2022年6月4日土曜日

035Ⅰ 朝日のあたる家 Ⅲ(角川ルビー文庫)

書   名 「朝日のあたる家 Ⅲ」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店   1991年6月(単行本初版)/20031月(文庫初版)
文   庫 333ページ
初   読 2022年6月3日
ISBN-10 4044124191
ISBN-13 978-4044124199

 第三巻です。
 良は実は透が好きだった。透は良をずっと愛していて、これは運命。と透が考え続ける。
 だけどさ。そこ、島津さんの家だし。
 透が島津さんちに良を入れてるせいで(?)風間も入り込むし、雪子も押しかけるし、良のマネジャーだって来るし、そこ、島津天皇の自宅だよ?
 島津さん、潔癖症で人嫌いで、基本透以外の人間を家にはいれないじゃない?
 そこに良が入り込んで、いくら透のベッドだっていったって、島津さんの寝室じゃん、そこ? って事実が、なんだか、収まりわるくて、正しいことでない感じがして、居心地が悪いのだよ。おまえ、そこでスキャンダル書かれたらどうするんだよ〜。島サンを背後から撃つなよ〜!と気が気ではないじゃないか。
 するとあれか。私は島津さんが好きなのかな? 透って、もし身近にいたら、絶対にふざけんな〜!ちったあモノ考えろよ!頭冷やせ!と殴りたくなるだろうな〜。それを、好きだっていってられる野々村さんも、案外偉大なのかもしれない。良も天然だが、透も相当に天然なんだよなあ。

 それにしても、だらだらとひたすら透の思考を追いかけるこの巻です。まあ、栗本サンのご本はこれに始まったことではないけど、推敲して、言葉を厳選したら、50ページぐらいに収まりそう(笑)
 人間の思考なんて、そもそもだらだらと冗長でループして、しょーもないことをぐだぐだと考えているものなのだけど、だからといってそれを全部文章にしたら良いってもんでもないだろうに。

 良の記憶は世界線を越えて、『まよてん』にダイブ。あれは前世だったのか?とは特に考える必要はなし。

 良の心の傷をいやすべく、SEXをすべきか、それは今か、犯ったら自分も巽さんみたいに殺されるか?
 と迷う透に、透への《恋》に恋するあまり家出をした四十女の雪子、透に頼りきる一方で、透に良を盗られたと嫉妬の幽鬼と化した風間。透の身から出たサビとはいえ、透を通じて島津に取り入ろうと、身の程知らずの欲で透に絡むアリサはなけなしのプライドを傷つけられてバカな復讐に出そうだし、やっと手に入れた良を守らなければと肩に力が入れば入るほど、透の周囲は他人の欲望でがんじがらめに狭まれていく。この雰囲気がちょっとサスペンスっぽくて、はらはら。そんな風に追いつめられちゃうと、透ちゃんは、島津の愛にふたたび気付いたりしてしまうわけで。ほんとうにもう、あああめんどくさい。こりゃあ、風間が収まらないだろうなあ、と、いうところで四巻目へ。

 追伸。とはいうものの、透がこれから良を何から守らねばならないのか、と自分の一番ツライ時期————ソロデビューを目指して頼んだプロダクションで、男色の社長の慰みものにされ、格好の枕営業のコマとして利用され、転落し、麻薬に手を出し、逮捕され、本当の男娼に落ちるまでの、自分でも時間の底に封印していた記憶を解きほぐす場面は、読んでいて切ない。透ちゃんの過去は壮絶すぎた。彼を島津さんに成り代わって抱きしめてヨシヨシしてあげたい気分になる。SEXの経験を重ねすぎて、もう、良とも、SEXするよりも体は触れあわず唇だけを重ねるほうが、より真実性を感じるようになっているという透の過去も、良との邂逅で癒やされてほしい。この切なさは、『翼あるもの・下巻』に匹敵。


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