2022年6月15日水曜日

0353 朝日のあたる家 Ⅴ(角川ルビー文庫)

書   名 「朝日のあたる家 Ⅴ」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店   2001年12月(単行本初版)/20033月(文庫初版)
文   庫 365ページ
初   読 2022年6月15日
ISBN-10 4044124213
ISBN-13 978-4044124212

 作中で、良が長々と、「矢代さん」「矢代先生」について、本物の天才とはなにか、本物のスターとは何か、その人そのものを認められ、愛されるとはどんなことか、と語るんだけどね。うーん。読む方からみると、ちょっと、いやかなり、作者のオナニープレイが恥ずかしい。一方の作品のスターが、もう一方のシリーズの主人公を褒めあげてるわけだからね。じゃあ、その矢代がどれだけすんばらしいかっつうと、天才という設定の美貌のBLキャラだったりするわけで、、、、。矢代君が『キャバレー』からもうすこし、逞しく育ってくれてたらよかったのになあ。なんか矢代のために体を張った滝川さんに申し訳ない気がしてくる。

 あと、良が島津の別荘や、島津の自宅にいくのをちょっとイヤがったりするんだけど、お前さん、3巻や4巻で、島津のマンションに入り浸ってたよね? きっと薫サン、わすれちゃってるんだろうなあ。

 それはおいておくとして、だ。『翼あるもの』上巻から、周りからあがめ奉られるばかりで、まったく本人の本当の意志や姿が見えず、偶像崇拝も極まっていた良が、その周囲の身勝手な思い込みとイメージの押しつけについに反旗を翻し、自分を語りはじめた5巻である。
 透のほうは「えぇ」とか「うーん」とか「それは・・・」とか言いながら、良の話を聞くしかない状況。
 これまで、著者の薫サンがさんざ良の死亡フラグを立てまくっていたが、それすら、そんなの本当のオレじゃないもーん。とばかりに、良の本来の生命力が満ち溢れてくる。それはいい。キャラが勝手に自分の生を生きはじめてこそ、栗本薫の本領発揮だもの。一方で、この良も栗本薫の投影であるならば、栗本薫は何に縛られ、どう、なりたかったのかな、などども、もちらちと頭を過ったけれどもね。

 この話のキモはなんだろう、と考えると、透が1巻で、一日一日をカタツムリが歩むようにゆっくりと踏みしめ7年間の時を過ごし、かつての巽と同じ歳になっていることに気付く。そして、5巻ではかつて透を愛おしんだ巽のように、自分が良を愛おしみ、そんな「弱き、幼き者を愛し、慈しむ」立場、つまり大人になっていることに気付く。人は変わる。成長することができる。人を愛する側になることができる。
 これがこの作のテーマだといいな、と思うのは私の願望に過ぎないが、けっして透ちゃんが立派で力強い大人、になるわけではないのが面白いところ。だって、死ぬ寸前までヘロヘロに弱った良と、なんとかかんとか生き抜いてきて、すこしは生きる力がついてきたかな、というか、かつてないほど、生命力がついてきたかな、という透で力関係はほぼイーブン。
 だから、透が、精一杯良を愛して、透が持てるエネルギーをすべて注いで、良に充電してやったおかげて、良は力を得てその天性の生命力を甦らせ、輝かせ、活動させ始める、そうすると、透はまったくそのエネルギーには敵わない、のだ。それが透の凡人たるところ。ちょっと可哀想なんだけど、その弱さや、揺らぎがまた透たる由縁。だがね。

 栗本センセイ、書いたら書きっぱなしで、他の作品との整合を図るなんてめんどいことはしないのだよ。文章を脳内から垂れ流してるとしか思えない、まるで昼下がりのワイドショーや、つまらない主婦のお喋りのようなだらだらした文章を書きなぐってるせいで、透の人格の崩壊ぶりが著しい。本当にヒドい。

 良はかわいい。透も良も愛おしい。ダメなのはあんただよ、栗本センセイ。アンタの頭の中からまろび出て、一人歩きを始めた人格達をきちんと表現してやらなかったのはアンタだ。『朝日』も『ムーンリヴァー』も良い作品だと思う。少なくともその骨格や、目指すところは。だけどこの5巻とムーンリヴァーを続けて読んだら、透ちゃんはただの言行不一致の口だけの行き当たりばったり野郎になってしまう。こりゃあ往年のファンが怒る筈だ。💢 と納得の逸品的な仕上がり具合だ。それでも終章の美しさと言ったら、私、10回は読んだからね。💢
 でもでも。この終章だけが、まるで別の生き物みたいに、作品全体から浮いているのは否めない。ここまで頑張ってきて、コレかよ。と思う人もいるだろうなあ。恐竜頭のパンチ一発。透ちゃんは顎粉砕骨折でダウンしましたとさ。だもの。

 どうしたらよいのコレ。  同人の浜名湖うなぎ氏のように、二次創作宜しく、かくあるべき『朝日のあたる家』を自分で脳内に妄想するしかないのか。それなのに、愛しくも美しく、切ないのだ。バカー!!

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