたいね。オレにまかせない?イイ感じにしてやるよ?」14 島さんは時間の許すかぎり透の枕元に付き添っていて、「島さんはお前さんのためにいろいろと頑張ったぜ」15 オレには島さんがいてくれて幸せだ♪良にも面会にいかなくちゃ。
真夜中の天使 上・下
翼あるもの 上 生きながらブルースに葬られ
翼あるもの 下 殺意
続・翼あるもの The END of the World
【エッセイ】
沢田研二のためのコラージュ
久世光彦様お慕い申し上げております
森茉莉との出会い
【対談】
「自由」を賭けて戦う愛を! 中島梓×竹宮惠子
ジュネスピリッツ・リローデッド対談 中島梓×竹宮惠子
【特別寄稿】
今西良、この運命的なるもの 金田淳子
【回想録】
栗本薫との日々 二 今岡清
栗本薫の育児日記 二 山田良子
【付録1】「特別資料」二
『真夜中の天使』自筆原稿
『翼あるもの 上 生きながらブルースに葬られ』自筆原稿
『翼あるもの 下 殺意』自筆原稿
【付録2】 単行本初版書影写真
【解題】第二回解題 八巻大樹(薫の会)