2022年5月31日火曜日

0350 朝日のあたる家 Ⅱ(角川ルビー文庫)

書   名 「朝日のあたる家 Ⅱ」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店   1988年10月(単行本初版)/200210月(文庫初版)
文   庫 340ページ
初   読 2022年5月31日
ISBN-10 4044124205
ISBN-13 978-4044124205

 相変わらず気だるい透ちゃんであける第二巻。
 今日はなんとなく、生きやすい感じ♪と彼にしては浮かれて、♪巽さんとこに行こう♪と、ヨコハマに行くことにし、決して東横線などという下賎な乗り物には乗らず、贅沢にも青山からタクシーで一路ヨコハマへ。かつて一度だけ、甘々なデートをした巽との思い出の場所をほっつき歩く透ちゃんである。
 思い出のニュー・グランド・ホテルのバーで良い気分でウイスキーをかっくらおうとして目に飛び込んでくる『視聴率の魔術師、島津正彦プロデューサー、KTVを去る!』なんてスポーツ紙の見出し。

 透が見いだした亜美の才能を買った島津は、それを確信し、また朝倉の敵意を透から遠ざけて自分に引き寄せるために、亜美を映画に使おうと決意している。無論、敏腕プロデューサーとしての勘と職業人としての誇りもある。透のためだろうが、島津が自分で決めたことであれば、その選択と決断は島津一人のもの。責任を感じてよけいなちょっかい出しはするな、と荻窪の大蜘蛛こと野々村に釘をさされ、透にはできることがない。
 それでも、これだけは島津のためにやってくれ、と言われたのが、「亜美と別れる」こと。だがしかし、真剣に透に惚れている亜美がそう簡単に言うことを聞くわけもなく。
 そんな中、同時進行で、こちらもいい加減破綻の瀬戸際の良—風間コンビが、それこそ、交互に透にSOSの電話をかけてくる。呼ばれて出向く度に悲惨なモノを目にすることになる透であるが、その博愛主義が災いして、ついには風間にまで“マリア様”呼ばわりされる悲劇である。
 風間は、ついに透に「巽を殺したのは良」と打ち明け、うすうす分かってはいたけど、確定的な事実として知らされたくはなかった透は、それじゃ、巽さんが死んだのは、良に巽さんをけしかけた自分のせいじゃん。と、分かっていたとはいえ、あらためて目前に突きつけられて透はショックを受ける。だがしかし、透に真実を知られたと悟った良は、いっそう透に救いを求め、そんな良に「かわいそうに」と心底同情しつつ、オレは良を愛してたんだ!良を理解するためだけのために、今までのオレの苦難や悩みがあったんだ。オレは良の為に形づくられたんだ、良の為だけに存在するんだ〜〜〜〜!と、自分の苦しみこそを存在意義に転嫁する、非常にありがちな自己正当化に爆走。
 相当に陳腐な展開と透ちゃんのモノローグも、栗本薫の語りでついうっかり感動させられてしまう。
 愛とはなにか。人を癒やすのは、自分自身を癒やすのはなにか。無心に、自分のことは忘れてひたすら他人の事を考え尽くすこと、人の為に心を砕くことこそが、自分自身の癒しになる、というかそれでしか自分が癒やされることはない。ということ。人から人に流れる愛のごとき何か、人と人の心の間に生まれる何かにこそ、人間が人間として存在する無上の価値があること。
 栗本薫が小説を書き、それを通じて世に知らしめたかったことは、それではないのか。そして、その愛を体現する透が、たとえどれだけぐらぐらしていようとも、行き当たりばったりで、そのとき目の前にいる人にこんこんと情が湧いて、この人を誰よりも愛してるんだ!死んだらこの人の元に魂になって戻ってくるんだ!とか、この人の為になら殺されてもいい、とか本当にそのときどきで考えていることがコロコロ変わって、矛盾だらけであっても、通しでみたら、コイツが一番不実なんじゃないの、とか思うことがあっても、だ。透が愛しくて、透の思いが切なくて、ただただ、胸が痛むのだ。


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