原 題 「Fatal Shadows」2007年
著 者 ジョシュ・ラニヨン
翻 訳 者 冬斗 亜紀
出 版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫) 2013年12月
文 庫 326ページ
初 読 2022年2月12日
ISBN-10 4403560156
ISBN-13 978-4403560156
先に読んだジョナサン&サムの「殺しのアート」シリーズやエリオット&タッカーの「フェア」シリーズの主人公たちがカミングアウトし、周囲にもおおらかに受け入れられているのと比べると、このシリーズは、結構重く、厳しく感じられる。
全5冊が刊行されているシリーズだが、性的マイノリティが偏狭な社会の中で生きていく困難さも描かれていて、二人がお互いを必要とし、徐々に距離を詰めるなかで、少しずつ自分を偽らない生き方を探っていくのも、魅力。
魅力といえば、『マルタの鷹』や『長い眠り』など、ダシール・ハメットやチャンドラーからの引用がちりばめられ、著者のミステリ、ハードボイルド愛が全編に滲みでているのも良い。他のシリーズもそうだが、ミステリ小説としての骨格がしっかりしていて、それだけでも十分に読み応えがあるのもなるほど、と思う。このシリーズは特にミステリの傾向が強いので、書店のBLコーナーではなく、翻訳ミステリの棚にも並べて、多くの人に手に取ってもらいたいと思う。
さて、そのストーリー導入部。
ロサンゼルスで新刊から古書までミステリー本を取り扱う、『クローク&ダガー書店』のオーナーのアドリアン・イングリッシュ。33歳(?)。高校時代に患ったリウマチ熱から心臓弁膜症の後遺症が残り、不整脈を抱えて心臓の薬が手放せないながらも愛する書店を切り盛りし、自分でもミステリー小説を書いている。その店員だったアドリアンの高校時代からの友人のロバート(ゲイ)が、刺殺される。おりしも、ディナーの席でのアドリアンとの口論を目撃された後の出来事だった。その殺され方から、知人や友人による犯行と思われる、と捜査に赴いたロス市警の刑事リオーダンに聞かされ、愕然とするエイドリアン。刑事たちの態度から、自分がれっきとした容疑者であることを悟って・・・・・・。
自分がゲイだ、と話す主人公アドリアンに、「ホモセクシャル」だろうと高圧的に畳みかける刑事リオーダン。 “ホモセクシャル”が差別的な意味合いを含むことに改めて気付かされる。まあ、このリオーダンも・・・・・なんだけどね。
さっき刑事が言い放った「だがあんたはホモセクシャルなんだろう?」という問いの響きを思い出していた。「下劣な生活をしているんだろう?」と聞かれたも同然の言い方だった。
以下略。マイノリティ故の痛み、マイノリティだった故の迫害。今の、過去の、そして今に、未来に続く因果の連なり。他のシリーズとはひと味違う、シリアスな苦みも味わいつつ、シリーズを追いかけていきたい。
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