キャバレー以降ずんずんBLキャラに進化し、手当たり次第強姦され、輪姦され、PTSDになり、入退院を繰り返しつつ恋愛もし、周囲の人間の生き血を吸いながら(?)その美貌と芸術性を高めていると聞き及ぶ矢代俊一である。そして、栗本薫の絶筆である。
キャバレー以降の矢代俊一の変容(美形化+BLネコ化+幼児化)を追いかける気にどーしてもなれず、こっちの支線は放置でよいか、と考えていたのだが、なんと栗本薫最後の作品(同人誌)で森田透が矢代の愛人に収まっている、という衝撃の事実に接し、私のなかの東京サーガの世界観が空爆後の瓦礫の街のように崩壊を見た。だいたい、シリーズものを最後から遡って読む、という私の悪癖がいけないんだ、とは分かっているが、さすがにこの事態は受け入れ難かった。
『トゥオネラの白鳥』には、栗本が自分を投影した小説家である霧島安曇(きりしま・あずみ)(ガン末期で在宅療養をしている♂・ゲイの天才作家(っぷっ))が登場するのだが、これが噴飯ものの自己陶酔キャラである。まともな羞恥心を持っている私ごときには恥ずかしくて読んでいられない代物なので、そもそも読むのが非常につらい。
で、主人公の矢代ときたら、
①14歳も年下の元気でいちずな勝又ちゃんと同居して、勝又ちゃんに主婦役をやらせ、なんなら自分の実父(ピアニスト)の生活の面倒も見させ、
②キス一つで身も焦がすような激しい恋におちたらしい金井恭平と勝又と泥沼の三角関係を演じて、
③ようやっと金井と別れたあとも、いまだに金井への熱い思いに身を焦がしつつ、
④マネージャーに収まっている風間経由で知り合った透とも愛人関係となって、
⑤こちらは勝又には存在を隠したまま、定期的に透のマンション(つまり、島津の遺産で透のものになった外苑前の高級マンション)に通って逢瀬をかさねている、
というすごい状況になっている。
風間が、矢代のマネジメントをしている個人事務所(社長は北原さん)に入って矢代のマネージャーをしている、という状況もすごい(酷い)が、透が矢代と寝てるってどういうことさ。あまりにも暴力的な痴情沙汰に巻き込まれやすい俊ちゃんを案じて、風間が安全パイである透を矢代に愛人としてあてがった、のか?そうなのか?
そして透ときたら、出所してきた良に振られたってどういうこと?
なんでも良が、透をおいて、音楽修行のために一人でロンドンに行ってしまったらしい。
あれか、透が島津に心を残していることに、敏感な良が気づいて返す刀で切り捨てられたのか?
透は、島津に自殺されてしまった心の傷と、一番辛いときに良に去られてしまった恨み節を、俊一を愛することで紛らしつつ、けっこう享楽的にも見える生きかたをしてきている様子で、その場にいない良のことを「本物の天才じゃなかった」的な落とし方をしつつ、「本物の天才」である俊一のそばにいられる自分達(透と風間)は今が天国だ、みたいなことを、俊一を間にはさんで風間と語りあっているという、もはや地獄の沙汰としか思えない状況。これを読まされたこっちは悲しいやら苦しいやら。
そういう、透ちゃんの近況をちらちらと交えつつ、俊一を相手に霧島安曇(=中島梓)が、自己の小説や音楽の芸術論をたらたらと語る。語る。語り続ける。ミューズだ、妖精王だ、魔王だ、と。
いや、だからさ。そういうのは作家であるなら、作品で表現しなさいよ。と。自分の作品で表現しえないことを、評論家中島梓が登場して、もっともらしく解説する、って、これ、「栗本薫」「中島梓」だからこそ可能になった荒技だけど、ただの自己弁護だし、私を理解して、って肥大しまくった自意識を垂れ流してるだけだし。
こういう激しい承認欲求に裏打ちされた何かを〈天賦の才能〉と勘違いしたうえ、ひたすら肯定してくれる環境を得てしまった、かつては一つの才能ではあったものが、ひたすらイド(うわ、懐かしい!)のように自己増殖を続けて周囲を飲み込みつつ収拾がつかなくなった、というのが晩年の「栗本薫」という存在なんだろうな。
・・・・と、まあこの状況である。透と島津さんが好きだっただけに衝撃的すぎて、怒りを通りこして、空しさを感じるんだけど、ここに到る矢代純一ブランチの作品は、私は全然読んでいないわけで、ひょっとしてこの状況には、ここまでの作品の中で、なんらかの正当性がある、というか、きちんと道筋がたってこうなっているのだろうか、と、救いの蜘蛛の糸を求めてみる。
この状況に納得するために、手を付けまいと心していた、読み友さんがリタイア気味の「キャバレーを見届けろ」企画に遅ればせながら参加しなければならないのか?そうなのか?
でもね。どうしても実りがあるとは思えないんだよね。
ちなみに、この電子全集28の巻末に、「矢代俊一年譜」が収録されている。いちおう、栗本薫本人がまとめたものらしく、この時間軸を中心に、東京サーガの時系列を再構築したらどうなるんだろう、とちょっと考え中。
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