2022年2月5日土曜日

0322 殺しのアート(1)マーメイド・マーダーズ

書  名 「殺しのアート(1)マーメイド・マーダーズ
原  題 「The Mermaid Murders: The Art of Murder 1」2016年
著  者 ジョシュ・ラニヨン
翻  訳  者 冬斗 亜紀
イラスト 門野 葉一
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)   2018年12月
単  行  本 387ページ
初  読 2022年2月5日
再  読 2023年12月16日
ISBN-10  4403560350
ISBN-13  978-4403560354

 M/M、というジャンルです。初読でした。英語圏でのゲイ小説のジャンルで、Male/Maleの略、日本でいえばBLですが、ニュアンスは違うような気がします。書き手は女性作家が多い、という点はBLと同様。
 また、たんに興味や趣味の対象として消費するだけではなく、LGBTに関する差別や社会課題にも正面から取り組む作風が多いとのこと。作者のジョシュ・ラニヨンはこのM/Mのジャンルを長らく牽引しているそうです。
 この本は、見てのとおりイラストも大変美しく、冬斗亜紀氏の翻訳は、翻訳小説としても上品で手練れな印象で、上等なミステリ小説に仕上がっていると思います。
 さて、主人公は、FBIの美術品窃盗を専門分野とする特別捜査官のジェイソン・ウエスト。身内には政治家も第二次大戦の英雄もいる、ロサンゼルスの上流社会出身。新聞やマスコミに激写されることもあるFBIの寵児。(と、いう設定は2巻以降で出てくるので、第1巻では優秀な若手捜査官以上の設定はとくに見せられてません。)この巻では金持ちのボンボンなのかな、っていう程度。そして、もう一人は、FBIのプロファイラーで主任特別捜査官のサム・ケネディ。年齢は40代後半。かなりの強面で超絶自信家。強引で、冷血漢っぽい押し出し。しかし、プロファイラーとしては極めて優秀で、これまでにも数々の連続殺人事件を暴いてきている。
 もともと、サムの失点を集めて失脚させたいサムの上司がジェイソンをいわば“スパイ”としてサムの捜査現場に送り込んだだけあって、サムの態度は凍りの鉄壁。当初はジェイソンをほぼ無いものとして扱うし、ジェイソンは負傷から復帰したばかりでいささか現場感覚に不安があったり、でとにかく折り合いが悪かった。だがしかし、態度はともかくサムの目は公平で、いささか直情的ではあるものの、ジェイソンの捜査官として頭の回転が速く優秀な面を見いだし、だんだん態度が軟化してくる。ジェイソンをフォローしたり庇ったりもするようになるし、ジェイソンの行動を面白がっているような節のある。結局とのところ、サムは頑固で独善的であるが、それが彼の個性なんだろう。おそらくBAU(犯罪分析課)の彼のユニットのメンバーは、きっとサムを信頼している。だからこそ、BAUの他のメンバーにはサムに対するスパイの役は務まらなかったわけで・・・。だんだんとジェイソンにも、サムの能力が理解され、またジェイソンの方にはそれなりにサムに付き合う柔軟性もあって。おまけに、どうにもサムには曰く言いがたい魅力を感じてしまうジェイソン。M/Mだと思って読んでるから、もちろんジェイソンとサムが恋に落ちることに異存はないんだけど、ジェイソンがサムがゲイであることに気付くあたりが丁寧に描写され、ジェイソンがゲイだとカミングアウトするくだりもストーリーの中でとても自然で、すごく読者に親切だな、と思う。

 ジェイソンは少し前の潜入捜査で身バレして銃撃戦で撃たれており、ちょっとPTSDっぽいところがある。銃を向けられて体が硬直してしまったり、事件の話題で心臓がバクバクしたり。そんな彼が捜査現場に出るのはまだ早いのでは、と助言しようとするサム、なんというか彼、本当に判りにくい奴ではあるが、きちんと筋がとおっている。犯罪まみれのFBIにいながら、美術品捜査を専門とし、人間の最も美しいものを守り、後世に伝えたい、というジェイソンの実は細やかな感受性にさりげなく配慮したりするところも、サムって懐が深くて良い奴じゃん。
 ミステリーと、サムとジェイソンのSEXのバランスが絶妙です(ロマンス、と書こうかとも思ったんだけど、もっと直裁なんで、)。その描写も、お花畑すぎないのがいい。かつての連続殺人の模倣犯(コピーキャット)が現れたのか?という捜査の進展もそつがなく、登場人物は広がり過ぎず、きちんとそれぞれキャラ立ちしていて、読み応えがバツグンに良い。再読してあらためて思ったけど、これ、堂々の「年ベス」入りするくらい、出来がよくて面白い小説です。そして、ここから始まるもう一つのストーカー/シリアルキラーの恐怖。その不気味なジャック・オ・ランタン。

 サムが終盤ジェイソンに〈人魚のチャーム〉の調査に行かせたのって、どっちかっていうと危険から遠ざけようとしたのでは、という気がするんだけどそれは穿ちすぎかな。だって、ホンボシはたぶんサムはこの時点で見当が付いている。しかし、それが結果的にはジェイソンを将来に渡って危険な人物と結び付けることになってしまったのが皮肉ではある。(と、いうのは再読だからこそ言えることなんだが。)
 
 『殺しのアート』シリーズ、最初の巻にして、最高傑作なんじゃないか、とすら思うこの本。やっぱり、ジョシュ・ラニヨンは凄い作家だと思う。今後の翻訳刊行が続いていくことを切に希望する。あと、ジョシュ・ラニヨンについては、BLコミックコーナーではなく、ミラブックスとか二見書房の並びあたりに置いてもいいのでは?と思う。ストレートの濡れ濡れ本はちゃんと文庫や文芸書棚にあるのに、ゲイ・ロマンスはBLコーナーってどうなん?LGBT的にはさ?

0 件のコメント:

コメントを投稿