2018年6月29日金曜日

0125−26 黒と青 上・下

書 名 「黒と青 上」 「黒と青 下」
原 題 「Black and Blue」1997年 
著 者 イアン・ランキン 
翻訳者 延原 泰子 
出 版 早川書房 2006年9月 
初 読 2018/06/29


 前作の後始末?で、エジンバラでいちばん過酷な勤務地「クレイグミラー署」に異動(左遷)させられているリーバス。とはいいつつも、同僚とはなかなか良さそうな関係を築いて、感じは悪くない。
 過去の連続殺人犯「バイブル・ジョン」と現在の模倣犯「ジョニー・バイブル」、それに海上石油プラント勤務の男の転落殺害、過去にリーバスが捜査に深く関わった殺人事件が、なんだかつながって行きそうな上巻。
 いよいよ過去の事件の再調査が始まることになり窮地に立たされるリーバス、だがなぜそこで逃げる?(笑) いや〜、想定外の行動だったワ。

 P.172「何も騙そうとか・・・もういい」リーバスはくるりと後ろを向いて階段を降りていった。暖かい陽光に包まれた外の世界が、ふいに美しく見えた。すべてに意味がある。・・・・

 全体的に殺伐としているのに、突然詩的になっちゃうんだよね、この人は。このリーバスの感性が初心なのだ。リーバスの視線をなぞって周りの人物を見ると、人物像が揺らいでアンクラムがいい人に見えたり憎らしくなったり。リーバスの見方が場当たり的なのか、よく言えば、先入観や自分の判断にこだわりが少なくて状況を柔軟に捉えているというか。これも彼を優秀な警察官にしている特質なんだろう。
 「アンジ―・リデルという名前の女性だった」「美しい目をしていた」。
 以前に逮捕したこともある、殺人の被害者の売春婦にリーバスは路上で紅茶と食事をおごっていた。あまり表にでることはない優しさと、人の生業ではなく本質をとらえる鋭さはボッシュとも似ている。

 過去の犯罪と現在の犯罪、過去の過ちと現在の悔悛が複雑に絡み合い、親子、夫婦、恋人さまざまな人間模様も入り混じって混沌としている。主人公を中心にしてきれいに整理されたストーリーを読み慣れていると、この混沌がちょっと辛く感じるが、きっと現実もそういうものだろうと思う。難を言えば、ゲデスがレイ・スロウンを特定したのに確保に至らなかったのでスペーヴンに恨みを抱いた、という経緯は、ちょっと無理がないか?と思わんでもない。俺の感がそう言ってる!っていわれてもなあ。

 今回は、友人のジャック・モートンがリーバスにひっついていたので、彼を通してリーバスの精神のあり方が結構わかりやすかったように思う。これまでも酒量がハンパなかったが、彼の禁酒禁煙が続くことを祈る。 ああそーだ!なんとも煮え切らない終わり方だけど、バイブル・ジョンとの決戦の時はこれから訪れるのか?

2018年6月22日金曜日

0124 暗闇にひと突き

書 名 「暗闇にひと突き」 
著 者 ローレンス・ブロック 
翻訳者 田口 俊樹 
 出 版 早川書房 1990年9月 
初 読 2018/06/22 
 9年前のアイスピック殺人事件。
 若い女性が狙われて、全身をアイスピックでめった刺しにされて殺された。バーバラ・エッティンガーは、その6人目の被害者だった。だとされていた。アイスピックを隠し持った男が3週間前に逮捕されるまでは。
 男は犯行を自白したが、バーバラの殺人だけは否認し、アリバイも立証されたのだ。
 バーバラは通り魔による偶発的殺人の被害者から、周到に計画された残忍な犯行の被害者に変わってしまった。
 当時バーバラ事件の初期調査を担当し、現在は警察を去っていたスカダーは、バーバラの父の依頼を受けて、真相究明に乗り出す。

 事件の真相は唐突にやってくるが、それよりも、スカダーの生き様が染み通る。
 スカダー、良いですね。呑んで歩いて呑んで考えて呑んで寝て、また呑む。絶対アル中だと思う。なのにこのダンディズム。最後は女を手放し、また呑むのだ。

2018年6月15日金曜日

0123 インターンズ・ハンドブック

書 名 「インターンズ・ハンドブック」 
著 者 シェイン・クーン 
翻訳者  高里 ひろ 
出 版 扶桑社 2018年4月 
初 読 2018/06/15 

 インターンを装って企業に入り込み、企業トップを暗殺する暗殺者。それを業務とするHR社の社員にしてトップエリート(つまり暗殺者)。25歳の引退を前にして、後進に業務を手ほどきする手引書を作成する、という体裁で事態は始まる。設定が面白い。スピードを付けて一気読み推奨。
 淡々とでも陶酔気味に自分語りをする殺し屋。
 孤児だったのを引き取られ、殺し屋とするべく育てられる。そして、その道のトップエリートに。殺しだけではない。一流企業に入り込むためのスキルだって必要なのだ。そうはいっても、これが手引書で終わるわけがない。

 凄腕のくせに次から次へと襲撃されて殴られ折られ縛られて。。。コイツホントに大丈夫?と思うけどさ。

 サクサクと話が進むのだが、ディーヴァーを読み慣れたこの脳は、いつどんでん返しされるか気が気では無い。
 頭のなかを、引っかけパターンが駆け巡る。
 実はアリスはターゲットを誤認させるための壮大な罠とか?
 FBIの メールヘッドとかいかにも怪しいし、いや実は海兵隊やらマフィアもボブが放った「殺し屋を殺せ」的な?
 読んでいて気が休まらない(笑笑)。
 そして終盤!そうきたか!そしてそう行くか!!
 もう、どーか読んで下さい!謹呈
(突っ込みどころ満載なんだけど、許してやるぜ!って気になりまっす。そして、シェイン・クーンの新刊は、創元推理文庫から出ている『謀略空港』 これも読まねばなるまいよ。)

2018年6月9日土曜日

0122 深夜プラス1〔新訳版〕

書 名 「深夜プラス1〔新訳版〕」 
著 者 ギャビン・ライアル 
翻訳者 鈴木 恵 
出 版 早川書房 2016年4月 
初 読 2018/06/09

 ファンの多い名著を新訳で。
 やや軽い文章だが、軽妙な会話と小洒落た表現が小気味良い。旧訳も読んでみたい。
 鉄の肺とか若い人には分からないかもしれない。
 最後のハーヴィーへの仕打ちなど、少し理屈っぽい所もあるが、ケインはいい男だ。
 彼女の所に戻って幸せになってほしいと切に思う。1960年代、要塞がボタン一つで破壊出来る時代になっても大戦時のレジスタンスの戦い方を引きずる男達。結局利用されて殺し合いをさせられて、苦い思いを噛みしめながらも、戦争が残した呪縛からは逃れられない。この不器用さと諦観と、情のあつさにこっちも胸が熱くなる。

2018年6月5日火曜日

0121 差別原論 新書367 (平凡社新書)

書 名 「差別原論」 
著 者 好井 裕明 
出 版 平凡社 2007年4月 
初 読 2018/06/05 

 マーカー引きながら久しぶりの真面目読書。部落差別、性差別、障害者・・・とテーマを変えながら私に内在する「カテゴリー」を問いつつ進む。面白かったのは、第四章の「確認」「糾弾」といった闘争型ではない対話の創造。
 たとえ、相手の考え方が差別で歪んだものであったとしても、人の心をこじ開けるような手法は相手の心に傷も残すし、人は痛みから本能的に遠ざかろうと、自分を守ろうとする。
 そのような痛みを強いず、かつ核心に歩み寄る対話で、より創造的な関係性を構築しようという「営み」に大いに共感する。
 例えば駅前で声高に体制批判を繰り広げる人々。 その思想が如何に正しくても、世の中を振り上げた拳で二分するようなスタンスが自分の性に合わない、と思ってしまうのは、自分が年取って保守化したからなのかと思う今日この頃だったのだが(もっとも、そうやって駅前で活動している方々は大抵が私よりもご高齢だ。)私が「闘争」に対置したかったのは、まさにこのような「対話型啓発」だったのか。

 「軽やか」で「カッコイイ」乙武さんとか、まさに時代が作り上げた他者のイメージに乗せられてる著者にクスリとしつつ、著者が語る「普通」のイメージが内包するものがいかに普通でないか、もっと深く問いたい部分は、著者の本をもっと沢山読んでみるべきなんだろうな、と思う。
 それにしても、某愛がなにかを救う番組を評価する声を周囲で聞いたことがないんだけど、あの番組が「すばらしい!」「感動した!」と思っている人ってやっぱりいるんだよね??
 毎年、今年の司会者は〜、とかランナーが〜とか話題になりはじめる時期からすでにウンザリするのだが。

2018年6月3日日曜日

0119−20 死の天使ギルティネ  上・下

書 名 「死の天使ギルティネ  上」「死の天使ギルティネ  下」 
著 者 サンドローネ・ダツィエーリ 
翻訳者 清水 由貴子 
出 版 早川書房 2017年6月 
初 読 2018/06/03


 これは、待っていた『パードレはそこにいる』の続刊。

 前巻が非常にそそられる終わり方をしていたので、期待を高めて待っていた。
 だがしかし。思っていたのと様相が違う。あれ、ダンテはどこにいったの?一緒にいないの?
 上巻、コロンバが復職しているものの、人間雷管状態で、捜査に出向く先々で想像を絶する事件に巻き込まれる。これはもう、仕事に向いてないとしか思えない。ギルティネもまた痛々しいが、これが下巻でどう転がっていくやら想像もつかない。3部作の真ん中とはいえ、もう何がなんだかよく判らないままラストに突っ込む。
 これ最終話翻訳されてからまとめて一気読みしたほうが良いと思った。

 ギルティネの話はこれで終わり?それともまだ引っ張るの?
 第一部の風呂敷もでかかったが、今作は前回を上回るスケールの大きさが手に余る。
 上巻ではダンテがギルティネの存在に気付くくだりが唐突すぎて違和感がぬぐえず、ストーリーに没入しそびれる。
 肝心なところが薬まみれダンテの直感だけだ。そこ、もう少し証拠付けるとか丁寧にしといたほうが良くないか?全体のイメージを決するよ?と心の声。
 それにしてもまるで犯罪に引き寄せられるように行く先々でトラブルの中心につっこむCC。まるで磁石に近づいたせいで自分も磁石になっちゃったみたい。
 いい男すぎて怪しかった奴はやっぱり、の展開となる。
 ダンテのCCへの片思い(?)があわれ。個人的には、サンティーニが好き。もー、このでっかすぎる風呂敷を、第3部でどうやって綺麗にたたんでくれるのか、とりあえず次の最終章刊行を待つ!

2018年5月27日日曜日

0117−18 最重要容疑者 上・下

書 名 「最重要容疑者 上」「最重要容疑者 下」 
著 者 リー・チャイルド 
翻訳者 小林 宏明 
出 版 講談社文庫 2014年9月 
初 読 2018/05/27


 シリーズ物だけど、途中から手を付けてしまった。
 どこからともなくふらっと現れる流れ者。正義感が強く、滅法腕が立つアウトロー。町の問題を片付け、どこへともなく消えていく、ってな感じでまんま西部劇の現代版です。うんうん。こういうの好きなんだよね。君たちは。・・・・・と、いう気分になる。

 さて、ストーリーは、深夜の寒空でヒッチハイクを試みるリーチャー。彼を拾ってくれたのはなにやら奇妙な3人組。でもそれは逃走中の犯罪者の偽装工作の為だった。
 保安官の次はFBI、CIAと登場し、一体何事?と思いきや、殺された男は実は・・・・(以下略)ってところで下巻へ。

 関係ないのにずんずん踏み込んでいくリーチャー。
 最初は女を助けるため、つぎは(勝手に仲間認定した)仲間を助けるため。アメリカ人が戦争するメンタリティと同じだ、と思ってしまった。最初は家族を守るため、つぎは一緒に戦う仲間を守るため、最後は死んだ仲間のため。この理屈でどんな戦いも正当化されるのが彼らじゃなかろうか。・・・なんて、冷めた目になってしまったら、読書としては失敗。
 リーチャーが何人ぶっ殺そうがそれは無問題。結果で手段は正当化される。
 こんな男は手錠掛けて鍵の掛かる部屋に押し込んでおけよ、と思う私は、この本の読者には向いていないのかもしれない。

 途中巻から読んだのがよくなかったか?
 今度は、キレッキレのシリーズ最初の巻から読んでみることにする。

2018年5月24日木曜日

0112−13 ホステージ 上・下

書 名 「ホステージ 上」 「ホステージ 下」 
原 題 「Hostage」2001年 
著 者 ロバート・クレイス 
翻訳者 村上 和久 
出 版 講談社文庫 2005年 
初 読 2018/05/24


 クレイスの作品中ではかなり硬質。元SWAT交渉役のタリーは自分の交渉失敗が原因で少年が殺害された事件がトラウマとなり、現役を退くように田舎の警察署長をしている。
 ところが重大事件なんて年に数件も怒らないような片田舎で籠城人質事件が発生。しかもその家は、マフィアも注視する家だった。。。
 とてもスリリングで、犯人との交渉がリアル。犯人の青年3人はそれぞれ親から虐待されて育ち、人格に重大な問題を抱えている。主犯格は自己中心的で場当たり的に人を殺してもその事実を直視できず事態を悪化させる。
 犯人、警察、マフィアがそれぞれに事態をコントロールしたいと画策し、タリーはその中心で絡め取られていく。
 実に面白いんだけど、先に映画の方を見ていたので、イメージが映画に引っ張られて、自由に想像する楽しみは今ひとつ。やっぱり原作モノは先に読まないとダメだ。ま、ブルース・ウィリスのタリー署長はイメージに合ってた。

 映画の方は尺の関係でさっくり終わってた気がするが、様々な思惑が錯綜し、誰の思った通りにもならずに曲折しながら終局へ。
 終盤のどんでんにはちょっと驚いた。さすが脚本家出身のクレイス、初めから映画化を意識していたか?というテンポの良い展開で最後まで一気に読まされた。面白かった。

2018年5月22日火曜日

0116 殺しのリスト

書 名 「殺しのリスト」 
著 者 ローレンス・ブロック 
翻訳者 田口 俊樹 
出 版 早川書房 2002年5月 
初 読 2018/05/22

 『殺し屋ケラーまたの名を「死神」。彼の視線は死を招く』 
 なんて帯を掛けたくなる。
 次々と彼の獲物が死んでいく。
 今回は占星術師に帰依するケラーさん。運命やら予感やらを感じたりするだけあって、精神科医よりは相性が良いらしい。
 そして出た!元祖「殺し屋を殺せ」。
 ヘンドリックスのような、グレイマンvsデッドアイのような死闘をふつふつと期待する自分がいるが、きっと、1行後にはもう終わっていてドットとアイスティとか飲んでるんだろうな〜。と読みながら予想する。
 スタイリッシュなケラーさんは、乱闘には縁がない。残念!!!ところでこの表紙はケラーさんのイメージではないんじゃないだろうか? だって銃器類NG・・・

2018年5月16日水曜日

0110−11 破壊天使 上・下

書 名 「破壊天使 上」 「破壊天使 下」 
原 題 「Demolition Angel」2000年 
 著 者 ロバート・クレイス 
 翻訳者 村上 和久 
出 版 講談社文庫 2002年8月 
初 読 2018/05/16


 舞台は定番のロス市警。主人公スターキーは爆弾事件で恋人を失い、傷跡と後遺症で重いトラウマを抱えって設定だが、とにかくキャラがイタい。
 主食はアスピリンと制酸剤。上巻でまともに口にしたのはレーズン一箱だけ。ちょっとしたことに怒りで拳を振るわせてるところなんか、全然感情移入できない。
 他人が自分の思いを汲んでくれないと怒りが湧き起こるなんて、実に自己中である意味アメリカ的?
 特別捜査官のペルの行動もまだ底が知れなくてこわいが・・・このペルも明かになにかのトラウマもち。どうにも彼に惹かれるが、スターキーがターゲットになっていることを隠しているのは、彼女を囮に使いたいから? 何をしようとしているのか、ちょっと得体が知れないところが不安をさそう。
 チェンとスターキーはこの後C&Pシリーズにも登場していて、スターキーはコールを好きになっちゃったりもしてるが、残念ながら本邦未訳。チェンは『天使の護衛』にも登場。この作品世界のどこかにC&Pもボッシュもいるのかと考えると面白い。ボッシュなんか、市警の廊下ですれ違ったりして、と妄想する。
 上巻ラストで以外な展開があり下巻への期待値が一気に高まる。
 さて、下巻にさしかかると、共感しづらい女性キャラN0.1のスターキーが、捜査の進展につれてどんどん普通になっていくじゃないですか。
 ペルももっと怪しい奴かと思ったら、存外にいい人だった。凝ってひねくったストーリーではないのはいつものクレイス。本質的に悪い奴があまり出てこないのも、やっぱりクレイス。その代わりにスピーディーに読ませてくれて楽しい。
 『容疑者』と同じく、上司のケルソーや副本部長もそのお付きのメン・イン・ブラックも、良い感じに身内感が漂っていて、職場の連帯感みたいなの?が感じられるのが良いところ。 

 それにしても、このタイトル、何とかならなかったんだろうか。ロサンゼルスに、エンジェルが掛詞になってるのかな?にしても、この邦題は。。。。