2022年2月27日日曜日

0335 イングランドを想え (モノクローム・ロマンス文庫)

書 名 「イングランドを想え」 
原 題 「Think of England」2017年
著 者 K.J.チャールズ    
翻訳者 鶯谷 祐実    
出 版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫) 2020年7月
単行本 285ページ
初 読 2022年2月27日
ISBN-10 4403560423
ISBN-13 978-4403560422
読書メーター    

 「イングランドを想え」という詩的な、もしくは知的な印象のタイトルにちょっと心惹かれて、中身も確認せずにAmazonでポチ。立て続けにジョシュ・ラニヨンを10冊以上読んできたので、ほかのモノクローム・ロマンス文庫はいかほど?と好奇心がもたげて手を出した一冊。


 で・・・・・!!「イングランドを想え」ってそーゆーことかよ!(爆)
 まあ、面白うございました。直情、正直で正義漢の元軍人カーティスと、ポルトガル系ユダヤ人で詩人のダ・シルヴァの冒険活劇、でございます。正直ものですぐに顔にでるカーティスが完全にシルヴァに手玉にとられておりますな。

 カーティスがね。モーリスの世界っていうか上流社会のパブリックスクール(男子の園)から、オックスフォード大学(選択的に男社会)を出て、そのまま陸軍(男社会)に進み、愛情はともかく男に付きものの欲求を男同士で処理することは別段問題視していない、ってのも驚きだが、そこから、男に友情ではない愛を覚えるまでには東尋坊から飛び降りるくらいの落差があるらしいのが面白い。シルヴァに誘惑されて(からかわれて)顔面蒼白でだらだら冷や汗かいてるのがねえ。
 愉快なMM小説でした。なんか、箸休め的に、気晴らし的に、ちょうど良い感じ。大言壮語吐いてたダ・シルヴァ(ダニエル)が、簡単に敵の手に落ちたり、あっさりと意識不明だったり、お嬢さん方のウチ一人は電話交換機に精通している、とか、一人は射撃の名手、だとか、なんでそもそもこの二人がここに居合わせているのか、とか、なんつーか、なんつーかだけど、ちょっと(かなり)ご都合主義だけど、まあ大事なのはそこではないっっていうことで。ついでにいうと、カーティスがあまりにも直情で軍隊式筋肉バカで力任せなんで、色事シーンもぜんぜん色っぽくなかったです(笑)。


2022年2月26日土曜日

アダム・ダルグリッシュ警視シリーズ

アダム・ダルグリッシュ警視シリーズ(Wikipediaより)
 つい先日発売になった新版の、この表紙の彼の横顔に一目惚れしたといっても過言ではない。この作品で彼は警視長とのこと。
 これまで読んだヤード舞台の小説のなかでは最高位の主人公かも。かのキンケイド警視も、これほどの深みのある人物に達するにはあと何年かかることか。(と、読まずに書く。)斯様に表紙とは大事。



1 女の顔を覆えCover Her Face(1962年) 山室まりや
2 ある殺意A Mind to Murder(1963年) 山室まりや
3 不自然な死体Unnatural Causes(1967年) 青木久恵
4 ナイチンゲールの屍衣Shroud for a Nightingale(1971年) 隅田たけ子
5 黒い塔The Black Tower(1975年)小泉喜美子
6 わが職業は死Death of an Expert Witness(1977年) 青木久恵
7 死の味A Taste for Death(1986年) 青木久恵
8 策謀と欲望Devices and Desires(1989年) 青木久恵
9 原罪Original Sin(1994年) 青木久恵
10 正義A Certain Justice(1997年) 青木久恵
11 神学校の死Death in Holy Orders(2001年) 青木久恵
12 殺人展示室The Murder Room(2003年) 青木久恵
13 灯台The Lighthouse(2005年) 青木久恵
14 秘密The Private Patient(2008年) 青木久恵

2022年2月25日金曜日

0334 So This is Christmas

書  名 「So This is Christmas」
原  題 「Icecapade」他 2010〜2017年
著  者 ジョシュ・ラニヨン
翻  訳  者 冬斗 亜紀
  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2017年12月
文  庫 407ページ
初  読 2022年2月25日
ISBN-10  4403560334
ISBN-13  978-4403560330
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/104746297   

 表紙を見ただけで、幸せ感が溢れてくる、アドリアン&ジェイクの番外編(というかエピローグね。)
 この表紙の雰囲気は、コミックの『Papa Told Me』のテイストを思い出す。そんな感じの暖かい幸福感。中身は、中〜短編3作と掌編2作。

 では順に。

『氷の天使』 Icecapade 2010年
 元泥棒のノエルとFBI特別捜査官ロバート・カフェ。ドロボーさんと刑事の関係でいえばキャッツアイみたいな?
 クリスマス前のある日、今は引退して厩舎のオーナーとミステリ作家を兼業するノエルの元に、ロバートがやってくる。ロバートは引退した大泥棒のノエルを10年間追い続けていた。かつての犯行はすべて時効を迎えているノエルは、現れたロバートの目的に戸惑うが。。。。。追いつ追われつのスリルの中でいつしか惹かれ合っていた刑事とドロボーが10年後に再会する話。ノエルの引退にはある理由があった。まあ、BLっぽい・・・・というか二次創作っぽい雰囲気だが、ノエルの軽さ・・・・・いや、軽やかさは結構良い。

掌編の『Another  Chriatmas』 Christmas Cade 10 Noel & Robert  2012年
『氷の天使』の1年後のお話。FBIをやめてノエルと暮らしているロバート。どうやら幸せな一年だったらしい。インフルエンザに罹って一時的に障害が悪化したノエルの号泣(T-T)が大変可愛いっす。

『欠けた景色』 In Plain Sight 2013年
 FBI特別捜査官のナッシュとアイダホ州ベアレイク郡の地元警察官グレン、一目惚れ同志、運命の恋の行方。なんだかジョシュ・ラニヨンの宇宙では、FBI はゲイの宝庫(?)のようだな。

『Christmas in London』Christmas Cade 41 Adrien Jake  2017年 
 こちらも掌編。『瞑い流れ』の後、晴れて(?)リサとビルの家族に公認となったジェイクと一緒にロンドンでクリスマス休暇を過ごすアドリアンだが、ジェイクとなかなか二人きりになれないフラストレーションがだんだん溜まって(笑)

『So This is Christmas』
 家族より一足早く、二人きりのクリスマスを過ごすためにロンドンからロスに帰ったアドリアンとジェイク。しかしトラブルを吸い寄せる体質の?アドリアンの周りは、どうにも静まらない。
 帰国するなり、アドリアンに代わってクローク&ダガー書店を守っていたナタリーとアンガスのまさかの濡れ場に踏み込んでしまう。友人(♂)の恋人(♂)は失踪し、ジェイクは人捜しに奔走しようとするアドリアンの健康を気遣って「首を突っ込むな」と言い続け(笑)。
 ジェイクがいい男なんだよねえ、これが。力強さと冷静さと苛烈さと優しさの絶妙なブレンド。そしてアドリアンへ向ける絶対的な愛情。「お前は健康体だ。これまで俺が見てきた中で、今が一番元気だ。そのままでいてほしい。これからの五十年をお前とすごしたいからな。五十年、一緒にすごすつもりでいるからな。・・・・」・・・・なんか良いなあ。

 カミングアウトしたジェイクを拒絶したジェイクの両親に対しては、怒りと嫌悪を募らすアドリアンだったが、ジェイク父からリオーダン家のニューイヤーパーティーに二人で招待される。リオーダンの両親も息子のカミングアウトに困惑し、苦しみながらも息子と和解しようと手を差し伸べようとしていることに気付いたアドリアンは、ジェイクと一緒にリオーダン家のニューイヤーパーティーに出向く。(というよりは、尻込みするジェイクを励まして。) ここからが、ジョシュ・ラニヨンの真骨頂。家族に囲まれて、だんだん気持ちがほぐれて肩や背中から力が抜けてくるジェイク、それを眺めてジェイクのために心から喜ぶアドリアン。愛情って言葉はこの二人の為にあるんじゃないだろうか、と思えてくる。そして、新年の2時。きっと何回も戻ってきて読むだろうなあ、この本。

 そういえば名前だけちょこっと登場するゲイ作家のモリアリティさんは、別シリーズの主役。ホームズ&モリアリティシリーズの3巻に、クローク&ダガー書店でサイン会をするエピソードがあるそうだ。こちらのシリーズの翻訳もぜひ、お願いしたい。

2022年2月23日水曜日

0333 瞑き流れ 〜アドリアン・イングリッシュ 5〜

書  名 「瞑き流れ 〜アドリアン・イングリッシュ 5〜」
原  題 「The Dark Tide」2009年
著  者 ジョシュ・ラニヨン
翻  訳  者 冬斗 亜紀
  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2015年12月
文  庫 506ページ
初  読 2022年2月23日
ISBN-10  4403560237
ISBN-13  978-4403560231
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/104696486  
 なんともはや。
 前作のアドリアンの綺麗な涙で、すべて片がついたと思いきや。これまでの苦い恋の反動と、これまでの辛い病苦への反動で、アドリアンはほとんど抑鬱状態、精神的にボロボロになっているではないか。
 まあ、判らないでもない。日々発作を恐れ、いつか心臓が悪化して死ぬ自分を恐れながら長年暮らしてきたのに、まだ覚悟も定まらないうちに手術を受けるはめになり、意識が戻ったら、もう君はだいじょうぶだと医師には言われ、それなのに術後の体はあきらかに以前より衰えており、ろくに活動できず辛い。周囲からはあからさまに病人扱い。おまけに、ジェイクへの想いも行き場を失っている。
 自分の体も気持ちも扱いあぐねていることに自覚すらないアドリアンのもとに、ジェイクだけでなくメル、ガイ、と過去の恋人たちが次々に現れて気持ちを乱し、おまけに長年の望みだった書店のフロア拡張工事では50年前の白骨死体まででてくる。

 作者のミステリ愛も相変わらず炸裂しているこの巻には、レイモンド・チャンドラーからの引用が全編にちりばめられ、1巻の冒頭「eのつくアドリアン」(もちろん「eがつくマーロウ」のもじり)という自己紹介から始まったこの物語は、『長いお別れ』のたゆたうような暗い流れにのって、古びた桟橋の下を流れる瞑い潮汐のように、人々の人生を洗い、流し、やがて聖なるものへと辿り着く。『長いお別れ』というタイトルすら、2人の長い別離と重なって、切なくなる。
 番外編になるのかもしれないが、次作が2人と2つの(3つの?)家族を中心としたクリスマスとニューイヤーの物語「So This is Christmas」(タイトルだけで泣けそう)なのも、クリスマスで始まり、クリスマスで終わる(というより、新しい年へ向かう)ジョシュ・ラニヨンらしい美しい構成に、静かで満ち足りた幸福感が心にしみる。

 アドリアンの悩みや苦しみは、ある意味ジェイクからしたら身勝手ですらあるけれど、まあジェイクもこれまでがかなり身勝手だったからな。むしろ、身勝手でいない人間なんているのか?とも思う。ふたりとも、自分の気持ちと存在に真摯に立ち向かっただけだ。真剣に生きようとした結果、大切にしたいと願ったはずの人を傷つけてしまうのが、人間ではないか。そしてそこに醜い物語も、美しい聖なる物語も生まれるのだ。
 ジェイクの艱難辛苦や、アドリアンの苦悩と、ミステリーらしい白骨遺体の捜査が絶妙に絡まり、やがて白骨遺体にまつわる事件の真相が明らかになるとともに、それはアドリアンとジェイクの、そして多くの性的マイノリティの人生にも重なる暗い潮流となる。
 
 MMで、BLで、ゲイ・ミステリーで、ロマ・サス。だけどジェイクとアドリアンの行為が、神聖なもののように思えるのはなぜだろう。人が人を愛することが、こんなにも美しいと思えるのはなぜだろう。2人の人生が、幸いでありますように。と心から願う。

(余談)今作も、リサの強者ぶりが素晴らしい。リサはうっとおしい人ではあるが、若いうちに夫と死別したあとも夫が残した財産と一人息子を守り、その病気の息子を支え続け、上流社会を泳ぎ、今は大物議員の妻役をこなし、なさぬ中の3人の娘にも君臨してみせる、スゴイ人なのだ。
 そして、彼女はアドリアンもジェイクのことすらもお見通し、なのだ。


さよならを言うのは、ひとかけら死ぬことだ。『長いお別れ』レイモンド・チャンドラー
(P.7)

 レイモンド・チャンドラーの一節を思い出していた──〝街は、夜より深いなにかで暗かった〟。(P.11)

「つまり〝L・A・コンフィデンシャル〟でガイ・ピアースが演じたような、もしくは〝白いドレスの女〟のウィリアム・ハートのような?」(P.48)

ハンフリー・ボガートの〝三つ数えろ〟はチャンドラーの映画といえば誰もが一番に思いうかべる一作だし、〝青い戦慄〟はチャンドラーが唯一書き下ろした映画のシナリオだ。彼の作品の様々な要素が詰めこまれている。(P.140)

夜にかかるとオリーブとマラスキーノチェリー入りのフルーツサラダを作り、『長いお別れ』の続きを読んだ。チャンドラー作品の中で一番好きというわけではないが──一番は『湖中の女』だ──しかしチャンドラーの駄作は大抵の作家の傑作に勝る。いや、このエドガー賞を受賞した『長いお別れ』が駄作のわけはない。チャンドラーの社会批判と、己の人生を切り貼りして書いた手法を見る意味でも興味深い作品だ。(P.235)

「この映画だよ。ロバート・アルトマン監督が映画化したチャンドラーの『長いお別れ』だ。ほら〝弾丸に勝るさよならはない〟」(P.278)

チャンドラーの『湖中の女』からの引用を、ここでジェイクに聞かせてやることもできた。〝警察というのは厄介なもんだ。政治に似ている。高潔な人間を必要とするくせに、高潔な人間を惹きつけるような仕事じゃない〟と(P.422)

チャンドラーは書いた──〝星々の間の距離のように、私は虚ろで、空っぽだった〟と。(P.498)

2022年2月20日日曜日

0332 海賊王の死 〜アドリアン・イングリッシュ 4〜

書  名 「海賊王の死 〜アドリアン・イングリッシュ 4〜」
原  題 「Death of Pirate King」2008年
著  者 ジョシュ・ラニヨン
翻  訳  者 冬斗 亜紀
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2015年2月
文  庫 440ページ
初  読 2022年2月20日
ISBN-10  4403560199
ISBN-13  978-4403560194
 前作、ジェイク・リオーダンと別れてから2年。アドリアンはUCLAの教授ガイ・スノーデンと恋人関係になっている。ガイはアドリアンよりはだいぶ年長で、半分保護者みたいな感じもある。
 
 アドリアンはインフルエンザをこじらして肺炎になり、退院したばかりだが、彼の処女作の映画化権が買い取られ、映画化スタッフとの顔合わせをかねたホームパーティーに出席していた。
 ところが、そこで居合わせた男が毒殺され、アドリアンはまたしても殺人容疑者リストに名を連ねることに。おまけに、そこに現れた捜査官はなんと主任警部補に昇進したLA市警のジェイク・リオーダン、しかもパーティーの主催者でアドリアンの小説の映画化権を買った映画俳優ポール・ケインはなんと、ジェイクとは5年越しの恋人だった、とな。
 と、いうことは、ジェイクはアドリアンよりもずっと前からポールと恋人関係だったのか? しかもジェイクはケイトと“ノーマルな”結婚をしたあとも、ずっとポールとSMプレイを続けていたのか!?
 なんともドロドロで、どこで殺人事件が起こってもおかしくないようなお膳立てだが、そこはアドリアンの、どうあっても冷静であろうとする一歩引いたような冷めた視線と彼流のユーモアで、なんとか(必死さの伴う)軽やかな語り口で話はすすむ。

 もう、4巻目ともなると、アドリアンに完全に感情移入しているので、いまだにジェイクを愛しているままのアドリアンの心情が痛々しくて、なんだかこっちのお腹が締め付けられる、、、っていうか。ジェイクよ、おまえ、どこまで身勝手だ? だが、オーラスで全部、ジェイクが持ってくんだよね。おまえ、さあ。どこまで男らしいんだよ!! と毒づきたくもなる。
 3巻目の表紙のアドリアンに背を向けるジェイク、4巻目の表紙の再び見つめ合う二人。
 表紙のとおり、ラストでついに自分自身と、アドリアンへの想いに真正面から向き合うジェイクと、それを見つめるアドリアンに幸あらんことを。

2022年2月18日金曜日

0331 悪魔の聖餐 〜アドリアン・イングリッシュ 3〜

書  名 「悪魔の聖餐 〜アドリアン・イングリッシュ 3〜」
原  題 「The Hell You Say」2008年
著  者 ジョシュ・ラニヨン
翻  訳  者 冬斗 亜紀
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2015年2月
文  庫 497ページ
初  読 2022年2月18日
ISBN-10  4403560180
ISBN-13  978-4403560187
 今回のテーマは悪魔崇拝。
 悪魔に贄(人間の心臓)を捧げたと思しき連続殺人事件が発生してジェイクが捜査に当たっている。アドリアンの書店の店員のアンガスは店に度々入る呪いの電話に怯えきり、見かねたアドリアンは彼にボーナスを与えて逃がすが、そのためにかえって謎の悪魔教信者に恨まれて窮地に立たされる。

 ジェイクの彼女が妊娠し、ノーマルの偽装を正装にすべくジェイクは彼女との結婚を決意し、アドリアンに告げる。
 一方過保護な母リサも再婚する事になって、アドリアンには突然愛らしくもかしましい姉妹が3人も増えることに!

 さてまずは、結婚後も関係を続けたそうな未練がましいジェイクを拒絶したアドリアンの矜持を誉めてあげたい。アドリアンに暴力を振るったジェイクはとりあえず地獄へ堕ちたまえ。 しかし、心底からジェイクを求めていたアドリアンにとっては、辛すぎる結末。こうなることを最初から予期し、あえて踏み込んだ関係を求めるでもジェイクを追い込むでもなく、ただ、ジェイクの気づきを願って穏やかな関係を守ってきたアドリアンの真心は踏みにじられてしまった。ジェイクに別れを告げたあと、交通事故を装った自殺の誘惑に駆られるアドリアンがかわいそうでならない。
 まだ恋人未満のガイとのエピソードは次作におあずけだが、アドリアンの癒やしになってくれるだろうか?

 それにしても、著者のジョシュ・ラニヨンの引出しの多いこと。
 一作目は怨恨+ストーカー
 二作目は西部の田舎の黄金伝説
 三作目は悪魔崇拝、魔女(ウィッカン) そしてそれぞれのテーマに、ミステリ小説が絡んでくる。細かなウンチクがあちこちにぽろぽろと。これ、著者は楽しんで書いてるなあ、とこちらまで気持ちがほくほくする。

 衝動的に、僕はビルトモアホテルへと車を向けた。サヴァンの広報担当兼マネージャーのボブ・フリードランダーがそこに滞在している。ビルトモアホテルは、歴史的建造物と言っていいだろう。一九二〇年代に建てられたこのホテルはこれまで数々の王や大統領や有名人をもてなしてきたが、僕が一番惹かれる点は、かのブラックダリアが最後に生きて目撃された場所だということだ。彼女はここから夜の中へ消え、いまだに解けない謎として、ロサンゼルスの歴史の一部となったのだった。今ではホテルのバーでブラックダリアという同名のカクテルも飲める。


 〈追伸〉リサは鬱陶しい過干渉な母だろうが、息子を誇り高い人間に育てた素晴らしい人だと思うよ。

2022年2月17日木曜日

0330 死者の囁き〜アドリアン・イングリッシュ 2〜

書  名 「死者の囁き 〜アドリアン・イングリッシュ 2〜」
原  題 「A Danderous Thing」2007年
著  者 ジョシュ・ラニヨン
翻  訳  者 冬斗 亜紀
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2013年12月
文  庫 383ページ
初  読 2022年2月16日
ISBN-10  4403560164
ISBN-13  978-4403560163
 アドリアンと特別な関係になろうとしたものの、キスしようとしただけで“小学生化”?するジェイク。ホモフォビアを地で行く強面の刑事ジェイク・リオーダンは、自分の性向に直面出来ず、強烈な自己嫌悪で身動きが出来ない模様。ジェイクへの思いを自覚するにつれ、自分もジェイクが嫌悪するホモセクシャルであること、ジェイクとは未来が描けないことをアドリアンは思わざるを得ない。
 そして、思わず逃避した先は、懐かしい父方の祖母から相続した牧場だった。しかし、そこで彼を待っていたのは、行方知れずの死体と大麻畑とガラガラヘビ・・・・・・そしてライフルによる狙撃だった?!

 ところが、殴られて意識不明になったアドリアンの元に駆けつけたリオーダンは、知人友人だれもいない環境で解放されたか、アドリアンと遂に関係を結ぶに到る。なるほど、ジェイクが長年着込んできた偽装を解くには、ロスを遠く離れる必要があったわけだ。それに心拍の乱れた恋人も。
 でもって、この、リオーダンとアドリアンが良いのだ。
 リオーダンが頭を殴られて怪我を負ったアドリアンにゆっくりと背中にマッサージを施す。アドリアンの心身を溶かすような穏やかで優しいキス。ジョシュ・ラニヨンの描く恋愛はどうしてこんなに優しく温かいのだろうか。その道の趣味人を喜ばせるための性描写ではない。本物の真剣な恋愛ならばきっとこんななのだろう、と信じさせてくれるような、なんだか羨ましいような・・・・・
 
 そして、作者がミステリーに注ぐ愛も本物。登場するミステリ作品をいちいち全部調べたくなる。

 コーネル・ウールリッチの『黒衣の花嫁』。それも初版。この一冊だけでも希少本として価値がある。 
 ガラス扉を開け、身をのり出した。ミステリだ──棚の端から端まで、ミステリの本が詰まっていた。 
 ふうっと、長い息をついていた。ペーパーバック、ハードカバー。アガサ・クリスティからレイモンド・チャンドラーまで。古き良き時代の傑作ぞろいだ。ダシール・ハメット、ジョセフィン・テイ、レックス・スタウト、ナイオ・マーシュ──我が愛しのレスリー・フォードの作品も数冊。『宝島』の主人公が海賊の黄金を発見した時だって、今の僕ほど興奮しなかったに違いない。何冊かゴシックロマンスの本も混ざっていたが、祖母は全体としてハードボイルド系に傾倒していたようだった。勿論、ゲイミステリは一冊もない。ゲイの探偵が出てくる一般のミステリは、一九七〇年、ジョゼフ・ハンセンによる『闇に消える』から始まる。ベストセラーリストには縁がなかったにしても、彼のブランドステッターシリーズが後に続く僕らの道標となったのだ。−−−−−−

 


2022年2月13日日曜日

0329 天使の影 〜アドリアン・イングリッシュ1 〜

書  名 「天使の影 〜アドリアン・イングリッシュ1〜」 
原  題 「Fatal Shadows」2007年
著  者 ジョシュ・ラニヨン 
翻  訳  者 冬斗 亜紀 
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2013年12月 
文  庫 326ページ 
初  読 2022年2月12日 
ISBN-10  4403560156
ISBN-13  978-4403560156
 ゲイ・バッシング、ホモフォビア(同性愛嫌悪)、憎悪殺人、自己の性的指向の認知、カミングアウト・・・・・・ゲイにまつわる深刻な問題に真っ正面から向かっている、シリアスかつラブリーなシリーズ作品の一冊目。
 
 先に読んだジョナサン&サムの「殺しのアート」シリーズやエリオット&タッカーの「フェア」シリーズの主人公たちがカミングアウトし、周囲にもおおらかに受け入れられているのと比べると、このシリーズは、結構重く、厳しく感じられる。
 全5冊が刊行されているシリーズだが、性的マイノリティが偏狭な社会の中で生きていく困難さも描かれていて、二人がお互いを必要とし、徐々に距離を詰めるなかで、少しずつ自分を偽らない生き方を探っていくのも、魅力。

 魅力といえば、『マルタの鷹』や『長い眠り』など、ダシール・ハメットやチャンドラーからの引用がちりばめられ、著者のミステリ、ハードボイルド愛が全編に滲みでているのも良い。他のシリーズもそうだが、ミステリ小説としての骨格がしっかりしていて、それだけでも十分に読み応えがあるのもなるほど、と思う。このシリーズは特にミステリの傾向が強いので、書店のBLコーナーではなく、翻訳ミステリの棚にも並べて、多くの人に手に取ってもらいたいと思う。

 さて、そのストーリー導入部。
 ロサンゼルスで新刊から古書までミステリー本を取り扱う、『クローク&ダガー書店』のオーナーのアドリアン・イングリッシュ。33歳(?)。高校時代に患ったリウマチ熱から心臓弁膜症の後遺症が残り、不整脈を抱えて心臓の薬が手放せないながらも愛する書店を切り盛りし、自分でもミステリー小説を書いている。その店員だったアドリアンの高校時代からの友人のロバート(ゲイ)が、刺殺される。おりしも、ディナーの席でのアドリアンとの口論を目撃された後の出来事だった。その殺され方から、知人や友人による犯行と思われる、と捜査に赴いたロス市警の刑事リオーダンに聞かされ、愕然とするエイドリアン。刑事たちの態度から、自分がれっきとした容疑者であることを悟って・・・・・・。

 自分がゲイだ、と話す主人公アドリアンに、「ホモセクシャル」だろうと高圧的に畳みかける刑事リオーダン。 “ホモセクシャル”が差別的な意味合いを含むことに改めて気付かされる。まあ、このリオーダンも・・・・・なんだけどね。
 
 さっき刑事が言い放った「だがあんたはホモセクシャルなんだろう?」という問いの響きを思い出していた。「下劣な生活をしているんだろう?」と聞かれたも同然の言い方だった。  

 以下略。マイノリティ故の痛み、マイノリティだった故の迫害。今の、過去の、そして今に、未来に続く因果の連なり。他のシリーズとはひと味違う、シリアスな苦みも味わいつつ、シリーズを追いかけていきたい。

2022年2月11日金曜日

0328 フェア・チャンス (モノクローム・ロマンス文庫)

書 名 「フェア・チャンス」 
原  題 「FairChance」2017年 
著  者 ジョシュ・ラニヨン 
翻  訳  者 冬斗 亜紀 
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2020年1月 
文  庫 407ページ 
初  読 2022年2月8日 
ISBN-10  4403560407
ISBN-13  978-4403560408

「イエス」
「イエス?それって−−−−−−俺たち、同じことを話してるのか?」
 エリオットは微笑んだ。

 こういう選択肢が普通にある世の中っていいな、と思った。もちろん、ナチュラルにこういう世の中の考え方が生まれた訳ではなく、あの激しい社会の中で、長年闘って勝ち取ったものではあるのだろうけど。

 それはさておき、エリオット&タッカーの3作目、M/Mロマ・サスである。
 シリアルキラーの彫刻家(スカルプター)事件で、刑務所に収監されている犯人コーリアンは、犯行の一部始終について口を閉ざしたままだった。ところが、いまだエリオットに執着するコーリアンは、エリオットに面会を要求する。
 黙秘をつづけるコーリアンがエリオットになら捜査に有力な情報を漏らすのではないか、と期待した捜査チームはエリオットに協力を求め、捜査チームのリーダーを務めるタッカーは、チームの意志を尊重しつつも複雑な気持ちを抱えながら、エリオットの心身の安全を気遣っている。夜中に事件の悪夢にうなされることもあるエリオットを知るのは、タッカーだけだ。

 前作の父絡みの事件で逮捕されたノビーの減刑のための証言に協力するか否か、で父との関係はギクシャクしたまま。タッカーは母との週末を過ごす為に、不安を抱えつつもエリオットに励まされて送り出される。

 不安感をそそる、小さな事件や、遭遇の積み重ね、そんな中でも二人の平穏な時間があり、もちろん熱い時間もあり、お互いを思う気持ちや理解も深まっている。

 そして、母に会いにいったタッカーとの連絡が途絶えてしまう。

 失踪したタッカーを探すエリオットの焦燥は深まるが、少々関係が悪くなっていた父の思わぬ理解と援助が温かい。それに、最初はというか1作目からとてつもなく態度が悪かったパイン刑事や、どうにも敵愾心が見え見えだったヤマグチ捜査官の親身の協力にも励まされる。エリオットの必至さと熱が周囲も溶かしていくようだ。

 エリオットのFBIへの復職話、二人の結婚話、そしてコーリアン、と不吉な予感と新たな展開への期待が嫌が応にも高まる。
 これ、3部作で終わりなの? 
 いや、4作目、読みたいよね!
と大いに期待感を膨らませつつも、大変満足度の高い一冊でした。

0327 フェア・プレイ (モノクローム・ロマンス文庫)

書  名 「フェア・プレイ」  
原  題 「Fair Play」2014年 
著  者 ジョシュ・ラニヨン 
翻  訳  者 冬斗 亜紀 
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2016年12月 
文  庫 401ページ 
初  読 2022年2月8日 
ISBN-10  440356030X
ISBN-13  978-4403560309
 ううむ面白かった。
 ミステリ・バディ物として十分イケる。ちなみに濡れ場込みなら読みどころたっぷりのM/Mロマ・サス。いろんな意味で実においしいシリーズの第2作です。
 今回はかつて赤ん坊だったタッカーを棄てた母が登場し、タッカーの孤独の一端が明かされる。
 母は、当時、麻薬に溺れていたらしいが、立派に(?)更生し、再婚した夫と一緒に登場。しかし、二人の様子はなにやら宗教的に凝り固まった印象で、どうもキリスト教原理主義系の新興宗教にはまっているイヤな予感がする。これ、ぜったいにタッカー巻き込まれるよね。「あなたの彼女に会いたいわ」という母に、エリオットを引き寄せて、自分はゲイでエリオットは親友というだけでなく、パートナーだ、と言い放つタッカー。あいかわらず真っ直ぐで男らしい。動揺や、困惑すら男らしい。(笑)

 エリオットの方は、父の若かりし革命家時代の因縁に巻き込まれる。父の(エリオットにとっては子供時代の母との思い出も詰まった実家)が放火で全焼。エリオットの家に避難した父とエリオットが散歩しているところを今度はボウガンで狙撃される。父は回顧録の出版準備をしており、どうやらその本が世にでることを臨まない人間が多数いるらしい。父を守りたいエリオットは捜査を開始するが、昔の仲間との内輪の問題ととらえる父ローランドはエリオットの介入を好まず、行方をくらましてしまう。だからといって、すんなり気持ちが収まるエリオットであるわけがなく。獲物を加えたらブルドッグ並みに食らいついて離さない執念で、父の行方を追跡する。
 エリオットを心配するタッカーと、FBI捜査官としてのタッカーの立場を慮るエリオット、お互いに嘘はいわないが、相手に手渡す情報をコントロールしようとして、「相手を信用していない」という命題に突き当たりジレンマから関係が拗れまくる。このあたり、あたまの中でとことん論理的に考え尽くし、相手と正面から議論しようとする二人に、日本との文化の差を感じたりもする。だがしかし、体の欲求は頭を裏切って・・・・・、というのはやはりソレ(笑)これは日米共通(笑)。でもこの二人の恋愛は良いね。エリオットに正面から敢然と向き合うタッカーに、エリオットならずとも心を奪われるよ。
 人を信頼するとは、というシンプルな命題に頭でっかちにどろどろと取り組むエリオットには、とりあえず頑張れ!と応援する。

  日本だと三親等くらいに犯罪者がいると警官になれないとかなかったっけ? 親が反政府活動家で革命家、別名元テロリストでも息子はFBIに入れるのか。小説だから?それとも自由の国だから? とはいえ、60−70年代はみんなが革命家だったのかもしれない。ベトナム反戦運動、ヒッピー文化、そんなアメリカの歴史的な流れを追う作品の空気感も雰囲気も良かった。

0326 フェア・ゲーム (モノクローム・ロマンス文庫)

書  名 「フェア・ゲーム」  
原  題 「Fair Game」2019年 
著  者 ジョシュ・ラニヨン 
翻  訳  者 冬斗 亜紀 
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2013年2月 
文  庫 448ページ 
初  読 2022年2月8日 
ISBN-10  4403560113
ISBN-13  978-4403560118
 いままで、あえて近づかなかった禁断の境地(?)。日本だとこざっぱりしたBL系だが、米国版のペーパーバックの表紙はなんつーか、オスの体臭が匂ってきそうなギラギラしたゲイ物だ。カノ国ではM/Mっていうジャンルに分類されるらしい。ハーレクインのホモセクシャル版かな?

 にしてもだ。この作家さん、ミステリ作家としてかなりの手練れだと思う。捜査もの、バディ物としてかなりの出来だ。面白い。ミステリの骨格がしっかりしているし、FBIや市警の面々、主人公をとりまく人々、脇まで登場人物のキャラが立っている。舞台となるワシントン州シアトルとその周辺の描写も良い。それになにより主人公の二人が魅力的だ。先に読んだジェイソン/サムとはまた二人の関係性が違ってるのも飽きが来なくて良い。

 裁判所での銃乱射犯を追い、犯人を射殺したものの、自分は膝を撃ち抜かれてFBI退職を余儀なくされたエリオットは、痛む足を労りながら大学で教鞭を執っていた。そんな彼の身辺で学生の失踪事件が発生し、その親からFBIとの連絡役を頼まれる。しかし相手のFBI特別捜査官は、かつて負傷し、過酷な治療と再起不能の失意の中にいたエリオットを捨てた男だった?
 やがて、当初はFBIも自殺と見做した失踪事件は連続殺人事件に発展、エリオットが標的にされて。
 ・・・キャラ立ても舞台もストーリーも十分読み応えがあるが、そこはなにしろM/Mって事で、エリオットのツンデレぶりと、ぶきっちょなタッカーの真っ直ぐな愛情の行き違いが滅法楽しい。 何しろ二人とも生真面目。
 この作者の本は、書店のBLコーナー(コミックスの隣だ。)にあるわけだが、ストレートの濡れ濡れ本はちゃんと小説棚にあるのに、差別じゃね?と思ったりもする。うん。この本は、ミステリとしても、ロマン・ポルノとしても、ちゃんと小説棚に並ぶ資格があると思うよ。なにを持って資格というのか私にもわかならいけど。

2022年2月6日日曜日

0325 殺しのアート(4)モニュメンツメン・マーダーズ

書  名 「モニュメンツメン・マーダーズ」  
原  題 「The Monuments Men Murders: The Art of Murder 4」2019年 
著  者 ジョシュ・ラニヨン 
翻  訳  者 冬斗 亜紀 
イラスト 門野 葉一 
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2020年12月 
文  庫 286ページ 
初  読 2022年2月5日 
ISBN-10  44035604748 
ISBN-13  978-4403560477 
 ジェイソンに大いに影響を与え、彼に芸術作品の保存・保全の道を歩ませる道標となった尊敬する祖父ハーレイ。
 戦時中「モニュメンツメン」の副長として、ナチスが略奪したヨーロッパの美術品の捜索と保護にあたった祖父の名誉に関わる事件にジェイソンが挑む、という硬派なお話です。そこに泥くさーいアメリカの田舎の人間関係と、頑固一徹でプライド超高!な二人の恋人の行き違いのお話(笑)。

 ナチスがヨーロッパで略奪したフェルメールの名画の行方を追うジェイソンがド田舎モンタナ州に。今作は美術犯罪班の捜査官であるジェイソンのお仕事が中心の流れ。だがしかし、その美術品を終戦後すぐにドイツから米国に私的に持ち出し隠匿した犯罪に、ジェイソンの崇拝するグランパが関わっている可能性が。

 サムは別件で同じモンタナの支局で活動中だが、そこに、サムのかつてのセフレ(?)が登場し、前作から危険なストーカーにも悩まされているジェイソンは、不安からくる不眠にも悩まされ、どうにもストレス高めな状況となっている。
 それなのに、なんとしても真実を明かしたいジェイソンと、身内が関わる犯罪捜査に関与する、というジェイソンの倫理綱領違反を問うサムが激しく対立する。
 原理原則については超硬派なサムと、自分の行動の理由や考え方を理解してもらいたいジェイソン、大いにすれ違ったまま関係破綻の危機となる。

 二人の関係については、どっちもどっち・・・・というよりは、やっぱジェイソンが悪いんじゃないか、と思わんでもないが、ひとまずお互いに赦しあうってところまでこぎ着け、なんとか次作へ持ち越し。それに、前作ラストで背筋を寒くさせられた一件は、今作では微動だにしなかった。こちらも次作に持ち越し。
 この二人、今後もどうせぐだぐだするんだろうが、まあよい。初対面からゲイだって判ってた、って言い放つ相棒J・Jが良い感じに育ってきて、今後も良い感じに活躍してくれそうで期待が持てる。

0324 殺しのアート(3)マジシャン・マーダーズ

書  名 「殺しのアート(3)マジシャン・マーダーズ」 
原  題 「The Magician Murders: The Art of Murder Book III 」2018年
著  者 ジョシュ・ラニヨン
翻  訳  者 冬斗 亜紀
イラスト 門野 葉一
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)  2020年12月
文  庫 358ページ
初  読 2022年2月5日
ISBN-10  4403560458
ISBN-13  978-4403560453
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/104270603
 バージニア州クワンティコ近郊のFBIアカデミーで定期的に行われる研修に参加しているジェイソン。研修中はクワンティコからもアカデミーからもほど近いスタッフォードのサム・ケネディのアパートで恋人同士の幸せな時間を過ごしている・・・・ハズだったのに、最後の日をサムの部屋でゆっくりと過ごしたいと二人の夕食を買いに出たジェイソンは、近所の中華レストランの外で何者かに襲撃され、薬物を注射される。目的は誘拐か。意識が朦朧とする中、なんとか逃れた先の道路で、ジェイソンは車にはねられる。

 意識を取り戻したのは病院で、サムがベッドサイドに付き添っていた。幸いにもサムが打たれた薬は、酷い害の残るものではなく、交通事故の方も、薬物のせいで体から力が抜けていたのがかえって幸いしたのか、酷い捻挫と打撲や擦り傷で済んだのは、不幸中の幸い。しかし、なぜジェイソンが狙われたのか。

 ジェイソンに恨みを持つもの、サムの敵、サムとジェイソンの関係を知り、ジェイソンを攻撃することでサムの弱体化を狙ったもの、そしてジェイソンに付きまとうストーカー、今は姿を消したDr.ジェレミー・カイザー・・・・。あらゆる可能性を考慮しつつ、ジェイソンを守るという固い意志を見せるサム。強引に傷病休暇を取らせたジェイソンを隠すためにサムが選んだ場所は、サムの母の家だった。そこで発生した、マジシャン絡みのアート作品や骨董品の盗難事件に、アドバイザーとしてジェイソンは協力することになるが。

 で、ひとつ問いたいのだが、車にはねられて、あちこち傷だらけ、腹部も腰も皮下出血が酷く、乗り物の振動も耐えがたいっつう怪我人のジェイソンなのに、サムとは激しく愛し合ってしまうのだよな。・・・大丈夫?出来る?余計なお世話か?
 今作もサムの不器用な愛が炸裂している。なんか愛されるって良いなあ・・・と羨ましく思ったりもする不器用どうしな恋人たち。
 それにしても、ラストが怖すぎ。次作でどうなってしまうのだろう?

0323 殺しのアート(2)モネ・マーダーズ

書  名 「殺しのアート(2)モネ・マーダーズ
原  題 「The Monet Murders: The Art of Murder Book 2 」2017年
著  者 ジョシュ・ラニヨン
翻  訳  者 冬斗 亜紀
イラスト 門野 葉一
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)   2019年12月
文  庫 441ページ
初  読 2022年2月5日
ISBN-10  4403560393
ISBN-13  978-4403560392

 前作、『マーメイド・マーダーズ』から数ヶ月後です。
 前作ラストでなんとかサムとデートの約束まではこぎ着けたジェイソンでしたが、その後友達以上・恋人未満でデートはまだ出来ておらず、2人の関係を繋ぐのは深夜の長電話、な遠距離関係をずっと続けていた模様。しかし、ロスで発生したアート・ディーラー殺人が、サムが追っていたシリアルキラー事件との関連を見せ、サムから、美術業界に詳しいジェイソンに名指しで協力依頼が。
 大事な親族関係の社交上のパーティーをすっぽかしてタキシードの上にFBIジャケットを引っかけ、殺人現場にかけつけたジェイソンだったが、しかし、そこでのサムとの出会いはどうも心温まる感じではなく・・・・・

 今作は、恋人だったはずなのに、友達だったはずなのに、夜な夜な電話で語り合っていたときには幸せだったハズなのに、どういうわけか対面ではサムにことさらに無視されているような気がするジェイソンがひたすら、困惑し、悩み続ける(笑)。

 サムにはかつて、幼なじみであり、恋人でもあったイーサン(♂)が、シリアルキラーに残酷に殺された、という過去があったという。イーサンの死に報いるために、犯罪捜査に一生を捧げることを誓ったサムは、自分がどうにも恋愛向きな人間ではない、と深く自覚している。それなのに、ジェイソンに恋してしまって、サムなりに深く悩んだようで。自分の生き方の軌道修正を図るか、この恋を断ち切るか。サムが1人で決断していたのは後者。だが、その選択はジェイソンに混乱と苦悩をもたらした一方では、サム自身にも想像を絶する苦しさだった、、、、と。 この2人、体の相性はバッチリで、実のところ相思相愛。しかも、本当はサムの方がジェイソンにぞっこんなのだ。ついに感情に抗いきれず、愛し合う二人はとても素敵だ。 ついうっかり、こんな風に人に愛されてみたいもの、読者に思わせてしまう手練れが、ジョシュ・ラニヨンである。今回は、サムの生命の危機をジェイソンが救うことになり、遂に二人は、恋人同士に。
 ラストはジェイソンの誕生日パーティー(笑)。弟を溺愛しているジェイソンの姉が企画するレストラン貸し切りの盛大なパーティーに、招待もされていないのに顔を出すサム・ケネディは、衆人環視の中での熱く甘いキスを繰り出すのだった。

 ひと昔、ふた昔前のゲイものだと、こうはいかないよな、と羅川 真里茂氏の『ニューヨーク・ニューヨーク』とかを思い出しながら考える。今、世の中はこんなにオープンな世界になっているのだろうか。いつのまに? と驚いたりもする。それとも創作の中だけなのだろうか?いや、日本ですら同性パートナーが認められ、LGBT法が出来る時代になったのだから。

2022年2月5日土曜日

0322 殺しのアート(1)マーメイド・マーダーズ

書  名 「殺しのアート(1)マーメイド・マーダーズ
原  題 「The Mermaid Murders: The Art of Murder 1」2016年
著  者 ジョシュ・ラニヨン
翻  訳  者 冬斗 亜紀
イラスト 門野 葉一
出  版 新書館 (モノクローム・ロマンス文庫)   2018年12月
単  行  本 387ページ
初  読 2022年2月5日
再  読 2023年12月16日
ISBN-10  4403560350
ISBN-13  978-4403560354

 M/M、というジャンルです。初読でした。英語圏でのゲイ小説のジャンルで、Male/Maleの略、日本でいえばBLですが、ニュアンスは違うような気がします。書き手は女性作家が多い、という点はBLと同様。
 また、たんに興味や趣味の対象として消費するだけではなく、LGBTに関する差別や社会課題にも正面から取り組む作風が多いとのこと。作者のジョシュ・ラニヨンはこのM/Mのジャンルを長らく牽引しているそうです。
 この本は、見てのとおりイラストも大変美しく、冬斗亜紀氏の翻訳は、翻訳小説としても上品で手練れな印象で、上等なミステリ小説に仕上がっていると思います。
 さて、主人公は、FBIの美術品窃盗を専門分野とする特別捜査官のジェイソン・ウエスト。身内には政治家も第二次大戦の英雄もいる、ロサンゼルスの上流社会出身。新聞やマスコミに激写されることもあるFBIの寵児。(と、いう設定は2巻以降で出てくるので、第1巻では優秀な若手捜査官以上の設定はとくに見せられてません。)この巻では金持ちのボンボンなのかな、っていう程度。そして、もう一人は、FBIのプロファイラーで主任特別捜査官のサム・ケネディ。年齢は40代後半。かなりの強面で超絶自信家。強引で、冷血漢っぽい押し出し。しかし、プロファイラーとしては極めて優秀で、これまでにも数々の連続殺人事件を暴いてきている。
 もともと、サムの失点を集めて失脚させたいサムの上司がジェイソンをいわば“スパイ”としてサムの捜査現場に送り込んだだけあって、サムの態度は凍りの鉄壁。当初はジェイソンをほぼ無いものとして扱うし、ジェイソンは負傷から復帰したばかりでいささか現場感覚に不安があったり、でとにかく折り合いが悪かった。だがしかし、態度はともかくサムの目は公平で、いささか直情的ではあるものの、ジェイソンの捜査官として頭の回転が速く優秀な面を見いだし、だんだん態度が軟化してくる。ジェイソンをフォローしたり庇ったりもするようになるし、ジェイソンの行動を面白がっているような節のある。結局とのところ、サムは頑固で独善的であるが、それが彼の個性なんだろう。おそらくBAU(犯罪分析課)の彼のユニットのメンバーは、きっとサムを信頼している。だからこそ、BAUの他のメンバーにはサムに対するスパイの役は務まらなかったわけで・・・。だんだんとジェイソンにも、サムの能力が理解され、またジェイソンの方にはそれなりにサムに付き合う柔軟性もあって。おまけに、どうにもサムには曰く言いがたい魅力を感じてしまうジェイソン。M/Mだと思って読んでるから、もちろんジェイソンとサムが恋に落ちることに異存はないんだけど、ジェイソンがサムがゲイであることに気付くあたりが丁寧に描写され、ジェイソンがゲイだとカミングアウトするくだりもストーリーの中でとても自然で、すごく読者に親切だな、と思う。

 ジェイソンは少し前の潜入捜査で身バレして銃撃戦で撃たれており、ちょっとPTSDっぽいところがある。銃を向けられて体が硬直してしまったり、事件の話題で心臓がバクバクしたり。そんな彼が捜査現場に出るのはまだ早いのでは、と助言しようとするサム、なんというか彼、本当に判りにくい奴ではあるが、きちんと筋がとおっている。犯罪まみれのFBIにいながら、美術品捜査を専門とし、人間の最も美しいものを守り、後世に伝えたい、というジェイソンの実は細やかな感受性にさりげなく配慮したりするところも、サムって懐が深くて良い奴じゃん。
 ミステリーと、サムとジェイソンのSEXのバランスが絶妙です(ロマンス、と書こうかとも思ったんだけど、もっと直裁なんで、)。その描写も、お花畑すぎないのがいい。かつての連続殺人の模倣犯(コピーキャット)が現れたのか?という捜査の進展もそつがなく、登場人物は広がり過ぎず、きちんとそれぞれキャラ立ちしていて、読み応えがバツグンに良い。再読してあらためて思ったけど、これ、堂々の「年ベス」入りするくらい、出来がよくて面白い小説です。そして、ここから始まるもう一つのストーカー/シリアルキラーの恐怖。その不気味なジャック・オ・ランタン。

 サムが終盤ジェイソンに〈人魚のチャーム〉の調査に行かせたのって、どっちかっていうと危険から遠ざけようとしたのでは、という気がするんだけどそれは穿ちすぎかな。だって、ホンボシはたぶんサムはこの時点で見当が付いている。しかし、それが結果的にはジェイソンを将来に渡って危険な人物と結び付けることになってしまったのが皮肉ではある。(と、いうのは再読だからこそ言えることなんだが。)
 
 『殺しのアート』シリーズ、最初の巻にして、最高傑作なんじゃないか、とすら思うこの本。やっぱり、ジョシュ・ラニヨンは凄い作家だと思う。今後の翻訳刊行が続いていくことを切に希望する。あと、ジョシュ・ラニヨンについては、BLコミックコーナーではなく、ミラブックスとか二見書房の並びあたりに置いてもいいのでは?と思う。ストレートの濡れ濡れ本はちゃんと文庫や文芸書棚にあるのに、ゲイ・ロマンスはBLコーナーってどうなん?LGBT的にはさ?

2022年2月1日火曜日

0321 スリープウォーカー:マンチェスター市警 エイダン・ウエィツ (新潮文庫)

書 名 「スリープウォーカー:マンチェスター市警 エイダン・ウェイツ」 
原 題 「THE SLEEPWALKER」2019年
著 者 ジョセフ・ノックス
翻訳者 池田 真紀子
出 版 新潮社  2021年8月
単行本 640ページ
初 読 2022年2月1日
ISBN-10 4102401539
ISBN-13 978-4102401538
読書メーター

 さあ、この帯の煽りが正しいかどうか、確かめる時がやってきましたよ。・・・・・でも、「笑う死体」を読んだ後となっては、すでに確信している。この本は、帯の煽りを超えてくるに違いない!

 今作でも、エイダンには四方八方から不運と悲運が押し寄せてくる。
 同僚が犠牲になった事件。
 その捜査を強要する非道な上司。
 事件の真の標的は自分かもしれない、という不安。
 悲惨な事件。護られなかった被害者。
 身勝手な人間たち。
 自分を監視し、行動を縛る謎の存在。
 突然寄せられた、生き別れの母の情報。
 そして、腐れ縁、ゼイン・カーヴァー。

 ラストはもう、ずるいよ。ここまでエイダンの一人称で語ってきたくせに、ラスト一章だけが三人称だなんて思えないよ。憑きものが墜ちたみたいなサティとバディを組むナオミ、そして愛すべき“妹”の結晶みたいなアン。それゆえに、エイダンの不在が切なすぎる。
 エイダン。生きているよね?キミは生きているよね??と、繰り返さずにはいられないラストだ。パスポートと大金とドストエフスキーを持って逃げて、顎を治して整形でもなんでもして、世界のどこかで生きていてほしい。こんな奴が幸せにならないなんてダメだ。いや、幸せにならなくてもいい。平穏を知ってほしい。アンがとてつもなく可愛く思えるのは、エイダンの目を通して見ているから。エイダンのその素朴で真摯な愛情が愛おしい。エイダンが守ろうとしたものが、ちゃんと護られてほしい。あととりあえずパーズは氏ね。

 後書きによれば、続編の企画もあるらしいし、映画化の話もあるのか?しかし、なまじ映像的で印象的な小説なだけに、映像化にはあまり興味が湧かない。

 むしろ、続編でもう一度、エイダンに逢いたい。お願い。生きていて。 あと、とりあえずパーズは氏ね。