2022年2月27日日曜日

0335 イングランドを想え (モノクローム・ロマンス文庫)

書 名 「イングランドを想え」 
原 題 「Think of England」2017年
著 者 K.J.チャールズ    
翻訳者 鶯谷 祐実    
出 版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫) 2020年7月
単行本 285ページ
初 読 2022年2月27日
ISBN-10 4403560423
ISBN-13 978-4403560422
読書メーター    

 「イングランドを想え」という詩的な、もしくは知的な印象のタイトルにちょっと心惹かれて、中身も確認せずにAmazonでポチ。立て続けにジョシュ・ラニヨンを10冊以上読んできたので、ほかのモノクローム・ロマンス文庫はいかほど?と好奇心がもたげて手を出した一冊。


 で・・・・・!!「イングランドを想え」ってそーゆーことかよ!(爆)
 まあ、面白うございました。直情、正直で正義漢の元軍人カーティスと、ポルトガル系ユダヤ人で詩人のダ・シルヴァの冒険活劇、でございます。正直ものですぐに顔にでるカーティスが完全にシルヴァに手玉にとられておりますな。

 カーティスがね。モーリスの世界っていうか上流社会のパブリックスクール(男子の園)から、オックスフォード大学(選択的に男社会)を出て、そのまま陸軍(男社会)に進み、愛情はともかく男に付きものの欲求を男同士で処理することは別段問題視していない、ってのも驚きだが、そこから、男に友情ではない愛を覚えるまでには東尋坊から飛び降りるくらいの落差があるらしいのが面白い。シルヴァに誘惑されて(からかわれて)顔面蒼白でだらだら冷や汗かいてるのがねえ。
 愉快なMM小説でした。なんか、箸休め的に、気晴らし的に、ちょうど良い感じ。大言壮語吐いてたダ・シルヴァ(ダニエル)が、簡単に敵の手に落ちたり、あっさりと意識不明だったり、お嬢さん方のウチ一人は電話交換機に精通している、とか、一人は射撃の名手、だとか、なんでそもそもこの二人がここに居合わせているのか、とか、なんつーか、なんつーかだけど、ちょっと(かなり)ご都合主義だけど、まあ大事なのはそこではないっっていうことで。ついでにいうと、カーティスがあまりにも直情で軍隊式筋肉バカで力任せなんで、色事シーンもぜんぜん色っぽくなかったです(笑)。


2022年2月26日土曜日

アダム・ダルグリッシュ警視シリーズ

アダム・ダルグリッシュ警視シリーズ(Wikipediaより)
 つい先日発売になった新版の、この表紙の彼の横顔に一目惚れしたといっても過言ではない。この作品で彼は警視長とのこと。
 これまで読んだヤード舞台の小説のなかでは最高位の主人公かも。かのキンケイド警視も、これほどの深みのある人物に達するにはあと何年かかることか。(と、読まずに書く。)斯様に表紙とは大事。



1 女の顔を覆えCover Her Face(1962年) 山室まりや
2 ある殺意A Mind to Murder(1963年) 山室まりや
3 不自然な死体Unnatural Causes(1967年) 青木久恵
4 ナイチンゲールの屍衣Shroud for a Nightingale(1971年) 隅田たけ子
5 黒い塔The Black Tower(1975年)小泉喜美子
6 わが職業は死Death of an Expert Witness(1977年) 青木久恵
7 死の味A Taste for Death(1986年) 青木久恵
8 策謀と欲望Devices and Desires(1989年) 青木久恵
9 原罪Original Sin(1994年) 青木久恵
10 正義A Certain Justice(1997年) 青木久恵
11 神学校の死Death in Holy Orders(2001年) 青木久恵
12 殺人展示室The Murder Room(2003年) 青木久恵
13 灯台The Lighthouse(2005年) 青木久恵
14 秘密The Private Patient(2008年) 青木久恵

2022年2月25日金曜日

0334 So This is Christmas

書  名 「So This is Christmas」
原  題 「Icecapade」他 2010〜2017年
著  者 ジョシュ・ラニヨン
翻  訳  者 冬斗 亜紀
  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2017年12月
文  庫 407ページ
初  読 2022年2月25日
ISBN-10  4403560334
ISBN-13  978-4403560330
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/104746297   

 表紙を見ただけで、幸せ感が溢れてくる、アドリアン&ジェイクの番外編(というかエピローグね。)
 この表紙の雰囲気は、コミックの『Papa Told Me』のテイストを思い出す。そんな感じの暖かい幸福感。中身は、中〜短編3作と掌編2作。

 では順に。

『氷の天使』 Icecapade 2010年
 元泥棒のノエルとFBI特別捜査官ロバート・カフェ。ドロボーさんと刑事の関係でいえばキャッツアイみたいな?
 クリスマス前のある日、今は引退して厩舎のオーナーとミステリ作家を兼業するノエルの元に、ロバートがやってくる。ロバートは引退した大泥棒のノエルを10年間追い続けていた。かつての犯行はすべて時効を迎えているノエルは、現れたロバートの目的に戸惑うが。。。。。追いつ追われつのスリルの中でいつしか惹かれ合っていた刑事とドロボーが10年後に再会する話。ノエルの引退にはある理由があった。まあ、BLっぽい・・・・というか二次創作っぽい雰囲気だが、ノエルの軽さ・・・・・いや、軽やかさは結構良い。

掌編の『Another  Chriatmas』 Christmas Cade 10 Noel & Robert  2012年
『氷の天使』の1年後のお話。FBIをやめてノエルと暮らしているロバート。どうやら幸せな一年だったらしい。インフルエンザに罹って一時的に障害が悪化したノエルの号泣(T-T)が大変可愛いっす。

『欠けた景色』 In Plain Sight 2013年
 FBI特別捜査官のナッシュとアイダホ州ベアレイク郡の地元警察官グレン、一目惚れ同志、運命の恋の行方。なんだかジョシュ・ラニヨンの宇宙では、FBI はゲイの宝庫(?)のようだな。

『Christmas in London』Christmas Cade 41 Adrien Jake  2017年 
 こちらも掌編。『瞑い流れ』の後、晴れて(?)リサとビルの家族に公認となったジェイクと一緒にロンドンでクリスマス休暇を過ごすアドリアンだが、ジェイクとなかなか二人きりになれないフラストレーションがだんだん溜まって(笑)

『So This is Christmas』
 家族より一足早く、二人きりのクリスマスを過ごすためにロンドンからロスに帰ったアドリアンとジェイク。しかしトラブルを吸い寄せる体質の?アドリアンの周りは、どうにも静まらない。
 帰国するなり、アドリアンに代わってクローク&ダガー書店を守っていたナタリーとアンガスのまさかの濡れ場に踏み込んでしまう。友人(♂)の恋人(♂)は失踪し、ジェイクは人捜しに奔走しようとするアドリアンの健康を気遣って「首を突っ込むな」と言い続け(笑)。
 ジェイクがいい男なんだよねえ、これが。力強さと冷静さと苛烈さと優しさの絶妙なブレンド。そしてアドリアンへ向ける絶対的な愛情。「お前は健康体だ。これまで俺が見てきた中で、今が一番元気だ。そのままでいてほしい。これからの五十年をお前とすごしたいからな。五十年、一緒にすごすつもりでいるからな。・・・・」・・・・なんか良いなあ。

 カミングアウトしたジェイクを拒絶したジェイクの両親に対しては、怒りと嫌悪を募らすアドリアンだったが、ジェイク父からリオーダン家のニューイヤーパーティーに二人で招待される。リオーダンの両親も息子のカミングアウトに困惑し、苦しみながらも息子と和解しようと手を差し伸べようとしていることに気付いたアドリアンは、ジェイクと一緒にリオーダン家のニューイヤーパーティーに出向く。(というよりは、尻込みするジェイクを励まして。) ここからが、ジョシュ・ラニヨンの真骨頂。家族に囲まれて、だんだん気持ちがほぐれて肩や背中から力が抜けてくるジェイク、それを眺めてジェイクのために心から喜ぶアドリアン。愛情って言葉はこの二人の為にあるんじゃないだろうか、と思えてくる。そして、新年の2時。きっと何回も戻ってきて読むだろうなあ、この本。

 そういえば名前だけちょこっと登場するゲイ作家のモリアリティさんは、別シリーズの主役。ホームズ&モリアリティシリーズの3巻に、クローク&ダガー書店でサイン会をするエピソードがあるそうだ。こちらのシリーズの翻訳もぜひ、お願いしたい。

2022年2月23日水曜日

0333 瞑き流れ 〜アドリアン・イングリッシュ 5〜

書  名 「瞑き流れ 〜アドリアン・イングリッシュ 5〜」
原  題 「The Dark Tide」2009年
著  者 ジョシュ・ラニヨン
翻  訳  者 冬斗 亜紀
  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2015年12月
文  庫 506ページ
初  読 2022年2月23日
ISBN-10  4403560237
ISBN-13  978-4403560231
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/104696486  
 なんともはや。
 前作のアドリアンの綺麗な涙で、すべて片がついたと思いきや。これまでの苦い恋の反動と、これまでの辛い病苦への反動で、アドリアンはほとんど抑鬱状態、精神的にボロボロになっているではないか。
 まあ、判らないでもない。日々発作を恐れ、いつか心臓が悪化して死ぬ自分を恐れながら長年暮らしてきたのに、まだ覚悟も定まらないうちに手術を受けるはめになり、意識が戻ったら、もう君はだいじょうぶだと医師には言われ、それなのに術後の体はあきらかに以前より衰えており、ろくに活動できず辛い。周囲からはあからさまに病人扱い。おまけに、ジェイクへの想いも行き場を失っている。
 自分の体も気持ちも扱いあぐねていることに自覚すらないアドリアンのもとに、ジェイクだけでなくメル、ガイ、と過去の恋人たちが次々に現れて気持ちを乱し、おまけに長年の望みだった書店のフロア拡張工事では50年前の白骨死体まででてくる。

 作者のミステリ愛も相変わらず炸裂しているこの巻には、レイモンド・チャンドラーからの引用が全編にちりばめられ、1巻の冒頭「eのつくアドリアン」(もちろん「eがつくマーロウ」のもじり)という自己紹介から始まったこの物語は、『長いお別れ』のたゆたうような暗い流れにのって、古びた桟橋の下を流れる瞑い潮汐のように、人々の人生を洗い、流し、やがて聖なるものへと辿り着く。『長いお別れ』というタイトルすら、2人の長い別離と重なって、切なくなる。
 番外編になるのかもしれないが、次作が2人と2つの(3つの?)家族を中心としたクリスマスとニューイヤーの物語「So This is Christmas」(タイトルだけで泣けそう)なのも、クリスマスで始まり、クリスマスで終わる(というより、新しい年へ向かう)ジョシュ・ラニヨンらしい美しい構成に、静かで満ち足りた幸福感が心にしみる。

 アドリアンの悩みや苦しみは、ある意味ジェイクからしたら身勝手ですらあるけれど、まあジェイクもこれまでがかなり身勝手だったからな。むしろ、身勝手でいない人間なんているのか?とも思う。ふたりとも、自分の気持ちと存在に真摯に立ち向かっただけだ。真剣に生きようとした結果、大切にしたいと願ったはずの人を傷つけてしまうのが、人間ではないか。そしてそこに醜い物語も、美しい聖なる物語も生まれるのだ。
 ジェイクの艱難辛苦や、アドリアンの苦悩と、ミステリーらしい白骨遺体の捜査が絶妙に絡まり、やがて白骨遺体にまつわる事件の真相が明らかになるとともに、それはアドリアンとジェイクの、そして多くの性的マイノリティの人生にも重なる暗い潮流となる。
 
 MMで、BLで、ゲイ・ミステリーで、ロマ・サス。だけどジェイクとアドリアンの行為が、神聖なもののように思えるのはなぜだろう。人が人を愛することが、こんなにも美しいと思えるのはなぜだろう。2人の人生が、幸いでありますように。と心から願う。

(余談)今作も、リサの強者ぶりが素晴らしい。リサはうっとおしい人ではあるが、若いうちに夫と死別したあとも夫が残した財産と一人息子を守り、その病気の息子を支え続け、上流社会を泳ぎ、今は大物議員の妻役をこなし、なさぬ中の3人の娘にも君臨してみせる、スゴイ人なのだ。
 そして、彼女はアドリアンもジェイクのことすらもお見通し、なのだ。


さよならを言うのは、ひとかけら死ぬことだ。『長いお別れ』レイモンド・チャンドラー
(P.7)

 レイモンド・チャンドラーの一節を思い出していた──〝街は、夜より深いなにかで暗かった〟。(P.11)

「つまり〝L・A・コンフィデンシャル〟でガイ・ピアースが演じたような、もしくは〝白いドレスの女〟のウィリアム・ハートのような?」(P.48)

ハンフリー・ボガートの〝三つ数えろ〟はチャンドラーの映画といえば誰もが一番に思いうかべる一作だし、〝青い戦慄〟はチャンドラーが唯一書き下ろした映画のシナリオだ。彼の作品の様々な要素が詰めこまれている。(P.140)

夜にかかるとオリーブとマラスキーノチェリー入りのフルーツサラダを作り、『長いお別れ』の続きを読んだ。チャンドラー作品の中で一番好きというわけではないが──一番は『湖中の女』だ──しかしチャンドラーの駄作は大抵の作家の傑作に勝る。いや、このエドガー賞を受賞した『長いお別れ』が駄作のわけはない。チャンドラーの社会批判と、己の人生を切り貼りして書いた手法を見る意味でも興味深い作品だ。(P.235)

「この映画だよ。ロバート・アルトマン監督が映画化したチャンドラーの『長いお別れ』だ。ほら〝弾丸に勝るさよならはない〟」(P.278)

チャンドラーの『湖中の女』からの引用を、ここでジェイクに聞かせてやることもできた。〝警察というのは厄介なもんだ。政治に似ている。高潔な人間を必要とするくせに、高潔な人間を惹きつけるような仕事じゃない〟と(P.422)

チャンドラーは書いた──〝星々の間の距離のように、私は虚ろで、空っぽだった〟と。(P.498)

2022年2月20日日曜日

0332 海賊王の死 〜アドリアン・イングリッシュ 4〜

書  名 「海賊王の死 〜アドリアン・イングリッシュ 4〜」
原  題 「Death of Pirate King」2008年
著  者 ジョシュ・ラニヨン
翻  訳  者 冬斗 亜紀
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2015年2月
文  庫 440ページ
初  読 2022年2月20日
ISBN-10  4403560199
ISBN-13  978-4403560194
 前作、ジェイク・リオーダンと別れてから2年。アドリアンはUCLAの教授ガイ・スノーデンと恋人関係になっている。ガイはアドリアンよりはだいぶ年長で、半分保護者みたいな感じもある。
 
 アドリアンはインフルエンザをこじらして肺炎になり、退院したばかりだが、彼の処女作の映画化権が買い取られ、映画化スタッフとの顔合わせをかねたホームパーティーに出席していた。
 ところが、そこで居合わせた男が毒殺され、アドリアンはまたしても殺人容疑者リストに名を連ねることに。おまけに、そこに現れた捜査官はなんと主任警部補に昇進したLA市警のジェイク・リオーダン、しかもパーティーの主催者でアドリアンの小説の映画化権を買った映画俳優ポール・ケインはなんと、ジェイクとは5年越しの恋人だった、とな。
 と、いうことは、ジェイクはアドリアンよりもずっと前からポールと恋人関係だったのか? しかもジェイクはケイトと“ノーマルな”結婚をしたあとも、ずっとポールとSMプレイを続けていたのか!?
 なんともドロドロで、どこで殺人事件が起こってもおかしくないようなお膳立てだが、そこはアドリアンの、どうあっても冷静であろうとする一歩引いたような冷めた視線と彼流のユーモアで、なんとか(必死さの伴う)軽やかな語り口で話はすすむ。

 もう、4巻目ともなると、アドリアンに完全に感情移入しているので、いまだにジェイクを愛しているままのアドリアンの心情が痛々しくて、なんだかこっちのお腹が締め付けられる、、、っていうか。ジェイクよ、おまえ、どこまで身勝手だ? だが、オーラスで全部、ジェイクが持ってくんだよね。おまえ、さあ。どこまで男らしいんだよ!! と毒づきたくもなる。
 3巻目の表紙のアドリアンに背を向けるジェイク、4巻目の表紙の再び見つめ合う二人。
 表紙のとおり、ラストでついに自分自身と、アドリアンへの想いに真正面から向き合うジェイクと、それを見つめるアドリアンに幸あらんことを。

2022年2月18日金曜日

0331 悪魔の聖餐 〜アドリアン・イングリッシュ 3〜

書  名 「悪魔の聖餐 〜アドリアン・イングリッシュ 3〜」
原  題 「The Hell You Say」2008年
著  者 ジョシュ・ラニヨン
翻  訳  者 冬斗 亜紀
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2015年2月
文  庫 497ページ
初  読 2022年2月18日
ISBN-10  4403560180
ISBN-13  978-4403560187
 今回のテーマは悪魔崇拝。
 悪魔に贄(人間の心臓)を捧げたと思しき連続殺人事件が発生してジェイクが捜査に当たっている。アドリアンの書店の店員のアンガスは店に度々入る呪いの電話に怯えきり、見かねたアドリアンは彼にボーナスを与えて逃がすが、そのためにかえって謎の悪魔教信者に恨まれて窮地に立たされる。

 ジェイクの彼女が妊娠し、ノーマルの偽装を正装にすべくジェイクは彼女との結婚を決意し、アドリアンに告げる。
 一方過保護な母リサも再婚する事になって、アドリアンには突然愛らしくもかしましい姉妹が3人も増えることに!

 さてまずは、結婚後も関係を続けたそうな未練がましいジェイクを拒絶したアドリアンの矜持を誉めてあげたい。アドリアンに暴力を振るったジェイクはとりあえず地獄へ堕ちたまえ。 しかし、心底からジェイクを求めていたアドリアンにとっては、辛すぎる結末。こうなることを最初から予期し、あえて踏み込んだ関係を求めるでもジェイクを追い込むでもなく、ただ、ジェイクの気づきを願って穏やかな関係を守ってきたアドリアンの真心は踏みにじられてしまった。ジェイクに別れを告げたあと、交通事故を装った自殺の誘惑に駆られるアドリアンがかわいそうでならない。
 まだ恋人未満のガイとのエピソードは次作におあずけだが、アドリアンの癒やしになってくれるだろうか?

 それにしても、著者のジョシュ・ラニヨンの引出しの多いこと。
 一作目は怨恨+ストーカー
 二作目は西部の田舎の黄金伝説
 三作目は悪魔崇拝、魔女(ウィッカン) そしてそれぞれのテーマに、ミステリ小説が絡んでくる。細かなウンチクがあちこちにぽろぽろと。これ、著者は楽しんで書いてるなあ、とこちらまで気持ちがほくほくする。

 衝動的に、僕はビルトモアホテルへと車を向けた。サヴァンの広報担当兼マネージャーのボブ・フリードランダーがそこに滞在している。ビルトモアホテルは、歴史的建造物と言っていいだろう。一九二〇年代に建てられたこのホテルはこれまで数々の王や大統領や有名人をもてなしてきたが、僕が一番惹かれる点は、かのブラックダリアが最後に生きて目撃された場所だということだ。彼女はここから夜の中へ消え、いまだに解けない謎として、ロサンゼルスの歴史の一部となったのだった。今ではホテルのバーでブラックダリアという同名のカクテルも飲める。


 〈追伸〉リサは鬱陶しい過干渉な母だろうが、息子を誇り高い人間に育てた素晴らしい人だと思うよ。

2022年2月17日木曜日

0330 死者の囁き〜アドリアン・イングリッシュ 2〜

書  名 「死者の囁き 〜アドリアン・イングリッシュ 2〜」
原  題 「A Danderous Thing」2007年
著  者 ジョシュ・ラニヨン
翻  訳  者 冬斗 亜紀
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2013年12月
文  庫 383ページ
初  読 2022年2月16日
ISBN-10  4403560164
ISBN-13  978-4403560163
 アドリアンと特別な関係になろうとしたものの、キスしようとしただけで“小学生化”?するジェイク。ホモフォビアを地で行く強面の刑事ジェイク・リオーダンは、自分の性向に直面出来ず、強烈な自己嫌悪で身動きが出来ない模様。ジェイクへの思いを自覚するにつれ、自分もジェイクが嫌悪するホモセクシャルであること、ジェイクとは未来が描けないことをアドリアンは思わざるを得ない。
 そして、思わず逃避した先は、懐かしい父方の祖母から相続した牧場だった。しかし、そこで彼を待っていたのは、行方知れずの死体と大麻畑とガラガラヘビ・・・・・・そしてライフルによる狙撃だった?!

 ところが、殴られて意識不明になったアドリアンの元に駆けつけたリオーダンは、知人友人だれもいない環境で解放されたか、アドリアンと遂に関係を結ぶに到る。なるほど、ジェイクが長年着込んできた偽装を解くには、ロスを遠く離れる必要があったわけだ。それに心拍の乱れた恋人も。
 でもって、この、リオーダンとアドリアンが良いのだ。
 リオーダンが頭を殴られて怪我を負ったアドリアンにゆっくりと背中にマッサージを施す。アドリアンの心身を溶かすような穏やかで優しいキス。ジョシュ・ラニヨンの描く恋愛はどうしてこんなに優しく温かいのだろうか。その道の趣味人を喜ばせるための性描写ではない。本物の真剣な恋愛ならばきっとこんななのだろう、と信じさせてくれるような、なんだか羨ましいような・・・・・
 
 そして、作者がミステリーに注ぐ愛も本物。登場するミステリ作品をいちいち全部調べたくなる。

 コーネル・ウールリッチの『黒衣の花嫁』。それも初版。この一冊だけでも希少本として価値がある。 
 ガラス扉を開け、身をのり出した。ミステリだ──棚の端から端まで、ミステリの本が詰まっていた。 
 ふうっと、長い息をついていた。ペーパーバック、ハードカバー。アガサ・クリスティからレイモンド・チャンドラーまで。古き良き時代の傑作ぞろいだ。ダシール・ハメット、ジョセフィン・テイ、レックス・スタウト、ナイオ・マーシュ──我が愛しのレスリー・フォードの作品も数冊。『宝島』の主人公が海賊の黄金を発見した時だって、今の僕ほど興奮しなかったに違いない。何冊かゴシックロマンスの本も混ざっていたが、祖母は全体としてハードボイルド系に傾倒していたようだった。勿論、ゲイミステリは一冊もない。ゲイの探偵が出てくる一般のミステリは、一九七〇年、ジョゼフ・ハンセンによる『闇に消える』から始まる。ベストセラーリストには縁がなかったにしても、彼のブランドステッターシリーズが後に続く僕らの道標となったのだ。−−−−−−

 


2022年2月13日日曜日

0329 天使の影 〜アドリアン・イングリッシュ1 〜

書  名 「天使の影 〜アドリアン・イングリッシュ1〜」 
原  題 「Fatal Shadows」2007年
著  者 ジョシュ・ラニヨン 
翻  訳  者 冬斗 亜紀 
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2013年12月 
文  庫 326ページ 
初  読 2022年2月12日 
ISBN-10  4403560156
ISBN-13  978-4403560156
 ゲイ・バッシング、ホモフォビア(同性愛嫌悪)、憎悪殺人、自己の性的指向の認知、カミングアウト・・・・・・ゲイにまつわる深刻な問題に真っ正面から向かっている、シリアスかつラブリーなシリーズ作品の一冊目。
 
 先に読んだジョナサン&サムの「殺しのアート」シリーズやエリオット&タッカーの「フェア」シリーズの主人公たちがカミングアウトし、周囲にもおおらかに受け入れられているのと比べると、このシリーズは、結構重く、厳しく感じられる。
 全5冊が刊行されているシリーズだが、性的マイノリティが偏狭な社会の中で生きていく困難さも描かれていて、二人がお互いを必要とし、徐々に距離を詰めるなかで、少しずつ自分を偽らない生き方を探っていくのも、魅力。

 魅力といえば、『マルタの鷹』や『長い眠り』など、ダシール・ハメットやチャンドラーからの引用がちりばめられ、著者のミステリ、ハードボイルド愛が全編に滲みでているのも良い。他のシリーズもそうだが、ミステリ小説としての骨格がしっかりしていて、それだけでも十分に読み応えがあるのもなるほど、と思う。このシリーズは特にミステリの傾向が強いので、書店のBLコーナーではなく、翻訳ミステリの棚にも並べて、多くの人に手に取ってもらいたいと思う。

 さて、そのストーリー導入部。
 ロサンゼルスで新刊から古書までミステリー本を取り扱う、『クローク&ダガー書店』のオーナーのアドリアン・イングリッシュ。33歳(?)。高校時代に患ったリウマチ熱から心臓弁膜症の後遺症が残り、不整脈を抱えて心臓の薬が手放せないながらも愛する書店を切り盛りし、自分でもミステリー小説を書いている。その店員だったアドリアンの高校時代からの友人のロバート(ゲイ)が、刺殺される。おりしも、ディナーの席でのアドリアンとの口論を目撃された後の出来事だった。その殺され方から、知人や友人による犯行と思われる、と捜査に赴いたロス市警の刑事リオーダンに聞かされ、愕然とするエイドリアン。刑事たちの態度から、自分がれっきとした容疑者であることを悟って・・・・・・。

 自分がゲイだ、と話す主人公アドリアンに、「ホモセクシャル」だろうと高圧的に畳みかける刑事リオーダン。 “ホモセクシャル”が差別的な意味合いを含むことに改めて気付かされる。まあ、このリオーダンも・・・・・なんだけどね。
 
 さっき刑事が言い放った「だがあんたはホモセクシャルなんだろう?」という問いの響きを思い出していた。「下劣な生活をしているんだろう?」と聞かれたも同然の言い方だった。  

 以下略。マイノリティ故の痛み、マイノリティだった故の迫害。今の、過去の、そして今に、未来に続く因果の連なり。他のシリーズとはひと味違う、シリアスな苦みも味わいつつ、シリーズを追いかけていきたい。

2022年2月11日金曜日

0328 フェア・チャンス (モノクローム・ロマンス文庫)

書 名 「フェア・チャンス」 
原  題 「FairChance」2017年 
著  者 ジョシュ・ラニヨン 
翻  訳  者 冬斗 亜紀 
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2020年1月 
文  庫 407ページ 
初  読 2022年2月8日 
ISBN-10  4403560407
ISBN-13  978-4403560408

「イエス」
「イエス?それって−−−−−−俺たち、同じことを話してるのか?」
 エリオットは微笑んだ。

 こういう選択肢が普通にある世の中っていいな、と思った。もちろん、ナチュラルにこういう世の中の考え方が生まれた訳ではなく、あの激しい社会の中で、長年闘って勝ち取ったものではあるのだろうけど。

 それはさておき、エリオット&タッカーの3作目、M/Mロマ・サスである。
 シリアルキラーの彫刻家(スカルプター)事件で、刑務所に収監されている犯人コーリアンは、犯行の一部始終について口を閉ざしたままだった。ところが、いまだエリオットに執着するコーリアンは、エリオットに面会を要求する。
 黙秘をつづけるコーリアンがエリオットになら捜査に有力な情報を漏らすのではないか、と期待した捜査チームはエリオットに協力を求め、捜査チームのリーダーを務めるタッカーは、チームの意志を尊重しつつも複雑な気持ちを抱えながら、エリオットの心身の安全を気遣っている。夜中に事件の悪夢にうなされることもあるエリオットを知るのは、タッカーだけだ。

 前作の父絡みの事件で逮捕されたノビーの減刑のための証言に協力するか否か、で父との関係はギクシャクしたまま。タッカーは母との週末を過ごす為に、不安を抱えつつもエリオットに励まされて送り出される。

 不安感をそそる、小さな事件や、遭遇の積み重ね、そんな中でも二人の平穏な時間があり、もちろん熱い時間もあり、お互いを思う気持ちや理解も深まっている。

 そして、母に会いにいったタッカーとの連絡が途絶えてしまう。

 失踪したタッカーを探すエリオットの焦燥は深まるが、少々関係が悪くなっていた父の思わぬ理解と援助が温かい。それに、最初はというか1作目からとてつもなく態度が悪かったパイン刑事や、どうにも敵愾心が見え見えだったヤマグチ捜査官の親身の協力にも励まされる。エリオットの必至さと熱が周囲も溶かしていくようだ。

 エリオットのFBIへの復職話、二人の結婚話、そしてコーリアン、と不吉な予感と新たな展開への期待が嫌が応にも高まる。
 これ、3部作で終わりなの? 
 いや、4作目、読みたいよね!
と大いに期待感を膨らませつつも、大変満足度の高い一冊でした。

0327 フェア・プレイ (モノクローム・ロマンス文庫)

書  名 「フェア・プレイ」  
原  題 「Fair Play」2014年 
著  者 ジョシュ・ラニヨン 
翻  訳  者 冬斗 亜紀 
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2016年12月 
文  庫 401ページ 
初  読 2022年2月8日 
ISBN-10  440356030X
ISBN-13  978-4403560309
 ううむ面白かった。
 ミステリ・バディ物として十分イケる。ちなみに濡れ場込みなら読みどころたっぷりのM/Mロマ・サス。いろんな意味で実においしいシリーズの第2作です。
 今回はかつて赤ん坊だったタッカーを棄てた母が登場し、タッカーの孤独の一端が明かされる。
 母は、当時、麻薬に溺れていたらしいが、立派に(?)更生し、再婚した夫と一緒に登場。しかし、二人の様子はなにやら宗教的に凝り固まった印象で、どうもキリスト教原理主義系の新興宗教にはまっているイヤな予感がする。これ、ぜったいにタッカー巻き込まれるよね。「あなたの彼女に会いたいわ」という母に、エリオットを引き寄せて、自分はゲイでエリオットは親友というだけでなく、パートナーだ、と言い放つタッカー。あいかわらず真っ直ぐで男らしい。動揺や、困惑すら男らしい。(笑)

 エリオットの方は、父の若かりし革命家時代の因縁に巻き込まれる。父の(エリオットにとっては子供時代の母との思い出も詰まった実家)が放火で全焼。エリオットの家に避難した父とエリオットが散歩しているところを今度はボウガンで狙撃される。父は回顧録の出版準備をしており、どうやらその本が世にでることを臨まない人間が多数いるらしい。父を守りたいエリオットは捜査を開始するが、昔の仲間との内輪の問題ととらえる父ローランドはエリオットの介入を好まず、行方をくらましてしまう。だからといって、すんなり気持ちが収まるエリオットであるわけがなく。獲物を加えたらブルドッグ並みに食らいついて離さない執念で、父の行方を追跡する。
 エリオットを心配するタッカーと、FBI捜査官としてのタッカーの立場を慮るエリオット、お互いに嘘はいわないが、相手に手渡す情報をコントロールしようとして、「相手を信用していない」という命題に突き当たりジレンマから関係が拗れまくる。このあたり、あたまの中でとことん論理的に考え尽くし、相手と正面から議論しようとする二人に、日本との文化の差を感じたりもする。だがしかし、体の欲求は頭を裏切って・・・・・、というのはやはりソレ(笑)これは日米共通(笑)。でもこの二人の恋愛は良いね。エリオットに正面から敢然と向き合うタッカーに、エリオットならずとも心を奪われるよ。
 人を信頼するとは、というシンプルな命題に頭でっかちにどろどろと取り組むエリオットには、とりあえず頑張れ!と応援する。

  日本だと三親等くらいに犯罪者がいると警官になれないとかなかったっけ? 親が反政府活動家で革命家、別名元テロリストでも息子はFBIに入れるのか。小説だから?それとも自由の国だから? とはいえ、60−70年代はみんなが革命家だったのかもしれない。ベトナム反戦運動、ヒッピー文化、そんなアメリカの歴史的な流れを追う作品の空気感も雰囲気も良かった。