2017年7月12日水曜日

0041 容疑者

書 名 「容疑者」
原 題 「Suspect」2014年 
著 者 ロバート・クレイス 
翻訳者 高橋 恭美子
出 版 創元推理文庫 2014年9月

 もう、たまらんぞ。
 メスのジャーマン・シェパードの軍用犬マギーはハンドラーと共にアフガニスタンにいた。9.11の後、「テロとの戦い」のために米軍がアフガニスタンに侵攻し(アフガニスタン紛争)、タリバンによる自爆テロが増加してきたのが2006〜7年頃と何かで読んだ。
 なので、この本の時期を推定2007年と仮定。
 軍用犬マギーとハンドラーの別れのエピソードが切ない。戦死したハンドラーを守って味方の米兵にも牙をむくマギー。彼女もまた負傷していた。
 一方、パトロール中の銃撃事件で相棒を失ったスコットも、銃創の後遺症で心身ともに満身創痍だった。復職後、警察犬隊を希望したスコットを厳しく見守る上司のリーランド。軍から払い下げられてきたマギーと、第一線から退いても現場にしがみつこうとしているスコット、一人と一頭は出会うべくして出会う。お互いにPTSD持ちだったが、スコットが同じくパートナーを失い戦闘で傷ついたマギーに寄り添い、労りながら信頼関係を深めていく過程は限りなく優しい。そして部下と犬、双方を見守る上司のリーランドがまた良い。事件の謎解きは、これ、ミステリなのかい?と思うほどのあっさりモードだが、でも良いのだ。クレイスは、謎解きを書きたいのではなくて、人を描きたいんだから。
 最後の「たっぷり二か月近くうちに住んで愛玩犬になってたのは誰だ」というリーランドのセリフに、スコットの入院中めいいっぱいマギーを可愛がっていたリーランドの姿がうかんでニヤリとなる。

2017年6月29日木曜日

0040  For Honor We Stand (Man of War Book 2)

書 名 「For Honor We Stand (Man of War Book 2)」
著 者 H. Paul Honsinger 
出 版 47North  2014年3月
初 読 2017/6/29

 完読はしていないが、未読部分は翻訳が出た時のお楽しみに取っておく(言い訳)。
 戦艦ものの醍醐味と戦術・戦略の妙、友情と信頼、艦内問題への対処、部下の指導育成、トラウマの克服、宇宙軍的子育て、異種交流てのが撚りあわさって、二巻はさらにマックスがはっちゃけてグレードアップ。そして会話がイカしている。
 
 基本どこを拾い読みしても面白い充実ぶりだが、6章に出てくるホーンマイヤ中将の命令書がこれまた面白い(笑)。曰く
 『 上官の能力を試すな。命令を無視するな。目的地へまっすぐ行け。自分の冒険のために迂回するな』
 中将はきっとマックスのことを良く判ってるんだろうな。それにしてもマックス、一体どういう評価をされているのだ。
 1巻めでは優等生ぶりを崩さなかったマックスであるが、この巻ではかなりのヤンチャっぷりを発揮しているので、彼のこの二面性がまた面白い。
 ウォーザム・ビッグズ氏が発信したとみられる謎の暗号文を受け取り、修理中のカンバーランドを離れて、大使代行であるブラムを連れてラシード星系に向かったマックス。ラシードは政情不安な状態で、ラシード宇宙軍の支援を受けたにもかかわらず目的地に着陸することができず、ビッグズ氏との会合地点に向かうためには、散発的に戦闘が起こっている地上を移動する必要が生じた。マックスが取った手段は訓練用飛行機で敵勢力の頭上を通過すること。マックス自身は操縦に自信があるのだが、曲芸飛行につきあわされたブラムは絶叫(笑)。
 そののち、ラシードに侵攻してくるクラーグ駆逐艦隊と交戦するために、マックスはカンバーランドをラシードに呼び寄せるのだが。

 別動の艦長の元に、修理中のカンバーランドで駆けつける必要が生じた新任副長デコスタが直面した問題は補給艦からの離脱。デコスタは朗らかにマックスに報告する。
「ですがその点でクラフト少佐のご助力をいただけて幸運でした」
 という明るい副長に嫌な予感しかしないマックス。
「いやなに、補給艦の連中が退艦しやすいように、いわば、まあ “後押し” してやっただけですよ」(意訳)と片手をひらひらさせて涼しい顔のクラフト。(シェーンコップの絵でどうぞ)
 さらに「宇宙軍規則に抵触する事は何もしていない」と嘯くブラウンがドッキングを解除させるために提供した手段とは。(後日「爆弾サンドイッチ」として宇宙軍に知れ渡る。)
 自分の所業は棚に上げて、上官(自分)によく似た部下達のエキセントリックな行動に冷や汗をかくマックスにクスリとくる。

 一方で、部下を指導育成する指揮官としてのマックスも健在である。戦闘中のCICで緊張のあまり落ち着かなくなった副長に、艦橋での振る舞い方について指導する場面が秀逸。

 それ以外の士官達の成長ぶりも甚だしい。
 ラシードの暗号化された軍事機密通信を傍受し復号できるという通信長のチンの提案に対して
 「私はショックを受けている。断固としてショックだ。ラシードは友邦だ。紳士たるもの同盟国の軍事機密通信を盗み聞きしたりしないものだ。君からそんな提案を受けるなんて、愕然としている」芝居がかってるな。
 「私もですよ。断固として。実際この恥を抱えて生きていけることが驚きですよ。で、艦長。どうします? コンソールにしますか?ヘッドセットで聞きますか?」
 「コンソールにしてくれ。オープンチャンネルで」
 ちょっと違うかもしれないけどこんな感じか?1巻目でマックスのささやかな意趣返しの文面に「ひっ」とか言ってたチンの成長ぶりが頼もしい一節。
 おおむねカンバーランドの面々はこんな感じで、マックスの指導(?)のもと、のびのびと本領を発揮し、実に上官によく似た妙な行動力を示すようになっている2巻目である。
 こののち、特命を帯びてカンバーランドが編入された艦隊の司令官に、マックスがさんざん侮辱されたことに怒り心頭の乗組員たちが頼もしいことこの上ない。そしてマックスは「上官の能力を試すな」というホーンマイヤーの命令のもと、ゲリラのように(旗艦以外と)指揮系統を作り上げ、クラーグとの闘いに臨むのだ。

 ヴァーハとも新たな展開がある。カンバーランドが追撃していたクラーグ艦が、偶然ヴァーハの偵察艇に遭遇して攻撃する。ヴァーハはクラーグを凌駕する軍事技術を持っているが、単座のヴァーハ偵察艇と、クラーグ戦艦で戦力が違いすぎた。名誉を重んずるヴァーハは単独でクラーグと闘おうとするが、ヴァーハ艇の操縦士がまだ戦闘経験の浅い若者であることを見てとったマックスは、ヴァーハの若者に自分が戦士として上位者であることを示し、共同作戦を提案する。その結果、ヴァーハは象徴的な意味での獲物(肉)をマックスと分かち合う必要が生じ、その為にマックスにヴァーハの戦士名を与えることになる。「スワンプフォックス(湿原狐)」がその名前。
 このマックスが分け与えられた「肉」が、今後の戦局を大きく変更する可能性を持つ代物だった。。。。。。

 このような大きな戦争の流れのなかに、カンバーランド艦内の様々な出来事が絡んでくるのがホンジンガーの作風。
 今回の大きな艦内の事件は、圧縮エンジンの事故。マックスとヴェルナーの共闘が素敵。
 戦闘中の外殻の損傷による空気漏出に一人で立ち向かったパク少年の勇気。その勇気に報いるためにマックスが取った行動。
 幼い候補生ヒューレットへのマックスの関わり方は象徴的。きっと、ミドルトンや他の艦長達もこういう風にマックスに関わり育てたのだろうな、と思わされる。そして、その関わりの中で、マックスはヒューレットに、飲むことができる水が生成されている艦内の機器を教え、他の候補生にも教えるように言う。生き残るための知恵を幼い候補生に教えるマックスに切実さを感じる。彼らがその知識を本当に必要とするときには、自身は《サンジャシント》のシン艦長のように、もはやこの世にはいないかもしれない。自分の候補生がそんな体験をしなくても良いように艦を指揮すべく、自らに命じているに違いない。
 もうひとつ、マックス個人の大きな出来事がある。それは、訓練中の幼い候補生達に、自分の巡航艦《サンジャシント》での経験を語ったこと。もちろん自分から率先して話した訳ではなく、偶然の成り行きで語らざるを得ない状況に追い込まれたのだが。当時の自分と同じ年頃の候補生たちに語り、彼らの目と反応を通して自分の体験を振り返ることで、自分があの時どれほど強い恐怖を覚え、深く傷つけられていたか気づくのだ。そしてその気付きがもたらした安息感。候補生達にとっては、クラーグに鹵獲された巡航艦でたった一人で一ヶ月近くを生き抜いた伝説の候補生が自分たちの艦長だと知った感動と畏敬。しかし、それを表すのは言葉ではなく、尊敬を込めたまなざしと敬礼のみである。これを感動といわずになんと言おうか。お願いです。翻訳で読ませてください。


2017年6月4日日曜日

0039 女王陛下のユリシーズ号

書 名 「女王陛下のユリシーズ号 」 
原 題 「H.M.S ULYSEES」1955年
著 者 アリステア・マクリーン
翻訳者 村上 博基
出 版 早川書房 1972年1月

 この本のタイトルについては有名な話だとは思うが、一応書かないと気が済まないので書いておく。第二次大戦中のイギリス国王は、ジョージ6世(エリザベス2世女王の父)だ!女王ではない。刊行当時すぐに指摘があったはずだと思うのだが、あからさまな間違いなのに、訂正出来ない事情でもあったのだろうか?「軍艦ユリシーズ」で良かったのにな。
 さて、本題である。
 直前の航海から帰還直後、港内に停泊中に、一水兵の不服従から端を発し、水兵達の反乱が起こる。それは、繰り返されてきた過酷な任務に堪えかねてのことだった。自艦内での鎮圧は不可能とみて、近くに停泊する戦艦《デューク・オブ・カンバーランド》の海兵隊の派遣をたのみ、ようやく鎮圧に至る。その失態を問責される、ティンドル提督とヴァレリー艦長。そして、次の任務を告げられる。

 「ユリシーズは、あー、名誉回復の機会を与えられたと思っていい」

 このムルマンスク行きの輸送船団〈FR77〉は、ユリシーズに対する懲罰だった。

 恐るべき荒天の北極海。喀血を繰り返し、もはや自力では鉄扉を開閉したり、梯を上る力もない艦長は、それでも自分に鞭打って極寒の中乗組員たちを巡回する。
 襲い来る敵。空襲、Uボート。次々に荒れ狂う波間に沈んでいく僚艦。被弾して味方を巻き込む可能性のある味方輸送船の撃沈を命じられた若き水雷兵ラルストンの悲劇。敬愛する艦長を支える副官ターナー。乗組員の運命を案じながら、力尽きて息を引き取る艦長に泣かずには居られない。
 北ソ連航路を繰り返し護衛してきたユリシーズは、満身創痍で歴戦の老艦の風格だが、実は当時最先端のレーダー装置をそなえた最新鋭巡洋艦である。それが数度の航海でボロボロになる冬の北極海の非情。極限状態に置かれた乗組員たちの最後の抵抗(不服従)を軍紀に問い、より過酷な死の航海に送り出す海軍本部の無情。その中で、なぜか僚艦サイラスの存在に心が温まった。せめてあの船が最後まで生き残ってくれて良かった。

 ちなみに、表紙は新装版である。イラストは変わりないが、題字が少しオシャレになっている。この際、タイトルも直せばよかったのに・・・・・な。
 このイラスト、一瞬何が描かれているのかわからないくらいごちゃごちゃしているが、見れば甲板に突っ込んだドイツ空軍機の尾翼が2機、めちゃくちゃに破壊された砲塔、倒れた煙突、傾いたマスト、波に洗われる艦尾、爆発炎上する前部甲板、攻撃を受けてめちゃくちゃになったユリシーズ最後の姿であった。

2017年5月14日日曜日

0038 Deadly Nightshade A TALE OF ENSIGN MAX ROBICAUX

書 名 「Deadly Nightshade」2015年3月
著 者 H. Paul Honsinger 
出 版 H. Paul Honsinger(Kindle)

 ハヤカワ文庫『栄光の旗のもとに』のマックス・ロビショー少佐の前日譚の前編。本邦未訳。
 弱冠16歳の新任少尉マックスは、〈ナイトシェード〉という名称の単座の偵察機をあてがわれ、敵領宙域でのクラーグ軍軍事演習に関する単独諜報活動を命じられた。
 それは彼の才能故ではなく、ホーンマイヤーが溺愛する彼の姪のベッドに潜り込んでいたのがバレたから。ホーンマイヤーは激怒して、マックスに厳しい懲罰を与えようとしたが、その惑星の法律では16歳のマックスが未成年であるのに対し、彼の姪のほうは年上で成人とみなされるため、マックスを正規に罰しようとすると、姪の方が厳しく罪を問われてしまう。やむなくホーンマイヤーはマックスを降格した上で、危険な敵地に追いやることにしたのだ。
で、その単独行動中にヴァーハ艦が現れ、ヴァーハに攻撃を仕掛けたクラーグは一瞬で全滅させられ、マックスはナイトシェードごと拉致されて・・・・・。
 1巻の『栄光の旗のもとに』でのホーンマイヤーのマックスへの微妙な評価の原因となったとおぼしき出来事や、マックスとヴァーハ(『栄光の旗のもとに』では“バーチ”と訳を当てている)の遭遇の経緯など、マックスのはっちゃけた経歴が明かされる一方で、恩師ミドルトンの深い愛情に心を打たれる。それにしても、極限の状況下でへこたれず、とにかく闘いつづけるマックスの精神力はどうやって培われたのやら。
 拙い拾い読みで粗筋を押さえただけだが気持ちは満足。あとは翻訳を待つ。
 不眠症気味のマックスが、母の思い出の子守歌(フォークソングか?)を口ずさんで眠りに落ちるところに、涙腺が緩む。


2017年5月6日土曜日

0037 帝国宇宙軍1-領宙侵犯-

書 名 「帝国宇宙軍1-領宙侵犯-」
著 者 佐藤大輔
出 版 早川書房 2017年4月

 銀河帝国というラベルを貼ったブランデーボトルにイゼルローン製の大衆酒をぶち込み、ちょっと旧日本軍で風味を付けると佐藤版帝国軍が出来上がる。あっかるい成立過程は伊達と酔狂、というよりはノリと酔狂。
 各勢力の描写もそれぞれ面白い。銀河帝国が一番マシに見える。”異性愛傾向を備えた童貞の妄想を形にしたような女たち”。げろげろ。近傍国家の憎悪混じる思惑のあれこれは現実の日本周辺国家を想起させられる。艦対艦戦も艦隊戦も国家間の謀略もこれから、というところで佐藤大輔氏、無念の絶筆だった。享年52歳。著者のご冥福を祈る。この年は、これ以外にも数冊の刊行が予定されており、佐藤氏、油がのりきった、というところだったろうか。ご多忙だったのだろうな、と推測する。
 この物語の続きが読めないことが返す返すも残念。だれか佐藤大輔フリークが続きを執筆してくれないだろうか。グインサーガのように。着想ノートとか、設定集とか残っていないだろうか。佐藤氏の作品はいずれ全部読みたいと思っているけど、このようなお別れは悲し過ぎる。

2017年5月5日金曜日

0036 巨人たちの星

書 名 「巨人たちの星」 
著 者 ジェイムズ・P・ホーガン
翻訳者 池 央耿
出 版 創元SF文庫 1981年7月

 目が離せないストーリー展開で、先を先をと早読みしてしまった。ちょっと勿体なかったので、中盤まで戻ってじっくり読み返す。
 それにしてもタイムパラドックスまでぶち込んできたのには恐れいった。でも、ランビアンの好戦性をあの連中に帰結させるのはちょっとチープな感じがするし、地球人悪くなーい、っていうお気楽史観に今となっては安易さを感じてしまう面もある。
 それでも、時代背景を考えれば著者が人間性に全幅の信頼を置いているのは救いかもしれない。なにはともあれ非常に面白い。最後の一文で第1部に回帰するところも感動。

《再読》
 じっくり再読したところで、あらためて。ガルースとハントの友情が良い。それにゾラックとハントも。ソ連スパイの哀愁漂う背中にぐっと掴まれ、米国人とロシア人が手を取り合う展開にまた、書かれた時代を思いつつ胸熱。書かれたのが1981年だから、当時の米ソは冷戦まっただ中、ソ連はブレジネフ、米はレーガン、中曽根は83年からか。子供心にこの頃の新聞紙面は怖かったような気がする。そんな中で描かれた米ソの協力と世界融和。平和な未来。SF作家の未来への希求がぎゅっと詰まってる。
 ついでにジェヴェックス、ヴィザー、ゾラックのそれぞれの戦いも見物。
 ヴィザーに手玉にとられるジェヴェが若干哀れを誘うけど。ゾラックの「タリ・ホー」もじつに良い。

2017年5月4日木曜日

0035 ガニメデの優しい巨人

書 名 「ガニメデの優しい巨人」
著 者 ジェイムズ・P・ホーガン
翻訳者 池 央耿
出 版 創元SF文庫 1981年7月

 ミネルヴァ独自の進化過程の解説が秀逸です。これぞサイエンス・フィクション、よくも何にもないところからこれだけの生物史を創作出来るもの。著者は本当に頭が良い。
 ところでガニメアンは高度な知性の持ち主と言いつつかなりのうっかり者です。遺伝子操作で自分の首を絞めたり、うっかり恒星を破壊したり。この壮大に迂闊な人種が宇宙を飛び回るまでに進化した、という設定が一番難があるような?
 そして最後の種明かしはやっぱりダン先生の独壇場だった。いつも美味しいところを持っていく御仁ですな。

2017年4月25日火曜日

0034 コードネーム・ヴェリティ

書 名 「コードネーム・ヴェリティ」 
著 者 エリザベス・ウェイン 
翻訳者 吉澤 康子
出 版 創元推理文庫 2017年3月
 
 勇気ある女性達の戦記。イギリスでは、第二次大戦中、婦人部隊が各方面で活躍した。
将校の秘書官や通信員、無線員、運転手、湾内艇の運行や諸々。これは、戦前に獲得した技術を駆使して飛行機の操縦士となり、諜報部員の輸送を務めた女性と、その諜報部員の女性、二人の親友の戦争と友情の物語である。ドイツ占領化のフランスに潜入した女性は、ドイツ軍に捕らえられ尋問を受ける。彼女の語りで綴る前半と、彼女の救出を試みる後半の二部構成。のめり込めたら面白かっただろうと思うのだけど、私は女性の一人称語りはべたべたしてて苦手なのだ。最後はかなりの飛ばし読みになってしまった。
 それにしても、日本の女達が竹槍で銃後を守ってた時に颯爽と空を飛んでいた女達がいたのか。なんだかそちらのほうが夢物語のように感じる。「映像の世紀」とも違うヨーロッパの戦争を垣間見た。

2017年4月22日土曜日

0033 栄光の旗のもとに ユニオン宇宙軍戦記 (ハヤカワ文庫SF)

書 名 「栄光の旗のもとに ユニオン宇宙軍戦記」 
原 題 「TO HONEOR YOU CALL US  THE MAN OF WAR TRILOGY」2013年 
著 者 H・ポール・ホンジンガー 
翻訳者 中原尚哉 
出 版 早川書房 2017年4月 

《あらすじなど》
 候補生として8才から宇宙軍艦で育ち、28才で大尉になっていたマックスは、艦長以下の先任士官が全滅した艦内で戦闘指揮をとり、敵を破り生還する。
 この功績で最新型の駆逐艦の艦長に抜擢されるが、この艦が問題だった。前任艦長が病的な偏執狂で、乗員を疲弊させ艦内には問題が山積、戦闘効率は最低レベルまで落ちている。艦の問題を解決し、乗員を鼓舞し、士気を回復させなければならない。そのためにも敵に打ち勝つ必要がある。
 新米艦長が外敵とも艦内の問題とも果敢に戦って、部下の信頼と戦果を得ていく正統派ミリタリーSFである。おもしろい!
 艦長と兵員の間の信頼関係とか、圧倒的武力差を戦術でひっくり返すとか、艦長と軍医の友情とか、戦術を通して敵と心情が通じる、とか艦長の葛藤とか、新進気鋭の若手艦長が老練な将軍の手の平の上で頑張ってるとか、好きな要素がぜんぶぎゅっとつまっている。艦内の掌握、練度不足の乗員の訓練、前艦長が残した弊害の一掃だけでも大仕事だが、その合間に異星文明との接触、艦内事故への対処、偽装作戦、交戦、裏切り者への処罰ととにかく寝る間もないほど忙しい。これだけのネタを、よくぞこの一冊に詰め込んだ。しかも消化不良にならず、絶妙なバランスで、かつ3部作の1冊目として、きちんと収束させつつ、次作への余韻を残している。
 キャラクター造形も絶品。主人公マクシム・ロビショーは、ヌーベル・アカディアナ星出身。その名と惑星名が示す通りのケイジャンで、操舵所の凄腕チーフであるルブラン一等兵曹長も同じ星の出身。たまに交わす一言、二言のケイジャン・フレンチは艦長と操舵長の間の特別な信頼感を示しているよう。副長のガルシア(メキシコ系?ちがったか?)、機関長の“ヴェルナー”ブラウン(イギリス系)、宙兵隊支隊長のクラフト(ドイツ系)そして、医務長(艦医)でマックスの親友となるシャヒン(アラブ系もしくはトルコ系のイスラム教徒)が有能な艦長のブレーンとなり、それぞれの文化と個性を出しつつ、 艦長を支えていく。未来の多文化共生社会を覗き見している気になる。それ以外にも、候補生教導員の“マザーグース”アンボルスキや、通信長のチン、センサー長のカスパロフ、作戦長のバルトーリなど、有能な士官が脇を固める。政治的な思惑で艦の足を引っ張るいやらしい人間が出てこないのが、読んでいて爽快である。司厨にはケイジャンの司厨員がいて、味気ない宇宙軍料理にスパイスをきかせている。艦内醸造のビール、艦の焼きたてパンやケーキやパイ、軍艦ものが「料理で読める」のもめずらしい。フォレスターやダグラス・リーマンの海洋冒険小説の正当な後継とも言うべき作風であるが、二番煎じに甘んじることなく、オリジナルの世界観を構築している。

《マックスの生い立ちと取り巻く人々》

 マックスは8歳の時に敵の生物兵器攻撃のために、母と家族を喪った。この生物兵器ジノファージは、人類の宿敵であるクラーグ人が開発し、人類の居住惑星に同時多発的に放ったもので、このウイルスに感染すると、男性は無症状キャリアとなり、女性は内臓でエボラ出血熱のような激烈な液化壊死を発症し、ほぼ100%死亡した。この攻撃の年は、マックスのような、親を喪った子供達がユニオン支配星域内で大量に出現しただろう。保護者を喪った子供達(男の子)の後見となったのが宇宙軍であり、候補生として宇宙艦に乗り組んだ彼らは、艦を我が家とし、乗員を家族として、育成と教育と訓練を受け自らも軍人となる道を歩んだ。主人公マックスはそうやって8歳の頃から軍艦に乗り組んでおり、作中28歳の時点ですでに20年のキャリアを持つ宇宙軍士官である。その間、いくつかの悲惨な戦闘経験が加わり、そのもろもろが表からは見えにくいトラウマとして、彼の精神に影響を及ぼしている。彼がひた隠していたそのトラウマを見破って手をさしのべたのが、親友となるシャヒン医師だった。この、マックスのトラウマ克服も今後のストーリー展開の一つの軸となっていくだろう。

マックスが相当有能なのにもかかわらず、さらに強烈な個性を放ってマックスを手のひらの上で転がしているのが、任務部隊司令官のホーンマイヤー中将である。そのホーンマイヤーの候補生時代からの親友であり、マックスに「孫子」を教え、戦略・戦術を叩き込んだ恩師であるミドルトン大将の二人は、マックス少年期の候補生時代からマックスを見守り育ててきていると思われるが、その辺りの物語は今作では明かにされていない。ぜひ、読んでみたいものである。この二人、おそらく甘やかし役のミドルトンと、厳しい小父さん役のホーンマイヤーで役割分担しているのではないかと見え、マックスはもちろんミドルトン命なのだが、なかなかどうして、ホーンマイヤーはマックスを鍛える上では大きな役割を担ってきているように思える。

 

Heart of OakHeart of Steele

 ちなみに、原著のタイトルは、宇宙軍に歌い継がれているという設定の、イギリス海軍伝統の海軍歌「ハート オブ オーク(オークの心)」(作中では「ハート オブ  スティール(鋼の心)」として、メロディーはそのままに歌詞が宇宙軍仕様に変更されている。)その、「ハート オブ スティール」の歌詞から取られている。

 この「ハート オブ オーク」の歌詞「steady boys  steady」(作中では「そのまま進路を保て」と翻訳。steadyは操舵用語で「舵そのまま」とか「進路そのまま」の意)という台詞は、この本や続刊の要所で効果的に使われている。

 一巻では、クライマックスでガルシアとアンボルスキがささやく。二巻ではマックスが戦闘前の緊張に凍りつく艦橋で“steady  boys  steady♪”と口ずさみ、まあ、おちつけ、と部下を励ますシーンがある。海軍歌「ハート オブ オーク(オークの心)」を聴きたい方はこちらへ


「世界の民謡・童謡」 ハート・オブ・オーク Heart of Oak



《著者について》

  著者のホンジンガーはかなりの遅咲きで、なんとこの本が処女作である。小説家である妻の勧めで本作を執筆し、当初は自費で電子出版したが、Amazonの出版部門の目にとまりメジャーデビューを果たした。そして、一躍一流小説家の列に並んだ。奥様には、「よくやってくださった!」と感謝状を贈呈したい。

 ホンジンガーはすでに、第1部の2巻、3巻の出版を終え、その後、この第1部の前日譚である中編2作を世に送り出している。このMAN OF WARシリーズは3部作各3巻の全9冊となる予定で、原著の中では、全ての巻のタイトルも発表されている。本来であれば、氏のHPなどでは、第2部(4巻目)の刊行も予告されていたと思うが、健康不安が続き、刊行が中断している。氏の闘病と健康回復を祈っている。

【追記】ホンジンガー氏は、何年も糖尿病により闘病されていたが、2020年4月にガンが見つかり、8月にガン術後の回復期に感染した新型コロナにより逝去された。Man of War 第2部、第3部が遂に世に出なかったことが残念でならない。せめて、第一部の2巻、3巻と、17歳のマックス・ロビショー少尉の冒険譚である中編2作を、翻訳出版してもらいたいと、切に願っている。

 

2017年3月28日火曜日

0032 星を継ぐもの

書 名 「星を継ぐもの」 
著 者 ジェイムズ・P・ホーガン 
翻訳者  池 央耿
出 版 早川書房 1980年5月 
 
 世界戦争の危機は去り人類の情熱は宇宙に向かっている。明るい人類の未来が今となってはうらやましくも感じる1970年代による近未来描写である。
 話中の時点は2027〜9年だから、今からちょうど10年後。
 読んでいて今の現代を生きていることが悔しくなる程の未来の科学技術の描写。最先端の科学者達を駆使してのSF的謎解きはまるで鑑識物の推理小説を読んでいる様だが、圧巻はハントがガニメデで木星と対峙する情景だった。まるで自分がそこにいるような厳粛な気分にさせられた。SFの醍醐味を感じた瞬間でもあった。
 冒頭コリエルが巨人と形容されていることを読者は知っているが、話中の人々はもちろん知らない。どう回収するんだ!とやきもきしながら、途中の伏線も一向に回収される気配のないまま舞台は地球、月、木星へと移る。
 謎そのものは、日記が解読されたあたりでだいたい見当がついた。でもどのように伏線が絡んでくるのか?どこに「巨人」が絡んでくるのか?興味は尽きずに終盤へいったと思ったら、あれま、回収しなかったよ。これは続巻を読む必要があるのね。
 それにしても、作者ホーガンのこの知識量と想像力。敬服する。
 余談だが、最後まで読んで、佐藤史生の「夢みる惑星」を思い出した。「星船」で地上に降り立った人びととコリエルが重なる。

【2018.1.1 追記】
 私が伏線だと思っていた冒頭の「巨人」については、日本語翻訳上の偶然の出来事だと詩 音像(utaotozo)さんがご指摘されてました。
詩さんのレビューはこちら→ https://bookmeter.com/reviews/64237196 
こういうことは、一人で読んでいてはなかなか気づけません。読み友の皆様に感謝してます。