2022年5月31日火曜日
0350 朝日のあたる家 Ⅱ(角川ルビー文庫)
2022年5月30日月曜日
0349 朝日のあたる家 Ⅰ(角川ルビー文庫)
(巽さん。誉めてくれよ————おれ、あんたなしで、七年も生きてきたんだ・・・・・もう、いいだろう。もう・・・・・)
2022年5月29日日曜日
そんなわけで、『トップガン・マーヴェリック』を観にいった
2022年5月26日木曜日
命の洗濯的な一日(仮記録)
港のヨーコ・横浜・横須賀(大人の休日 番外編)〜横浜市歌〜
日本は、このような島国です。(地図付きです。初めて世界の中の日本を知る瞬間です。)→世界地理
「日出ずる国」であることをを知る瞬間でもあったかもしれません。東から登る朝日に煌めく海と照らされゆく島々のイメージです。→歴史・古典・地学も?
航空なんてメではありません。貿易の中心は船。世界中から船が集まるのです。→社会科
特に云うことありません。横浜isナンバーワン です。日本中・世界中に港は星の数ほどあっても横浜が一番なんです、というハマッ子の誇りが溢れるところです。(きっと神戸市民は、神戸港に同じくらいの愛着を持っているに違いない、函館も、その他の港もしかり、と想像します。)
横浜が開国港に選ばれたのは、人の少ない寒村だったから。江戸からの距離が近くも遠くもなく、外国の干渉を程良くコントロールできる地理だったからでしょう。その名前のとおり、白い浜が横に広がり、漁師の家や街道沿いにまばらにある茅葺きの民家から囲炉裏の煙が上がるような漁村の風景だったのだろうと想像します。小学校1年生が、初めて郷土史に触れる瞬間です。 →生活科・郷土史
「百」「百千」が実数ではなく、「もの凄くたくさん」「数え切れないくらい多い」という比喩表現であることを教えられます。国語表現の入り口です。 → 国語・古語表現
横浜の宝は、この港。未来永劫この横浜港が栄えていくことを見届けよう、というインプリンティング。横浜市民の完成です。 ※ ←本当は栄えていくらん御代をなので、これは私の記憶まちがいです。果てしなく栄えていく御代を飾る宝はこの港である。という強い強い自負を感じるラストです。
港のヨーコ・横浜・横須賀(大人の休日・本編②)〜横須賀軍港巡り・ふたたび〜
最初の写真は、ヴェルニー公園の先っぽから間近にみた《いずも》です。
遠景に見えるのが、出港したエイブラハム・リンカーンです。浦賀水道を南下中。手前のコンクリートの構造物は消磁所、というらしいです。磁気機雷から艦を守るために船体にたまった磁気をクリアするための場所だとか。
手前はステルス護衛艦の《くまの》です。
おっと、艦番号1!
イージス護衛艦《きりしま》DDG-174
補給艦《ときわ》 AOE-423
イージス護衛艦《あたご》DDG-177
港のヨーコ・横浜・横須賀(大人の休日・本編①)〜原子力空母エイブラハム・リンカーンの出港を見送る〜
2022年5月23日月曜日
0348 翼あるもの 下(文春文庫)
“彼は、植えかえられたサボテンのように、不幸そうだ。”
赦そう、と心のどこかにそっと透は思った。人が人であり、良が良であり、そしてオレがオレであること。このようにしか在れず、(かれ)がそのように在って、それゆえに透か長い自分のため闘いに疲れはててここに座っていること。・・・・・・巽を愛している、と透は思った。この(時)を愛するように、(かれ)を愛するように、(かれ)を愛するすべての──そして透を選ばなかったすべての人を愛するように。たとえいまこのときだけだとしても。(p.117)
その日かれは巽に長い物語をした。口に出した切れはしもあったし、ことばに出さず、ただ胸の中でだけ、ささやきかけた思いもあった。喫茶店を出ると並んで元町を歩き、それから小さな店をひやかして歩いた。巽が透に銀の風変わりな指輪を買いたがるのをやめさせて、美しい透かし細工の柄のついた、細身のペーパー・ナイフをねだった。象牙の刃身に、するどい銀の刃がかぶせてある。贈り物にナイフはいけない、ふたりの間を断ち切るから、という云いつたえを、巽は知っていないようだった。透が切りたかったのは、巽を(赦す)ために邪魔になる、信じるからこそ裏切りをいきどおる人のならいの(心)そのもの、であったかもしれない。(p.118)時はひたすらに流れてゆけばいいのだった。思いはとどまるだろう。口に出さぬ物語をして、透は、二十五年、ひとりで持っていたすべての思いをその思い出ごと、巽に預ける夢を見た。(p.118)
(お前は、誰だったのだろう)透は、良、などという人間が、本当にいたのだろうか、とふと疑ってみる。ひょっとして、良は、ひとびとの(思い)そのものではなかったのか。
巽の朴訥でおおらかな情と熱に包み込まれて、だんだん、凍りついた透の心が解けてくる。その中で、自分が(今のような)自分であること、良が良のような存在であること、を受け入れて、ありのままを赦そうと思う。そのような変化を彼に与え、今も透を守り通す自分であることを信じて疑わない巽を、透は、その巽の思いが永続するものではなく、移ろいやすく壊れやすいものでしかないことも確信しながら、その存在を愛する、と思う。のちに島津が《聖母マリア》と形容する透のその愛の片鱗が初めて見える一節。
幸せとは言えなかった自分の25年の人生の苦しみを、巽に預けるように手放すことで、透は大人になろうとしている。と思った。しかしその後の道のりも、それはそれは厳しく残酷なものなのだ。
ラストの、透の中の《良》の虚像が崩れたあとの、風が吹き抜け、透の周りの空気が動く(と感じられる)描写が、あまりに光と希望に満ちていて、あまりにも清々しくてまた、切ない。その身を投げ出すようにして透が守ろうとした巽はこの後、事もあろうに良に殺されてしまうことになるわけだが、この本の中では、そのシーンまでは語られないのも、そうと知っている読者には悲劇の予感が大きすぎる。透はどれほど狂乱したことだろうか、読者の想像にお任せとは。それにも関わらず、このラストは希望と期待に満ちているのだ。なんてことだろう。
野々村の御大は、この本だけ読むと、特に出だしは卑猥で助平な役得づくの脂ぎったイヤな野郎なんだけど、この男の情の厚いまめまめしいところも知っていると、なんともいえない人間の業の深さを感じる。島津さんも、ほんとただのサディストだけど、この後、透の面倒を見続けて、『ムーン・リヴァー』に続いていくからねえ。『アイ誕10週連続勝ち抜き』っつう企画は、いっくらなんでもベタ過ぎるだろう、と苦笑しか沸かないんだけどさ。
2022年5月20日金曜日
0347 翼あるもの 上(文春文庫)
当時この道を表現する隠語が「やおい」だったり「風木」だったり「June」だったりした頃の耽美で背徳的で不健康で、少し背伸びしていて、親には絶対にヒミツだったりしたあの空気感は、昨今の元気で健康でオープンで幸せな感じのBLにはないなあ、とノスタルジーに浸りつつ、〇十年ぶりの再読。
あの時代があってこそ、今の日本のLGBTQがあるんだろうかね。性的マイノリティの知識を一般に広げる一助にはなったんだろうか、それともかえって、偏見を助長したのだろうか。あの頃は「美少年」愛だったものが、今はちゃんと大人の恋愛になっているのにも、ジャンル的な成熟を感じる。
と、そういう往年の読者っぽい感慨はさておき、内容的には、ジャズやロックの蘊蓄とTV業界のウラ側と、風間視点のスター理論と、偶像化・美化された今西良に対する賛辞と耽溺の大渦巻きです。風間の独白になんとか移入できるまでの前半はもう、読んでてツライ。風間さん。あんた、人間の中身をなんも見とらんだろう? 人間はロマンチシズムや熱狂だけでは出来てないぞ。と。だがしかし、中盤過ぎて、そんな風間に慣れてしまったものだか、なんと引き込まれてしまった。凄いぞ、栗本サン。そしてラストの大惨事。わたしゃ、森田透推しなせいか、どうにもジョニー命の風間はおバカで好きになれなかったのだけど、だんだん彼に同情心も沸いてきました。
逆説的になるかもしれんが、この話には今西良という青年本人は登場しないのだ。
登場するのは、風間のイメージの中にある、今西良という姿をとった偶像。聖なるミューズに対しては全てが赦されるのだ、という独善的な妄想と妄執によってすべてが正当化され、個人個人の入れ込みが狭い集団内で強化されて、悪魔教的な共依存によって生み出された蠱惑的なアイドル像である。
良本人が何を思っているのか、何を望んで何を望まないのか、何が出来て、なにが出来ないのか、なんてのはどーでも良い。良にとっての安定や幸福の所在、なんでいうのもどうでもよい。外形的な美しさとその外形がまとう、薄幸で不安定だからこそ生まれるエネルギーの発光こそが、なによりも彼に“心酔”する連中にとっては大事なのだ。世の中を席捲するアイドル、夢の世界の象徴としての“今西良”であり、自分勝手でお子様でワガママなのに金と権力と追従だけは有り余るほど持った卑小な人間の集団妄想としての“今西良”である。
アイドルとはどんな存在なのか。それが少しわかるような気がしてくる狂るおしい小説であった。
私は、小説を読む時に「人」を読みたい思うので、この本では今西良、その人を知ることができないのが隔靴掻痒の感がある。また、風間を「知り」「理解したい」と思うかというと、そういう趣味はない。私は良に、風間のイメージを通してではなく、良本人に感情移入してみたい。
余談ながら、私は未だかつて、“アイドル”というものや“スター”というものに熱狂できたことがない。芸能人は『芸』を鬻ぐのが仕事なのだから、こっちは『芸』を受け取れば良い。
歌手なら『歌』、俳優なら『演技』が良ければそれでよし。それ以外のもの(例えば私生活)には興味も無いし、周囲の人たちがアイドル歌手にキャーキャーするのが素で理解できなかった人間なので、なんというかこの小説の世界はある意味新鮮だった。人間の妄想ってのは、際限がないし、ほんとしょーもねーなあ、と思うとともに、それが優れた作品になるってことにもある意味感動。
そうそう、3次元の生きた人間に妄想してキャーキャーすることはできないが、2次元であれば私にも可能だ。(初めから妄想の産物だからかも。)
なお、前書きで著者の栗本薫氏は以下のように書いている。
「前作は多くの無理解と誤解と反発、少しの支持と理解とを得た。この作品もそうであろうと思う。しかし、読者に本を選ぶ権利、批評する権利があると同様、ほんとうは本にも読者を選ぶ権利がある。この本はほんとうは、「真夜中の天使」を読み、その新に云わんとするところを、表面的な特殊さをこえて理解して下さった方々だけにしか、決してほしくないし、多く売れることも、ベスト・セラーになること、批評に取り上げられることも少しも望まない。むしろ八割方の男性読者には、なるべく読まないでくれるようにお願いしたいほどだ。しかし、読まれ、誤解されることナシには共感と知己をうることもまたない。ただ、表面にあらわれたことばや題材に目をうばわれ、目をそむけ、あるいは石を投げる人には、私がこれらの作品群で云おうとした真実のテーマは、決して胸の中に届くことはないであろう。どのみちそうした読者のことばが私の胸に届くこともまたないのである。」
著者にとって、私が望ましい読者であるか、著者がほんとうに理解してほしいと欲したことを受け取ることができたのか、という点については、非常に心許ない。だが、著者の思惑をこえたものを、時には読者に与えることになるのも、小説作品の妙だと思うので、私のつたない感想も赦していただけたら、と思う次第である。
2022年5月15日日曜日
0346 所轄刑事・麻生龍太郎 (新潮文庫)
出 版 新潮社 2009年7月(文庫旧版)
KADOKAWA 2022年7月(文庫再版)
単行本 384ページ
初 読 2022年5月14日
再 読 2022年7月26日
ISBN-10 4041125324
ISBN-13 978-4041125328
ンコ本だった。
のちに山内練の事件のときの、麻生の心境の底にもこんな思いがあったのだろうな、と思わせられる、先輩の今津刑事の言葉。ホシは社会性の身についていない気弱で精神を病んだ大学生。この時は刑事の優しさが大きな不幸を未然に防いだが。
「そりゃ、女にだって浮浪者はいるだろうさ。けどな。女の場合は、全部なくしてもひとつだけ金に換えられるもんがある。よっぽどのババアでない限り、夜は屋根のあるところで寝られるんだよ、本人が割り切りさえすりゃな」
“そうだ。自分は、正義の為にに警察官になったわけではない。そして、悪を憎むと言い切る自信もない。”
“警察官とは、なんなのだろう。道を踏み外してしまった者にとって、自分を逮捕する警察官とは、どういう存在なのだろう。”
2022年5月9日月曜日
0345 逃亡テレメトリー/マーダーボット・ダイアリー (創元SF文庫)
- おまけに、弊機のプリザベーション・ステーションの中での立場を向上させる為にも、警備当局と協働して緊張関係を緩和すべき、と考えるメンサーの指示で、警備局と殺人事件の捜査協力をするはめになり、イライラ値も絶賛向上中(笑)。
- なかなか弊機を信用しきれない警備局の上級職員のインダーさんでしたが、それは、基本善人なので、マーダーボットの基本姿勢(捨て身の滅私奉公)にだんだん絆されるのも、お約束。少しずつ、人間の間で暮らすことや、距離の取り方を学習・・・・と、いうよりは、周囲の人間に学習させている弊機です。次作も楽しみ。
2022年5月6日金曜日
0344 キャバレー (角川文庫)
2022年5月5日木曜日
0343 ムーン・リヴァー (角川文庫)
2022年5月2日月曜日
2022年4月の読書メーター
読んだページ数:2579
ナイス数:821
報復のカルテット (ハーパーBOOKS)の感想
アロン家はコロナを避けて、エルサレム市街の自宅から、故郷のイズレエル谷のラマト・ダヴィドに程近いナハラルに仮住まいしている。双子たちは田舎暮らしで逞しく成長中。ガブリエルは新しく入手したガルフストリームに現金を詰め込み、人工呼吸器や検査薬や、医療用防護衣を世界中で買い付けて、国内の病院に配布。政治家への転身の準備か・・・との世間の噂も。そんな折、ガブリエルと旧知のイギリス在住のロシア人富豪が毒殺される。手を下したのはもちろんロシア。ガブリエルは手にした情報を武器にロシア大統領の隠し財産に牙を剥く。
読了日:04月30日 著者:ダニエル シルヴァ
私立探偵・麻生龍太郎 (角川文庫)の感想
位置付け的には、RIKOシリーズのスピンオフ『聖なる黒夜』の続き。時系列的には『聖黒』からRIKOにつながる隙間をつなぐ本書。春日の杯は練にとっては、麻生の前に置いた大きな踏み絵だ。条件付きの自分ではなく、過去も現在もひっくるめた俺の全てを受け入れてほしい。冤罪で人生を破壊された可哀想な俺、ではなく、それも込みで清濁合わせた今の俺では受け入れられないのか、という練の心の声が聞こえてきそうだ。二人の間のごちゃごちゃしためんどうくささをうっちゃって自分に正直に、とは本書冒頭の麻生の弁。
読了日:04月23日 著者:柴田 よしき
フラジャイル(22) (アフタヌーンKC)の感想
すっごく「大団円」感が漂っているもんだから、最後の1ページっていうか次巻予告まで、この巻が最終刊だと思ってた。(笑)次回は満を持しての大魔王(?)間瀬さん再登場。
読了日:04月22日 著者:恵 三朗
聖なる黒夜(下) (角川文庫)の感想
練が愛おしい。そして麻生がウザい。このナルシストめ!そしてどいつもこいつも話しすぎだ。いい年した男どもがぺらぺらペラペラと紙が燃えるみたいにしゃべりやがって、「沈黙は金」ってのを知らねえのかよ!出てくる男どもがどうにもお喋りで、女々しく感じられて、いやなの〜!基本黙って行動する練ちゃん意外、全員ウザい!!!・・・・でも、面白かったです。滅法面白かったです。当然、RIKOシリーズも、私立探偵、も所轄刑事も、園長探偵も読みますとも。あと、新宿、参宮橋、代々木5丁目、府中、武蔵小金井、知ってる土地だらけだった。
読了日:04月20日 著者:柴田 よしき
聖なる黒夜(上) (角川文庫)の感想
【CNC犯罪小説クラブ】上巻読了です。信頼する読み友さん2名から熱烈ご紹介のこの本。日本人作家ものを苦手とする私ではありますが、これはど真ん中、と言わざるをえない。「感謝する」で滂沱です。山内の有りようが切ない。才能があって前途洋々たる青年の人生がこうもねじ曲げられてしまう。ホテルで殺害された大物ヤクザを軸に、錯綜する人間関係と事件。確かに『囀る鳥は』の世界観で読める。これは警察小説なのか、ハードボイルドなのか。それとも?? 韮崎の愛情、皐月姐さんの慈愛、麻生の真情。地べたでのたうつ人間のあがき。
読了日:04月17日 著者:柴田 よしき
読書メーター
2022年5月1日日曜日
0342 報復のカルテット (ハーパーBOOKS)
原 題 「The Cellist」2021 年
著 者 ダニエル・シルヴァ
翻 訳 者 山本 やよい
出 版 ハーパーコリンズ・ ジャパン 2022年4月
初 読 2022年4月25日
文 庫 600ページ
ISBN-10 4596429251
ISBN-13 978-4596429254
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/106114147
2020年3月〜2021年4月。
世界はcovid(新型コロナウイルス)に支配されている。
ガブリエルは、故郷のイズレエル谷のラマト・ダヴィドに程近いナハラルのコテージをオフィスから適正価格以上(←ここ、ポイント!)で賃貸し、妻と子ども達とともに、エルサレム旧市街の自宅からコロナを避けて仮住まいしている。
双子たちは5歳になり、田舎暮らしで日焼けして、人間の友達とは遊べなくとも羊や牛やひよこを友として逞しく成長中。一方のガブリエルは新しくオフィスが入手したガルフストリームに現金入りのスーツケースを乗せ、人工呼吸器や検査薬や医療用防護衣を世界中で買い付けて、国内の病院に配布。ガブリエルの行動に、政治家への転身の準備か・・・とのマスコミの噂も。
当のガブリエルはそんな噂は歯牙にもかけず、コロナ対策の傍らオフィスでイランの核開発関連施設の破壊や要人謀殺の陣頭指揮も執っている。
そんな折、ガブリエルの命の恩人でもある旧友のイギリス在住のロシア人富豪が毒殺される。
今はMI6のケラーと恋仲になり、イシャーウッドの画廊の後継者として地場を固めつつあるサラ・バンクロフトも事件に巻き込まれ、事態を看過できないガブリエルはMI6のグレアム・シーモアやケラーと協力して動き出す。
殺されたヴィクトル・オルロフが追っていたのは、ロシア大統領(ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ(プーチン、と書かないのは“フィクション”の体裁を維持するため?)が西側に不正に蓄財した財産とその違法な手段。ロシア国庫から莫大な資金を不正に海外に持ち出し、西側の悪徳金融機関を通じて大規模なマネーロンダリングを行い、不動産投資や様々な方法で蓄財している、その資金洗浄ネットワークにいかにして潜入し、機構に打撃を与え、その金を奪い獲るか。これまでもガブリエルが血で血を洗う闘争を繰り広げてきたロシア大統領との戦い再び、である。
しかし、あまりにも規模が大きい話になっているためか、物語中盤に到るまで解説的な文章が続いて大きな動きがなく、かなり地味な印象。それに、ちょっとストーリー展開が安直な気もしないでもない。過去のガブリエルの恋人アンナ・ロルフ(第2作『イングリッシュ・アサシン』)や、他にも過去作に登場した人物が再登場し、なんとなくオールスター登場のサービス回っぽい感じもあって、いよいよシリーズもグランドフィナーレかな、という感じもする。
イギリスパートには必ず登場する、ダートムーアのワームウッド・コテージのおなじみの面々も登場。執事のパリッシュも相変わらずのご様子なのが嬉しい。パリッシュの有能な相棒のミズ・コヴェントリーは、これまでただの料理番の役どころだったが、じつはロシア語も堪能な元諜報部員であった。ケラーがお気に入りの彼女は、彼が滞在するときには必ず特製のコテージパイを用意する。食材に豚肉は避けるようにと言われて、パリッシュは客人にイスラエル人の友人が含まれていることを察する。ここは、『英国のスパイ』で爆弾テロの標的となったガブリエルが担ぎ込まれて、治療を受けたりもしたMI6の隠れ家である。
そして、もう一つ、ラストに大きな山場がある。そう、アメリカ大統領選挙だ。
ロシアとの真っ黒な関係が取り沙汰されていたトランプ氏であるが、あの選挙選最中のQAnon絡みの騒動は日本人の記憶にも新しい。と、いうか件のQからの情報発信が日本発祥の巨大匿名掲示板(2ちゃんねる)の関係者が米国で運営する4chanと8chanで行われていた事実にはちょっと驚く。2ちゃんねるなんて、ネットリテラシーをわきまえた大人の遊び場くらいに思っていた身としては、これが大衆扇動の凶器になりうるという事実に,認識の甘さを突かれた思いだ。
作中でガブリエルは、これがアメリカを混乱に陥れ、アメリカ民主主義を根底から脅かすロシアの情報戦略であること、そして大統領就任式に企図された大統領暗殺計画を把握し、これを未然に防ぐ為に大統領候補の元に飛ぶ。しかし、ロシアの本当の狙いは大統領ではなかった・・・・・
ダニエル・シルヴァが参考にした、オラツィオ・ ジェンティレスキ作『リュートを弾く女』 |
今回シルヴァは、米大統領選の混乱とホワイトハウスへの暴徒の乱入、というアメリカ民主主義の危機を目の当たりにして、後半を大幅に書き直したという。あらためてWikiでQAnon関連のコンテンツを読んだが、人はいかに簡単に荒唐無稽な話を信じることができるのか、また『信じ』たが最後、どこまで愚かな行動に走ることができるのか、とこれまた暗澹となる。今、コロナで学校でもオンライン授業が大規模に導入され、国のICT計画で、小学生まで一人一台タブレットが用意される時代となった。
ネットリテラシー教育が追いついていくのか、情報弱者や判断能力の低い層が喰いものにされないように、どのように防御していくことができるのか、決して人ごとではない。人は、信じたいものを簡単に信じてしまい、そして一度信じたら、なかなか意見を変えることができない存在だ。そして、「仲間」がいないと生きていけない生き物でもある。様々な理由から分断され、孤独感を味わっている人々が、ネットの裏に潜む悪意からどのように身を守っていけるのか、これからの社会のあり方を方向付ける上で、非常に重要な課題であると感じている。
それにしても、これまでダニエル・シルヴァのプーチン&ロシア嫌いは偏執的な域なんじゃないかと感じたりしていたのだが、こと、現実がウクライナで示されているのを見ると、いやはや、と驚き・・・・というか嘆息。シルヴァの情報筋のアドバイザーは当然ながら明かされていないが、いつものことながら、この巻末ノートを世に出すために小説を書いているのではないかという気すらする。なにはともあれ、巻末は必読。
アルテミジア・ジェンティレスキ作 『リュートを弾く自画像』 |
前にもどこかで書いたけど、ダニエル・シルヴァは人体の強度については少し考えを改めたほうが良いと思うよ。ガブリエル、これまでにも肺を損傷するような銃創2回、爆弾テロに遭遇すること3回・・・いや、4回か。(イングリッシュ・アサシン、英国のスパイ、ブラックウィドウ、灼熱のサハラ)、シェパード犬に噛まれて左手を骨折し、爆弾テロのガラスの破片で腕の腱を痛め、ボコボコに殴られて、全身打撲と顔面骨折と100針縫う大怪我・・・・。翻訳されているだけでコレだからね。(あ、いや、サウジで胸を撃たれた話は翻訳されてないや。)そういやあ、バイク事故で石畳みで背中をすりおろしたこともあったっけ(『告解』)。あのときは頭蓋骨骨折もしていた。それ以外にも、ルビヤンカで殴られて眼窩を骨折して失明の危機、とか、階段から突き落とされたらしいとか、未訳本の方にもいろいろ。おまけに、今回は文字通り瀕死の重傷。
ガブリエル、若作りに見えるけど、もう70歳だからね。労ってあげようよ。ジャンプヒーローはもう卒業させてあげて!
ほんと、スパイ小説のヒーローは数あれど、ガブリエルほど、穏やかな引退生活を送らせてあげたいと願うキャラクターはいない。大好きなベネツィアで、愛する妻子に囲まれ絵筆を握り、老後の穏やかな時間を過ごさせてあげたい。ガブリエル引退まで、あと1作か2作だろうか。もう、祈るような気持ちだ。
ガブリエル・アロンシリーズ。次作は『Portrait of an Unknown Woman』 2022年7月刊行予定です。さて、ガブリエル引退まであと7ヶ月。しかし、タイトルからしてまた女絡みだなあ。