2022年6月19日日曜日

0356 死はやさしく奪う (角川文庫)

書   名 「死はやさしく奪う」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店 1986年1月
文   庫 294ページ
初   読 2022年6月19日
ISBN-10 4041500117
ISBN-13 978-4041500118

 かの『キャバレー』みたいな、ハードボイルドだけど、音楽を追いかける小説かとおもいきや、表紙のまんまのハードボイルド・ミステリーでしたね。これ、金(かね)さんのイメージなのかな?

「俊一がね、言ってたな」
「カネさん見てると、昔知ってた人、思い出すって」
「昔ちょっと知ってたヤッチャンだってさ」(P.211) 
 
 金井恭平は、JAZZのサックス奏者で、『キャバレー』の矢代俊一の兄貴分。サックスをお気に入りの順に「本妻」「二号」「三号」とよび、彼が行けなかったステージの穴に俊一をかり出した礼としてか、「俊ちゃんがカネさんの三号を欲しがってた」と人づてに聞いただけで、まあいいや、やっか。取りに来い、と実に気取らず、豪快で気前のいいところを見せるおっさんである。
 もっとも、俊一なら俺よりずっと大切にラッパを扱って毛筋一本ほども傷なんて付けねえだろうし、また吹きたくなりゃあとりもどせばいいや”くらいに考えていそうだけど。


 身長165㎝くらいしかない小柄な男だが、学生ボクシングで鍛えたがっちり体型の金サン、ちょっと見にはとてもジャズ奏者には見えず、どうみても筋もん。あれ、そういえば、いつ猫にミルクの皿を出してやったんだっけ?と3回見直したがそんなシーンは無かったぞ。まあいいや。

 大学時代から15年も片思いをしているゴージャス美人(今は人妻)が、夫婦で殺された、と聞き込みにきた刑事の2人組に聞かされ、にわかに身辺が怪しくなる。本人の思考が追いつかないうちに、自宅に忍び込まれ、殴られ、怪電話は掛かるし、ヤクザにボコられるし、自宅の冷蔵庫には毒入りミルク。(これがどうにも、ストーリー的になんだか浮いててね。こういう違和感て、ミステリ読みには大事よね。)いやさ、牛乳パックをスーパーとかで買ってきて、外からバレないように注射器かなんかで目立たないように農薬を注入し、それをわざわざ、金井のアパートに持ち込んで、冷蔵庫にしまうヤクザ。ってあまりにもマメマメすぎて、絵的にも面白すぎるじゃん、と思っていたらなんとなんと、そーでしたか。なるほどねえ。

 クラブでバイトしているトシが、16歳で山形から集団就職してきた、というのが、なんとも時代を感じさせる。集団就職って、昭和40年代くらいまでか。オイルショックでの経済低迷と、高校進学率が増えて、中卒就労が減ったのもこの頃。企業の募集が高卒以上になってきた時期。この本は昭和61年発行だから、薫サンはだいたい昭和50年代を描いたのだな。・・・・もっとも、薫サンの作品で時代考証をしようなんて考えない方がよいかもしれんけど。

 ストーリー的にはごくシンプル。
 女に惚れて、裏切られて、自分の中の聖女も、その聖女を愛した自分も“殺され”た。だから、その復讐を。ちょっとだけ女々しい男のハードボイルド・ストーリー。金井恭平という男のロマンでした。
 

0 件のコメント:

コメントを投稿