2025年11月18日火曜日

0571 捨てられ公爵夫人は、平穏な生活をお望みのようです3

書 名 「捨てられ公爵夫人は、平穏な生活をお望みのようです 3」

著 者 カレヤタミエ
出 版 TOブックス 2025年11月
単行本 352ページ
初 読 2025年11月15日
ISBN-10 4867947784
ISBN-13 978-4867947784
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/131573887

 「なろう」サイトですっかり既読ではあるが、書籍にまとまったものを読むのもまた、楽しい。
 つぎつぎと新技を繰り出すのを見るのがたのしいメルフィーナの領地改革ストーリーではあるが、今作はぐっと、御夫君であるオルドランド公爵アレクシスが生きる厳しい世界も描かれる。
 北部に巣くう魔物、プルイーナとその眷属サスーリカと、冬毎に戦い続ける使命と、その能力故に背負った宿命を、メルフィーナもついに知ることに。そんなで、この巻はかなり重い空気をまとっている。ああもう、はやくラブラブカップルになっちゃえよ!

 表紙の青い長髪ののっぽは、『象牙の塔」の第一席の大魔法使いで自称(?)錬金術師のユリウス。この世界?それともユリウスの中?では、魔法使いより錬金術師の方が格上っぽい。

 にしてもメルフィーナ、作中では理知的ですっかり落ち着いた風情だが、若干16歳。ちょっと老成しすぎでは?と思わないでもない。

 あと、これまで、あらゆる取り組みを成功させてきていて、さすがに上手くいきすぎだと思ってしまうんだけど、トラバサミの作成や蒸留酒作りなんかは、さすがに知識や概念だけで一発成功はむりじゃねか?まあ、面白いからいいんだけど。

4巻は来春刊行。うれしい。座して待つ。

2025年11月11日火曜日

ウイスキー04 ジャックダニエル・テネシーハニー

税法上は「リキュール」として扱われる、フレーバードウイスキー。私はジャックダニエルハニーとか、単にハニー呼んでいる。
蜂蜜が添加されているってことで、どんな味なのか興味津々で近所のショップで購入した。

まずは飲んでみる。

甘っっっ!

これ、レモン果汁足したら「はちみつレモン」っぽい感じになるんじゃね? と思い、翌日試してみた。

そしたらなんと、「梅酒」の味になりました。想定外過ぎる。

でも、一番おいしい頂き方は、ハーゲンダッツ・ハニー。

バニラ味のハーゲンダッツに、ちょっと多めに上から注いでいただく。これがおいしい。
あと、コーヒーに入れるのもお勧め。コーヒーの苦みが引いて、なんとも言えない薫りと甘みが加わります。

ウイスキーとして飲んでもいいんでしょうが、とにかく甘いので私は大人のお菓子的にいただいている。

・・・・と、いう話を某〈お酒の美術館〉の店長さんにしたら、ジャックダニエルハニーを冷凍庫で凍らすと、とろりとしてアイスに掛けてもアイスが溶けにくく、さらにおいしい、と教えていただいた。なんならジャックダニエルハニーのハイボールにバニラアイス乗っけがいっときお店で流行った、とか。ちゃんと先人がいるもんだ(笑)

2025年11月10日月曜日

ウイスキー03 ノッカンドゥー シングルモルト 12年

ノッカンドゥー蒸留所。スペイサイド、スコッチ。ピート臭は控えめ

ブッシュミルズ15年の次に、ノッカンドゥー12年をハーフロックで頂いた。大変申し訳ないことに、この日はブッシュミルズを飲んだ衝撃が大きすぎて、ノッカンドゥーの印象が薄い。(苦笑)
初めてハーフロックというものを飲んだのだが、もうちょっと濃くても良かったかな、と感じたので、次は、ロックの加水多めで頼んでみよう。

しかしこの日は、とても気持ち良い酔いを感じた。

私はアルコールには弱くて、飲めてもせいぜい3杯。3杯飲むときには、お酒の選択やペース配分に注意しないと、貧血でぶっ倒れかねないし、気持ち良くなる前に気持ち悪さが来るので楽しく酔っ払える友人などをうらやましく思うこともあったのだけど、この度は、心地よい酩酊感を味わった。といって、調子にのって、飲み過ぎないようにしないとな。

2025年11月9日日曜日

ウイスキー02 ブッシュミルズ シングルモルト 15年 バーボンカスク


本を読んでいると、主人公たちがウイスキーを飲んでいるシーンによく出くわす。そんなとき、自分もグラスをちびちびとやりながら、本を読みたい、と思うものだ。

先週、「お酒の美術館」新宿紀伊國屋店で飲んだ一杯。最初の一口で、もう美味く、そのあとのどから立ち上る花のような薫りがまた素晴らしかった。

例によってウイスキーを語る語彙が足りないんだけど、ようするにおいしかった。たぶん少ない経験ながら、いままでで一番おいしかった。ちょっと感動的だった。

そんなこんなで、ボトルで購入するか悩み中。


ウイスキー01 厚岸ウイスキー 花ぐわし


私如きのニワカが口にするのはあまりにも勿体ない、贅沢な「厚岸ウイスキー」

先日、ご縁があって私の手許にやって来た。

ウイスキーの飲み方も知らない私が一人で飲むのはあまりにももったいなく、この世の愛好家の皆様に対して申し訳ない。なので、供に味わってくれる人を待っていた。

で、つい先頃、ウイスキーをハイボールで飲むのが大好きだという友人を誘って二人で飲むことにしたのだが。


その友人も、ウイスキー通というよりはハイボール好き。やっぱりあまりにも勿体ない感じが拭えない。

その友人の職場の上司さんが無類のウイスキー好きらしく、厚岸ウイスキーに激しく反応してくれたので、これはぜひ、味のわかる方にお裾分けせねば世のウイスキー好きに申し訳がたたん。と、妙なスイッチが入って、ブラックニッカのフラスクボトル(一番安かった!300円位だった)を購入して空けて、瓶をキレイにしてから、厚岸を詰めてお裾分けした。(ちなみに、ブラックニッカも普通においしかった。)

上司さんはたいそう喜んでくれたとのこと。良かった。

なにしろこのお酒は大切な頂きものなのだ。もたらされた福は独り占めしてはならぬ。きちんとお裾分けをしなければいかんのだ。

なんでも、厚岸産の生牡蠣に厚岸ウイスキーを垂らして食べるのがもの凄く旨いそうで、真似してみたくて生牡蠣のお取り寄せサイトを見てみたが、到着日時の指定ができず、入手は断念した。これは、いつかの楽しみに取っておこう。

そんな厚岸ウイスキーは度数55%。ストレートはちょっと無理。テイスティングしてみたけ
ど、最初の一啜りで、アルコールの刺激でくわ〜!となった。アルコール臭しか感じられない。
そこで少しづつ加水していくと、だんだん、味がはっきりしてくる。それでも強い。

かなりピート臭が強く、スモーキー。
私は、どっちかっていうとピート臭は苦手なほうだが、しかし厚岸ともなれば、ありがたみの方が先に立つ。最終的には炭酸で割って、存分に厚岸ウイスキーの強さを味わいつつ、酔っ払った次第である。

まだ、ウイスキーを語る語彙が少なくて、厚岸ウイスキー様に申し訳ない。

来年再会するまでに、もうすこし味覚を育てておこうと思う。

ちなみにこの「花ぐわし」は有限会社八重洲長谷川酒食品、BAR水楢佳寿久、有限会社田中屋、株式会社RUDDERは、4社合同でボトリングした限定品とのこと。ほんと、私ごときが飲ませていただいて、申し訳ない。
詳細な解説はこちらへ→
厚岸シングルモルトジャパニーズウイスキー 花ぐはし カリンパニ

0570 ウイスキーを趣味にする〜人気YouTuberが教えるウイスキーの楽しみ方

書 名 「ウイスキーを趣味にする〜人気YouTuberが教えるウイスキーの楽しみ方」
著 者 CROSSROAD LAB 
出 版 マイナビ出版 2021年12月
文 庫 160ページ
初 読 2025年11月09日
ISBN-10 4839978166
ISBN-13 978-4839978167
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/131374881

 ご縁があって、厚岸ウイスキー(堅展実業㈱ 厚岸蒸溜所)を時たま頂くようになったり、一時期、ダグラス・リーマンを愛読するあまり、作中の登場人物達が愛飲しているホースネックを飲んだりしているうちに、なんとなくウイスキーを飲むようになった。(なお、リーマンの英海軍ものに登場するホースネックは、いわゆるカクテルのホースネックというよりウイスキーのジンジャーエール割りに近いのでは、と勝手に思っている。駆逐艦のような戦闘艦の中で愛飲されてるから、たぶんそんな凝ったことはしていないんじゃないかと思うのだが。自分では、ウイスキーを辛口ジンジャーエールで割ってレモンをちょっと垂らしたのを勝手にホースネックと呼んでその気になっているが、実際はちがうのかもしれない。たぶん。)

 で、最近ハイボールをこよなく愛する友人と飲む機会が増えて、だんだん舌がウイスキーに慣れてきた。そうすると、ちゃんとウイスキーの美味しさを利きわけることができるようになってきた。自分なりに、これまでオイシイと感じたウイスキーを並べてみると、だんだん好みらしきものも判るようになってくる。
 メーカーズマーク、ジャックダニエル、カナディアンクラブ、ブラックニッカ、あかし・・・
今飲んでいるのは、ブッシュミルズとバランタイン・・・
 どうやら、ピート臭はさほど好まず、仄かな甘みを好ましく思うよう。たぶんスコッチよりはアイリッシュ。ジャパニーズウイスキーも、安いものでもバランスが良くて飲みやすい。
 そんなで、もうちょっと勉強しようと思って本を探したら、この本がKindleアンリミに入っていた。
 私が大好きなブッシュミルズが取り上げられていないのはちょっと残念だけど、ウイスキーをざっと勉強するには最適。
 さて、この本の中に、ウイスキー用の純氷を作る方法が解説されていたので、作ってみた。
 初めてにしてはなかなかの出来である。(自我自賛w)

 本当は立方体のキレイなキューブを作りたかったのだが、元になる氷をそんなに大きく作れなかったことと、アイスピックでは、うまく四角に割るのが難しく、不規則な形になった。氷作りもまだまだ楽しめそう。

 先日バーで頂いたブッシュミルズ15年が感動的に美味しかったので、ボトルで買うか検討中。
 そんな話を読メでつぶやいたら、アイル・オブ・ジュラを熱烈にお勧めいただいたり。職場の友人(先輩)から、ワイルド・ターキーを頂いたり!
 まだまだ、世界が広がっていきそうである。
 飲みっぱなしだと、せっかくの感動を忘れてしまいそうなので、ぼちぼち記録していこうかと思い立って、ブログに「ウイスキー」カテゴリを作ってみた。
 まあ、カスクだのフレーバーだのの蘊蓄を語るのは苦手なんだけど、飲んだボトルの記録くらいはしていこうと思う。
 

2025年10月の読書メーター

10月の読書メーター
読んだ本の数:8
読んだページ数:2391
ナイス数:480

暗殺者の回想 下 (ハヤカワ文庫NV)暗殺者の回想 下 (ハヤカワ文庫NV)感想
「おれはあんたのシックスでいたいんだ」これはプロポーズか?こんなことを言われちゃあ、このでっかい子犬を手放せないよなあ、ザック。アフガニスタンに散ったジェントリーの初恋。ところで12年前のこの事件、結果として「汚い爆弾」を載せた3機は撃墜、4機目も米軍の小部隊以外への被害はなかったのに、プリヤも、一般市民もが知っているほどの大事件になったのかな?とはちょっと思ったんだよね。ジェントリーは相変わらずのクリフハンガーで、ちょっと体力と運任せすぎはしないか?と思わんでもないけど、面白いからまあいいか、と。
読了日:10月31日 著者:マーク・グリーニー

軍人婿さんと大根嫁さん 7 (芳文社コミックス/FUZコミックス)軍人婿さんと大根嫁さん 7 (芳文社コミックス/FUZコミックス)感想
発売日を待てなくて、先行配信してたシーモアで読んでしまった!楽しさより切なさが増した7巻でした。婿さんの大陸での任務が明かされる。好きではなくなった海。親友を失い、戦後の戦場の始末をした誉さん。切ないナア。
読了日:10月30日 著者:コマkoma

暗殺者の回想 上 (ハヤカワ文庫NV)暗殺者の回想 上 (ハヤカワ文庫NV)感想
25歳の若造ジェントリーが生意気で(笑) 現在と12年前の交互進行。誰もが誰かを騙している。感想は下巻で。
読了日:10月29日 著者:マーク・グリーニー


『ババヤガの夜』日本人初受賞 世界最高峰のミステリー文学賞 英国推理作家協会賞(ダガー賞) (河出文庫 お 46-1)『ババヤガの夜』日本人初受賞 世界最高峰のミステリー文学賞 英国推理作家協会賞(ダガー賞) (河出文庫 お 46-1)感想
ダガー賞受賞の帯に引かれて読む。ヤクザ物のバイオレンス。あまり深くはない。ちょっとした叙述トリック。最初の違和感はちゃんと帳尻があう。だが失礼ながら、ダガー賞?よほど翻訳が上手かったんだろうか、それとも最近欧米で大はやりと聞く日本っぽさ(ヤクザ)が目を惹いたのか、とちょっと意地悪い感想も抱いた。なにしろあっという間に読めるので、血生臭いのが大丈夫ならちょっと隙間時間に読んで見てもよいのでは。ラストはちょっとファンタジーっぽすぎるかなあ。全編血生臭さと腐臭ただようが、その実メルヘンだと思った。
読了日:10月19日 著者:王谷 晶

竜の医師団4 (創元推理文庫)竜の医師団4 (創元推理文庫)感想
4巻は一気に事態が動く。イズルに降り立ったいつもの面々、竜医療最先端の地は、しかし苛烈な血統主義に支配される国家だった。そして、密かに蔓延りつつある優生思想。自分の出生についての暗い思いから、それに揺さぶられるリョウと、カラカラと笑い飛ばしながら蹴散らかす〈赤の人〉ニーナ氏(女性だということを、読んでてしょっちゅう忘れる)。優生思想についてはだいぶデフォルメされているかな、と思ったけど、医療者の熱い思いは存分に伝わった!
読了日:10月17日 著者:庵野 ゆき

竜の医師団3 (創元推理文庫)竜の医師団3 (創元推理文庫)感想
カランバスの上空に新たな竜が現れた!が2巻のラスト。しかし若い竜はディドウスの巣に孵化直前の卵を置いて遁走、なんと最長老の古竜ディドウスおじいちゃんは捨て子ならぬ托卵の仔竜の子育てをすることに!この仔竜に先天性の障害があり、竜の医師団は右往左往(笑) 。なんと言っても仔竜のチューダが可愛い。今回の医療テーマは先天性関節脱臼と◯◯◯。仔竜の治療法の開拓のために、リョウの移植された竜の目をダシに、ニーナ氏ともどもイズルに入国することが認められ、次巻へGO!
読了日:10月11日 著者:庵野 ゆき

ダンシング・ゼネレーションsenior 1 (マーガレットコミックス)ダンシング・ゼネレーションsenior 1 (マーガレットコミックス)感想
奥手でお堅い50代が社交ダンスに乗り出すって、なかなかきっかけが難しそうだが、こういう流れか。半強制でキラキラ(ぎらぎら?)な世界に飛び込むやり手女性誌編集者エリカさん。夫は定年退職済み、絵に描いたような濡れ落ち葉? にしてもエリカさん53歳にしちゃ老け顔すぎんか?表現するのも難しいお年頃よね。ほうれい線描くといっきにババア化しちゃうし。でも今時の50代ってもっと若くみえるような気がする。ってところに違和感アリアリでいまいち乗り切れなかった1巻目だが、タンゴのリズムに乗って疾走していってほしい。
読了日:10月08日 著者:槇村 さとる

フェア・チャンス (モノクローム・ロマンス文庫)フェア・チャンス (モノクローム・ロマンス文庫)感想
再々読。タッカー失踪で崩れそうなところを、耐えきるエリオットが強い。そのエリオットを守りきらんとするタッカーも男前。スカルプターはどうなる?これで完結なのか? FBIに管理官として復帰したエリオットと、バリバリ仕事する格好いいエリオットに相好を崩すタッカーを見てみたい、と欲を搔き立てられる終わり方。何回読んでも良いものは良いなあ。今回、プライベートで負担過多な折、隙間時間にストレスフリーな読書を求めてか、他の積ん読本を差し置いてついついシリーズ読了。ジョシュ・ラニヨンの新刊が読みたい。
読了日:10月07日 著者:ジョシュ・ラニヨン

読書メーター

2025年11月8日土曜日

0569 アリアドネの声

書 名 「アリアドネの声」
著 者 井上 真偽  
出 版 幻冬社  2023年6月
単行本 304ページ
初 読 2025年11月5日
ISBN-10 4344041275
ISBN-13  978-4344041271
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/131345317

 最後まで読めば、納得の面白さです。読んでいる途中で感じた様々な引っ掛かりはおおむね伏線として最後にきちんと回収される。むしろ、結末を導くための作りこみがすごい。(むしろ過ぎている。)
 なお、以下のレビューはネタバレを含むので、未読の方は読んではならぬ。


 特殊な状況下で特殊な対象者(被災者)をドローンで救助する、という極めて特殊な状況を作り出すために、状況設定を作りすぎていて、現実味が薄くなった。具体的には、地下に広がる実験都市、ドローンだけが使用する搬送路、居合わせたドローン技術者、大規模災害発生なのに、要救助者はたったひとりの重度障害者・・・・・という舞台設定が、読んでいる私にリアリティがあるものとして感じられなかったのはちょっと残念だった。だけど、比較的行間が広くて薄め(軽め)の本でさらさらと読めるので、引っ掛かりはあれど、読むのは苦痛ではなかった。
 ただ、若い作者であろうからか、言葉の選択が軽いなあとは思った。たとえば、墜落したドローンに対して「冥福をいのりつつ」は、かなり引っかかった。大規模災害の状況として、死傷者が多数でていて、冥福をいのらなければならない悲惨な被害者が実際にいると思われる状況で、電池切れで動けなくなったドローンに「冥福をいのる」という言葉を用いるのは思慮がたりないし、軽率だ。その軽さがあだになって、ストーリーへの没入をやや妨げられた。

 主人公やその友人も、悲劇が盛り盛りで、「悲しみ」や「鬱屈」が飽和している。
 こういう「過去の哀しみ」を背負った草食系男子っぽい主人公って、きっちり類型にはまっていて、最近では少々食傷ぎみだ。主人公の気持ちに感情移入できれば、ふつうの男の子が思わぬ重荷を背負って、それでも地道に一生懸命生きている、という状況も共感が高まるんだけど、言葉の使い方に微妙な違和感があると、その都度「違和感を感じている現実の自分」に返ってしまうので、感情移入を妨げられる。しかしこれは著者と、読者としての私とのジェネレーションギャップも影響しているので、必ずしも作品のせいではない。著者と同年代の読者で、難なく没入できる人もたくさんいるはずで、その人にとっては、ものすごい作品だときちんと感じられるはずだ。
 
 特殊な状況を演出するための舞台装置については、若干の違和感を感じる。


 例えば、住民や来訪者にまですべてIDが発行され、位置情報が管理される都市が、現代でありうるのか。 個人のプライバシーの観点から、たぶんそこまでの管理体制は許容されないのではないかな。
 途中、地下 5 階から 4 階に上がったところで、彼女は空気マスクを外すのだが、彼女はどうやって二酸化炭素濃度が安全域であると知ったのか。
 さらに気になったのが、WANOKUNIはどこにあるのか。
 まず「県」であること。主人公と所属する小さなスタートアップ企業が密接に参画できてい
ることドローン講習に参加した消防士が人事異動しているくらいだがら、東京からあまり離れてはいなさそうだ。しかも、地下鉄が稼働している。県知事の力が強く、市長が腰ぎんちゃく呼ばわりされているくらいだから、政令指定都市ではないような気がするんだけど、どうだろう?
 現在、地下鉄がある日本の都市は札幌市、仙台市、東京23区、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、福岡市らしい。
 そんなことを考えたのは、そもそも地下 5 階に地下鉄駅を作る必然性がないからだ。地下鉄路線が入り組んでいて後発の路線が大深度にならざるを得ない東京だって、都営大江戸線が地下 5 階の深さになっているところは少ない。一番深いのが六本木駅の地下 42メートル、新宿駅が36.6メートルだそうで、例えば新宿駅のJRの線路のレベルを地上2階だとすると、JR改札フロア地上1階、丸の内線改札フロアB1、大江戸線へのアプローチの地下道フロアB2、大江戸線改札フロアB3、大江戸線プラットホームフロアでB4。
 WANOKUNIが地方都市であるとしたら、ここまで深く地下鉄を掘る必然性がまるでない。例えば、近くの鉄道駅からWANOKUNI線として支線を引き、WANOKUNIに入る手前で地下に入る、という設定もありだが、それならせいぜい地下1階か2階だろう。まあ、べつに鉄オタではないし、ここでリアリティにこだわる必要はないのかもしれないが、地下鉄駅を地下 2 階か 3 階に設定し、地下鉄駅から地上への避難誘導路は完備されていて、なんらかの事情で最下層に取り残された被災者を地下鉄駅まで誘導する、とかの設定だったらもっと気分的に盛り上がったのに、とちょっと(ごく個人的には)残念だったりする。
 海で死んだ兄の「無理と思ったらそこが限界」という言葉の意味が、主人公の中で鮮やかに裏返ることとか、最後に現れる真相なんかは、ものすごく良い。だから、最後まで読めば、読後感はすごく良い。著者は良くここまで考えたな!と純粋に感心できる。
 だけど、一方で、最後の反転に結びつけるために、あれこれ細部を作りすぎだとも感じてしまう。
 ドローンのカメラが壊れたこと、熱分布マップを利用できたこと、被災者が「声が出せない」という設定。これらはすべて作中では「偶然」の産物で、数々の偶然の積み重ねで結末にたどり着いた・・・・・と思えれば、作品として成功。しかし、ああ、この結論作るためのこの設定だったのね、と読者に思われたら失敗。
 そういう意味では、この作品、どうなんだろう。私的には、やや、もやもやする。単純に、だまされた!面白かった!ってなり切れないのは、たぶん私がひねくれているからなんだろうけど。
 でも、まあ、いろいろケチはつけることはできたとしても、間違いなく面白い作品だった。

2025年10月31日金曜日

0567〜8 暗殺者の回想 上・下 (ハヤカワ文庫NV)

書 名 「暗殺者の回想 上」「暗殺者の回想 下」
原 題 「SIERRA SIX」2021年
著 者 マーク・グリーニー    
翻訳者 伏見 威蕃    
出 版 早川書房 2022年10月
文 庫 上巻:464ページ/下巻:448ページ
初 読 2025年10月31日
ISBN-10 上巻:4150415005/下巻:4150415013
ISBN-13 上巻:978-4150415006/下巻: 978-4150415013

読書メーター https://bookmeter.com/reviews/131246661  

 新刊から丸々3年以上寝かせてしまった(汗)。すでにその後、2作が刊行されている(汗)。その上、12月には新刊が出る!(大汗)。 ここで遅れを取り戻さねば、と慌てて手に取る。
 今作は、12年前と現在の交互展開。"冷酷な目をした暗殺者”なのに、どうしても子犬に見えるのはどうしてだ? ジェントリーと教官だったモーリスの信頼関係もよい。だがしかし、久しぶりに登場したカーマイケルは相変わらずクソだ。
 ジェントリーはザックのチーム〈ゴルフ・シエラ〉の4人目のシエラ・シックスだった。生意気千万の25歳。根っからの単独行動者。長期間の潜伏にも耐える粘り強さと比類無き技倆を持ち、そして口のきき方を知らない(笑)。

 ただ、口のきき方は知らないが、自分がそういう人間だということは承知しているし、得手不得手も承知している。そして、望まれるなら、努力もできる。若ジェントリーは生意気で変わった奴ではあるが、見所はある。そんなジェントリーを鍛え甲斐のあるやつと見込んだザック。ジェントリーが弟以外では初めて持ったチームであり、上官。スタッグの組み方もジェントリーはザックとそのチームに叩き込まれたのだ。
 そして、これまた甘酸っぱい、高校生みたいな恋。その結果は推して知るべし。

 そして、ジェントリーが胸の痛みを知ることになった、惨憺たる結果になったパキスタンでの作戦から時が過ぎること12年。
 再びCIAのおたずね者になったジェントリーは、ある民間請負の仕事であり得べからざる男を発見する。それは、12年前の事件の首謀者。そこから始まる追跡劇。
 
「俺はあんたのシックスでいたい」

 もはや、恋の告白のような言葉で、ザックの永遠の弟分ポジションが確定した若造ジェントリーであった。

2025年10月19日日曜日

0566 ババヤガの夜  英国推理作家協会賞(ダガー賞)

書 名 「ババヤガの夜」
著 者 王谷 晶
出 版 河出書房新社 2023年5月
文 庫 208ページ
初 読 2025年10月19日
ISBN-10 4309419658
ISBN-13 978-4309419657
読書メーター    

 書店の平積みになったダガー賞受賞の帯に「ほう?」と気が惹かれて読んだ。だが大変に失礼ながら、ダガー賞を受賞するほどなのかなあ。よほど翻訳が上手かったんだろうか、それとも最近欧米で大はやりと聞く日本風味(ヤクザ)が目を惹いたのか、などど、とちょっと意地悪い感想も抱いてしまった。
 任侠ではない、「暴力団」って感じのヤクザもの。そのヤクザの組長宅に、一匹狼の、やたらと喧嘩が強くて暴力が大好きな大柄な女が、自分の意志とは関係なく引きずり込まれる。
 年代を特定するヒントが少ないなかで、なんとなく現代だと思って話を読んでいくと、途中で、え?となる。徹頭徹尾、血生臭さと腐臭と汚臭が漂うバイオレンスだが、あまり深くはない。ちょっとした叙述トリックがあり、途中でちょっと戸惑うものの、理解してしまえばなんということもない。最初の方で感じた芳子のつれあいの言葉遣いの、違和感というほどでもないひっかかりは、ちゃんと帳尻があう。
 なにしろあっという間に読めるので、血生臭いのが大丈夫ならちょっと読んで見てもよいのでは、とオススメしたい。しかし、ラストはちょっとファンタジーっぽすぎるかなあ。全編血生臭さと腐臭がただようが、その実メルヘンだと思った。

 個人的には、柳がどうなったのかが気になる。ヤクザの若頭補佐をつとめようという男が、ちょっと甘すぎるんじゃないか、とは思って、そこにもかるくひっかかった。
 韓国釜山と下関を結ぶ国際フェリー就航が1970年。柳は家族を連れて韓国に渡ることができたんだろうか。