2021年7月11日日曜日

0280 ブロッサム (ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「ブロッサム」 
原 題 「Blossom(Burke Series Book 5)」 1990年
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 佐々田 雅子  
出 版 早川書房 1996年1月
初 読 2021年7月11日 
文 庫 439ページ 
ISBN-10 415079605X
ISBN-13 978-4150796051
おれは悲しい生まれだ————思い出すのはそればかりだ。だが、悲しみがおれの友だちだったことはない。必要なときでさえ、あの恐怖の電気ショックのように内部に食い込んでくるということはなかった。そいつはいつも存在しているだけだった。おれの魂に低く垂れ込めた霧のようなものだった。おれはよく自分の奥深くにもぐり込んだ。生きていく場所の中で、そこはおれが知っている唯一安全な場所だった。誰にも見えないところまで深くもぐり込んだ。だが、悲しみはやわらかすぎてちぎれない灰色の蔓を伸ばし、割れ目の間を進んできた。・・・・・・・


おれには小さな男の子が見えた。目には涙をいっぱいにため、ビンタを食った顔を赤く腫らして、自分のベッドからじりじり後ずさりしていく男の子が。3人の体のでかい少年がそちらに詰めよっていく。げらげら笑いながら、ゆっくり時間をかけて。
——————翼が折れたカモメをとり囲んでなぶる、3台の車。バークの記憶が揺すぶられる。


おれはチキンとダンプリングを食い、ジンジャーエールを飲みながら、一家の愛情あふれる会話に耳を傾けた。ふっと不思議な気がした・・・・・ここにいる自分の存在が。

 刑務所の「兄弟」ヴァージルの家に迎えられ、一家の団らんを眺めながら。
 バークとヴァージルはムショの仲間だが、子供の頃から犯罪を犯さずには生きることができなかったたたき上げの犯罪者であるバークとは違い、ヴァージルは愛する女を守るために殺人罪を犯し(引き受け?)、守ったその女はヴァージルを待ち続け、出所後には定職も家も所帯も持って2人の子供を育てている市民だ。そんなヴァージルの家で、居心地が悪いわけではないが、ふと、そこに自分が紛れ込んでいることに不思議な気分になるバーク。異世界を垣間見るような心もちだろうか。

 インディアナ州で起きた連続アベック銃撃事件。バークのムショ仲間だったヴァージルの義理の従兄弟の少年に容疑がかかる。兄弟のために真犯人探しに乗り出すバークは、犯人像として幼少時の被虐体験が原因で人格が歪み、殺人行為(射殺すること)が性欲の引き金となる孤独な青年像を想起する。かつての被害者が今は連続殺人鬼となっている。しかしバークはそんな犯人に治療と更生の道を用意してやるわけではない。とうの昔に一線を超えてしまった人間には、それなりのケリの付け方しかない。バークにそれを出来るのは、バークが同じ側のサバイバーだからである。だがしかし、ケリをつけたのはバーク自身ではなかったのだが。

 バークは殺伐としたニューヨークを離れ、インディアナのヴァージルの住む街で身分を偽装しつつ慎重に行動する。そのためか、これまでの作と比べ、人間関係もバークの行動も落ち着いて見える。ヒロインのブロッサムもこれまでの女性キャラの中では一番の高学歴(医学部出たての小児科医の卵)で、ある意味で育ちが良くて物怖じしない女性。かといってバークとまったく価値観がかすりもしないほどの良家の子女ではない。実は売春宿の娘なのだが、しっかりした母と、姉妹や店の女達に可愛がられて真っ直ぐ育っている。)
 努力が実ったり、苦労が報われたりする当たり前の表の社会と地続きではあるが、その遥か下層に、子供が虐待され、食いものにされる世界があるのだとバークがブロッサムに教える。無論、妹が殺された彼女もそのことは知っているし、小児科医としてこれから生きていけば、いやでもそういった世界に関わっていくことになるはずだ。

 ブロッサムが小児科医という身分を生かして、地域の児童保護の仕組みを調べてくる。
「いい、こういう仕組みになっているのよ、バーク。まず、800と言う番号が決められているの。これは州全体に共通の番号。みんながこの番号に電話するようになっているわけ。ソーシャルワーカー、救急センターの看護婦、学校の先生、隣近所の人、みんながね。電話はインディアナポリスに通じているの。そこの登録センターに。それから、また地元の出先に折り返し電話が行くの。それを受けた出先では人を出して調査させ、その調査員は報告書を作るの。事実か、そうでないのか。いずれにしても、その報告はインディアナポリスに送られて、すべてのコンピューターに入力されるっていうわけよ」—————1990年代のインディアナ州の虐待通報の仕組み。ちなみに日本でこのシステムに近いものが導入されたのは、2010年代。5、6年前からです。番号は「189」(イチハヤク)全国共通。覚えておいてください。

 「あまりにも多すぎるんだ………あまりにも多すぎる。(中略)報告書がひどい目にあわされた赤ん坊でいっぱいだ。焼かれたり、打ちのめされたり、不具にされたり。性的虐待も受けている。しかも、このファイルの一件一件すべてが、子供を家に返してケリをつけてるんだ。元どおり万事オーケイってわけだ。」
 バークのセリフが苦渋に満ちている。子供を守ろうとする試みはいつも後手で、ほとんど救いがない。壊れた卵は元には戻らないのに、壊されてからでないと何が起こったのかはわからない。そして打てる手は少ない。いつまでも子供を隔離し続けることはできないから、まだマシな親や親族がいる場合にはそこに返して再構築を試みることになる。子供を返す側も上手くいくはずがないと知っている場合もあるだろう。
 ブロッサムが持っていた薬を正確に言い当てるバーク。ソラジン。もちろん日本で市販されているアセトアミノフェン主成分の鎮痛剤ではない。クロルプロマジンという抗精神薬で、日本で販売されているコントミンと同じもの。メジャートランキライザーである。知っている理由として「俺は教護院にいたんだ」と説明するバーク。落ち着かなかったり、他害傾向が強かったり、反抗的な子供に対して投与されてたんだろう。孤児院、里親、精神病院、教護院、少年院、刑務所。バークの居場所だったところである。そうなった理由は、まともな境遇に生まれることができなかったからである。「州に育てられた」というバークの過去はどこまでも悲しい。

 バークが助けたカモメは、折れた翼も癒えて海に帰っていく。
 バークもまた、自分が生きる場所に帰る。どんなに過酷な場所であろうともファミリーがいてホームグラウンドと呼べる場所がある。


2021年7月3日土曜日

0279 ハード・キャンディ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「ハード・キャンディ」 
原 題 「Hard Candy(Burke Series Book 4) 」 1989年
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 佐々田 雅子  
出 版 早川書房 1995年10月
初 読 2021年7月4日 
文 庫 418ページ 
ISBN-10 4150796041
ISBN-13 978-4150796044
 シリーズ4冊目に至って、にわかに筆致が滑らかになったように感じる。ブルー・ベルの直後からストーリーは始まる。

 ベルを失って、魂が未だ彷徨っているバーク。何回も死のうと思ったが、仲間が彼を見守った。刑事との密約を破って少女売春婦の誘拐殺人犯3人を殺害し、警察に手柄を譲らなかったバークは、殺人犯として目を付けられていたためニューヨークの裏町に潜行している。自然、気持ちも鬱々としている。一方でベルの恨みを晴らすため、というよりはむしろ自分の気持ちを晴らすため、ベルの実父を誘い出して殺す。
 シリーズ最初から思っていたのだけど、彼「私立探偵」なんだろうか? 日本語タイトルの「アウトロー探偵バーク」ってどうなの? 本人は自分のことを「請負人」だと名乗っているが、家出捜索人、とか、よろず仕事人、とか闇の始末屋のほうがぴったりくる。むろん、小口の商い?で小金を稼ぐ詐欺師でもある。

 前作でバークに一方的に守られた形となった音なしマックスは、武人としてのプライドや、バークの役に立てなかったこと、バークが失ったものが大きかったことなどがわだかまったようで、なかなか気持ちの収まりがつかないが、ママやイマキュラータの取りなしや、バークがマックスと行動を共にしたことでようやっと、バークと仲直りできた模様だ。
 そのマックスの妻、イマキュラータの
 「あれは自尊心の問題だったんじゃない?例の男がマックスに挑戦をうけさせるというただそれだけの目的で、うちの赤ちゃんを殺したかもしれないなんて、ちょっと信じられないもの」
 という発言は(私的には)何気に許し難い。
 バークは、こういうときに心が冷えるが、怒ったりはしない。怒るほど、他人に期待も依存もしていないということなのだろう。

 とにかく、無気力で内向的になっているバークだが、ちょくちょくフラッドのことも思い出し、ひょっとしたら戻ってきてくれるか、と心が揺らぎもする。それでも、フラッドを迎えに行こう、というマックスの誘いにその気になるほどの気持ちは湧かない。そんなときに、10代の荒れていたころの不良仲間の“キャンディ”から電話が入る。
 キャンディはいわゆる高級娼婦となっていて、16歳になる一人娘のエルヴァイラを育てていた。そのエルヴァイラが家出して、某新興宗教のアジトに入り込んでいるので、娘を連れ戻してほしいとキャンディはバークに依頼する。何不自由無く育てられたと思いきや、エルヴァイラはキャンディによって、幼女売春の手駒にされていたらしい。エルヴァイラは心を病んでいる。教祖に心酔する娘が語る主張が、本当にいるタイプでリアルだ。

 そこに、旧知の殺し屋ウェズリイが登場。事態が混迷してくる。
 前作『ブルー・ベル』で愛したベルを犠牲にすることになった『殺し』の相手が、実はウェズリイがマフィアから依頼を受けた標的であり、バークがモーテイと一緒に葬った男のひとりはモーテイの監視につけられていたマフィアの一員だったときて、バークはにわかに困った立場に置かれてしまう。ウェズリイの仕事の邪魔をした上に、マフィアの一員を手にかけており、おまけにモーテイを放っておけば間違いなくウェズリイに殺されていたはずで、ベルが巻き込まれて死ぬ必要はなかった。ベルの死がまったくの無駄死にだったと知り、さらにバークの気持ちは惑う。

 自分の痛みや苦しみに折り合いを付けて、なんとか生きて行くことを模索していくバークの内面と、バークがこうありたかった氷のような生き方を体現しているウェズリイが、実のところバークに対しては兄貴分のように振る舞っているのが、なんだろう、切ないというにはセンチメンタルに過ぎるが、胸苦しい。
 こう読んでいて、私はヴァクスがストーリーに込めたメッセージや意味をきちんと読んで汲み取れているのかな?  一体、アメリカという国は、ニューヨークという都会は、ここまで酷いのだろうか? この話が1989年頃。最近では、スラムも再開発されたり、街並みも小奇麗になって、だいぶ安全に、、、、という話は聞くが、この話に描かれるような暗黒面は、どうなんだろう。 

おれは小さな 女の子のようなベルの声を聞いた。「あたしを救ってよ」 ベルは頼む男をまちがってしまったのだ。 

おれはひびの入った卵の殻をささえるように、頭の両側に指を押しあてた。愛した女を悼んで、パンジイみたいに思いきり吠えてみたかった。おれひとりで。だが、声は出なかった。

おれは自分の内部に震えが走るのを感じた。だが、今度はいつものやつではなかった。恐怖とはちがう。おれは恐れてはいなかった。ただ、泣きだしたいほど悲しかった。憎むほどのものは何も残っていなかった。 

ベルの死を受け止めきれないバークの痛みが憐れだ。

「子どもか・・・・・・どこがどうちがうっていうんだ。バーク?」冷酷無比な殺し屋ウェズリイがバークに問う。
 ちがう、と昔は思った。おれは孤児院で、里子にだされた家で、少年院で、神に祈った。誰かがきてくれますように。ファミリイになってくれますように。ファミリイは塀の中で見つかった。その後、別の神に祈った。忘れられないベル。あたしを救って、とベルはいった。ああ。最初の神はおれに見向きもしなかった。二番目の神ははっきり姿が見えるほどちかくまで寄ってはきた。「べつにちがいはない」おれはそう答えた。 

ライ麦パンのトースト、クリームチーズ、パイナップルジュース。そんな朝飯を続けている。おれはひとりで食べるのが好きだ。自分流に。刑務所じゃ、それが最悪だった。

「おれはあんたの気を悪くさせるつもりはない。あんたに逆らうつもりはない。ただ好きなようにしていたいってだけなんだ。シャバでも、ムショでも、どこにいようと。ただ、好きなようにしていたい。放っておいてもらいたいんだ」 

バークが生きて行くために求め続けていたささやかなもの。ファミリーという特別な存在と、ほんの少しの尊厳。

   怪物ヴェズリイがいう。「どうしようもないやつらがいるもんだ、バーク。だが、おまえは盗人なんだ―――早く本職に戻るんだな」 合わせ鏡のようなバークとウェズリイ。バークはウェズリイのようになりたかった。だが、人間は結局自分以外の人間にはなれないもの。バークの弱みや甘さは彼自身である証拠、そして一方のウェズリイの方も、きっとバークになりたかったのだろうな、と思う。ウェズリイはうんざりして去ることにし、手紙を置き土産にする。バークの殺しのいくつかについて、自分の殺しだと告白して。 そして、キャンディ。これまでに登場した中では最悪な悪女だった。ハードなキャンディを自認するが、それゆえに。粉々に砕かれるのだろう。

2021年7月1日木曜日

ロバート・B・パーカー 作品リスト① スペンサー・シリーズ

ロバート・ブラウン・パーカー(Robert Brown Parker 1932年9月17日-2010年1月18日)

※ このページの情報は、もっぱらウィキベティアに頼ってます。wikiのページは、左の写真をクリック。

 いつかはきっと読みたいスペンサーシリーズ。少しは積んでるけど、全巻制覇はたぶん無理。








スペンサーシリーズ                                                                                              

  1.  ゴッドウルフの行方(1984) The Godwulf Manuscript(1973)
  2.  誘拐(1989)      God Save the Childz(1974)
  3.  失投 (1985)     Mortal Stakes       (1975)
  4.  約束の地 (1978)        Promised Land     (1976) MWA賞最優秀長編賞受賞
  5.  ユダの山羊 (1979)    The Judas Goat    (1978)
  6. レイチェル・ウォレスを捜せ (1981)     Looking for Rachel Wallace  (1980)
  7. 初秋 (1982)                Early Autumn      (1980)
  8. 残酷な土地 (1983)    A Savage Place     (1981)
  9. 儀式 (1984)                Ceremony (1982)
  10. 拡がる環 (1984)        The Widening Gyre (1983)
  11. 告別(1985)                 Valediction(1984)
  12. キャッツキルの鷲(1986)   A Catskill Eagle(1985)
  13. 海馬を馴らす(1987)           Taming a Sea Horse(1986) ※『儀式』の続編
  14. 蒼ざめた王たち(1988)       Pale Kings and Princes(1987)
  15. 真紅の歓び(1989)     Crimson Joy(1988)
  16. プレイメイツ(1990) Playmates(1989)
  17. スターダスト(1991) Stardust(1990)
  18. 晩秋(1992)                 Pastime(1991)
  19. ダブル・デュースの対決(1993)   Double Deuce(1992)
  20. ペイパー・ドール(1994)    Paper Doll(1993)
  21. 歩く影(1994)              Walking Shadow(1994)
  22. 虚空(1995)                  Thin Air (1995)
  23. チャンス(1996)         Chance(1996)
  24. 悪党(1997)                  Small Vices(1997)
  25. 突然の災禍(1998)     Sudden Mischief(1998)
  26. 沈黙(1999)                 Hush Money(1999)
  27. ハガーマガーを守れ(2000)      Hugger Mugger(2000)
  28. ポットショットの銃弾 (2001) Potshot(2001)
  29. 笑う未亡人(2002)     Widow's Walk(2002)
  30. 真相 (2003)                Back Story(2003)※JS登場
  31. 背信 (2004)                Bad Business(2004)         
  32. 冷たい銃声 (2005)    Cold Service(2005)
  33. スクール・デイズ(2006)         School Days(2005)
  34. ドリームガール(2007)             Hundred-Dollar Baby(2006)
  35. 昔日 (2008)                Now and Then(2007)
  36. 灰色の嵐(2009)         Rough Weather(2008)
  37. 〈未訳〉                           Chasing the Bear(2009)※若かりしスペンサー
  38. プロフェッショナル(2009)    The Professional(2009)
  39. 盗まれた貴婦人(2010)            Painted Ladies(2010)
  40. 春嵐 (2011)              Sixkill (2011)     ※死後出版

ロバート・B・パーカー 作品リスト②


コール&ヒッチ・シリーズ                                                                                     

  1. アパルーサの決闘  (2007)山本博                   Appaloosa(2005)2008年映画化
  2. レゾリューションの対決   (2008)山本博     Resolution(2008)
  3. ブリムストーンの激突   (2009)山本博         Brimstone(2009)
  4. 未訳                                   Blue-Eyed Devil(2010)

              

警察署長ジェッシィ・ストーン

  1. 暗夜を渉る (1998)       Night Passage(1997)
  2. 忍び寄る牙  (1999)      Trouble in Paradise(1998)
  3. 湖水に消える  (2002)Death in Paradise  (2001)
  4. 影に潜む (2004)         Stone Cold(2003)
  5. 訣別の海 (2007)山本博              Sea Change(2006 )
  6. 秘められた貌 (2007)山本博     High Profile(2007)
  7. 容赦なき牙 (2008)山本博         Stranger in Paradise(2008)
  8. 夜も昼も (2010)山本博              Night and Day(2009)場
  9. 暁に立つ  (2010)山本博             Split Image(2010 )

 

サニー・ランドル・シリーズ          

  1. 家族の名誉   (2000)奥村章子        Family Honor(1999)
  2. 二度目の破滅  (2001)奥村章子     Perish Twice(2000)
  3. 束縛  (2003)奥村章子                     Shrink Rap(2002)
  4. メランコリー・ベイビー   (2005)奥村章子       Melancholy Baby(2004)
  5. 虚栄  (2007)奥村章子                     Blue Screen(2006 早川書房)※JS登場
  6. 殺意のコイン (2008)奥村章子     Spare Change(2007)

 

レイモンド・チャンドラー                                                                                                  

  1. プードル・スプリングス物語          (1990)Poodle Springs(1989)
  2. 夢を見るかもしれない (1992)石田善彦     Perchance to Dream (1991)

ノンシリーズ                                                                               

  1. 愛と名誉のために  (1984)Love and Glory(1983)
  2. 銃撃の森  (1981)    Wilderness(1997)
  3. 過ぎ去りし日々   (1995)   All Our Yesterdays (1994)
  4. ガンマンの伝説   (2001)  Gunman's Rhapsody(2001)  
  5. ダブルプレー       (2005)  Double Play(2004)
  6. われらがアウルズ  (2008)光野多惠子            Edenville Owls(2007)
  7. 勇気の季節   (2010)光野多惠子                        The Boxer and the Spy(2008)

2021年6月の読書メーター

 コミックス・雑誌をのぞけば実質5冊。目標の10冊には遠く及びませんが、アンドリュー・ヴァクスは丁寧に読まねば、という気分にさせられます。気候のせいか、いまいち気分の優れない日が続き、仕事をミスりそうでひやひや。それにしても、1年がもはや折り返しだということにいささか焦りを感じます。霞ならぬ活字を喰って生きていけたら幸せなのになあ。


ブルー・ベル (ハヤカワ文庫―ハヤカワ・ミステリ文庫)ブルー・ベル (ハヤカワ文庫―ハヤカワ・ミステリ文庫)の感想
《第183回海外作品読書会》アウトロー探偵バーク3冊目。バークのひりひりする生き様から目が離せないピカレスクであるとともに、バークの欠けた部分にベルの無私の情愛がしみこんでいくリリシズムがないまぜになって、全編にわたる二人の情交が深まるほどに、来たるべき破局のエネルギーが高まっていく。一気読みしたいのに緊張感が高まりすぎてとてもじゃないがそんなこと出来ない。なんつう読書体験だ。決して治癒することも、完成することもない孤独な人生を抱えた二人が出会い、愛し合い、そして死が二人を分かつ。お願いだから彼に救いを。
読了日:06月26日 著者:アンドリュー ヴァクス

Cats & LionsCats & Lionsの感想
ひっさしぶりの岩合さんの猫写真集。猫とライオン。上に猫、下にライオン。もしくは見開き左に猫、右にライオン。同じ姿勢、同じディティールで。ウチの猫はしかし、どちらかというと猫よりはライオンより。明かに野生の肉食獣の風貌である。
読了日:06月26日 著者:Mitsuaki Iwago

幼女戦記 (22) (角川コミックス・エース)幼女戦記 (22) (角川コミックス・エース)の感想
今回は、ロンメル・・・・ではなくてロメールとターニャさんの出会いから、まがりなりにも信頼関係(で、いいのか?)が築かれるまで。ロメールさんとターニャさんは、似たもの同士、というより、ターニャはまがう事なき現代人だが、ロメールが卓越した現代的な感性を持った戦略家ということなんだな。ターニャの信頼に応えることができなかった後悔をかみしめつつ、軍事政策の舵をとるゼートゥーアもなかなかに渋い。ターニャさんの出番はほとんどなく、もっぱらロメールがすっ飛ばす回だった。
読了日:06月25日 著者:東條 チカ

BADON(4) (ビッグガンガンコミックス)BADON(4) (ビッグガンガンコミックス)の感想
今回は、なんとリリーちゃんが誘拐の被害に! こういうときはやっぱりハートの“しがらみ”の出番になってしまう。他の3人はともかく、ハートは本当に暗黒街(?)と縁がきれて、明るいところで生きていくことができるのかしら?うーん、不安しかないが、でもオノ・ナツメだし、きっと大丈夫だろう。リリーの秘密もひとつ明かになり、貧困問題や、裏町の犯罪や、売春・人身売買、と、きれいなバードンの街なみにも裏面がある。そして、そこで人と人のつながりを大切にして生きていく人々も。ツタ・アパートの秘密もひとつ。いよいよ先が気になる。
読了日:06月25日 著者:オノ・ナツメ

本の雑誌457号2021年7月号本の雑誌457号2021年7月号の感想
今回の本棚は、先日読んだ『日々翻訳ざんげ』に名前が登場していた染田屋茂さん家。そして特集は『誤植』。面白すぎます。編集部のパニックが伝わるのは、キノコ図鑑で可食キノコと毒キノコの表記を間違えたやつ。背中を流れる冷たい滝汗が想像できます。ご苦労様でした。その他もろもろ。
読了日:06月18日 著者:

12番目のカード 下 (文春文庫)12番目のカード 下 (文春文庫)の感想
上巻はイマイチ乗り切れなかったが、下巻はさすがのジェットコースター。とても楽しめた。読者を欺くためだけに配置された登場人物があざとすぎる気もするけど、ディーヴァーだし、仕方あるまい。優等生モードだったジェニーヴァがどんどん高校生の女の子っぽくなっていくのも好ましい。“お母さん役”のトムが世話焼き。お母さんってw。本当に140年前の罪で損害賠償が可能なものか、ちょっと眉唾っぽく思えないではないが、そこはまあ、小説だし、アメリカだし陪審だし。深く考えるのはやめておく。
読了日:06月17日 著者:ジェフリー ディーヴァー

12番目のカード 上 (文春文庫)12番目のカード 上 (文春文庫)の感想
困った。面白くない。ディーヴァーなのに。ライムなのに!いまのところ、どうもお話に乗り切れていない気がする。理由は二つ。その1 ディーヴァーの引っかけを警戒しすぎていること(苦笑) ちょっとした言葉やセリフの端々が気になりすぎ。 その2 ディーヴァーによる黒人文化の解説が面白くない。政治的公正?が社会的に求められるせい? 内側に入っているようで他者的。情熱的なようで、冷静。解説的。ううーん。下巻でジェットコースターに乗り込めることを期待して、下巻にGo! はやくセリットーを助けてあげて!
読了日:06月15日 著者:ジェフリー ディーヴァー
煙と蜜 第三集 (ハルタコミックス)煙と蜜 第三集 (ハルタコミックス)の感想
とりあえず、1番のえええ〜♪はナイショにしておいて、と。お父さんと一緒、と勘違いされてどーんと落ち込む姫子さん(笑)それにしても驚いたのは、姫子母子が名古屋にきてまだ二ヶ月だということか?  文治さんと婚約してからたったそれだけってことよ!?
読了日:06月14日 著者:長蔵 ヒロコ

日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年の感想
ああ、私如きが翻訳の良し悪しに文句垂れて申し訳御座いません!と平伏したくなったよ。一方で、世の翻訳家さんが皆、田口さんや東江さんみたいに真摯であれば良いのに、とも思う。ともあれ大変面白いだけでなく、言葉の勉強にもなりました。そしてやはり積読山が高くなった(爆) ロングレビューはこっちへ→ https://koko-yori-mybooks.blogspot.com/2021/06/0275.html
読了日:06月10日 著者:田口俊樹

裏切りのシュタージ (ハーパーBOOKS)裏切りのシュタージ (ハーパーBOOKS)の感想
この翻訳は文芸というには力不足。しかし着想はなかなか良いと思うのだ。かつての東ベルリンで進行していた秘密作戦「ウォルラス」。それは現在、ある「男」の命運を左右することになるが故に、その計画を抹消すべくまさにその計画が動き出す。壁が崩壊した1989年、激動はスパイ達の人生も揺り動かした。一夜にして基盤を失った諜報機関。それにも関わらず、ソ連KGB→東独シュタージ→ロシアFSBと計画は生き残り、引き継がれた。そして当時東独で活動し、ベルリンの壁崩壊を目の当たりにした実在のKGB将校といえば?そうあの男だ。
読了日:06月06日 著者:アンドレア プルガトーリ

幼女戦記 (21) (角川コミックス・エース)幼女戦記 (21) (角川コミックス・エース)の感想
悲惨な大戦に突入、と思いきや、そういえば、とりあえず当面南方戦線(アフリカ戦線)はロメール(もちろんロンメル)の指揮下で絶好調だったのだ。デグレチャフさんも、ロメールと意気投合して生き生きと戦っております。コレまでで一番、ある意味(デグレチャフさんの内心的には)平和な巻かもしれない、というくらい、楽しそうで、ちょっと拍子抜け。次巻はなんと来月。東條チカさんもがんばるなあ。
読了日:06月02日 著者:東條 チカ

読書メーター

2021年6月26日土曜日

0278 ブルー・ベル (ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「ブルー・ベル」 
原 題 「Blue Belle (Burke Series Book 3) 」 1988年
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 佐々田 雅子  
出 版 早川書房 1995年4月
初 読 2021年6月25日 
文 庫 581ページ 
ISBN-10 4150796033 
ISBN-13 978-4150796037 

 性愛も情愛も純愛も一緒くたになって、ベルからバークに流れ込んでいく。お願いだからベル、そんな風にバークを愛さないで。彼が彼女を失って傷つくのを見る予感が辛い。

 始めから悲劇的な結末しか見えない、男と女の出会いである。間違っても美人ではない大女のストリッパーのベル。彼女は近親相姦の結果の子で、外目には見えにくい遺伝の傷が沢山ある。ベルはそれを知っていて、子供は産まない、と決めて不妊手術を受け、一人で生きていくことを決めた。でも一人では寂しくて、愛を与えることができる男を捜し求めている。
 一方のバークは、細かい経緯は明かされていないが孤児院で育ち、職業里親や少年院を渡り歩き、17歳になってからは殺人未遂で成人の刑務所に収容され、学校ではなく刑務所で、アウトローとして生き延びる術を学んできた前科27犯である。
 彼自身が児童虐待、そしておそらくは幼児性愛の被害者で、それ故に子供を食い物にする犯罪者を激しく憎み、抹殺することも辞さない。そして、彼もまた自分が子供の親になることを拒絶し、すでに自身に不妊の処置を施していることが、この話のなかで明かに。
 決して治癒することも、完成することもない孤独な人生を抱えた二人が、少女売春婦を標的にした事件の依頼を契機に出会うのだ。

 バークは詐欺で小金を稼ぎ、裏町の弱者から依頼をされれば探偵のまねごとも始末屋も請け負う裏稼業。短軀の黒人、廃品置き場の科学者、聾唖の武人、女装の麗人、中国人の商店主で街の顔役のママ、児童売春の元男娼だった少年、そして巨大なナポリタン・マスチフの雌犬パンジイが彼、バークの家族である。本当の家族より強い絆で結ばれ、本当なら親の愛でうまるはずの場所に友情を注ぎ込んで、それでも埋めきれない寂しさも引っくるめて抱えながら強烈な意志で生き抜くサバイバー。
 そんな彼が、街に立つ娼婦を標的に殺戮を繰り返す謎のヴァンを追う。狙われていたのは、路上の少女売春婦達である。一方で、そこに絡んでくる殺人武闘家が、赤ん坊を授かったばかりの聾唖の武人マックスを付け狙う。マックスは挑戦を知れば武闘家として受けて立つに決まっているが、赤ん坊とその家族を守ること以外の選択肢を持たないバークは、マックスを危険から遠ざける。

 バークのひりひりする生き様から目が離せないピカレスクであるとともに、バークの欠けた部分にベルの無私の情愛がしみこんでいくリリシズムがないまぜになって、全編にわたる二人の情交が深まるほどに、来たるべき破局のエネルギーが高まっていく。一気読みしたいのに、緊張感が高まりすぎて、とてもじゃないがそんなこと出来ない。

 ラストの、ベルを抱きしめたまま地面に横たわるバークの悲嘆が苦しい。

2021年6月16日水曜日

0276-77 12番目のカード 上・下(文春文庫)

書 名 「12番目のカード 上」「12番目のカード 下」 
原 題 「The Twelfth Card」0000年
著 者 ジェフリー・ディーヴァー
翻訳者  池田 真紀子
出 版 文春文庫 2009年11月 
初 読 2021年6月15日 
文 庫 上:383ページ  下:430ページ
ISBN-10 上:416770580X 下:4167705818 
ISBN-13 上:978-4167705800 下:978-4167705817 
 
 相変わらずあざといなあ。
 殺し屋と共犯の配置といい、読者を騙す気満々のジェフリー・ディーヴァーである。
 中盤まで、どうもお話に乗り切れず、面白さを感じられなかったのだが、多分理由は二つある。
その① ディーヴァーの引っかけを警戒しすぎている。(笑) ちょっとした言葉やセリフの端々が気になりすぎ。 
その② ディーヴァーの黒人文化の解説が面白くない。政治的公正が社会全体として求められるせいだろうか。内側に入っているようで他者的。情熱的なようで、冷静。解説的なんだよな。
 殺人犯の身体的特徴(足を引きずる)を似せていることが、読者を混乱させようとする気、満々。表紙の〈吊された男〉の隠喩も気になる。目の前で証言を取っていた女性を射殺されて、衝撃を受けたセリットーの先行きはどうなるのか? 登場したてのルーキー警官、プラスキーがまさかの初回撃退?といろいろと心配。(もっとも、この後のシリーズを先に読んでいるので、彼らが元気に活躍しているのは知っているのだが。) シリーズ最初に出てきたルーキーは誰だったっけ? ジェリー、彼みたいにいなくなりませんようにと、願わずには居られないのだ。だけど、いまだにジェリーが隻腕のカッコイイ切れ者刑事になってライムの前に立ち現れるのを心底期待している。

 さて、下巻に入ってからは、テンポもよく、一件落着したかに見えたところで、あと五分の一ほどページが残っているので、さらにどんでん返しか?と思うと案の定。
 
 今回は、と読者を騙すためだけに配置されたグラフィティ・キングがとにかくあざとすぎるし、新犯人の動機があれだと、弱いような気もする。自分の「職」ではあるが、自分の財産では無いわけだし、あの男は職や地位にしがみつくには少々スレすぎているように思える。
 一方で、最初は年齢にそぐわない冷静さと知性を見せていたジェニーヴァがどんどん歳相応の少女になってきたのは好ましかった。全体を通してみれば、なかなか面白かったな。ラストのライムの黙想が秀逸。(ハンス・ウルリッヒ・ルーデルの『急降下爆撃』の〆の1行を思い出す。)


“自分を完全な人間とみてそのように生きるか、不完全な人間とみてそのように生きるか、それを決めるのは、自分自身だ。”

2021年6月10日木曜日

0275 日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年


書 名 「日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年」 
著 者 田口 俊樹
出 版 本の雑誌社 2021年3月 
初 読 2021年6月9日 
単行本(ソフトカバー)216ページ 
ISBN-10 4860114558 
ISBN-13 978-4860114558

 先に読んだ『寝耳にみみず』東江一紀さんのいうところの「マット・スカダー訳者」である田口俊樹さんの翻訳秘話?

 面白い、というより、実に勉強になりました。いや、もちろん面白いのだけど!それよりも、紹介されているあの本、この本、次から次へとAmazonでポチりたくなる。
「残念なことにとっくの昔に絶版になっているけど、アマゾンのマーケットプレースで一円で買える。是非ご一読を!」の一文に切なさを感じつつ。(マーケットプレイスじゃ、ないんだ!と変なところに田口さんのこだわりを感じる。)
 それにしても、田口さん、チャーミングなお人だ。超がつくような大物翻訳家にこんなこと言ったら失礼だろうか?

以下は、レビューというよりは、この本に触発されてあれこれ私が考えたこと。
 私は読んだ翻訳の善し悪しを簡単に口にするが、それってとてつもないことをしているよな、と日々後悔に襲われもする。一方で、読むのは私だ(読者だ)、みたいな不遜な気分もそれなりにあって、私ごときのシロートに何かを言われるような翻訳を世に出さないでよ、という素人の傲慢さ全開で読書ブログを書いている。
 いやだがしかし、私に翻訳文芸を読ませてくれる大切な翻訳家さん達に対してともかくも、やり過ぎないように、中庸に、英語力がちゃんと備わってるわけでもない自分の無知を自覚して、批判ではなくむしろ育てることを意識して、、、、、って、ウチの職場の新人育成じゃあるまいし、プロに対してそれも失礼でしょう?
 世に作品を出すことを、商業ベースでやらねばばらないという難しさももちろん理解できる。
 大抵のことはググれば情報が手に入る時代になったからこそ、機械翻訳が性能を上げてきているからこそ、調べものの手間が減った分で表現を磨いてほしい、とこれからの翻訳家さん達には願う。ああ、何という上から目線なんだろう、恥ずかしい。そして、兎にも角にも、出版社さんには査読を頑張ってほしい。シロートが一発で気付くような間違いを紙面に乗せたまま、作品を世に出してはいけないよ。そういう点では、やはり精度の高さを信頼できるのは、東京創元さんかな。もうここ何年か「初夏のホンまつり」に行けていないが、アン・レッキーとクレイスの続刊を出してくれてありがとう。あの時話相手をしてくれた女性の編集者さんにお礼を言いたい。

 ところで、第5回の、「アクシデンタル・ツーリスト」の和訳タイトルを私も考えてみた。『やむにやまれぬ旅行のために』 これはどうだろうか?

 この本のレビューからかなり遠方まで離れてしまったので戻すが、私の知らない言葉の知識がたくさんあって、凄く勉強になった。以下に勉強と考察のまとめ。

「口径」と「番径」(p.32)・・・これは知ってたけど、ひとえにWikiのお陰だ。
「ダウンタウン」は、市当局、警察の含み。「ちょっと署までご同行願おうか」って感じ? 頭に浮かぶのがくたびれたトレンチコート着た山さんだ。年齢が知れちゃう(笑)
「書き入れどき」(p.35)・・・掻き入れだと思っていた。帳簿に儲けを「書き入れる」から来ていたとは!
「まさに掬すべき滋味がある。」(p.36)・・・恥ずかしながら掬すべき、という言葉を知らなかった。「「滋味掬すべき」(じみきくすべき)とは「豊かで深い精神的な味わい[=滋味]を、十分味わう[=掬す]べき」ということ。」
「ひとりごちる」と「ひとりごつ」(p.72)
「みみをすまして」と「みみをすませて」(p.73)・・・あれ?それでは大好きなジブリの名作『耳をすませば』はどうなる?
「ソーホース」(p.105)・・・・田口さんに媚びるわけじゃないが、私は「木挽き台」が一番好きだな。イメージがしっくりくる。
「狎れ」(p.118) 
「思しい」(p.154)

2021年6月4日金曜日

0274 裏切りのシュタージ (ハーパーBOOKS) 

書 名 「裏切りのシュタージ」 
原 題 「QUATTRO PICCOLE OSTRICHE」2019年
著 者 アンドレア・プルガトーリ 
翻訳者 安野 亜矢子 
出 版 ハーパー・コリンズ・ジャパン 2020年8月 
初 読 2021年6月4日 
文 庫 392ページ 
ISBN-10 4596541418 
ISBN-13 978-4596541413

 イタリア人の著者が、旧東ドイツの諜報機関をテーマにした小説を書いているわけだが、ドイツ人に対して、イギリス人vsフランス人みたいなのとはまた違う、なんだか底冷えするような悪感情があるような気がしたんだよねえ。気のせいかなあ?

 それと、翻訳がいまいち。たとえば、次の一文。
 “ニナは、ペーターを恋に落とす唯一の存在だった。”・・・・・恋は落とすものではなく、落とされるものでもなく、落ちるものだ。

もう一つ。「カラブリア人です」ニナはそっけなく答えた。
あまりにも容赦なく吐き捨てたため・・・・・・
 「そっけなく答える」のと、「あまりにも容赦なく吐き捨てる」は同じ動作に対する形容なのかな? ずいぶん語気が違うような気がするんだけどな。

 “ベックは、ニナが少女のころ麻薬に溺れていたことをある程度は打ち明けられる、唯一の人間だった。おそらくニナの正気を失った家族か、かかわりのあった薬物依存者が、彼女に煙草からコカイン、そしてヘロインまでのすべてのステップを踏ませたのだろう。”
 と書いてあれば、「おそらく・・・すべてのステップを踏ませたのだろう」と考えているのは、当然ベックだと思うだろう。
 ところが、
“それでもニナは、全てをベックに打ち明けられず、マリファナを少しやっていたとしか言えなかった。”
 と次の文が来る。それではベックは、ニナがヘロインまでやっていたことを知りようもなく、前段は、誰の視点の文章なのか良く分からなくなる。あとも一つ。

 とにかく息をするのがつらい。機械的な動きで何かを椅子の後ろから取り出して、顔に近づけた。酸素カニューレだった。
 
 末期の肺がんである女性がやっとアパート4階の自宅に帰り着き、椅子にすわって、そこにセットしてあるカニューレで酸素を吸入する。慣れた機械的な動きで、酸素吸入器につながるチューブ(カニューレ)を取り出して、顔にセットするシーン。女性は当然ながら自分が何を手にしているか熟知しているわけで、それを「何か」と形容するのは変だ。これが、たとえば「あるもの」だったとしたら、文の流れはスムーズになる。「とにかく息をするのがつらい。機械的な動きであるものを椅子の後ろから取り出して、顔に近づけた。酸素カニューレだった。」
 小説の地の文は、「一人称で登場人物視点」と「三人称で登場人物視点」と「三人称で神視点」のおおよそ3パターンがあるかと思うが、この本の翻訳の場合、「三人称で登場人物視点」と「三人称で神視点」が混ざってしまっていて、読者を混乱させているように思う。

 ほかにも、読んでいて思わず蹴つまずいた表現がたくさんあって、多分私はこの翻訳者さんとは感覚的なところで、日本語の表現にズレがあるんだろうなぁ。こうなると、ストーリーに入り込めないので辛い読書になる。
 ついでにいうと、やけに滑らかに(普通に)読めるパートと、いちいち引っかかってしまうパートがある謎。
物語の小道具 ビートルスのアルバム

 さて、謎といえば、この話に出てくるドイツの捜査当局の階級が謎だ。
 ヒロインのニナ・バルバロは登場人物一覧によると、「州刑事庁第六機動部隊(テロ対策部隊)」の副隊長。そして、一緒に捜査に当たっているフランツ・ベックが大佐。日本と違って、警察組織の階級名称が軍隊の階級名称と同じ国はたくさんあるが、「大佐」はどう考えてもかなりな高級将校もしくは高級官僚だ。それにしては、捜査陣の中での立ち位置が微妙なのだ。考えられるのは、軍の治安維持部隊からの出向とか?
 ちょっとドイツの警察機構についてググってみた。
 うん。よくわからない♪
 ついでに、ヘロイン中毒の前歴があり、マフィアの眷属を父にもつ移民の女性が、警察機構に入り、昇進していけるものなのだろうか?というのも謎といえば謎。

 さてストーリーについてだが。「ウォルラス計画」の根本的な疑問として、記憶も知識も白紙に近い子どもを使って暗殺者に仕立てるのなら、そのように育てれば良いわけで、あえて催眠術で、しかも何十年もかけて、二重人格のように仕立てる意味が薄くないか?しかも、催眠術下で殺害したとはいえ、誰に命令されて人を殺した、という自覚は本人にあるので、秘密保持の足しにもなっていない。また、そこまで手をかけて、子どもを各国の一般市民として育てるのであれば、その子どもの養父母が各国に潜入している工作員だというのは、なんというか、危機管理上マズくはないか? 4人の子どもに4人の工作員、作戦管理者、そして心理学者が関わりソ連、東ドイツ、統一ドイツ、ロシア、と社会情勢の変化をモノともせず何十年も継続する計画として金も手間暇もかける意味がいま一つよくわからない。
 なんというか、壮大に費用対効果のバランスがおかしいような気がする。
 そして、ストーリーの途中でベック大佐が消失するし。イタリア靴マニア、ゾクラトの様な男がユーリに重宝されているというありえなさ。ひょっとしてもしかして、ここはクスリと笑うところなのか? そもそも、ウォルラス計画が何を意図して発動したのかが良く分からない、というもどかしさ。30年前の恋愛をぐずぐず引きずっている元スパイの自責の念、というか未練にぐだぐだとつきあわされる苦行。14歳までにコカイン中毒と売春でできあがっていた移民の少女が、さくっと立ち直って警察機構をのし上がっている不自然さ。いやあ、これほど膚に合わない小説も珍しいのに、最後まで読んでしまったのは、ベルリンの壁崩壊時の混乱、とか、そのときそこに居合わせたある「KGB将校(実在!)」とか、組織の崩壊を目の当たりにして組織の金を横領して逃亡したスパイ、とかの着想や素材はかなり面白いからなんだよね。ラストもそれなりに味わいがある。それに登場人物がなかなかのキャラ立ち具合もよい。著者および訳者の力量不足がなんとも勿体ない、というか荒削りにもほどがある、と思わされる出来の小説でした。これは、今後の鍛錬を期待すべきかな。訳の出来については、もうちょっと担当さんに査読をがんばってほしい。これでも本買って応援してるので、がんばれ〜!!!

2021年6月1日火曜日

2021年5月の読書メーター

 5月は積読消化の雑食の月でした。しかし、依然積み上げるスピードの方が速い。クィネル、チェスブロを長年温めていましたが、読めてよかった。ハーヴェイ、ダグ・アリンや、東江さん翻訳のハードボイルドも続けてよみたい。ハードボイルド・ダークファンタジーが新たな発見だった。7月・8月は第二次大戦もの、および海洋ものに当てたいので、6月は引き続き、積読消化にあてる所存。

5月の読書メーター
読んだ本の数:10
読んだページ数:4172
ナイス数:1036

レンブラントをとり返せ -ロンドン警視庁美術骨董捜査班- (新潮文庫)レンブラントをとり返せ -ロンドン警視庁美術骨董捜査班- (新潮文庫)の感想
軽めのミステリかと思いきや、結構濃厚。名門パブリックスクール出身、大学で美術史を学んだ上で、スコットランドヤードの刑事を目指すという変わり種が主人公、しかも弁護士一家の長男。頭も育ちも性格も良いので周囲からもかわいがられ(イジられ?)、小さな失敗もしつつ、これからでっかく育っていく模様です。流血や暴力は極力すくな目、そして意外(?)にもイギリス法廷モノの趣もあり。法廷での父や姉との一騎打ちも今後の見どころか? コージーに近い味わいではあるけれど、本格ミステリの範疇と思われる。
読了日:05月31日 著者:ジェフリー・アーチャー

サンドマン・スリムと天使の街 (ハヤカワ文庫FT)サンドマン・スリムと天使の街 (ハヤカワ文庫FT)の感想
これぞB級エンタメ。悪魔に天使、非天使、堕天使、人間に魔法使いが入り乱れての大混戦。あまり深く考えずに主人公スタークの絶妙な弱さとしぶとさと切なさを血の味とともに楽しむべし。これ、面白かった!映画化する時には、アリエタは4K 大写しのアップにも耐える肌のキメの細かい浮世離れした美人でお願いしたい。(『コンスタンティン』のガブリエルはちょっとお肌の劣化が残念だったので!)
読了日:05月27日 著者:リチャード・キャドリー

フラジャイル(20) (アフタヌーンKC)フラジャイル(20) (アフタヌーンKC)の感想
新キャラは、ちとステレオタイプっていうか、もはや叩き潰してくれと言わんばかりのやる気と熱意と自意識過剰。最近岸先生丸くなってない?MS–ハイの顕微鏡での診断にゾクゾクする。
読了日:05月25日 著者:恵 三朗

燃える男 (新潮文庫)燃える男 (新潮文庫)の感想
かつて超一流の傭兵だった男が燃え尽きて人生の斜陽をむかえつつあったとき、親友に勧められて少女のボディーガードを務めることになる。といっても、腕を期待された訳ではなく保険対策のお飾りとして。しかし警護対象の少女に絆され、次第に彼は生きる意欲を取り戻していく。少女との心の交流が鮮やかなだけに、その後の展開が辛い。彼女は誘拐されて死に、クリーシィは銃撃戦で瀕死の重傷を負う。傷を癒やしてするべきことは一つしかない。クリーシィがあまりにも無双・無敵だが、彼を支援する男達がこれまた格好良い。
読了日:05月23日 著者:A.J. クィネル

摩天楼のサファリ (扶桑社ミステリー)摩天楼のサファリ (扶桑社ミステリー)の感想
こりゃ、ヴェイルに惚れるねえ。1988年の作品で、これが2006年にもなって日本で翻訳出版されたのって、奇跡に近いのでは?テイストはファンタジーとAAのミックス、微妙に非現実よりかな。コミカライズするなら篠原烏童さんで。純白の血とか、ファサードとか・・・ヴェイルの設定を造り込み過ぎてるのが非現実に寄る原因だけどそれはいい。だって格好良いから。問題はレイナ。一昔前のハードボイルドにありがちな、扱いにくい子猫的な女は好みじゃない。過去のトラウマ告白した次の瞬間に誘うありえなさ!こういう女がいいのか?ヴェイル?
読了日:05月17日 著者:ジョージ・C. チェスブロ

もう過去はいらない (創元推理文庫)もう過去はいらない (創元推理文庫)の感想
とにかく、若い頃のほうのバックの暴力が酷い。あまりにも人を殴って傷つけるのでいささか閉口したが、終盤のバックの語りに全部もって行かれた。抵抗する手段を持たない女子どもを守る。地域社会の弱者を守る。ユダヤ人社会が二度と迫害を被らないように守る。そのために、迷い無く暴力を振るう。13歳になる息子ブライアンの思春期の鋭利な批判にも耐えながら。強欲な銀行家、非道な泥棒、ユダヤ人が格好よく描かれているわけでもないのがある意味リアルかも。読者層が高齢化しているからなのか、とにかく最近は、老人ハードボイルドが多いよね。
読了日:05月14日 著者:ダニエル・フリードマン

もう年はとれない (創元推理文庫)もう年はとれない (創元推理文庫)の感想
WWⅡに一緒に参戦した旧友が今際の際に、かつてバックを殺そうとしたナチ将校が実は生きていた・・・・と告白する。すでに刑事を退職して35年、87歳にして望んでもいないのに直面させたれた過去の因縁。それにしてもこの親友、一本もらった金の延べ棒はいったいどうした?というのは作中では明かされなかったのでおいておいて。ナチの金塊探しにバックが乗り出すと踏んだ、欲に駆られた小物たちがバックの周りで勝手に踊り出し、そして片端から残酷に殺されていく。浅ましい人間の中で、バックが老人らしく憮然・毅然としている。
読了日:05月08日 著者:ダニエル・フリードマン

接続戦闘分隊: 暗闇のパトロール (ハヤカワ文庫SF)接続戦闘分隊: 暗闇のパトロール (ハヤカワ文庫SF)の感想
面白い。間違いなく面白いんだけど・・・・・またかよハヤカワ!3部冊の一冊目で、続刊の刊行がない。しかも、1冊目で軽く完結すらしていない。本当の序盤。これからストーリーがどう転がっていくのかすら、想像がつかない。サイバーパンクな近未来戦争SFです。埋め込み型や装着型のガジェットでネットワーク接続し、地球の反対側にいるハンドラーと軍事ドローン経由で接続している小隊、LCS(リンクド・コンバット・スクワッド)の指揮官シェリー中尉の捨て身の活躍。中原尚哉氏の翻訳が光る。本当に、作品の雰囲気を訳し出すのが上手い。
読了日:05月06日 著者:リンダ ナガタ

暗殺者の悔恨 下 (ハヤカワ文庫NV)暗殺者の悔恨 下 (ハヤカワ文庫NV)の感想
伝家の宝刀「ラングレー直通電話」を繰り出したのに、援助ではなくお迎えを派遣されてしまうジェントリー。CIAとCIAに追われていると思われているCIA元工作員と人身売買組織の戦闘員・・・の三つ巴にドキドキする。トラヴァーズが相変わらず良いやつ、スーザンは相変わらず嫌な女。早く殺されればいいのに(と心の声)。ザックの悲哀とロートル達の大活躍。やはりナム世代が格好よいよね。そしてなによりショーンだ。あんたの未来に良いことがありますように。上巻出だしはどうなることかと思ったが、終盤のスピード感は絶好調。
読了日:05月03日 著者:マーク・グリーニー

暗殺者の悔恨 上 (ハヤカワ文庫NV)暗殺者の悔恨 上 (ハヤカワ文庫NV)の感想
我らがコート・ジェントリー君に送る言葉。「下手の考え休むに似たり」 まあ、ジェントリーの制御不能な暴れ馬的良心が選んだ道は休むどころではないが。ともかくもグリーニーの実験にお付き合いするこの巻。書くのも今更感があるがジェントリーの一人称現在型。ジェントリーの思考が何の役にも立っていないのに冗長だ(笑)。おまえもう黙って働け。PITを2ページにも及ぶ解説はいいにしても内容がwww 俺はCIAでコレを習った。その後も自分で習熟した。おれなら出来る。やるんだジェントリーっ。いいから黙ってやれや(笑)。
読了日:05月01日 著者:マーク・グリーニー

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